その夜な。昼間のことで中々寝付けなくなっててさ。布団の中に入ってても隙間風とか寒くてたいへんなのにさ、アリスに触れられたところが妙に熱くてな。特に、ほほが火照って仕方がなかった。たまらないから、顔だけ布団から這い出て、床に押し付けてたよ。でもさ、夜中起きてると、妙に変なこととか考えるだろ。昼間、突き飛ばしたのはやりすぎたかな。とか、何でアリスのことを避けてたっけとかな。んで、一番気になったんが、あの時のアリスの格好だよ。いつも身なりには気を付けてたのに、あんな趣味の悪い服装とか、ぼさぼさの髪とかな。俺に触れた手も、少しざらざらしてた気がする。何か自分で避けてたのに、アリスのことが心配になってきてさ。悶々としてると、鳥の鳴き声が聞こえてきた。障子の合間から、青みがかった光が俺の目の前に差し込んでいてな。もう朝か、随分考え事してたなって思ったら、便所に行きたくなってさ。ちゃんちゃんこを肩に羽織って、早足、すり足で便所に向かったわけよ。で、さっさと終わらして、さあ帰ろう。と、したのよ。でも、前にも、いったとおり便所には窓がついてて、俺の背丈から一尺半くらいの高さにあったんだ。そこからも、光が差し込んでたんだけどな、一瞬その光がさえぎられてな。ぱっと上をむいても、何もなかった。気味が悪いから、部屋に急いで戻ったよ。寒いから、戻ったら布団に直行だ。おかしいよな、布団冷めてなかったのよ。捲れたままでいったから、あの寒さじゃ、冷え切ってても仕方ねえのに。変な朝だな。て思ったよ。でな、いい加減眠ろうと布団の中に潜ったらさ。あの匂いだよ。木苺。でな、障子の方を見たらさっきよりもちょっとしまってたんだよ。何か考える前に布団から飛び出してった。障子開いても、誰もいない。それで、さっきの便所のことを思い出した。玄関から草履を履いて、裏手の井戸まで行ったんだよ。そしたらな、アリスがいたんだよ。

ちっちゃく縮こまって、地べたに座ってた。寒そうに自分にしがみつくみたいに手で体を覆っちゃって、顔を膝に埋めてな。白い手がじんわり赤くなってたの、よく覚えてるよ。シャンハイが心配そうに飛び回って、あたりをきにしてた。シャンハイが俺の姿に気づいたとき、とまって俺を見据えた。その眼は見開かれ、やがてにらむような眼で俺をみた。そして静かに瞬きをした。やっと気づいたか。まあ、黙って聞けよ。アリスは急にシャンハイが動かなくなったのに、気づいたのか。ゆっくりと顔を上げた。その見上げた先に俺がいた。やはり子は親に似るのか、アリスも見開いた目で俺を見つめていたよ。昨日見たより隈が濃くてな、泣いたのか化粧が落ちて薄い筋が一本、目から顎の先まで続いていた。口元は閉めるのを忘れたみたいに開いていたよ。今思えば、やけに可愛らしかったな。って思うよ。今度は俺が近寄ろうとすると、びくりとさせて顔を両手で覆って、また顔を伏せた。
また、俺が近づくとぼそぼそとひとりごとのように

―みーいで――――う―きら―――で――

ちいさくて何て言ったかは、はっきりと聞こえなかったけど。目の前のアリスは、いつもとは昨日見た彼女とは強烈な違和感があったよ。いつも、綺麗な服着て、優しいどこかのお嬢様みたいな女だったのに、あの有様だ。かあちゃんのいってた話に、でてきたた女とは全く思えなかったんだよ。だから、思わず大丈夫?って言ったわけ。でも、反応なし。そしたら、シャンハイがアリスの服を引っ張って、無理やり立たせたのよ。そんで、腕持ってぐいぐいと引っ張って、俺の横を通り過ぎていった。アリスは、俺の方から顔を背けて、何も言わずに足を擦りながら歩いて行った。時々、躓きかけてな。わけもわからない俺は、ただその場に突っ立ってただけだった。

女ってほんと、わけわかんねぇよな。

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最終更新:2017年01月01日 21:40