「……それって」
 神綺はしまったという顔をしている。
 既に名前の書かれたそれを見て、彼女は顔を伏せた。

「生き続けてくれるのね……。

 例え全てを犠牲にしてでも、私と一緒に生きる道を選んでくれるのね、○○……」

 その声は、何故か。
 嬉しそうにも、悲しそうにも聞こえた。

 神綺は翼を消し去ると、自分へと飛びついてくる。

「ふ、ふふふ……

 あはは……ぁはははは……嬉しい……ふふっ」

 彼女は自分を抱きしめたまま、わらい続けていた。

 ……けれど、彼女が自分を受け入れてくれたことがたまらなく嬉しくて。
 そんな事を、今は気にする事は

               無かった。


『2年目 12月』


 ベットの上で、神綺が見下ろしている。

「片時も離れずに”一緒に居て”くれるんだよね……」

 体に力が入らず、自分は彼女のなすがまま。

 ねっとりとしたキスを何回もされるうち、今、それが原因だとやっと気付いた。
 彼女は”生きる”事を代償に願いを叶えると言っていた。
 そして”片時も離れず”に。

「○○の唾液、おいしい……でもこれが最期なんだね。
 でも、それもいいかな。
 他の人に渡さなくて済むし、何より私なら忘れる事もないから」

 彼女の中に全て呑み込まれて行く。
 記憶も、命も、魂も、その想いも。

「幸せも喜びも、苦しみも悲しみも……
 やっと、二人で噛み締める事が出来るね。

 私の中でずっと、包み込む様に愛して上げるから」

 次第に目が霞み、景色が二重になる。
 ……目の前に居るのとは違う、彼女の姿がだぶって見えた様な気がした。

「もう 二度と離さない」

 ちゅるっ……

 神綺の唇が重なり

 そして、全てが呑み込まれた

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最終更新:2010年08月27日 12:56