このSSは「小ネタ・分類不可・未整理/24スレ/221」の続編です
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誰がそれをやったのか4



誰がそれをやったのか4

二ッ岩マミゾウを選んだ場合

 △△の家に泊めて貰った次の日に明るくなった頃に街に向かう。
日は高く上り、冬の冷たい風が土埃を巻き上げて道の上を通り過ぎていた。
吹きすさぶ風に身を委ねていると、火事に遭ってすっかり心細くなってしまったのであろうか、
なんだか自分が吹き飛ばされそうに感じた。
そんなあまり良くない調子で歩いていたものだから、道中の中程まで来ると少し疲れた気がした。
偶々目についた茶屋に寄り少し休む。
歩いていたせいか不思議と喉が渇いていたので、焼け残ったなけなしの銭を払う。
三文のお茶を注文すると、軽かった財布は朝の半分の重さになっていた。

ほうじ茶をすすりながらぼうっと道を眺めていると、頭の中をグルグルと思いが巡っていく。
昨日のこと、これからのこと。アンニュイな気分になっていると、
「隣はいいかい。」
いつのまにか横に座っていた、二ツ岩マミゾウが声を掛けてきた。
「なるほど、なるほど、なるほどな。全くもってそうなっていたとは儂も想像もできなかった。」
僕を見た後、そう言ってニヤニヤとマミゾウが一人笑う。
薄い眼鏡の奥に深く隠された彼女の心は見えなかったが、僕にとっては渡りに船、
少々付き合いのあった彼女に頼めば、どうにか地代の工面ができるだろうと思えた。
「少し、色々と話したいことがある。」
早すぎて機嫌を損ねないように、遅すぎて時機を逃さないように、タイミングを見計らって隣に座るマミゾウに言う。
団子を食べ終わり、満足そうに煙管をふかすマミゾウが言う。
「お主の考えていることは無論わかろうぞ、しかしまあここで話をするにはちと風情がなさすぎる。」
-どうじゃ儂の家にでも来ないかい-そう言って、空中を飛んで行こうと手を差し伸べる彼女。僕は、半分以上残ったままで温く
なった湯飲みを置き、彼女の手を取って申し出を受け入れた。

上空の風は地上よりも冷たいのであったろうが、しかし彼女の防壁があったためか、
風の冷たさはそれほど感じなかった。
マミゾウの家に入ると、いつもなら手下の狸が動いているであろうその屋敷は、
皆が出払っていてガランとしていた。
意図せずして二人っきりになった部屋でマミゾウと対面する。
普段の人里で見せる姿とは異なり、化け狸の親分としての貫禄が体の奥から滲み出ていた。
マミゾウは大きなしっぽをくるりと出して、畳の上にドサリと置く。それが切っ掛けになって声が出た。
「実は、借金をしたい。」
そう彼女に言う。
「ふむふむ…来年の地代か。」
考えていたようで、その実は想定内であったのか、彼女は言葉を続ける。
「全くそんなものなどはどうにでもなろうに…。まあそれでも、霧雨や上白沢の所に話を持って行かないだけ、まだマシなのであろ
うかのう…。」
マミゾウが、カツンと煙管を火鉢に叩き付ける。

「全く餅は餅屋と言うであろうに…。金子の事は貸金屋に任せるのが一番というものじゃ。」
「いけるのか?」
うんともいいえとも言わない彼女に、その意図を確かめる。
「その必要などない。」
途端に機嫌が悪くなった彼女が切り捨てるように言う。
その言葉を聞いて、僕は借金が断られたのかと思い、知らず知らずのうちに
顔が白くなっていたようである。それを見た彼女が慌てて付け加える。
「いやいや悪い意味に取るでないぞ。ワシとお主の間柄じゃ、借金などという水臭いものはいらぬ。」
思っていた以上のことを言われて返って僕は驚いた。反射的に言葉が出る。
「いやいやそれは困る。親しき仲にも礼儀ありと言うだろう。いくらそのような間柄と言っても、なあなあにしてはかえって悪いだろう。」
-ふむ-そう彼女は言って考える。深く深く虚空を見つめるようにキセルを吹かす。
「お主、少々勘違いをしておるのかもしれんの。」
白い煙が空中に吐き出される。艶やかに動く唇に目線が吸い寄せられた。
「金を掴んでおれば、人の心を読み解くことができる。」
-世の中の大体は、金か女の揉め事と言うからの-そう彼女は付け足す。
「例えばそこらの柄の悪い若者連中が、お主の家を焼いたとして、はてさて、一体それが何の得になろうぞ。
全く、そうじゃ、全くもって一銭の得にも成りはせぬ。
そしてそれが、霧雨商店で手に入る外界の、上等な油を使っていればなおさらのことじゃ。」
マミゾウが持つ煙管が僕に向けられる。犯人が断罪されるように、名探偵が罪が暴くように。
「つまりお主は、そうされなければいけなかったということじゃ。それも、見つかれば磔、獄門になるようなやり口での。
お主はこの後、大方日雇いにでも行こうとしていたのだろうが、それは少々危なっかしすぎるのう。
黒幕を知らずして、ここから出るのは辞めた方がいいじゃろうな。」
硝子のレンズの奥で、彼女の目が僕を捕らえていた。








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最終更新:2019年01月23日 22:56