深淵に潜むモノ




 深淵に潜むモノ

 友人と連絡が取れなくなっていてから、はや数ヶ月。
失踪する前日まで私は彼と大学で顔を合わせていたのであるが、
次の日から彼は大学に姿を現さなかった。
彼が持っている携帯に幾度連絡をするも一向に電話がが取られることがなく、
教務課が保証人に連絡をしようとするも、その人物にも連絡が取れずに中で、私は遂に彼の家を訪れることにした。

 都市から電車で一時間程離れた場所にある、田舎と言い切るにはやや躊躇するような街にある一軒家。
周囲は農地に囲まれており、夜になれば辺りは僅かな該当が照らす所以外は、
真っ暗になるであろうという場所に建つ友人の家を私は単身訪れていた。
長い間雨が降っていないせいだろうか、薄らと埃を被った家のチャイムを鳴らしたが一向に返答が無い。
誰か家人でもいれば事情を話そうかと思っていた私であったが、
こうも返事が無いと少々当てが外れる格好になった。
もう一度期待を込めてチャイムを押す。
まるで待ちぼうけを食らわされた格好となった私が腹立ち紛れに門扉を押すと、門はあっさりと開いた。

 ドキリと心臓が鳴る。おかしい、これは明らかにおかしい事だった。
いくらカーテンが閉められてた人気のない家だからと言って、ここまで人が居ないものなのだろうか?
もし仮に旅行等の理由で家を空けているのであれば、まさか戸締まりを忘れるなんて事はないであろう。
それに第一、ただの旅行であるならば、携帯に出ることができる筈なのだから。
私の心臓の鼓動が激しくなり、呼吸が荒くなる。
開かれた門を通り一歩、一歩家のドアに近づいていく。
恐らくは誰かが手入れをしていたのだろう。小さな花が咲くプランターは手入れがされているようだった。

 家のドアの前に立った私は暫くドアの前で逡巡していた。
これ以上入るのは明確な一線があった。
それは不法侵入になるという無機質な法律論だけでなく、直感といった本能的な物であった。
これ以上踏みこんでしまうと何かが起こってしまうという第六感が、私の靴の裏側と庭に貼られたタイルをがっちり繋いでいた。
頭の中を色々な考えがグルグルと過ぎる。
あと一歩、あとほんの僅かなその一歩が私には踏み出せなかった。
突然私の後ろでガシャリと何かが壊れるような音がした。
反射的に振り向くと、先程見た植木鉢が風も無いのに倒れて割れていた。
予期せぬ音に心臓が縮まりながらも、私は首を前に戻す。閉まっていた筈のドアが少し開いていた。


「誰かいますか!」
ドアを勢いよく開けて家の中に入る。恐らく誰か、病人でも玄関に居るのだろう。
そうだきっと友人とその家族が流行のインフルエンザにでも掛かっているのだろう。
そのせいできっと連絡を取ることができなかったのだろう。私はそう確信して身を玄関の中に踊らせた。
窓ガラスを通した昼の光によって照らされる玄関。そこには誰も居なかった。
「え…。」
声が漏れる。余りにも予期せぬ状況に、頭が真っ白になって理解ができなくなっていた。
どうしてドアが開いたのだろうか?誰も居ないのに?
「キャハ♪」
不意に二階から声が聞こえてきた。子供のような、楽しそうな高い声。
二階に誰か居るのかと思い、声を掛ける。
「すいません、誰かいますか!」
静まり返る家。一筋の恐怖が私を貫き、首筋から汗が噴き出した。
後ろを向き、ドアノブを回す。ガチャリと重
い音がして、私はドア思い切り押すがドアはビクともしない。
息を吐き力を込めてドアを押すが、それでもドアは動かなかった。
「こっちだよ。」
再び二階から聞こえる声。恐怖を感じた私は思わず叫んでいた。
「いい加減にしろ!」
恐怖を紛らわせるために靴を乱暴に脱ぎ捨て、大股で階段を上る。
しかし手すりをしっかりと掴んでいたのは、少々いや、かなり恐怖を感じていたためだろう。
一歩間違えれば落ちてしまうような恐怖。私はそれと戦っていた。







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  • 深淵に潜むモノシリーズ
  • ホラー
  • 完結済み
最終更新:2019年02月25日 05:32