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安藤潤也&アーチャー  ◆q4eJ67HsvU



 人の心から悪魔が生み出されたとするなら、いつの時代も、人が集う都市はそれ自体が魔界である。
 そしてその坩堝の底に立ち、人波の渦中に在りながら、揺るがず、己の運命を統べることが出来る者がいるのなら。
 人々はその者を、『魔王』と呼ぶのかもしれない。

 歳頃は十六歳ほどの、成熟した男への過程にある、しかし何処か幼さをまだ残した少年である。
 明るい色の髪の片側だけをヘアピンで留めたその姿は、人の目にはありふれた今風の若者と映るだろう。
 しかし、ただ、その目だけが違っていた。
 陰鬱な隈に縁取られたその瞳は、地獄の底を覗き込んだかのような、深淵の色をしていた。
 取り戻すことの出来ないもののために、血を吐きながら這いずり続けた人間の目をしていた。

 いずれ魔王と呼ばれる少年――安藤潤也。

 彼はその沈みかけた瞳に、東京を行き交う人々をただ映していた。

「あいつらはみんな、月に再現された人間……役割だけを与えられて生きているだけの、作りものか」

 NPC――ただ自分では何も考えず、何も疑問を持たず、流されるだけの生を送る者達。
 その存在自体が受動的であり、ゆえに、きっかけがあれば容易く誘導されていくだろう者達。
 ただ生きているだけ……かつて、潤也の兄が自分を重ねて涙した、あのみすぼらしい老人のようだ。

 だが、兄は死んだ。社会の流れに抗い、自分の出来ることをもって、世界と対決するために。

 あの群衆とは違う。兄は運命に立ち向かった。立ち向かい、そして――潤也の前からいなくなった。
 今でもそのことを思うと、潤也の胸は抉り取られるような喪失感を痛みとして感じる。
 《令嬢(フロイライン)》は壊滅させた。潤也の大切な人々と、兄の命の重みを弄んだ者達には報いを与えた。
 だが、何も終わっていない。
 兄の成そうとしたことを自分なりのやり方で成し遂げるには、まだ、何も。


「黄金と白銀とを縫い込んだ、天空の帳を持っていたならば。
 昼と夜と黄昏の、青と薄墨と闇色をした、煌めく空の帳を持っていたならば。
 私はその帳をあなたの足元に広げるだろう」


 傍らに立つ男の声を聞き、潤也はその落ち窪んだ目だけを向けた。
 黒ずくめの男である。その顔は整っていながらも鉄面皮そのもので、黒髪はオールバックに撫で付けられていた。
 何の感情も伺えないのにただ立っているだけで緊張感を周囲に与えるような、抜き放たれた銃のような男だった。
 先ほどの言葉は彼の口から発せられたものだが、しかし彼の言葉ではなかった。
 男は詩集を朗読していた。潤也のサーヴァントとして現界してから、男が最初に入手したがったものがそれだった。


「――しかし貧しい私は、夢を見るしかなかった。夢をあなたの足元に。そっと踏んでほしい、私の大切な夢だから」


 そう読み上げると、男――アーチャーはその仏頂面を変えるではなく、しかし何かに感じ入るように目を閉じた。


「……ロマンティックな詩だな。誰が作ったんだ?」
「イェーツだ」
「イェーツ、イェーツ……聞いたことないな。まぁ、俺はもっと素朴な詩のほうが好きだけど」

 兄との今生の別れとなった朝に最後にした会話も、宮沢賢治の詩についてだったなと思い返す。

「だめでせう とまりませんな がぶがぶ湧いてゐるからですな 
 ゆふべからねむらず 血も出つづけなもんですから――だったかな」
「それが、その素朴な詩か」
「兄貴はさ、『不思議だけどとてもいい』って言ったよ。人が死ぬ詩なのに清々しさがあるって」

 声に出すだけで、あの朝を思い出す。
 ならば、アーチャーにとってもその夢の詩は、誰かを思い出させるものだろうか。
 そう聞くと、短く「同僚だ。私が殺した」とだけ返ってきた。潤也にとってと同様、愉快な話題ではないらしかった。

