魔理沙/23スレ/274-277




私、霧雨魔理沙が魔法使いを目指す理由はごく単純な理由からだった


昔の私はすごく泣き虫で、泣き顔を見られる恥ずかさと心を襲う悲しみから逃れる方法を知らなかった。
そんな時必ず『おにい』がいてくれてて、私が笑えるように戯けてくれた。

俺、魔法使えるんだよ
魔理沙を笑顔にする魔法

泣いている私にそう言うとおにいは笑って、私の頬を両手で覆い親指で口の両端を釣り上げた。
そうしてくれると心に降っていた雨はあがり雲も消えて虹がかかったように元気になって笑顔になれた。
私が魔法使いに強い憧憬を抱くようになったのも幼い頃のそういった出来事が深く関係していた。
私が笑顔になれる『魔法』をかけてもらったようにおにいが悲しい時に傍にいて笑顔になれる魔法をかけてあげたかった。
それ程におにいとの出来事は優しく輝いていて、温かかった。
『おにいに笑って欲しいから』たったそれだけのことが、霧雨魔理沙に根を張る大きな大きな木が育った理由

特別、だった
『おにい』は私にとってとても特別な存在だった
だから私もおにいにとって特別になりたかった
お互いの笑顔が、喜びになる
怒りも悲しみも苦しみも、分けあって和らげる
手を繋いで、歩幅を合わせて
そうやって同じ所に帰り着く
笑顔が笑顔を呼ぶ、そんな
そんな存在になりたかった…


…宴会の時だった。
自機組で飲んでると、おにいが挨拶しにきた。
座って欲しかったが「女子会?あらやだワテクシもう『女子』なんて歳じゃないからオイトマするわね~」と笑いを誘うと近くの知り合いの席に座った。妖夢が笑い過ぎてピクピクしてたのをよく覚えてる、咲夜や鈴仙が「ちょっとどういうカンケー?教えなさいよー」と冷やかしてきて、早苗は目を光らせていた。
霊夢は…。

暫く話していると霊夢と私以外挨拶回りでいなくなってしまった。
互いが互いに酌をしてゆっくりと飲んでいた
そんな時だった
耳を傾けていたわけではない
特別に意識を向けていたわけでもなかった

「なんと。氏~、結局あの娘とは付き合わなかったんでゴザルか」
「もういいよその話はぁ~…」

おにいの会話が聞こえてきた

「あのさぁあんたを紹介した私の立場とかあるでしょ、どこが気に入らなかったわけ?」
「ごめんってばぁ…気に入らなかったとかそういうんじゃなくてさ…ほらぁこういうのって愛がさぁ。好きって気持ちが大事なわけで」

口に運んでいた御猪口は行き場を失っている
目線はただまっすぐに、けれどなにも捉えていない
聞こえるものに、今はそれだけで。
心はそこだけに。

「野原に優しい風が吹いて草花を揺らし、暖かな日の光に包まれる。鳥たちが一斉に羽ばたいて…そこに『誰か』が立ってる。恋をするってそーゆーんじゃないの?まるで、魔法みたいな」
「ロマンチストかよ」
「なんだよ、じゃあ愛ってどこからだよ」
「氏重いでござる」


私もそう思う。恋って、好きになるって優しくてきっと特別なこと、魔法のように
そこに立っている『誰か』は…特別な人
悲しくはあった、おにいが自分のあずかり知らないところで『誰か』を探していたのを…
そして『誰か』は私ではない
わかってなかったワケじゃなかった、いつかおにいの隣にいるのは私だって躍起になっていたこともあったけど、それは私には行けない場所だとなんとなくそう感じていた
きっとその場所にいるのは


霊夢は手の中にある御猪口(おちょこ)のふちを親指の腹でなぞっている。その御猪口を覗き込むように顔を傾けていた
いつの間にか黙ってしまった私を咎めもせず疑問にも思わず、無聊を慰めるように…御猪口のふちを指の腹でゆっくりなぞりつづけていた。
酒の波紋に目を落としたままらしくなく平静を保とうとこわばっているように見えた
心はどこかに落としてしまったような…ここにはない、どこかに。

私と、同じように






霊夢の『誰か』はきっと

私の『誰か』と…



「ひとつ、汚さないこと」
「ふたつ、うるさくしないこと」
「みっつ、持って帰らないこと」

「これだけ守れるなら本を見せてあげるし、紅茶ぐらいは出してあげるわよ」

そんなことより小指の方から立てていくアリスの数え方が気になってそれどころじゃなかった
「わかったわかった、くる度聞いてるから、耳にタコできてるから」と生返事しつつ本棚を漁る
「それとこの前返してもらった本だけど見覚えないわよ。パチェのじゃない?もしかして私の本もむこうにいってるんじゃないの」
アリスはケトルをコンロにかけながら踵で床をトントン鳴らす、手荒れを気にしているのか手のひらを仕切りにくるくるさせて眺めている。
「後で言っとく」
「『言っとく』じゃなくてさぁ。ミルクティーでいいでしょ、はちみつは?」
うーん、と間の抜けた声で返事する。本を読み出した私にはアリスの言葉は耳を通り抜けていった



