魔理沙/21スレ/901-907





 婚約を済ませた魔理沙に、霊夢が会いに来た。半分は巫女らしく
お祝いであり、もう半分は悪友らしくからかいである。片側の額に
包帯を巻いた魔理沙に霊夢は問いかける。

「ねえ、引退するの?」
「まあな。年貢の納め時ってやつだぜ。」

「それは男が言う台詞でしょう?」
「固いこと言うなよ。早苗なら、「幻想郷では、常識に囚われて
はいけないんです」なんて言うだろうよ。」

「あら、私は常識的な方の巫女ってこと?」
「いや、金にがめつい方の巫女って里では呼ばれているぜ。」

「あらあら、親友に向かって酷いこと。」
「親友だから言えることだぜ。」

「まあ良かったわ、元気そうで。あんな事があったから、落ち込んでいる
のかと思っていたから。以前の魔理沙なら一発殴られたら、一発スペルをぶち
込んでいたけれど大人になったのね。」

やや早口気味で喋りながら霊夢は言葉を繋いだ。ここからが本番だと
言わんばかりに。

「ところで、紅魔館と組んで妖怪狩りなんて計画していないわよね。」

疑問ではなく、断定。巫女の感は魔理沙の計画をしっかりと捉える。

「何の事だか知らないぜ…と言いたいところだけれど、」
「白状しなさい。」

異変を解決する者として、有無を言わさずに魔理沙を問い詰めると、
冗談の仮面が剥がれ落ちる。

「なあ、霊夢。」
「何。」

「私、悔しいんだ。」
「でしょうね。」

「悲しいんだ。」
「そうね。」

「苦しいんだ。」
「…。」

言葉を吐き出す内に、魔理沙の頬に涙が流れ出す。

「あいつらにあんなことされて…。畜生、畜生!」
「当然ね。」

「殺してやりたいんだよ。」
「あんな事されたら、私だってそう思うわよ!」

全ての者から中立である筈の博霊の巫女であっても、魔理沙の悲痛な声には心が
動かされてしまう。表向きの勝ち気な仮面を破り捨て、魔理沙は霊夢に縋り付く。

「なあ、霊夢、頼む。親友だろ!」
「ええ、そうよ。」

「だったら…、」
「親友でも、異変を起こせば容赦しないわ。」

「霊夢!」

希望が叶うかと思った所から一転、魔理沙は絶望の表情を浮かべる。

「駄目なんだよ。○○はあんなことしたけれど、きっと酔わされて無理矢理
されたんだよ。そのまま脅されていたんだよ。私にバラすぞって。だから、
私が復讐してやらないと○○だって安心できないんだよ。やられっぱなしだった
ら駄目なんだよ。それじゃあ、私は」

-唯の弄ばれただけの間抜けじゃあないか-
魔理沙がそう思っていることは霊夢には痛い程分かっていた。同時に、その言葉を
口にすることすら出来ない程に、彼女が追い詰められていることも。
 魔理沙は今復讐だけを頼りに生きている。それを絶つことは彼女の精神を完全に
破壊する。しかし博麗の巫女としては、誰かに肩入れすることは出来ない。その
矛盾の中に霊夢はいたが、自分に縋っていた魔理沙が遂に意味のある言葉を発する
ことも出来なくなり、狂気の世界に入り込んだのを見て魔理沙の肩を抱く。
 誰にも聞こえない、悟り妖怪にすら聞こえない小さな声で、しかし目の前にいる
魔理沙には聞こえるように、最早視界に自分を映していない彼女だけには届くように
幼児のように抱きしめて耳元に囁く。

魔理沙、博麗の巫女が動くのは異変があった時だけ。人が数人消えただけなら、
それは異変じゃないわ。誰にもあなたの邪魔はさせないから。誰にも…。」

そのまま霊夢は魔理沙の涙を拭い、顔を拭いて寝かしつけた。霧雨家を後にした霊夢が
向かうのは 紅魔館。

 起き上がった魔理沙は辺りを見回す。自分に厚手の掛け布団が掛けられていたのは、
霊夢かばあやの仕事であろう。人として何かが欠落した様な気がした-言葉にはできない
が、何か大きなモノが無くなったのであるが、其れでも自分はまだ動けると感じた。
 パチュリーに頼んでいた紅魔異変計画を練り直し、自分の復讐を達成する。それだけが
自分の価値を、○○の自分への愛を確かなものにすると信じて、魔理沙は紅魔館へ向かって
いった。箒に跨がって。