 潤也は既に、アーチャーの真名を把握している。

 男の名は、ジョン・プレストン。
 管理国家リブリアにおいて感情統制による均衡(Equilibrium)に対する叛逆(Rebellion)を成し遂げた英霊。
 二挺拳銃を用いた近接格闘術ガン=カタを極め、かつては優秀な特殊捜査官として文化と感情違反者を抹殺していた。
 しかし己の感情を取り戻した彼は、反逆者として社会へと立ち向かったのだという。

 恐らくその同僚というのは、詩集を所持していた罪により感情違反者としてプレストン自身の手で処刑されたのだろう。
 人が過ちを犯さぬように、感情と感受性を抑制された社会。
 確かにその社会では世界大戦の芽は摘まれ、感情違反者を除けば犯罪行為は発生しなかったのだという。
 潤也が追い求めるあの男――犬養舜二の言葉も、きっとそのような社会では誰の心も揺るがすまい。

「人間から感情を奪うことで『洪水』を止める……か」

 それもひとつの回答ではある、と潤也は思う。
 もっとも、兄が「とてもいい」と言った詩を同じように感じる心を奪うなど、潤也には考えられなかったが。

「きっと兄貴も嫌だって言うだろうしな。そんな何の楽しみもないような社会は。
 だけど、この東京みたいにただ流されるだけで生きていく社会も、きっと駄目なんだ」

 考えろ。兄ならばそう言う。
 NPC達は考えない。だがマスターである潤也は違う。アーチャーも、己の感情を取り戻しているがゆえに違う。
 自分達は考えることが出来る。
 この東京で何をすべきか。いつの間にか巻き込まれていたこの聖杯戦争を、どう戦うべきか。


「アーチャー」
「何だ」
「俺、アーチャーの力を信じてないわけじゃないんだ。
 だけどさ、この聖杯戦争は人類史のあらゆる英雄が集まるんだろ?
 その二挺拳銃で、本当に立ち向かえるのか。聖杯に手が届くのか。俺は、それが知りたい」

 鉄面皮のアーチャーに問う。
 アーチャーは表情をほとんど変えないまま僅かに黙考してから口を開いた。

「ガン=カタを極めた者は無敵となる。故に敗北はない、そう答えただけでマスターが納得するとは思わないが――」

 そう言って、しかしその後に続いたのは十分に力のある言葉だった。 

「たとえでたらめでも自分を信じて対決していけば、世界は変わる。最初に出会った時にそう言ったのは君だ、安藤潤也」

 世界を変えた英雄、ジョン・プレストンがそう言うのだ。
 ならば、どうして潤也がその言葉を――兄が最後に残したメッセージを裏切れようか。

「ああ――決めたよ、俺は」

 潤也は頷いた。

 これはひとつの過程だ。

 この聖杯戦争は、潤也が犬養の言う「神様のレシピ」に立ち向かうための、大いなる過程のひとつだと解釈した。

 だから、対決するしかない。

 聖杯の使い途とか、勝ち残った後のことなどどうでもいい。

 今、この東京で運命への叛逆(リベリオン)を成し遂げなければ、自分も、兄も、生きてきた甲斐がないから。

 そう、だからこそ。


「対決だ、アーチャー」


 潤也は、そう言って魔王のように微笑んだ。

【クラス】
アーチャー

【真名】
ジョン・プレストン @ リベリオン

【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷B+ 魔力E 幸運A 宝具E

【属性】
中立・中庸


【クラススキル】

単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。



【保有スキル】

ガン=カタ:A+
「ガン=カタ」とは、二挺拳銃を用いて行う近接格闘術である。
基礎の動きを修得するだけで攻撃効果は120%上昇、一撃必殺の技量は63%向上する。
ガン=カタを極めた者は無敵となる!

