202の続き



吸血鬼に血を吸われるとこの世のものとは思えぬ快感を得られる。
これは事実だ。その悦楽によってレミリアに括り付けられている他ならぬ私が言うのだから。

私は今、レミリアに血を吸われ、レミリアの血を吸っている。
体格的に厳しいので、交互に首筋に顔を埋めて血を啜っているのだが。

当主の部屋は、相変わらず薄暗い。
天蓋付きのクィーンサイズベットの上で、裸になって血を啜り合っている。

「○○、貴方の血は幾ら吸っても飽きないわ。もう、他の血液なんて飲めなくなる位に」

私の血を啜っているレミリアの顔は妖艶だ。
外観こそ幼い少女だが、その本質は数百年を生きる吸血鬼。
そんな夜の女王が自分の血を賞賛し、それ以外を拒否する。
私が来る前までは血を零しながら飲んでいた吸血鬼が、私の血に対しては全く零さず飲んでいる。

「貴方の血を垂らして飲むなんて勿体ない事は出来ないからね」

艶のある笑みを浮かべ、彼女は首筋を私に見せる。
何回も血を吸い、私の噛み痕が残っている青白い首筋を。

「もっと血を吸ってみる? それとも、まぐわう方がいい?」

私は視線を下に下げる。
今まで何度も身体を重ねてきた白い裸体が、潤んだ状態で私を待っていた。

「私はどちらでも構わないわ。どちらを選んだにしても、貴方は私をもっと欲しくなるの。だってそれが運命だから」

私は自分の欲求に従い、彼女を組み伏せながら首筋に犬歯を立てた。
多分、今レミリアの目を見たら、私を独占出来る事への悦びに満ちた濁った目をしているだろう。
肩越しに聞こえる甘い溜息は、自分が今抱き締めている幼い身体から出ているとは思えない程欲情を催す。

嬌声をあげるレミリアを見下ろしながら、少しだけ視線を動かす。
部屋の隅の暗がりから、瞬きをするもの惜しいとばかりに咲夜がこちらを見据えてるのが見えた。



朝方まで貪り合った所為か、夕暮れを過ぎた頃に私の意識は目覚めた。

「お早うございます旦那様」

ベットの直ぐ脇で控えていた咲夜が一礼する。
私は衝動の赴くまま、彼女を抱き締めると首筋に牙を立てた。
幾らでも回避の余裕はあっただろうに、咲夜は無抵抗だった。いや、望んでいるから当然か。



「ん……はぁ」

咲夜は離したくないかのように、私の背中に手を回す。
そのまま血を吸い尽くして欲しい。自分を、ドラキュリーナにして欲しいと。
咲夜を私の眷属、私だけの僕にして欲しいと。何時も、吸血の時に囁かれる。

正直に言おう。私は、最近、その咲夜の誘惑に堪えきれなくなっている。
こうして咲夜の口を離すのにも、かなりの忍耐を必要としていた。

「あっ……」

咲夜の身体が崩れ落ちそうになり、私は慌てて彼女を支える。
……やはり、血を吸いすぎてたようだ。貧血による立ちくらみだろう。

「旦那、さまぁ……」

咲夜の口端から唾液が流れ落ちる。
性的な興奮からオルガズムに到ったのか、ビクンビクンと身体が痙攣している。
支える私を見る濁った目は、黒い筈なのに紅く見えた。

「嬉しい、旦那、様、もう少し、もうすぐ、ですのね?」

ゆるゆると、彼女の手が私の頬に添えられる。
執着と、情欲に満ちた、咲夜の目がまた紅く光ったように見えた。

「嬉しいです。旦那様、私を、貴方だけのものに」

咲夜の視線が、僅かに私から逸れる。
私も、彼女の視線を追う。

レミリアが半分身を起こした状態で、瞬きをするもの惜しいとばかりに私と咲夜を見据えていた。



彼女達は私をこの屋敷に、自分達に縛り付けたがっている。
それは解っている。レミリアの血も、咲夜の血も、私にとって掛け替えのないものになっている。
吸血鬼である以上、拒もうにも拒めない。そして最近では、拒むことすら頭に無くなってきた。

まるでレミリアと咲夜の血を吸う事で、二人のあまりにも歪な情愛が私にも伝染したかのように。
最近は、私も彼女らの求めに積極的に応えるようになってしまった。

私はレミリアと血を交換し合い、咲夜から血を与えられている。
……いや、近々咲夜とも、吸血鬼となった忠実なメイドとも血を交換しあうかもしれない。

そうなった時、私は本当の意味で彼女らと等しい存在になるのだろうか。
私を脅迫紛いの方法で吸血鬼にし、この郷へと縛り付けた彼女らと。

血には生命だけでなく、時に感情すら篭もるのかも知れない。
他ならぬ、彼女達を永遠の伴侶とする事を是としつつある私が私の中に居るのだ。


今夜も、私はレミリアと血を交換するだろう。
咲夜の血を吸うだろう。

そして私は、彼女達の病んだ愛に溺れていくのだ。

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最終更新:2011年03月04日 02:28