魔理沙/23スレ/279-283
気がつくと私はソファーで魔道書を枕にして眠り込んでいたらしい。
まだ眠気が頭の上を元気よく走り回っていて、私はアホみたいに目と口を半開きにさせていた
「あ゛あぁ~…」
まだ眠っていたいというささやかな抵抗の呻きをあげる。毛布をたぐり寄せ潜り込むように体を包んだ
眠くて眠くてしょうがない
昨日の夜はずっと魔術薬をつくるのに夢中だったから、いつこんなカッコで眠りに入ったのか覚えていない
確実に四時は回っていたと思う、何度も意識が飛んで気づくと机の上に涎の湖を作っていた。
魔道書にはいくつかの恋のまじないや魔法の薬の作り方が書いてあったのでとりあえず全部やってみることにした私は早速作業に取りかかることにした
入手が難しい材料はおにいに頼んだ方がよさそうだったので書き殴ったメモをおにいに渡しておいた
「魔理ぃちゃんいつも変なモン頼むよね、それにこのタツノオトシゴって…他のはともかくこれはさすがに無理くさいなぁ…」
まぁ数撃ちあたればいいかな、最悪効きそうな本命の魔術の材料がそろえばいいし
それと相手の髪の毛が必要なやつがあったので、おにいに『髪伸びてるから切ってやるぜ』って言うと最初は変な髪型にされそうで恐いから遠慮しとくと渋ったがしつこく『お願い』すると仕方なさそうに笑って切らせてくれた。
…昔から『お願い』されると断り切れなくて、いつもこんな風に笑ってたっけ…
それから材料がそろったやつからどんどん試してみた
ヘンなコインを月の光にかざして相手のことを想う
お互いの髪の毛を一日ずつ結んでいく
相手の写真をお香をくぐらせて清めてヘンな呪文を唱える
誰にも見られないようにして、相手の家の玄関前で箒を三回地面にノックさせて呪文を唱える
出かけるとき釘を玄関前に投げておいて帰ってきたときに回収してお守りにする
ピンクのマニキュアを塗ってそこに相手の名前を書く…
「うさんくせぇおまじないレベルばっかりだぜ」と訝しつつも効果を確かめるためにあしげなくおにいのとこに通った
資料にむかったままペンで何かを書き殴りながら「さすがに毎日催促しにくる客は魔理ぃちゃんだけだよ」と眉を八の字にして笑う。無理矢理笑ってる時は機嫌が悪いときなので退散、効果ナシ!
それが今日までの成果、今回は薬を飲ませると効果があるという方法を実践するつもりだ
汗で濡れた髪の毛のついた衣服とかいう怪しさマックスバリューな材料を燃やして灰にする、これをジュースか何かに混ぜて相手に飲ませる
どうせだからその混ぜるジュースも魔術薬にしてしまおう、水と赤ワインを鍋にかけナツメグ少々、フェンネル三粒、シナモン一つまみを投入、ゆっくり右回りにかき混ぜる
「…髪ぼさぼさだし、目ぇクマできてるよ。寝てないの?」
おにいは書類と長時間睨めっこしていたのか疲れが抜けきってないといった雰囲気で、ペンを置いて椅子を回してこちらに体をむけてくれた。
まだ微睡む意識に懸命に鞭を打ち魔術薬の入った水筒を差し出す
「なんか浮いてるンすけど…これ、お酒入ってない?」
怪訝な面持ちで薬を観察している
「元気がでる、おまじないの薬」
私がそう言うとおにいはじっと私の顔を見つめた
私の意図を探ろうとしているのか、時々こういう時がある。いつだったかそれでイタズラを見抜かれたっけ
……そういえば
他の女の子に優しくするおにいに無用な苛立ちを覚えその女の子に子供じみた嫉妬から『イタズラ』をしたことも…少なくはなかった。
それがバレるとおにいにこっぴどく叱られた
なんでこんなことをしたのかと問い詰められたが私は言えるはずもなくただただ俯くばかりで、泣いたり悲しんだ素振りをすれば免罪符にできると思っていた。
けれどそうやって俯いていると…私をじっと睨んでいたおにいは仕方なさそうにどこか哀しそうに笑って頭を撫でてくれた
「ごめんね」
幼くワガママで自分の気持ちで精一杯だった当時はその意味を考えられなかった。