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
あらゆる状況を活用し圧倒的劣勢を脱してこその第一級クラリックである。

千里眼:D
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
プレストンの千里眼スキルは遠方視よりも動体視力や観察眼が主となっている。


【宝具】
『均衡に死を(リベリオン)』
ランク:なし 種別:なし レンジ:1~20 最大捕捉:50人

拳銃近接格闘術ガン=カタ、その究極。宝具に準ずるものとして扱われてはいるが、厳密には宝具ではなくプレストン個人の戦闘技術。

膨大な戦闘データの統計により、プレストンは相手の攻撃に対して常に有利な位置に立ち回りながら最小の攻撃で最大の戦果を得る。
さらにプレストンが英霊の座へと昇ったことにより、この戦闘技術にはムーンセルが蓄積した数多の並行世界の『統計』が反映されている。
そのためプレストンは例えば魔術のような生前一切無縁だった攻撃体系に対しても、統計学的な回避および反撃ができる。
本来ならばたかが二挺拳銃ごときでは立ち向かえないような敵との戦力差を覆し、齎すのは調和した運命への叛逆。


【weapon】
「クラリック・ガン」
特殊捜査官グラマトン・クラリック専用のマシンピストル。
普段は両袖の中に仕込んであり、戦闘時は専用器具により自動で手のひらへ移動する。
グリップ部には打撃用の突起がせり出すギミックが搭載されており、格闘戦も可能。

なおガン=カタとは統計学と武術の型の融合こそが真髄であり、究極的には武器が何であるかを問題としない。


【人物背景】
映画『リベリオン』の主人公。
感情抑制剤により戦争の原因となる感情が抹殺された未来の管理国家リブリア。
そのリブリアを支配するテトラ・グラマトン党の特殊執行官グラマトン・クラリックであった男。
二児の父であり、妻は既に感情違反者として火刑にされている。
優秀なクラリックであったプレストンは任務として多くの感情違反者を処刑してきたが、
同僚パートリッジの死、そして偶然感情抑制剤を注入せずに世界と向き合ったことにより、
己の心を揺り動かす存在を知り、自ら薬の使用を止めて社会への疑念を募らせていく。
しかしその感情違反により追われる身になった彼は、地下のレジスタンスと手を組み叛逆を決意。
リブリアを独裁する指導者ファーザーの元へと向かい、そこで真実を知ることとなる。

作中に登場するガン=カタ使いの中では事実上最強であり、無敵に近い戦闘力を誇る。
また戦闘時はパラグラフが直線になるほどに極度の平静状態に身を置くことが可能。
その一方でまだ感情が芽生えて間もないせいか咄嗟の嘘や機転が不得手であり、息子にすら上を行かれている。




【マスター】
安藤 潤也 @ 魔王 JUVENILE REMIX

【参加方法】
《令嬢》を壊滅させた夜、赤い月を見て召喚された。
そのため、まだ安藤の真意を知ってはいない。

【マスターとしての願い】
聖杯に懸ける願いは考えていない。
しかし対決のため、聖杯戦争には必ず勝ち抜かなければならないと考えている。

【能力・技能】
『1/10=1』
十分の一までの確率なら、なんでも当てることが出来る能力。
コイントス(二分の一)やじゃんけん(三分の一)なら確実に結果を当てられる。
競馬も出走する馬が十頭までなら単勝狙いが確実に当たるため、潤也はこれで殺し屋を雇う金を稼いでいた。
安藤(兄)の死を境に発動した能力であり、潤也はこれを「兄貴がツイてる(憑いてる)」と表現している。

【人物背景】
第二章の主人公で、安藤(第一章の主人公)の弟。高校2年生(休学中)。
兄とは対照的で楽観的な性格だが、曲がったことが嫌いな行動派でもあり、どんな場面でも周りに流されることはない。
兄の死の真相について疑問を持ち、調べていくうちに犬養との「対決」を決意する。
その行動は次第に狂気を帯びていき、兄の想いを継ぐことと周囲の人々を守るためなら手段を選ばない「魔王」とも呼べる行動を起こしていく。

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最終更新:2015年01月25日 07:10