机の上に置かれた品は、オムライスとコンソメスープの二品。それが二人分。
オムライスは色鮮やかで見た目に濃い味だと分かる、
鶏肉を大目に使ったチキンライスと、
その上にふんわりと載せられた、美しい金色のオムレツで構成されている。
それを見た辺りで、ぐぅ、とお腹が鳴り、スプーンを礼を言って受け取った時には、
祖母が敷居をまたぐことを許さなかった云々の重い話はとりあえず祈の頭から消えた。
ここのところよく眠れていないだけでなく、
食欲も落ちてあまり食事を取っていなかった為であろうか。
見慣れぬ美味しそうなものを視界にいれたことで、急にお腹が空いてきてしまったのだった。
コンソメスープは湯気が立ち昇っており、アツアツの湯気に乗せて良い香りを振りまいていた。
長時間煮込んだらしく、湯気越しに見えるスープの具材たちは
舌で軽く押すだけで潰せてしまうだろうと思える程くたくただ。
ということは、人参や玉ねぎの甘みやうま味がスープに溶けだしているであろうことも想像できる。
待ちきれない、という面持ちで、祈は尾弐が座るのを見届け、
尾弐の食事の準備が整ったと分かると、両手を合わせて、言った。
「いただきます」
まず祈は、スプーンを横に走らせてオムレツに切れ目を入れてみた。
するとオムレツは半熟で、とろりと広がってチキンライスを覆った。
まるでお洒落な洋食屋で頼んだ品のようで、おぉ、と感嘆の声を漏らす祈。
チキンライスをスプーンですくって一口含めば、更なる驚き。
(あっ、これ……うちのと全然違う)
多甫家におけるチキンライスと言えば、
細かく刻まれた野菜がたっぷり入った、
ケチャップの味が前面に押し出された子どもっぽい味付けの
“ケチャップライス”と呼ばれる方がしっくりくる代物。
入っている肉と言えば刻まれたソーセージぐらいのものだ。
しかし尾弐の作ったものは本格的なチキンライスだった。
鶏肉を多めに使ったそれは、
口に含めば鶏肉のうまみやジューシーさがケチャップの甘酸っぱさと共に広がる。
濃厚で、されどくどくない。
さながらトマトケチャップと鶏肉が奏でる味の二重奏。
否、とろふわの卵も含めれば三重奏。
適度に大きめに切られた鶏肉も、肉の食感が感じられて食べ盛りの祈には嬉しい配慮だった。
また、チキンライス全体にコクと鶏肉の風味があるのは
人によっては捨てがちな部位である鶏皮から出る鶏油を、
ライスを炒める際にバターと一緒に使っているからだろう。
それがまた一段と深い味わいを作り出しており、
一口ごとの満足感を増しているのだが、祈の口からは。
「んーっ! このオムライスうちのと全然違う! おいしい!」
こんな言葉しか出てこない。語彙力がないのである。
今度はコンソメスープを一口啜ってみると、オムライスとは対照的に優しい味がした。
オムライスの濃い味とバランスを取ってのことだろう。
代わりに出汁がきいており、野菜のうま味もあって一口また一口と飲みたくなる味わいだった。
喉から胃へと温かいものが流れ落ちていく感覚もたまらない。
今日という少し寒い朝には贅沢なスープだった。
だが。
「コンソメスープもめっちゃおいしい。超あったまるー!」
とか、祈からはそんな言葉しか出てこないのだった。
食レポの道は険しい。
最終更新:2019年04月11日 23:48