翌日、○○は変装の頭巾を被り、魑魅魍魎が日常を営んでいる広場へとやって来た。
檜で出来た看板の前にたつと……。
求人募集中
とても暑くて熱いお仕事です。貴方もメルトでフュージョンなお仕事を体感して見ませんか?
仕事場:灼熱地獄
仕事内容:灼熱地獄での死体運搬補助、並びに火力維持作業の補助。
給金その他待遇:
さとり様に相談して。※耐熱装備は支給
通勤及び住み込み:さとり様に相談して。
備考:相方が鳥頭なんで、不意に攻撃されるかもしれないけどその辺は自己責任で。
求人募集中
毎日宴会やってる所為か人手が足りなくなったんで、誰か手伝う奴居ないかい?
仕事場:私が宴会を開く場所
仕事内容:宴会相手招集、調理補助、接客等
給金その他待遇:応相談
通勤及び住み込み:応相談(取り敢えず空き家貸してやるよ)
備考:下戸はお断り。酒豪で私の相手が勤まる奴は大歓迎!
求人募集中
ペットが増えすぎた為、管理体制を強化したいと思います。なのでペットの世話が出来る人を募集します。
仕事場:
地霊殿
仕事内容:妖怪ペットの世話、食事作り、地霊殿の掃除
給金その他待遇:応相談
通勤及び住み込み:応相談(取り敢えず一室であればお貸しします)
備考:中には本能が強い妖怪も居ます。自衛が出来る方を歓迎します。
就職の面接の為、地霊殿へと向かう僕は、ふと、有ることを思いだした。
「……そう言えば、地上は今頃七夕ですねぇ」
「……寝物語にそんな話題を振る貴方が妬ましいわ」
僕に寄り添って、
パルスィはそんな事をブツブツ言います。
彼女は何時だって嫉妬している難儀な女性です。普通にしていれば美人なのに。
「で、何か七夕に嫌な思い出でも?」
「大昔、こちら側に来る前だけど彦星と織り姫の逢瀬を一度ぶち壊した事があるのよ」
何でも、かささぎが橋を架ける手配を直前になって忘れ、トチ狂ったのか丁度目に付いた彼女の橋を彼女毎天の河に架けてしまったのだ。
嫉妬深い水神が潜む橋の上で出会う夫婦……。
何も起こらない筈もなく、どこからともなくテーレッテーが鳴り響き、
「寄りによって私の橋をこんな逢瀬に使うだなんて、私の前で見せつけるだなんて、妬ましいわ妬ましいわ妬ましいわあっー妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬x∞」
怒り狂ったパルスィによってかささぎと彦星と織り姫とついでに牛も天の河に投げ込まれたという。
花嫁が行方不明になるというジンクスがある橋の上でそんな真似をした自業自得であるかどうかは微妙であったが……。
「……意外に凄い事やってるんですねぇ」
「まぁね、お陰で天界に睨まれてこんな僻地に隠れる羽目になったんだけど」
パルスィの体温を感じながら、彼女の嫉妬深さを改めて再確認した。
「ところで、僕達も一度距離を置いてお互いの関係を考える機会を(ry」
「必要ないわ。天帝のような邪魔者も居ないし」
(……居るんだけどね。本気を出したらもっと怖そうなのが)
結果、数日後に大騒ぎの上脱出する事になったんですよねぇ……。
ぼんやりと歩いてた僕の前に、大きな館が出現した。ここが地霊殿か。
就職、出来るんですかねぇ?
