元魔女の妻
元魔女の妻
寒さが厳しくなり風が冷たくなってきた時季の朝、
その日は晴天に恵まれていたが、身を凍らせるような風が人里を吹き抜けていた。
外界出身の○○には放射冷却だろうと想像出来たが、
この場の雰囲気が外の空気に負けぬ程に凍ることは想像の外であった。
来客用の部屋にて相対する二人の女性。
絶対的な冷たさが漂う中でも二人の間には火花が散っていた。
「そうですか。」
あっさりと相手の訴えを流す
魔理沙。昔のやんちゃな言葉は影を潜め、代わりに外行きの仮面を彼女は纏う。
「それだけですか。何か仰ることはないのですか。」
一方の相手は激しく
魔理沙に詰め寄る。獲物を狙った猛獣が付け狙うが如く標的に食らいつく様子は、鬼気迫るものがあった。
「主人もいい大人でございます。それが何か一々目くじらを立てることでしょうか。」
「一々!なんてことですか!私はあくまでも男性としての責任を果たして貰いたいと言っているだけですよ!それを何とも、まあ!」
家族の不貞を大したことが無いと受け流す
魔理沙に、女の方は責任を言い立てる。
本来ならば問題の解決を迫るべきは○○であろうが、この家の現状を考えると案外正攻法である。
「その様な戯れ言に一々付き合う暇はございません。」
「どういうことですか!」
「○○の妻は私です。他の有耶無耶が主人について言い立てたり、あまつさえ責任を取れなどど付け込むことは、この私が認めません。」
女の言葉を徹底的に拒絶する
魔理沙。
一歩たりとも踏み込ませまいと、一片たりとも○○を譲る気がないと、
魔理沙は言外に女に告げていた。
「なんてことを・・・。最低の人でなしめ!この子がかわいそうじゃないですか!」
「そうですか、別に結構ですよ。主人の外っ面にふらふらと引き寄せられる、
この家に縁もゆかりもないただの蛾が、たとえ何を喚こうとも此方には関係ありませんので。」
生まれるであろう子供を楯に取れども、
魔理沙はそれを真正面から打ち抜いた。そうまで言われては女の方も後には退けない。
「上等ですよ!村の皆に白黒付けて貰おうじゃないですか!」
「恥を掻くのはそちらですよ。」
「馬鹿野郎!」
扉を蹴破るようにして女が出て行くと、辺りは静かさに包まれる。
二人に圧倒されていた○○であるが、急に不安がもたげて
魔理沙に話しかける。
「なあ、
魔理沙・・・。」
「何でしょうか。」
「すまない!実は飲みぎて何度か意識を無くしたことがあって・・・。」
土下座をする○○。畳に頭を擦りつけるが二の句が継げずに言いよどんでしまう。
「大丈夫ですよ。あなた。」
「すまない、本当に、本当に裏切る積りは無かったんだ。」
「ですから大丈夫ですよ。」
低い姿勢のままの○○を横目にし、
魔理沙は懐より霧吹きを出してガラス細工のそれを何度も自分に吹き付ける。
特に首筋には念入りに。そして○○の方に詰め寄った
魔理沙は、自分も頭を低くして○○の頭の横で話しかけた。
「ねえ、あなた、頭を上げて下さいな。」
「う、うむ・・・。」
不承不承
魔理沙の方を見た○○に
魔理沙は迫る。正座する膝を乗り越え、猫の様にしなやかに密着して体を擦りつける。
「こ、こんな時に済まない!」
魔理沙は体を外そうとした○○の後ろ髪をそっと押さえ、○○の頭を自分の肩に押し当てる。一層○○の反応が強くなった。
「ねえ、この匂い思い出しませんか。」
「何となく、何処かで嗅いだ覚えはあるが・・・。分からん。」
「寝室でだけ、二人で一緒に寝る時にだけこの匂いを付けているんですよ。
他の場所では絶対にそうなされないようにおまじないをしてしますから・・・。あなたがなさるのは私とだけ、そこだけです。」
思わぬ告白を受けて黙り込んだ○○に対して、
魔理沙は子供に言い聞かせるように話す。
「あなたが外でどれだけ飲まれても、朝になるといつもこの屋敷に戻っているでしょう?」
「ああ・・・。」
「いつもあなたをお迎えに上がっていますからね。あなたが一晩を過ごすのはこの家だけですからね。」
「それに。」
「それに?」
「子供の父親は別の人ですよ。あなたとは比べるべくもない程度の見てくれだけの男でしょうに。」
「どうして・・・。」
「どうして、ですか。そうですね、女の勘ということにしておきましょうか。ふふふ・・・。」
感想
- こy -- 名前とはなんぞ (2018-01-06 11:13:42)
最終更新:2019年02月09日 20:51