聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚 ◆devil5UFgA
突然、激しい鈍痛が頭に広がった。
立ち眩みという言葉では生ぬるい。
視界が一瞬ブラックアウトし、すぐに元の東京の姿に戻る。
たたらを踏み、その姿勢を維持する。
ゆっくりと、空を眺めてみせる。
吸い込まれそうな真っ青な空。
ポツリポツリと孤独に漂う浮き雲。
空を狭める無数のビル群。
その中で顔を見せる、輝く紅い満月。
何も変わりはしない。
ふぅ、と息を吐く。
今日もまた、東京は紅い満月に見守られている。
少女は隣を歩く、友人と会話を続けた。
「ねえ、知ってる。紅い満月の話」
「なにそれ?」
無愛想に顔を歪めている少女と、ニコニコと笑みを絶やさない少女。
対照的な二人は、しかし、距離を縮めて歩いている。
あるいは肩が触れ合うほどの距離だ。
息も触れ合うような近さで、ニコニコとした少女が話を切り出した。
「月のない夜に出てくる紅い月が、夢を叶えてくれるんだってさ。
その満月を見た、どうしても叶えたい願い事を持ってる人はさ」
――――月に運ばれて、月が願いを叶えてくれるんだってさ。
それは誰かが言い出した、与太話。
電子の海を潜り抜け、0と1のノイズが生み出した途方も無いお伽話。
自らの体内に埋め込んだはずの、その『血』とも言える魔術回路を電子へと移したウィザード。
すなわち、電子の世界は魂の世界。
0と1の電子ノイズに隠された、魂の数字。
「新月なのに、なんで満月が出てくるのさ」
「叶うことのない夢が叶うんだから、月のない空に満月が出てもおかしくないでしょ?」
「なんだ、そりゃ」
呆れたように肩を落とす少女と、クスクスと笑う少女。
少女が言うには、見えるはずのない事象を観測した時。
叶うはずのない夢を願った時。
人は月へと運ばれるのだという。
「アホくさい、ウサギが火に飛び込んでやっと行ける場所に、あたし達は月を観るだけで行けるって?
それはちょっと人間様の傲慢なんじゃの?」
「でもさ、そんな勇気のあるウサギが行ける場所だからさ」
一方の少女は、にこりと笑ってみせる。
澄んだ笑顔だった。
ひょっとすると、この少女も『叶うことのない夢』を願っているのかもしれない。
「きっと月は楽園なんだよ。
きっと、月は全てが叶う場所なんだよ」
少女たちは、山手線を走る電車を背負いながら、街へと溶けこむように消えていく。
少女たちの背後の、さらに奥。
ガタゴト、と、激しい音を鳴らす電車の奥に、0と1のノイズが走った。
「あたしは別に月に行きたいとは思わないけどなぁ」
「えー、なんでぇ?」
「だって、ここにアンタがいるし。月には居ないんでしょ?」
そのノイズには、誰も気づくことはなかった。
紅い満月だけが、全てを嘲笑っていた。
楽園はすでに、血と欲を求めていた。
◆ ◆ ◆
魔人アーチャー。
同年代の少女と比べても幾分小柄な体躯の少女が、そこに居た。
凹凸の少ない肉体に、ぴっちりと張り付いた着流しは血に染まっていた。
血の滴る愛刀、圧切長谷部を手持ちの布で拭う。
背後には不可解とも言えるほどに入り組んだ機械が、まるで人体のように幾多もの絡み合っている。
これは回路だ。
ある種のエネルギーを流すことで、奇跡を発動させる神秘の機関だ。
ここはある巨大なビルのワンフロア。
その名を言えば、誰もが知っているようなビル。
そのビルのワンフロアの全てを扱った、巨大な術式。
魔人アーチャーは赤い斑点のついた白い着流しを翻し、その術式と向き合った。
魔人アーチャーに、魔術の知識も、電気工学の知識も薄い。
しかし、『物を改める』ということにおいて、少なくとも、この日本において魔人アーチャーの右に出るものはない。
床に転がる自らの召喚主を爪先で蹴っ飛ばした。
血の斑点が着流しだけではなく、清掃を怠って久しい床にも彩られる。
恐らく、このワンフロアを貸し切り、たった一人でこの術式を完成させたのだろう。
しかし、魔人アーチャーはそんな狂気に染まった執念の果てに目もくれず、術式だけを観る。
微動だにせず、じっくり一時間は観察を続けただろうか。
やがて、魔人アーチャーは脚を動かした。
そして、大きく取り付けられた窓から外を眺めた。
窓から広がる空間は、人で埋め尽くされた雑多な空間。
人、人、人。
この魔都を構成しているものは、間違いなく『人』だった。
鎌倉に創りあげるのとはまたわけが違う。
北条氏の領地の更に奥、関東などという片田舎にここまでの都を創りあげたものだと感心する。
「タヌキもようやるわ」
半ば呆れながら、発展を遂げた魔都を眺める。
なるほど、確かにここは『穢土』だ。
ドロドロと、じっくりと時間を漬け混み熟成した怨念と、恵まれた生活から生まれる生温い怨念に塗れている。
上等な魔都だ。
徳川家康がどういう意図で、ここに居を構えたのかは不明だ。
しかし、悪くない。
「わしは良いと思うんだよね、こういうのもさ。なんか人間って感じじゃん」
ケラケラと笑いながら、血の滴る床を歩きまわる。
この潤沢な怨念を借りれば、いい願望機が出来上がる。
今の聖杯は良くない、未熟だ。
単調すぎる。
魔人アーチャー――――第六天魔王・
織田信長が求めるものとは、少し違う。
滅びに向かう世界を救うには、こんなものではダメだ。
召喚者であり聖杯の起動者が未熟だったことも有り、願望機としても不十分なのだ。
「英霊の座なんてついてみるもんじゃの、なぁ、月よ」
南楼の月を弄ぶ輩も 月に先立つて有為の雲にかくれり。