アリスは悩んでいた。
最近、彼女は人里に住んでいる外来人○○を好きで好きでしょうがなくなった。
初恋である。まさに恋に恋する生娘である。
「でもねぇ……どうしたらいいんだろ」
人形劇を見に来てくれた彼とどうやってうち解けたら良いだろうか。
異性とのお付き合いの仕方なんて手の握り方すらも知らないアリス。
彼女は暫く悩んだ後、知り合いに聞く事にした……。
壱:霊夢と魔理沙に尋ねる。
「……どっちも居なかったじゃないの」
魔法の森に行って
魔理沙の家を訪ねたが、誰も居なかった。
何らかの工事の途中らしく、地下の部屋には新品の家具と何故か魅了の魔法陣が敷かれていた。
博麗神社の方も霊夢は居なかった。
こっちも何故か寝室が増築されており、魔理沙の部屋と似たような術式が仕掛けてあった。
「何やってるのかしらあの2人は……全くもう」
最近、あの2人が初恋状態になっているのは知っていた。
だからこそ、恋の先輩である2人に学んでみようかと思ったのに。
「もういいわ。別の人に聞いてみようかしら」
溜息を吐いた彼女は、当てになりそうな場所へと飛んでいった……。
「くそっ……旧都で目撃はされなかったか」
「断定とは言えないわ、人間が這入り込んだかはもう少し念入りに調べないと」
「それでも見つからなかったら?」
「地霊殿ね……さとりが匿っていたら引き摺り出すまでだわ」
2人が地霊殿に向かうのは、そう遠くはないだろう。
丁度その頃、某パパラッチは大天狗に地下侵入の件で許可を申請中だったという。
更に、
「妬ましいわ○○、私(達)との責任も取らずに逃げ出すなんて今生で一番に感じた妬ましさだわ……」
彼女はそろそろ、地霊殿へ捜索範囲を広げる事を検討していた……。
弐:最近結婚した藍
「ふむ……成る程、私の体験談を知りたいと」
「ええ、あなたは恋愛結婚をしたのでしょ? だから、如何に成就させたのかを教えて欲しいの」
マヨヒガの縁側、だいぶ大きくなってきたお腹を労るようにさすりながら藍は微笑んだ。
「……そうだな。私も奴を夫にするまで随分と恋い焦がれたものだ。同じ心境に到った同士だ。幾つか助言をしよう」
藍は語った。
自分の夫との馴れ初め、千年を越える妄執じみた雌伏の時。
「自分にとっての最大のチャンスを決して逃さぬ事だ。私は○○との魂を同化させるのに手間取り、千年以上独り寝をしなくてはならなくなった」
アリスは、藍の○○に対する愛情の執着の凄まじさに驚嘆した。
「まぁ、こういう形で夫婦となり、愛と絆を深めるのも悪くないがな」
茶を出して来た夫の側に寄り添い、幸せそうに微笑む藍。
妻に搾り取られなくなった所為か、幾分精気を取り戻した夫が慌てて彼女を支える。
「よいかなアリス殿、狙った男は、決して逃がさず、機会を得、捕獲する事だ。
意中の男を、決して我が手から逃してはならない」
藍の言葉は、アリスの中に深々と染みこんでいった。
「アリス殿、自分の中にある感情を否定せずともよいのだ。恋に狂えばいい、愛に溺れればいい」
悦に浸ったように語り続ける藍。
尻尾が大きく膨らんで凄い妖気を発散させている辺り、かつての本性を絶頂大公開しているようだ。
「妖は人を捕らえるもの、妖は人を我がモノとするもの、人で有らざる存在ならば!! 愛した男を手中から逃すな!! ……あたっ」
遂に立ち上がって吼え始めた藍の額がペチリと叩かれた。
「藍、身重なんだから妖気を解放したり激したら駄目だぞ」
「あーう、ごめんなさい……」
旦那さんの静かな叱責で、辺りに満ちた妖気は霧散し、膨らんだ尻尾も一気に萎びた。
「今日はもう休みなさい。アリスさん、本日はこの辺で……」
「あ、ええ、解ったわ。この辺でお暇するわね……」
こうして、藍の恋愛講座は唐突、中途半端に終わった。
しかし、
「そう、妖怪と人間の愛って言うのはそう言うものなのね……覚えておかなきゃ」
確実に
「こ、
こいしちゃん、ど、どうして……」
「ふふふふ」
先程までのんびりとした寛ぎの空間だった茶の間は、いまや一変していた。
数日前に求人に来て、そのまま採用され居着いた地上の人間である○○。
この館の当主の妹、古明地こいしだ。
○○の足下には、先程まで飲んでた御茶と御茶が入っていた湯飲みが転がっている。
