誰がそれをやったのか




誰がそれをやったのか

 夜が赤く焦がされていく。
始めは小さな火であったであろうものは、炎となりて夜空を照らしていく。
外界に居た頃にはキャンプファイアーとして見ていたであろう炎は、
この幻想郷でするには少々大袈裟すぎる。
薪の代わりにくべられたるは自分の小屋。
よく乾いた冬の空気に煽られて、赤い炎が小屋と食料を焼いていた。
この一年必死に働いて漸く得ることができた米。
自分のような新参者であっても存外秋の神様は気前が良いのか、
必要経費を差し引いても十分な量を収穫することができたのであるが、
それが今、まさに燃え尽きようとしていた。
「おい、○○、ポンプ車を借りてきたぞ!」
隣の家に住んでいる仲間が大八車を引いて来る。
もの凄い勢いで、息も絶え絶えで走ってきた△△を見ると、
おそらく彼の精一杯で走ってきてくれたのであろうが、しかしそれでも火を消すには遅すぎた。
いや、そもそもこの明治時代程度しかない幻想郷で、一度火が燃え移ってしまえば、
それを人間が消すことはできず、精々が周りの建物を壊して、燃え移らないようにするという
江戸時代さながらの前時代的な火消ししかないのであろう。
「ああっ、ああ、うぁあああ!」
言葉に成らない声が腹の底から出てきて、虚しく辺りに響く。
手と足に力が入らずに、持っていたバケツが地面に転がる。叫び声と共に涙が零れ落ちていく。
何故という思いがあふれ出て脳を埋め尽くしていく。血走った目で過去を漁り原因を探る。
あの時に、かさりという物音がした時に、気にも止めていなかったが、実際は何か火付けがいたんじゃないのか、
いや、無理をしてでもあの時、香霖堂で消火器を買っておけば良かったんじゃないのか。
そもそも村の共用の倉庫に無理をしてでも置いておけば良かったんじゃないか。
色々な思いが頭を駆け巡り、その度ごとに火事を防げなかった自分を悔やみ、
そしてその度ごとに小屋が灰になった現実を突きつけられ、手が固い地面を掻いた。

「おい、○○、○○。」
不意に肩を揺さぶられる。立ち上がる元気すらなく、後ろを振り向く。
こちらの生気が抜けきって恨みがましい目に怯えたのか、里の顔役の引きつった顔が見えた。
その引きつった表情のままで顔役が言う。
「○○、怪我が無くて幸いだな。まあ、こんな時になんだが、来年の地代は払って貰うぞ。こっちも商売だからな。」
こんな時に無慈悲な宣告を突きつけてくる顔役に、同じ外来人仲間が食って掛かる。
「馬鹿野郎!今の状況見て見ろよ!こんな時に、よくそんな事言えるなお前!」
今にも顔役を殴り付けてやろうという勢いの、血の気が多い外来人連中にとり囲まれ、
顔役は肝を潰しそうであったが、それでも辛うじて自分の手札を切ってきた。
「そ、そんなにいうんじゃったら、お、お主らが代わりに払ってもいいんじゃぞ。
別にこっちは、誰が払ってもいいんじゃからなっ!」
一瞬冷静になった仲間に対して、流れを引き戻した顔役が続ける。
「まあ、そんな外界に戻るのが遅れてもいいんなら存分にするんじゃな!」
捨て台詞を吐いてそそくさと顔役が去って行った後で、△△が話しかけてくる。
「○○、大丈夫だ。俺達が何とかして工面してやるからな。」
周囲で頷く仲間達に涙が出てくるが、それに甘える訳にはいかないと気を持ち直す。
「大丈夫だ。実は蓄えが少しあるから、恐らく何とかなりそうだ。」
周囲の仲間が帰った後、△△の家に泊めて貰えることとなり、家には二人きりになった。あいつが口を開く。
「おい、本当に蓄えなんて有るのか?」
いぶかしげな目で見てくる△△。外界の人間として、こちらの懐事情もお見通しということであろうが、
それをそのまま口に出すには憚られた。
「一応…ある。」
「嘘、だな。」
あっさりと嘘を見抜かれる。そのまま△△は肩に手を置いて話してくる。
「長年って程ではないけどさ、お前が嘘を付いている時は何となく分かるんだよ。」
「しかし、他の連中に負担を掛ける訳にはいくまい。恐らくあいつは、俺たちに余裕が無いのが分かってやっていそうだ。」
「それでも見捨ててはおちおち外界に戻れん。俺の費用を貸しとくよ。」
「いや…。貸して貰えるあてはあるんだ。」
△△がじっと目を見てくる。
「今度は…、本当だな。駄目だと思ったら、いつでも来いよ。」

 翌朝になり-帰る前だったらいつでも来いよ-と見送る△△と別れて里に行く。
人里に向かう途中で出会ったのは…







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  • 誰がそれをやったのかシリーズ
  • シリーズpart1
  • 完結済み
最終更新:2019年01月23日 22:40