今になって、なんとなくそうなんじゃないかって思い当たることがある。
おにいは気づいてたんじゃないかな、私のイタズラの根にあるものに。
イタズラの原因が自分だって気づいていたんだとしたら悲しかったかもしれない…優しかったから。
おにいは、やっぱり仕方なさそうに笑った。
「ありがと、でもさすがにお仕事中にアルコールいれるわけにはいかないから後で飲ませて貰うよ、そーれーと」
優しい目をしてた、全部見透かされてるみたいで恥ずかしさに襲われた。
魔女帽をゆっくり取り払うと、ポンと私の頭に手を乗せて…撫でてくれた。
「魔理ぃちゃんも元気戻してくれないと、俺だけってわけにはいかないでしょう?」
こういう
こういうところが『特別』なんだ
寂しさや哀しさを埋めてくれようとする優しさ。
暗闇を照らす明るさと温かさ。
欲しくて欲しくて堪らない
その『優しさ』を私も扱うことができたなら
誰かの辛さを和らげることができたなら
…おにいの『そこに立つ誰か』であれたなら
最期に笑えるのなら、何度泣いたっていい
それが私を強くするから
魔術薬の効果がどれぐらいの期間で効果が出るのか記載されてなかったから私は1週間ほどおにいの様子見をやめるとにした。
材料も揃ったので他にも試したいことがあったし、なんというか最後の詰めみたいなものだからどこか私自身心構えが必要だった
緊張する、踏ん切りがうまくつかないというか、顔が熱くなってばっかり。恥ずかしい、落ち着かない
乾燥した昼顔と石南花、南天の実と月桂樹の葉の粉末、タツノオトシゴの黒焼き。これを一定の割合で混ぜて半分に割って相手に飲食させるものに混ぜる。
相手が接種した日のうちに自分もそれを食べる
できれば、この目で食べているところを確認してから私も摂取しておきたい
万全を期するに越したことはない
とにかく、薬は完成した。後やり残したことはないか?
こういうのって意外と自分じゃ気づけないものだ
姿鏡の前に散乱している荷物をブルドーザーヨロシクまとめて押しやって、もう一人の自分と対面する
「霧雨魔理沙被告、最後になにか言うことはあるか」
私は私に指を差す。こうして見ると、いけ好かない生意気そうな顔が腹に立つ。正直こいつの顔はどうにも好きになれない
10年経てばまた違うかもしれないが、10年後の私が胸も大きくて脚も長い髪の綺麗な美女になっているなんてものは笑い話にしかならない。
絶世の美女にしろとは言わない、ブラウン管の向こうにいるアイドルのようなかわいさもいらない
ただ、ただ…特別な人に世辞を貰ってもおかしくないような容姿は欲しかった
…霊夢のような強い美しさが、欲しかった
ふと気づく、鏡の中の霧雨魔理沙。
お前の髪の毛…なんか跳ねてる
クソ生意気そうな顔もよく見ればどこか眠たげでひどいクマができている
服もしわくちゃだ、思えばいつからだか着替えてない気がする
ともすれば、多忙だったからか最近風呂に入っただろうか
試しに腕を鼻先にくっつけて思いっきり嗅いでみる。「ヌッフ」と変な声をあげた後、襟を鼻にかけるようにぐっと引き延ばした
饐えたような悪臭に堪らず鏡にうつる魔理沙に文句を言う。
ハブリーズをかけようとするも空なのか引き金を引いても哀しく「スコッスコッ」と鳴くだけ。
というかにおいの原因は自分だけじゃなさそうだ、散乱している部屋をよくよく見れば「くさいのは当たり前でしょう?」と言わんばかりのふてぶてしさである
早速掃除しようと思い換気をするために「妖精さん!においを消し去って!」と勢いよく窓を開け放つ、少し肌寒い冬の風が部屋の中を通り抜け悪臭に襲いかかる
「誰が妖精さんですか」
開いた窓の外、目の前に
動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジとその従者
小悪魔が佇んでいた
「……知らなかったか?人の家を訪ねる時は玄関をノックするんだがな」
それ魔理沙さんが言っちゃう~?と小悪魔は大袈裟に顔を顰める。