「大丈夫だよ○○、単なる痺れ薬だから。数時間動けなくなるだけだよ」
「いや、だから、なんでこんな事をしたのかと……」
「決まってるわ。○○と私が幸せになる為よ」
こいしが言っている言葉は、○○には理解出来なかった。
彼女は○○を雇ったこの屋敷の当主、古明地さとりの妹で雇用者の身内。
音もなく出現しては、自分の仕事をじっと観察したり、静かな口調であれこれ質問してくる変わった女の子だった。
○○は仕事中にも出現する彼女に対しても丁寧に対応した。
その為か、彼女は○○に良く懐いた。
それを見たさとりや地獄鴉や地獄猫が驚いた位だ。
「驚きました。心を閉ざしたあの子が人間にあれ程懐くなんて」
昔、人間絡みの辛く記憶があり、心を閉ざしたと説明された○○は、不憫な子と思い尚更世話を焼き優しく接した。
……思えば、それが悪かったのかもしれない。
彼女の中に押さえ込まれた人間に対する感情。
正と負の入り交じったものが、無意識に生き続けた少女の中を満たしていったのかもしれない。
出会って僅か数日の人間に対し、こいしは驚嘆する程の感情を向けていた。
恐らくは、あまり向けられても嬉しくない、歪んだ感情を。
「あのね○○、私、○○を独占する為に隠れ家を見つけたの。白くて綺麗なとても静かな家。私と○○だけの家だよ」
「だけど、隠れ家に行くには、○○の気持ちが不安定なの。○○はいろんなものを見過ぎててるから」
「え、こいしちゃん、僕の……心、見たのですか?」
「うん……少しだけ」
他者の心を覗くことを恐れて心眼を閉ざした少女が、自分の心を覗いていた事に驚愕する○○。
だが、こいしは虚ろな目で呟くように続ける。
まるで、心を読んでしまったが為に、心を病ませてしまったかの如く。
「○○の心の中は表層だけだけど観たの……○○の中、余分なのが多すぎるよ」
「よ、余分って」
「巫女とか、魔女とか、天狗とか、鬼女とか、お姉ちゃんとか、余分なのが多すぎるよ」
「こ、こいし……ちゃん」
「あの時みたいだよ。あの時みたいに! だけどね、今度は間違えないよ?」
虚ろだったこいしの目に、力が漲る。
澱んで、病んで、純粋な恋の力が。
「静かな私と○○のお家に、余分な想念を持ち込むのは嫌なの。○○の心は、想念は大きすぎるの。だからさぁ……」
ギュイイイイイイイイイイイイイイン!!
「私だけしか考えれない位、コンパクトにしてあげる!」
こいしが手にした外歯がハート型の鎖鋸がイドの力を動力に、轟音を立てて動き始めた。
ごん、という音と共に、こいしはあっさりと倒れた。
手にした物騒なエゴの象徴は作成者の意識が途絶えた事で霧散する。
「大丈夫ですか、○○さん」
「さ、さとりさん……」
そこには、こいしの頭に特大のたんこぶを拵えさせたさとりが立っていた。
ちゃんと手加減はしたようだ。ピクピクとだが動いている。
「取り敢えず、一旦避難します。貴方の部屋……と行きたい所ですが、危険ですので隠し戸へ」
妖怪な為か、華奢な外見とは裏腹の膂力で○○をひょいと抱え上げたさとりは、地霊殿の中を高速で移動し始める。
「さとりさん、こいしちゃんは、一体どうしたんでしょうか」
「……あの子は、昔友人だった人間を傷付けてしまったのです。私達覚りの業故に」
「……」
「あれから暫くして此処に移り住みましたが、あの子はずっと心を閉ざしたままでした」
「あなたが此処を訪れてから、ようやく立ち直れたかと思った……でも、再び同じ過ちを犯す処でした」
悲しげな嘆息を漏らすさとりに対し、○○は自分の迂闊さを呪わざるを得なかった。
「さとりさん、僕、直ぐにでも此処を去った方が「いえ、それでは問題の解決になりません」」
隠し戸が自動的に開き、下層部に通じると思われる長い階段が出現した。
反応式なのか、次々と灯りが灯る。
「このまま地上に貴方を帰しても、こいしは貴方を追って地上へと出るでしょう。今のこいしでは貴方を手に入れる為に貴方や他の人間や妖怪を傷付けかねません」
「そしてそれは、地上との協定を破る事になる。そうなれば、私はあの子を処断しなくてはならなくなります」
延々と続く階段を降りていくと、心なしか暑くなって来たような気がする。
側に灼熱地獄があるからだろうか?