 魔理沙が紅魔館に行くと、パチュリーと共にレミリア魔理沙を迎え入れた。
テーブルに座り咲夜に入れさせた、特別な時に振る舞う血入りの紅茶を飲みながら、やや興奮
したような大袈裟な身振りで、レミリア魔理沙に告げた。

「いやはや残念だわ。霊夢が殴り込んできたお陰で、貴方との計画を練り直さなくては
ならないから。紅魔館が人里に食い込んでも良し、失敗して霊夢に退治された貴方を吸血鬼
にしたら、フランが喜びそうでそれも良しだったんだけれどねぇ。」

隣に座るパチュリーレミリアに反論する。

「計画を練ったのは、レミィじゃなくて私。」
「あら、私たちだって親友じゃない。」

「それとこれとは別。」

まあ良いわ-と話題を切り替えたレミリアは隣に控える咲夜に、魔理沙に紅茶とケーキを出す
かのような口取りで、命令する。

「咲夜、後で一寸里に行ってあいつらを殺してきなさい。絶対に見つからないように。」
「分かりました。お嬢様。」

至極簡単に命令された常識では考えられない命令を、いともあっさりと受託する。咲夜に
とっては、命令を受け入れるかは問題ではなく、命令を遂行できるかも問題ではなく、
いつ実行するかが、変わるだけの話である。咲夜に「掃除」を命じたレミリアは、
いとも軽く言葉を続ける。

「全く、紅魔館がやらなかったら、どうせ地底の連中がしゃしゃり出てくるだけでしょうし、
久々のご馳走を楽しむことで満足としましょうか。それで何時するの。明日?それとも明後日?」

座る二人に対し、明後日にすると返事をして魔理沙は紅魔館を後にした。親友の優しさが、
魔理沙の心に熱く染み渡っていた。

 魔理沙が紅魔館を訪れてから二日後、普段は静かな博麗神社に怒鳴り声が響き渡っていた。

「だから、私の両親がいなくなったんだって!」
「俺の弟もだ!同じ日にだぞ!どう見ても、異変じゃねえか!」

博麗の巫女に掴み掛からんとする勢いで、かつて魔理沙に掴み掛かった女と、彼女を唆して
霧雨家に自分の女を潜り込ませようとした男は、霊夢に必死に訴えていた。女が○○との子
と言った子の本当の父親は、永遠亭の検査によって既にこの男であると判明していた。唾を
飛ばして霊夢に詰め寄る二人を何物にも囚われない巫女は、欠けた茶碗を捨てるかのように
あしらう。

「それで?」
「おい、異変なんだから、さっさと解決しろよ!こんな時の為の巫女なんだろ?!」

「勘違いしているようだけれど、これ異変じゃないから。」
「は?何言ってんだよ!」

「単に人が居なくなっただけなんでしょう? どっかの妖怪に食われたんじゃないの?」
「そんな急に人が食われて堪るか!」

「そもそも人里の保護は、慧音か村の自警団の仕事でしょう。」
「あいつら、俺たちが訴えても、碌々仕事しようとしないんだよ!普段ならガキ一人が
夕方帰っていないだけで大慌てする白沢が、捜索一つしようとしないんだよ!あいつら
グルなんだよ!」

「どこと?」
「霧雨だよ!私があそこの若旦那と付き合っていたのに、クソガキが割り込んで来やがって、
それを逆恨みしてんだよ!」

「へぇ、恨まれる心辺りがあるんじゃない。」
「いや、だからって、浚うとか犯罪じゃないか!ひょっとしたら、殺されているかも
しれないんだぞ!」

「妖怪の仕業じゃないんなら、博麗の仕事じゃないわ。勝手にすれば。」
「この野郎、巫女の癖に、こっちが下手に出やがったら付け上がりやがって!」

男は激怒し霊夢に掴み掛かろうとするが、霊力を込めた彼女の片腕一本で、首根っこを
掴まれて壁に叩き付けられてしまう。退魔針を男の目に近づけた霊夢は男を締め上げて
言い放つ。