霊夢の気持ちには…確信に近い予感はあった
ただ私の中でそれを『そうあっては欲しくない』と認められずにいた
おにいが優しかったのは、私だけじゃない。
誰にだって優しかった。勿論霊夢にも
今もそうだけど子どもの頃の霊夢は多くを語らない奴だった。引っ込みがちとかおとなしいとか言えないとか我慢しているわけでもなくて、『言わない』子だった。
どこか一本筋が通っていて、子供染みた不安や不満もワガママも自分だけの力でどうにかできてしまうような強さを持っていたように思う
私はそんな霊夢に憧れていて…妬ましくもあった
おにいはよく『気づく人』だった。勘がいいのとはちょっと違うけど…どこか不思議な力を持っている気がする。本人が思ってもいないような寂しさや哀しみを感じ取って接してくれる、そんな優しい人だった
おにいには、霊夢の『言わない』ことを察してあげられるだけの力があってそれを埋めてあげられる優しさも持っていた
『言わなかった』けどもおにいを目で追う霊夢のどこか羨望や憧れに似た父親の背中を眺めるような視線から何にも感じ取れないほど、鈍くはない
つまりは『そういうこと』なのだ。
その事実が途方もなく恐かった。

他の誰かならまだ諦めないだけの強さを持てた
だけど、だけど霊夢は駄目だ。きっと届かない

おにいの、そにいる『誰か』は…霊夢のような予感。幼かった私には羨ましい以上に恐ろしく認めがたい未来
負けたくないと意地を張りつつも
もうどこかでボッキリと心は折れている。『勝てない』んだと
それでも、霊夢とは対等でいたい。親友だから
私のちっぽけなプライドだけで霊夢を遠ざけることはできなかった



「ミ・ル・ク・テ・ィー 冷めちゃうんですけど?」

アリスが細い指で机をノックするのに気づいて顔をあげる
甘いにおいに誘われて、喉が渇いていることに気づくとカップを手に取りミルクティーを堪能させてもらった
「…あのさぁもっと上品に飲んでよね、あんたそんな新聞読みながらお茶飲むオジサンみたいにさぁ」
「甘すぎ、ハチミツでも入れたのかよ」
「文句があるなら魔法で紅茶からハチミツだけ抜き取ってどうぞ」
ピンポイントすぎるだろそんな魔法、鼻で笑ってからマカロンを口に放り込んで魔道書を読むのに戻る
「そうそうこのハチミツなんだけど、『おにい』さんが仕入れてくれたの」
文字を追うのが止まって顔をあげる
「幻想郷にハチミツの産地があるとか全く知らないんだけど、他にも珍しいものとか仕入れてくれるしすごいわね。ところでハチミツってさ、どうやって『採る』かしらないんだけど蜂の巣搾ったらでてきたりするわけ?」
さぁ…私はてっきり蜂の針が出る部分からとれると思ってたけど…肩をすくねてミルクティーに手を伸ばす。
アリスがそれを見て「甘いの嫌いなんじゃなかったの?」と眼を細めた

『おにい』にしかできないことがある
他の誰かでもできることかもしれないけれど
他の誰かじゃ意味が無い
かけがえのないもの、幸福を求める『今』に応えることができるのはおにいの優しさだけ
だったら私はおにいに何をしてあげられるだろう
私にしかできないことって…なんだろう
どうしたら、私が感じた優しさをかんじてくれるのだろう。哀しみも乗り越えていけるそんな…愛しさを

「それよりさぁそのカップ、かわいくない?フクロウのイラストすごい気に入っちゃってさ。そういうの見るとついつい欲しくなっちゃうのよね、買わないと安心できないタチなのよねー私」

「聞いてる?魔理沙」



古めかしい魔道書だった
本棚の隅にしまわれていて
分厚く広く、魔道書らしからぬ質素な装丁がなされている。遊び回る子どもたちの中にポツンと一人だけ大人しい子がいるような目を引く寂しさがあった
角は丸くなっていてページはヤケているが古い本特有の埃っぽさやかび臭さはしない
しおりの紐はひどくほつれてはいるがまだまだ役目を果たせそうだ
目が離せなかった
私はゆっくりと、魔道書の文字を目で追った
そして確認するようなは指でなぞった
理解させる気があるのか随分難解で独自な言葉で羅列してある、けど確かに
こう書いてある






『心を操る魔法』




私にできること
強いて言うならそれは魔法
私が…おにいにしてあげたいこと
それは『笑顔』になって貰いたかった
私がそうしてもらったように




そんな『魔法』を私も使いたかった









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最終更新:2019年02月09日 20:02