「なので、あの子が落ち着くのを待ってから、私と一緒にあの子を諫めて欲しいのです。お願い出来ますか?」
「……はい、解りました。こいしちゃんが元に戻るのであれば、協力します」
「……ありがとうございます○○さん」
頬を僅かに染めたさとりがたおやかに微笑む。
不覚にもどきりとしてしまった○○であるが、さとりの下降スピードが緩やかになったので地下を見てみる。
肌の表面にじんわりと汗が浮くほど、階段の温度も上がっている。
「扉……灼熱地獄にでも通じているんですか?」
「本来はそのつもりで作ったのですが、お空が山の神から授かった力で坑道を拡張した為に不要になってしまった通路です」
さとりが取り出した鍵を扉の鍵穴に指し込む。
ガチャリ
扉のロックを外す。
室内にはいると、そこは意外な程快適な湿度と室温を兼ね備えた部屋だった。
何か魔力でも使って、室温を調節しているのだろう。
誰かが寝泊まりする予定だったのか、調度品からベット、簡単なコンロや水道まである。
調度品から察するに、どうやら男性が使う予定だったようだ。
「ここで暫く待機して置いてください。これからこいしと少しオハナシして来ますので」
「俺は、良いんですか。こいしちゃんを説得するなら俺も」
「まだ、身体の痺れが抜けてないのに?」
「うっ……」
さとりは、天蓋付きのダブルベットへと○○を優しく下ろす。
柔らかい掛け布団を○○にかけると、さとりは○○に背中を向けたまま静かに言った。
「大丈夫ですよ○○さん、全ての問題は必ず解決しますから。だから、○○さんは休んでいてください」
「さとりさん……」
彼女が部屋から出た。扉が閉められ、
ガチャリ、
ガチャガチャガチャガチャ、チキチキチキチキチキチキピーン、ガション、ガリガリガリガリ……ゴン。チーン。
さとりが扉を開けた時より遙かに複雑な何かが作動した……そんな気がした。
ついでに、床の下で何かヴォン……と低い音が聞こえる。
何事かと身体を起こそうとした○○だが、痺れ薬が残っているのか、身体が殆ど動かない。
「さ、さとりさん……い、一体何が起きて」
床下から噴き上がるような、甘い匂いに意識を刈り取られ○○が昏倒するまで後10秒。
参:里を男連れで練り歩いている天子
最近姿を現さなくなったようだ。
どうやら愛しい男と一緒に天界に引き籠もっているようだ。
なので、
四:最近子供を産んだ慧音
「ふむ、恋愛の仕方か……よく分からんな」
「ゑ……?」
縁側で我が子(♂)に豊かな乳房を与えている慧音は、アリスの問いにそう返事した。
「いやな、私の夫はこの郷にやって来た時に女を知らない状態だった。だから私が女を教えたのさ」
「え、え、え、ええ!?」
「別にそう引くほどの事ではないだろう。村に住まう男衆は正しい子作りのやり方を知らねばならないのだから」
「そ、それはそーだけどぉ」
「ま、多くは語る必要も無いだろう。アリス君、必要なのはきっかけを作ったら直ちに既成事実を作る。これが肝心だ」
「……は、はぁ」
後はおおまか藍に似通った内容だった。
子供が愚図り出した事で講義は終了し、アリスは今まで取ったメモの内容を確認しながら帰路についた。
本当は人里唯一の洋風喫茶店で寛ぐつもりだったのだけど、目当ての人がいなかった。
と言うか、暫く工房に篭もっていたので気付かなかったが、思い人は行方不明になっていたのだ。
「兎に角、準備して探さないと……あれ?」
博麗神社の側を通過しようとした処、間欠泉から大量のお湯と共に何かが吹き出して来た。
