「……嘘よ」
「そんなにも好きだっていうなら、どうしてもっと会いに来てくれなかったの……」
「何時だってそうよ、貴方は。今この時だけなら、何とでも言えるわ。
口だけは達者な、ただの人間の癖に!」
……何時か言った様に。
自分には力が無いから、仕方がないと。
そう答える。
そしてこれからもそれは変えられない、と。
「変えられないなら一緒よ!
貴方はそうやって都合良く生きてればいいじゃない!!
だけど私は、貴方が変わらなければ自分を弱くする事も出来ないのに!」
「神なんかじゃなければ……もっと別の何かなら……
もっと貴方の傍で、寄り添う事が出来たのに……っ」
ぼろぼろと涙を流す彼女に近づき、その涙を拭う。
そして、こう言った。
変えられない、だから変わらなくて良い。
だから、追いつくまで待って居て欲しい、と。
「……待ってたって、追いつける訳……それに置いてかれるのは、……っ」
だから彼女に一つだけ、頼みがあると伝えた。
自分の中にある”虫”を、潰して欲しいと。
『2年目 12月』
”神の為に魔法使いになった愚かな人間”。
新聞にはそんな風な見出しが載っていた。
”と、その泣き虫の神様”という泣き顔の神綺の写真と一緒に。
「幻想郷(ここ)って、私にとって鬼門なのかしらねぇ」
そう言いながら楽しそうに新聞を切り抜く神綺。
「え?でもツーショットで新聞に載るなんて、名誉な事なんでしょうし」
それに口を挟んではみたものの、どういう事か分かっていないらしい。
「○○が後ろを向いてなければもっと良かったんだけど……残念だわ」
そして切り抜いた写真を額に入れ、鋏を置いた。
「さて……」
神綺は何時の間にか部屋に仕舞ってあった髪留めを着けると、
自分の顔をグイ、と掴んでいた。
「判ってるわよね、○○」
その目は何処かサディスティックであり、睨んでいる様にも見える。
「私を泣かせたりして、ただですむと思ってるわけじゃあないでしょう……?」
彼女は翼を展開し広げると、瞬時に自分の眼前を覆い隠していた。
「”弾幕ごっこ”っていうのが、女の子の間で流行っているんですって。
○○は男の子だから本気(LUNA)で相手してもいいわよね」
……え。ちょっ
結局数分持たずにボロボロに落された自分の前に、神綺が下りてくる。
「やっぱり人間じゃ相手にならないわね」
得意げにそうは言うが、
自分みたいな年季の浅い魔法使いを相手にそれはどうなんだと思いつつも。
何も言わないでおく事にした。
「やっぱり外は寒いわね……帰りましょう?○○」
彼女が差し出した手を受け取ると、首にふわりとした感触。
マフラーが巻かれていた。神綺の首にも、同じ物が繋がっている。
「あれからまた作ったの。
同じ物を多く作るより、貴方と一緒に使える物の方がいいと思って……
そうすれば貴方も、気兼ねなく使えるだろうし。
私もその方が……嬉しい、から……」
気恥ずかしさもあり、ちょっと暑い。
神綺と巻いたそのマフラーは、前よりも暖かかった。
『3年目 1月』
「そういえば、私にプレゼントがあるって言ってたけど」
そうだった。
魔法使いになってから、魔界へとちょくちょく遊びに来ていたのだが、
居心地が良すぎてすっかり忘れていた。
……空間のせいもあるが、やはり想い人がいるせいだと思いたい。
懐から小さな小箱を取り出すと、中を開けて見せる。
「!……これって」
前のは気に入らなかったのだろう、と告げそれを差し出す。
自分で作り上げた指輪だった。
神綺はマフラーも手作りだったし、これならどうだろうと覚えてみたのだ。
……強度や装飾などについては、未熟も良い所だが。
「あれは……気に入らなかった訳じゃなくて……」
神綺は変型したその指輪を取り出すと、酷くばつの悪そうな顔をする。
「……ごめんなさい。当てつけで無いとは分かっていたのだけど、あの時はそんな余裕も無くて。
直すとかそんな事も考えられなくて、そのままにしちゃってて……その」
何やら言い訳が大変そうなので、気にしなくていいと一言で済ませた。
……しかしこれを立派にして、婚約指輪や結婚指輪作れるまで。
どれほどの時間と労力が要るのだろう?
気の遠くなりそうな時間、あぁ、確かに人間にとってこれは向かないなと溜息をつくが、
隣に居る神様を見て、その気持ちは何処かへと飛んで行った。
「だからね!私としては○○が酷いと思ったんだけど、
でも○○の気持ちがアレならアレなわけだし?!
でも壊したのは私で――」
これからも彼女と一緒に過ごし。
伝える為に生きるのだから。
「だから、○○っ!私が言いたいのは」
そう、自分が言いたい事。
言いにくいけれど、とても大切な、たった一言の。
『あなたが、大好きです』
最終更新:2010年08月27日 12:55