俺は俺の部屋の前で戸を叩きながら甘い声を出している病んだ豊穣神の事を思う。
何であんなに病んでしまったんだろう。前は普通に芋の臭いをホコホコさせている恵みの神様だったのに。
最近では、部屋に帰る度に俺の部屋は焼き芋屋と化している。
しかも、病みが進む具合に臭いが濃くなっているような気がする。
考えろ○○、こういう時こそチェス盤を引っ繰り返して考えるんだ。
…………そうだ、俺が病んで見るんだ! これこそ逆転の発想だ。
こうすれば彼女だって、自分が如何に異様な雰囲気を発してるか理解してくれる筈。

俺は堅く閉ざしてた戸を開き、目の下に隈を作って一晩中戸を叩いてた彼女を抱き締める。
耳朶を軽くペロリとなめる……甘い。
「そんなに俺が好きなんだ?」「うん」
嬉しそうに頷く彼女に、俺は作った病み笑顔を浮かべて威嚇する。
「後悔するなよ? 俺の愛は異常だぜ?」

数ヶ月後……。

俺は彼女を独占した。住処を山中にある彼女の家へと移した。
俺以外の男とは口をきくなと命じた。
俺の所有物になれと命じた。
豊穣はこっそり夜になってから与えろと指図した。
必要でも無いのに俺以外に姿をさらすなと。
俺が必要だと思ったら側に居ろ。必要でなくても側に居ろ。
俺以外に笑顔を向けるな。無表情であれ。
俺がお前に何かを求めたら必ず叶えろ。お前は俺のものなんだから。

……等々、頭が痛くなるような事まで要求した。
彼女は嬉々として俺の要求を受け容れた。
少しも、俺のアレ具合に引くつもりは無いようだ。
と言うか、姉すらも遠ざけてしまう辺り、徹底している。

……今更ながら、俺は気付いた。
自分がやった事は物凄くドツボだったという事を。
おまけに、お互いに病み合いながらも愛し合う事が、結構素敵であると気付いてしまった事を。
「○○さぁん……」
「へへ、もう離さないぞこの芋娘」
「○○さん、私、生理止まっちゃった♪」
「おめでとー」


―○○は―
二度と人里の長屋へは戻れなかった……。
豊穣神と病みつがいの片割れとなり、永遠に歪んだ愛の生活を謳歌するのだ。

そして正気に戻りたいと思っても戻れないので

―そのうち○○は考えるのをやめた。


関連作品:静葉/4スレ/867

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最終更新:2017年05月25日 01:53