それは高々と悲鳴を上げつつ、あいきゃんふらーいしていた。
「……? ○○!!」
何とそれは、彼女の想い人であり、行方不明になっていた○○だった。
彼女は慌てて飛行速度をあげ、○○を受け止める。
「だ、大丈夫!?」
「う、うぅ……みんな、止めて、止めてください~。六等分、六等分は止めてください~」
何やら魘されているが、言っている言葉の意味がさっぱり解らない。
当惑しつつも、アリスは○○を魔法の森の自宅へと連れ帰るのだった。
飛び去っていく彼女の後ろで、何故か異常な程間欠泉が熱湯を吹き出していた……。
そして、物語は最終局面を迎える事になる……。
魔法の森 アリスの自宅
「ふぅ……」
何とか久しく使わなかった客間を人形達に清掃・整理させ、○○をベットへと寝かし終えた。
気絶したままの○○は何かに怯え続け、「ここを開けてください」だの「六等分は止めて」だの言い続けていた。
何故がどうしてこうなったのかをアリスは聞き出したかった。
が、あの有様では直ぐには無理だろう。
気付けの薬を飲ませたので、もう暫くすれば正気に戻る筈だ。
「こんな事じゃなきゃ、思いっきりおもてなししたんだけどな」
せっかくの愛しの彼を自宅へ招いたのだ。
出来れば数日掛けて準備をし、心尽くしのおもてなしをしたかったのに。
「ま、これってチャンスかもしれないし。慧音さんも藍さんもチャンスを逃すなって言ってたから頑張ろう」
取り敢えず落ち着かせて、二人っきりでゆっくりと食事でもしながら訳を聞こう。
そんな思いを抱いて1階へと下りていくと、玄関の呼び鈴が高らかに鳴った。
「あら、誰かしら……」
調理担当の
上海人形に2人分の食事のオーダーを命じ、アリスは急いで玄関へと向かった。
「いよう、アリス。ちょっと寄らせて貰ったぜ」
ドアを開けると、そこにはボロボロの魔理沙が立っていた。
まるで連戦で弾幕ごっこをやらかした後のようだ。
「ちょ、ちょっと魔理沙! どうしたのそんな姿になって!?」
「あはは、良いんだよアリスゥ、私がこんな姿なのはさ、どーでもいいんだ、どーでも」
アリスは気付くべきだった。
自分を見る魔理沙の目が、力強くも、虚ろな色を湛えていた事に。
「それよりもさアリスゥ、なんか、匂わないか?」
「え、匂いって?」
はぁ~、と魔理沙が溜息を吐いた後、すっと何かをかざす。
「他人様の好きな存在を横取りしようとする―――」
「!!」
アリスの顔が驚愕に歪む。それは、魔力を宿した八卦炉―――。
「泥棒猫の、匂いさ」
○○は、アリス邸の客間で目を覚ました。
「こ、ここは……知らない天井?」
辺りを見渡し、見覚えの無い建物の室内で有ることに多大な不安を覚える。
しかし、地霊殿特有の特徴的な配色ではないので、少なくともここが地下ではないのは確かな様だ。
まだ、身体からは薬の影響は完全には抜けていない。
○○は知らなかったが、アリスの処方で幾分は改善されている。
それでも、こいしに盛られた分と隠し部屋で盛られた分は、○○の調子を悪くしていた。
(そうだ、僕は、あの隠し部屋、地底から間欠泉を使って逃げ出して……)
彼は直接知らなかったが、地霊殿を舞台にした総勢六名によるハルマゲドン・ウォーズによって隠し部屋が破損し、隠し通路が姿を現したのだ。
彼は何とか這いずって隠し部屋から逃げ出し、吹き出していた間欠泉に一縷の望みを託して飛び込んだのだ。
(となると、ここは地上かな……?)