何回もノックしたわよ、どこか眠たげな
パチュリーも態とらしく笑いその場でノックの動きをする
外出なんて珍しいじゃないか、と冷やかすように私もこれみよがしに眉をハの字にして呟く
「いつもそっちの都合で来る癖にこっちに用があるとなると中々顔を見せない人がいるからね」
パチュリーは目で合図を送ると小悪魔が鞄から一冊の魔道書を取り出す
「この前返してもらったやつうちのじゃないみたいなんですけど」
なんだっけ、最近似たような話を誰かにされたような
「私パチュリー・ノーレッジは本に敬意を持ってるわ、誰かさんと違ってね。きちんと持ち主に届けて欲しいわけだけど…さてじゃあ返して貰ってない私の友人たちはどこにおいでなのかしら」
「ム゙ギュ゙ァ゙ァ゙ァァァァァァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?」
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パチューン
汚らしい部屋に乱雑に無造作に無秩序に所々にこづまれた魔道書に悲鳴を上げたパチュリーは矢庭に激昂し私にビンタする
全く痛くなくて逆に柔らかい手のひらを押しつけられて心地良いほどだった。逆にパチュリーは涙目で手をおさえている
「い゙ッ…だぁ゙い゙っ゙…これ手首…イったわ…外れたわ…119番お願いします(´;Д;`)」テクビプラーン
「なんでビンタした側の方がダメージでかいんだぜ…」
「貧弱すぎないですかね」
パチュリーがソファーでうんうん唸ってる間に小悪魔は腕捲りをして掃除を始めた。あれよあれよという間に部屋を綺麗に片付けてしまう
「仮にも女の子なんですからお部屋は綺麗しましょうよ」いたずらっぽく笑う小悪魔、『仮』で悪かったな
借りていた本をひとまとめにして、鼻唄まじりにリストのような物を見ながら本を確認している
「んーんーんー…んー…足りないですねぇ一冊。っていうか、ウチのもどこかに間違えて返してるんじゃないですか?」
「ちゃんと探したのか」
「探したのかってあんたねぇ…」
わかったわかった、探しとくから。と言ってパチュリーを宥める。最近誰かから似たような話を聞いてたんだがな、誰だったかな
小悪魔が勝手知ったる風にウチの台所の戸棚などをパカパカ空けてコーヒーを淹れる。
砂糖やミルクのことを聞いてきたので特にこだわりはないと言ったら鬼のように甘くて舌を出し悪態をつく
「お任せコースにしたけどさ、甘過ぎだろ」
「パチュリー様が甘々じゃないと駄目なんで」
魔法で抜き出してみたら?と嫌味っぽく笑うパチュリー
そういえば、おにいも甘いのじゃないとコーヒー
駄目って言ってたっけ
コーヒーの水面にうつるいけ好かない顔をした霧雨魔理沙。自信家で生意気、手癖が悪く横柄で、そんなこの女の薄っぺらい裏側にある寂しさや弱さをよく知っている
もっと、もっと違う、強い霧雨魔理沙に生まれ変わりたいと思う
お前は私じゃない
重苦しく徐に顔をあげる。二人を見る、人里を歩けば皆が振り返るような美しさを持っている。
アリスもそうだ、そして霊夢も。
女としての、ちっぽけなプライド
みすぼらしい嫉妬のかけらを捨てることができない。
ただただ、「理想」の私とは違うことに嘆くだけ
「…なぁ、その、二人は。…化粧とか、する?」
意を決したように絞り出した言葉に、小悪魔は嬉しそうにニタッと笑うと「女の子の義務ですから、勿論」と立ち上がって私の肩に手を置く
「ねぇ魔理沙さん、あのですね、私に!ちょっと預けてみません?パチュリー様ってば弄らせてくれないんで…」おもちゃを見つけたような、どこか悪魔的な笑顔。必死に隠しておきたい感情は見破られていた
パチュリーは興味なさそうにコーヒーに舌鼓をうっている。
「シャンプーとか何使ってます?」
「いや、何っていうか、銘柄とか気にしたことない…」