「そんなに訴えたければ、白黒付けに地獄の閻魔に会わせてやるから、今すぐ行ってきなさいよ。」

 ほうほうの体で神社から逃げ出した二人は、山の麓で自分達の身が危なくなっていることに
焦りを覚えて話し込む。

「おい、博麗神社まで取り合わないとか、一体どうなっているんだ。村の自警団には霧雨が手を
回したんだろうけれど、稗田や半獣まで俺たちの敵になってやがるぞ。」
「そんなこと言ったって、どうしようもないじゃないか。こうなったら、薬をくれた山の天狗
ん所に行くしかないでしょう。」

「早く行くよ。って、あんた何処行ったんだい?」

さっきまで隣で話していた男が、今は居なくなっている。さては自分達の周りの人間を次々と
浚ってきた奴らがついに自分達に手を掛けたかと女は思い、こうしては居られないと、一目参
に妖怪の山に走り出す。背後に男を誘拐した追手がいるとは知らずに。

 妖怪の山に辿り着き、いつものように辺りを哨戒している見回りに、天狗への取り次ぎを頼もうと
する。普段ならば、なじみとなった自分の顔を見るだけで、目当ての天狗に連絡をつけてくれるので
あるが、今日の天狗は新入りなのか自分を侵入者として扱ってきた。やむを得ず相手に貰った小物を
見せて、案内を請おうとするが、口を布で塞がれて意識を刈り取られてしまった。



続きは暫く後になります。


 女が目を覚ますとそこは豪華な食堂であった。赤色のモチーフの人間には少々目にきつくあったが、
数々の調度品や自分が縛りつけられているテーブルは、里では見たこともないような物ばかりである。
自分が俎板の上の鯉となっていることに不安を覚え、女は大声で助けを求める。
 すると少女が一人現れて女に話しかけてきた。

「こんばんわ。ご機嫌いかが。」
「あんた、ここは一体どこなんだ?」

「紅魔館と言えば分かるかしら。」

悪魔が住む館として有名な名前を聞いて、女は身を竦ませる。そういえば、目の前の少女も少々薄暗くて
分かりにくかったが、背中に羽があるようである。

「お願いします、助けて下さい!」

自分の命運が危うくなっている事を自覚した女は、必死に目の前の吸血鬼に請い願う。弱者には強いが
強者には媚びる。悪辣な罠を○○に仕掛ける辺り世渡りは上手なのであろうが、生憎人外には効果が無い
ようである。

「ねえ、吸血鬼にとっての一番の美食って何か知ってる?」
「人間の生き血でしょうか。」

何でもいいから、逃がしてくれよ-と思いながら、レミリアの質問に答える。

「当たらずとも、遠からずってトコかしら。」

レミリアは態と爪と牙を伸ばし、女の所に近づいていく。

「吸血鬼にとっての一番は、人間の××の躍り食い。恐怖をソテーにして生きたまま××つくのは、
本当に最高よ。じゃあ、頂きます。」

 妖怪の山は騒然としていた。大天狗には及ばないながらも、天狗の社会の中で大きな力を持っていた
中天狗が、今は縄で転がされている。今まで生きてきた中で一番の恥辱に、中天狗は顔を怒りで震わせ
目の前の文に叫ぶ。

「畜生め!人間と吸血鬼の手下になりやがって!」
「あやあや、酷い言いぐさですね。私は唯、人間の里に勝手に介入した犯罪者を、皆さんと力を合わせて
捕まえただけですよ。」

「うるさい!目を掛けてやったのに裏切りやがって!」
「裏切る?何のことでしょうか?下の天狗にあれだけ酷いことをしておいて、自分が部下に慕われて
いるなんて、とんだお笑い草ですね。酷い話もあったものです。知ってましたか?あなた皆に嫌われて
いるから、今誰も助けてくれないんですよ。」

「大天狗がこんなこと許さないよ!」
「人の威を借るいや、今は天狗の威を借るですか、そういうことはみっともないですよ。正義と公平を
愛する大天狗様が、貴方のような屑を許す訳ないでしょう?」

絶体絶命となり何も言えなくなった、中天狗に文が宣告する。

「里の悪人に永遠亭の薬を横流しし、協定に背き霧雨家や○○を罠に掛けようとした罪、誠に
許すことが出来ず。今此処にて即決の断罪を行い、もって落着とするものである!
さあ、魔理沙さんどうぞ。」

「ああ…。マスタースパーク!」

普段のスペルカードとは異なり、殺すための魔法が黒幕の天狗を貫く。尊厳を掛けた自分の戦いが、
今終わったように魔理沙は感じていた。








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最終更新:2019年02月09日 19:33