客間の窓からは、森の景色と青空が見える。
どうやら、○○は地上へと無事(?)生還出来たようだ。
「良かったぁ……」
「そう、気分の方は?」
そっと額にかざされた手に、○○は手を重ねた。
「ええ、誰かは知りませんがありがとうございました。助けて頂いたようで」
「何を持って助かったと定義するかは知らないけど、私を置き去りにしてそれはないでしょ妬ましい」
○○の挙動が凍る。
ギギギ……と軋んだ音を立てるような具合に、自分の上に重なっている掌を除けると……。
「パ、パルスィ……な、何故」
「パルパルと呼べと言ったでしょ。肌まで合わせた間柄なのに……そんな他人扱いがまたしても妬ましいわ」
良いあんばいにボロボロになったパルスィが、○○の手を取って自分の顔に擦りつけている。
慌てて逃げ道を探すかのように辺りを見渡し、窓を見た○○の顎がカクンと落ちる。
「しゃ、射命丸さん……!?」
窓の向こう側には、射命丸文がやはりボロボロの姿で浮かんでいた。
しかも、手にはカメラではなく戦闘用の扇が旋風をまとった状態で握られていた。
「あやややややや……まさかまさか、○○さんと水橋さんがそのようなご関係だったとは……ねぇ」
虚ろな眼光を放つ文の口の端が凶悪な角度に歪んだ。
文の持つ扇から放たれる風と魔力も、凶悪なレベルへと膨張した。
「でしたら、この事実は『無かった』事にしましょう。ええ、報道しない自由をもって!」
アリス邸の客間で、局地的な大竜巻が発生した―――。
それと同時に、アリス邸の玄関でも桃色の爆発が発生した―――。
アリス邸での闘いは佳境を迎えていた。
大破した家のリビングで、○○を七方から引っ張り合う少女達。
アリスもぶち切れた形相で参加している辺り、色々と末期的である。
いよいよ、○○をg単位で平等に等分するスプラッタエンドかと思われたその時。
ドカン!
○○がいきなり爆発した。
おまけになぜか紙吹雪まで舞っているではないか。
少しの間、ポカンとしていた少女達が異口同音に叫んだ。
「この○○は……偽物!?」
『その通り、よくぞ見破ったわね!』
と、天空からピカーと光が一条降りてくる。
その中にはどっかで見覚えのあるUFOがぐるんぐるんと降りてきて。
「貴方達、よくぞその○○が偽物である事に気付いたわね!」
その中から現れたのは、御約束というかぬえだった。
おまけになぜかグレイっぽい宇宙人を数人従えている。
そのグレイ2体に捕まった宇宙人状態で捕獲されているのは……。
『○○!』
「あう……」
良い具合に真っ白になった○○だった。一応、息はあるようだ。
「そう、全ては私の仕業だったのよ。対抗者達を一同に集め、殲滅するための企みだったの」
「しかし、途中で偽物とばれてしまってはしかたがない!」
オマエノシワザダタノカとか声がかかる中、絶好調のぬえは右腕を掲げながら叫んだ。
「○○の身柄は私の手に、○○の子種は私の胎に落ちたわ!」
「返して欲しかったら追い掛けて来なさい! 宇宙の果てまでっ」
病んだ表情でお腹をさするぬえとグレイと○○がUFOに吸い込まれていく。
止める暇も無く、UFOは発光しながら上空へと舞い上がっていった。
「何をもたもたしているのよ? 霊夢、さっさとこれに乗って追い掛けなさい」
「この月ロケットで!」
月ロケット(?)がぽつねんと存在していた。
「ちょっと、なによそれ。それのどこが月ロケットなのよ」
「……あやー、前に取材した時の形態とは随分違いますね?」
「お、これ、
霖之助のトコにあったゲームに出てた奴っぽいな!」
「全く、一体なによ、何なのよ!?」
「意味が解らないけど兎に角追わないと……こら、こいし、勝手に乗ろうとするんじゃありません!」
「パワーカプセルが1個も付いてない初期状態で渡すだなんて妬ましいわ」
某宇宙空軍に属する超時空戦闘機っぽい月ロケットに無理矢理乗った少女達は、UFOへの追撃を開始する。
「待っててね○○、絶対にぬえから助け出してあげる!」
勿論、助け出したら即時争奪戦開始である。
何か、横スクロールっぽい宇宙空間を駆け抜けながら、少女達はUFOを追い掛ける。
○○との幸せを彼女達は取り戻す事は出来るのか。
取り敢えず、○○の平穏な生活は当面無さそうではあったが……。
「幸せって……なんだっけ、なんだっけ……」
最終更新:2010年09月05日 19:14