ウヒ-、と小さく悲鳴をあげて髪を触ってくる小悪魔は楽しそうに笑い私を鏡の前に座らせる
耳元で「誰です?誰です?」と囁く。
「誰、ってなんだぜ」言いたいことはわかってた、惚けてみせても小悪魔は遠慮なく笑って頷いた。まるで、「うんうん、わかってますよ」とでも言いたげに
ただ、そうやって化粧の手解きをしてくれる小悪魔はどこかおにいに似た温かい笑い方で、誰かを不幸や醜態で嘲うでも騙そうとしたりその場しのぎの為のなげやりな笑顔でもなく
温かく慈しむような、明るい優しい笑顔だった
…。私は、
どんな顔して笑っているのだろう
どんな顔で笑えるのだろう
どう、笑っていけるのだろう
パチュリーはふと向こうのテーブルに目をやり「あれなに?」と聞いてきた
「ちょっとしたおまじないだよ、お・ま・じ・な・い」
…『それ』は素直に話すようなものじゃない。尊くて優しくて温かいものだけど徒に人に見せびらかすようなものではないように思う
勿論、それを見せたい時もあるけれど私にとっては大事に仕舞っておきたいものだ
( ´_ゝ`)フーン
多分、その程度のものだったのだ。質問とも疑問ともつかないようなほんの少しの好奇心
こんなことを言いだしたらきりが無いけれど、もしここでもう少し問いただしてくれていたら
いや、やめよう。もうそんな言葉は意味が無い
この時の私は、目の前の感情で精一杯だった
化粧を教えてもらって、拙いながら自分の顔や髪を弄ってみる
そこに写る霧雨魔理沙は私の知らない誰かだった
見蕩れてわけではないけれど、こんなにかわるものなのかなって驚きと…自身の容姿に満足する妙な気持ちよさに酔いしれていた
早苗や鈴仙や咲夜が…そういった話をするのをどこか対岸のことように思っていた。自分にはまだもっと先のことだって…
妖夢や霊夢とそういう話をしたことがある
妖夢は興味ありげだったけど、まだ未熟ですからって言った。
霊夢は「女としてなんともおもってないわけじゃないけど、やっぱりありのままでいたい」って、語った。容姿の優れていることの皮肉だと『私みたいな顔に産まれて同じことが言えるか』って無用な嫉妬を感じたりもしたけど霊夢の嘘偽らざる本当の気持ちだったに違いない。きっとその時霊夢の心には一人の大切な人の顔が浮かんでたと思う、私もそうだった
霊夢は自分の容姿にどこかしら気に入らなかったりなおしたい部分はあるのかもしれないけど自分の不満や不安も含めて『博麗霊夢』として自分を捉えている。そんな自信ともつかないような確固たる足場がある、キチンと向き合って認めてる、『博麗霊夢』という自分自身を
そういうところが大好きで…大嫌いだった
そう考えていると、鏡の霧雨魔理沙は哀しい顔をしていた。
「なんだよ、せっかくめかし込んだのにさ。そんなシケたツラやめろよ」
何故だかそいつが何が言いたいかわかったような錯覚を起こす
本当にやるの?こんなこと?
誰かを気遣う優しさが時に疎ましがられるような腹立たしさに掌をぎゅっとひきしめる
確かにさ思ったよ、こんなことしていいのかなって。こういうの『ズル』なんじゃないかって
でもさぁ、思うんだ私。
言葉や行動で気持ちを伝える、それは良いことも悪いこともある
ナイフで切りつけられたら『痛い』みたいに
ケーキを食べたら『おいしい』みたいにさ
伝わる『何か』はなんだっていい。自由なんだ
誰かを特別に想う気持ちって…その人の中に種があって嬉しさも悲しさも糧にして大きく育つものだと思うんだ
大切な誰かの心に種を置く
私がそうだったから、大きく根をはり育ったこの木は紛い物でもなんでもないだろ?
その方法が言葉か魔法か、たったそれだけ
自分にできることを選んだ
それの、なにがいけないことなんだ
選ばなくて後悔する未来になってから、お前は「やっておけばよかった」って思いたいか?
私は嫌だね
鏡の霧雨魔理沙は相変わらず哀しい顔をしていた
黙って、諦めたように首を振った気がした
感想
最終更新:2019年02月09日 20:14