永琳/8スレ/483 の余談

霖之助さん、病は気から、って格言は本当なんだろうね」

シトシトと外では雨が降っている。
相変わらず雑然とした雑貨屋の店内は、俺の吐いた煙が揺らいでいた。

「そうなのかい○○君?」
「うん、俺は精神医療は門外漢だけど……それだけは断言出来る。特に妖怪は精神に依る者と言われてるし」

ふぅ、と紫煙を天井に向かって噴き上げる。
霖之助さんとは此処に迷い込んでからそこそこ付き合いが長い方だ。
外からの漂着物で欲しいもの(メンソールの入った煙草等)とか、
もしくはこうして家出した時に匿って貰って愚痴る相手とか。

「だけど普通の病気ならまだ良いんだ、自殺希望や世を儚んでいる者以外なら治そうとするからね」
「そりゃそうだよ。誰だって病死はしたくないだろうし」
「うん、そうだよねぇ。だけど、治そうと思わない病気ってのも存在するんだよな」

霖之助さんがコトリと湯飲みを置く音が聞こえる。

「あるねぇ……、僕はかかった事はないけど。最近になってやたらと目にするからなぁ」
「ははは、霖之助さんが世話してる女の子達も罹っちゃったしねぇ」
「うん、ほんと、洒落にならないよ……アレは」

その病を治す方法はただ1つしかないし、治そうと努力する患者は殆ど居ない。
寧ろ重篤になる為に邁進し続け、時には周囲を巻き込んで破滅するケースすらあるという。

「○○君の所の嫁さんなら何とか治療できそうじゃない?」
「うーん、無理じゃないかなぁ。精神薬も作れるけど、カミさんも治す気ないしね」

なにせ、治療できる対象には強烈な中毒性があるのだ。
医学的に毒性を確認出来ないのに対し、阿片よりも凶悪な依存性と中毒性を秘めている。
ずっとそれに寄り添っていないと、ずっとそれの温もりを確認していないといけない。

「多分、薬じゃ治療できないよ。無理に治そうとしたらカミさんはカミさんじゃなくなってしまうと思う」
「その割には喧嘩すると家出してしまうよね。多分、その度に依存性が強くなると思うけど」
「…………」

俺は灰皿に煙草を押しつけ、座ってた安楽椅子から立ち上がる。恐らく、タイムアウトだと感じていたから。
拗ねる時間はもうお終い。さて、自分が抱えている、抱えさせられているモノの重さを再確認しよう。

「……偶にね、そうやって口実を付けれると、確認したくなるんだ、女房の執着を。普段は沈着なカミさんが感情を剥き出しにするのはこういう時だから」
「……病んでるねぇ、君も」
「……否定はしないよ。それじゃまた」
「ああ、奥さんによろしくね」

店の表に出ると、雨に濡れながら俺の女房がじっと立っていた。
俺を連れ戻す為に伸ばされた手を避け、雨でぐっしょりと濡れた彼女を抱き締める。

「さっきはごめんな永琳。早く家に帰って服を乾かそう。不老不死でも風邪を引いたら大変だからね」

スン、と鼻を啜る事で俺の妻……永琳は返事をした。

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最終更新:2011年04月24日 22:30