深淵に潜むモノの続きになります

深淵に潜むモノ2




階段を息を切らせながら登った私だが、予想通りと言うべきかやはり二階の廊下には誰も居なかった。
辺りはしんとしており自分が動いたせいだろうか、昼の光に照らされて埃が舞っているのが見えるだけだった。
「くそっ、一体どうなっているんだ…。」
思わず一人悪態を付いてしまう。どう考えても誰かこの家に人がいる筈なのに、
私はその人間を見つけることが出来ていなかった。いくら何でも有り得ないこの現象を見て予感が働く。
即ち、-この家には誰も居ないのではないのか?-
という悪い予想が。
「ふっ、馬鹿馬鹿しい。そんな物ある訳ないじゃないか。」
放っておくと膨らんでしまいそうになる予想をわざと声を出して断ち切ろうとするが、
相変わらず心の中にその予感は漂い、そしてザワザワと音を立てていた。-誰かから見られている-視線を強く感じる。
向かいの部屋から。
「そ、そこか!」
体を蝕もうとする恐怖と戦いながら、私は扉を開けた。

 部屋の中にはやはり誰も居なかった。
そこは恐らくは友人の部屋だったのだろう、物が少なく整頓されている様子であったが、
数少ない小物や用具は自分と同じぐらいの年齢をした人物が、この部屋を使っていたと告げていた。
部屋を一通り見回すが、やはりと言うべきか誰かが窓を開けた形跡は見られなかった。
ひょっとして近所の悪ガキかあるいは泥棒がこの部屋に居て声を出していたのならば、
そう私は殆ど願うように自分にとって都合の良い予想をしていたのだが、生憎そうは行かないようであった。
「仕方ない、か。」
気が進まないながらも、机の上にあった日記に目を遣る。
それは部屋に入ったときから私の視界に飛び込んでいたのだが、何だか気が進まなくて私は後回しにしていた。
人の日記を見るのが悪趣味であるということに加え、今、この部屋にただ一人でいるという事実。
それが良くできたホラーゲームのように私を不気味にさせていた。
日記を手に取ろうと机に近づくと、突然日記が開いた。パラパラと風も無いのにページが捲られていく。
そして、あるページを開いて日記帳の動きが止まった。
「ど、どういうことだ?」
心臓が捕まれたように鳴り響き、足が震える。
この世の中に絶対に無いと信じていた、異常現象を見て私の思考回路は混乱していた。
今まで一笑に付してきた様々な心霊話や、都市伝説といったものが脳裏に浮かんでくる。
全てが酔っ払いや精神的に異常な人物の妄想だと思っていたのだが、今この目で見たモノは正に人知を超えている。
おかしい、ならば私は今、正常でないのか?いや、そんなことはない筈だ。
私は正常なのだ、そしてどうにかして友人の手掛かりを探さないといけない。
そのためにこんな場所まできたのだから。

 おそるおそる日記帳を覗き込み、ページを読んでいく。良かった、ただの日記であった。
友人が単純にその日あったことを綴っているだけであった。
これならば大丈夫だろう。そう判断した私はページを捲っていった。
日記の内容はその日あったことや、考えたことを書き記していたのだが、その内に夢の内容が日記に書かれるようになっていた。
そして徐々にその分量と占める割合は増えていき、一ヶ月経つ頃にはほぼ全てのページが夢日記となっていた。
そこに書かれていたのはある怪物のこと。
黒く、姿の見えない恐ろしい怪物が友人を襲って来るようだった。
可哀想に、彼は眠る度にその怪物に襲われていたようだった。
悲痛な思いでページを捲る私であったが、突然彼の日記の中に私の名前が出てきた。
 「親友たる○○へ」
その言葉を見た瞬間に、私の背筋に電流が走ったかのような衝撃を受けた。
どういうことなのだろうか?彼は一体どうして私がこの日記を見ることを予測していたのか?
まるでこれでは彼は私がこの家に来ることを知っていたみたいではないか、丁度失踪でもするかのように…。
私の目は日記に釘付けになり文章を追っていく。


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 親友たる○○へ

 僕のこの日記を見ているということは、きっと僕は今、失踪しているのだろう。
あるいは病院に入院してしまっていて、面会謝絶なのかもしれない。
どちらにせよ僕にとって良い状況ではないのだろうか(願わくば後者であれ!!)
それでも君に伝えたいことがあって此処に記した。
もし、他の人が見ているのならば、このまま本を閉じてしまって欲しい。
できれば○○に伝えて欲しいのだが、そこまでは少々高望みというものなのかもしれない。


 よし、ここで本当に○○、君がこのページを読んでいると信じて僕が体験したことを記そう。
○○、君はかつて幽霊などいないと豪語していたね。どうやらその勝負は君の負けのようだ。
いや、何も僕がそんな何年もの前のことを根に持っている訳ではないんだよ。君は僕の親友なのだから。
だけれども、ああ、だからこそというべきなのか、こんなことを伝えることができるのは、君だけなんだよ。
まさか、本当に深淵に潜むモノに出会うなんてね。
いや、そいつはこちらを見ていると言うべきなのかもしれない。
そいつらは僕達とは違う世界に存在していて、そして確実に僕たちの世界と何処かで繋がっているんだ。
僕達がオカルトの世界に分け入って深淵をのぞき込んだ時に、そいつらも僕達を見ているんだよ。
ああ、本当なんだよ。きっと君のことだから、信じられないだろうけれども、
僕は夢でそいつに遭ってから、本当に深遠に潜むモノがいることを痛感しているんだ。
あいつらは普段はジッと潜んでいるが、いざとなれば僕達の世界に入ってきて、そして僕達に触れることができる。
信じられるかい?本当にあいつらは人外の力を持っているんだよ。
全くそいつらに僕らは、いやことによると霊能力者、あるいは人類すらも太刀打ちできないんじゃないかと思わされているよ。
一体どうすればいいのか、君にこんなことを書いていながらも僕はどうしようかと、本当に困ってしまっている次第なんだ。

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 ああ、僕はなんて幸運なのだろう。***に会えるなんて、そして彼女が僕を連れていってくれるなんて。
ああ、僕は今までなんて小さな世界で生きていたのだろうか!
この世界とは違う世界で、そして人類とは異なる彼女の元で私はこれからの人生を過ごすことができるなんて、
ああ、本当に素晴らしい!偉大な、全ての大本である根源より出でし彼女と一体になり、僕はこれから生きていけるなんて、
ああ、僕は本当に素晴らしい!○○、君も早くこの世界に来るべきだったんだ!***の*に狙われていた親友の君が
少しでも早く(いや、実の所は対処する術などは僕には思いつくことができなかったのだから、無駄なあがきというべきだったのかもしれないが)
知ることができればと思って書いた日記すらも、無駄な心配だったと今ならば断言できる。
僕はついに彼女と一体になったんだ!
彼女に包まれて、ドロドロの心になって無意識の世界で生きている、その世界はどんなに素晴らしいか!

 ああ、早くおいで、○○

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 がたり、と私の後ろの襖が音を立てた。
少し前まではそこには誰も居なかったのに、そう、五感は何も感じなかったにも関わらず、僕の第六感は今、
そこに何かが居ると、人間以外の何かがそこに居ることを感じ取っていた。
少女達の声が聞こえてくる。
可愛らしくて、無邪気で、そして恐ろしい声が。
「ねえねえ、お姉ちゃん、今度も誰か***に連れて行くの?」
「ええ、そうよ***。今回はその人の知り合いよ。そして…、」


「今度は私の番ですよ、○○さん…。」









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最終更新:2019年02月25日 05:33