月を眺めれば、そこには超級の聖遺物がある。
そこにあるものと、ここにあるものを繋げばいい。
恐らく、誰も知らない叛逆を、それでも月は観測している。
少々、月の力を借りなければいけない。
「永遠の満月の方程式……ってところかの」
『管理の怪物・ムーンセル』と『結合』し、聖杯戦争を開始する。
造られた偽りの魔都を再現し、その中に英霊の魂を溜め込み、そのデータをこの未熟な聖杯にダウンロードさせる。
その時、万能の願望器たる『聖杯』は完成するのだ。
必要だ、英霊の魂が。
無限の英霊を、永久への礎とする。
そのための戦争だ。
願いを満たすための、戦争を始めるのだ。
『人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり』
その瞬間、数多の並行次元の数多の人物が同じ夢を見た。
――――己が、蝶となる夢を見た。
◆ ◆ ◆
――――第玖百玖十玖號聖杯ノ創造、成功セシメリ。
万能の願望器、聖杯。
七騎の英霊を限定的な術で再現し、六騎の英霊を杯に捧げることで全ての
冬木市に眠る、アインツベルン・遠坂・マキリが誇る規格外の魔術礼装。
それは、しかし、ある人物によって盗まれた。
下手人がどうなったのかは、定かではない。
何者かに大聖杯の術式を託したのか。
無事、命を永らえて大聖杯の術式を起動せしめたのか。
『万能の観測機』足り得ない我々では、その未来を確定させることは出来ない。
――――我、英霊ノ召喚ニ成功セシメリ。
はっきりとしたことは一つ。
多くの地霊と怨念が跋扈し、同時に、科学が太陽を駆逐する眠らない魔都・東京。
この空間に大聖杯の術式が埋め込まれた。
そこから召喚された、一騎の英霊。
人類史に名を残した、まさしく『通常』の『例外』である英霊にふさわしい蛮行。
――――魔人ヲ名乗ル弓兵ノ英霊ノ召喚ニ成功セシメリ。
自ら『魔』を名乗るその英霊は、聖杯を、その手に染めた。
数多の欠陥を生み出し、数多の奇跡を植えつけられた聖杯。
月の観測機と並列直結された、規格外の願望機。
月のない空に浮かぶ、偽りの満月。
再現された数多の欲望渦巻く魔都・東京。
――――コレヨリ、聖杯戦争ヲ開催スル。
【クラス】
魔人アーチャー@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚
【真名】
織田信長
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運A 宝具E~EX
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
軍略:B
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、
逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
カリスマ:B-
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
魔王:A
生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられた怪物。
所有者は能力や姿が変貌してしまう。「無辜の怪物」とは似て非なるスキル。
魔人アーチャーの場合だと生前の本人が「魔王」を自称しているため任意で発動。
解除のコントロールが可能で、デメリット無しで恩恵だけを受ける事ができる。
この能力のお陰で、ロリからボインになったり、体形も自由自在。
天下布武・革新:A
古きに新しきを布く概念の変革。
相手が「神性」スキルを持つ者、「神秘」としてのランクが高い者、体制の守護者たる英霊などであればあるほど自分に有利な補正が与えられる。
これによって半神の英霊や神代の英傑、彼らが持つ宝具に対して絶対的な優位性を誇る。
反面、神秘の薄い近代の英霊を相手にした場合、何の効果も発揮しない。それどころか逆に自分の各種スキル、宝具の効果が低下する。
【宝具】
『三千世界(さんだんうち)』
ランク:E~EX 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:3000人
長篠の戦いで信長が使ったとされる戦術「三段撃ち」。
自分の周囲に無数の火縄銃を配置し、両手に持った銃も合わせて全方位に向けた一斉射撃を行う。
本人は「三千丁の火縄銃によるマミさん的な『火縄=カタ』アクション」と評している。
武田軍騎馬隊を葬った逸話から「騎乗」の適性を持ったサーヴァントに対しては攻撃力が倍増する。
「神性」や「神秘」が低い相手には単なる火縄銃でしかないが、それでも三千丁の銃火器の止まる事のない一斉射は脅威である。
『第六天魔王波旬(だいろくてんまおうはじゅん)』
ランク:E~EX 種別:対神宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
神仏を恐れず敵対する宗教勢力を悉く焼滅させたことで信長につけられた異名。
そして、生前に行った「比叡山焼き討ち」に代表される苛烈な所業を合わせた物。
「神性」や「神秘」を持つ者に対して絶対的な力を振るう存在へと変生する固有結界。
後世で民衆が彼女に対して抱き積み重ねた畏敬の念と恐怖により大焦熱地獄が具現化する。
神性を持たず神秘も薄い英霊は熱さを感じるだけで済むが、高い神性を持つサーヴァントは、この固有結界の中では戦うどころか存在を維持することすら難しい。
なお、発動中の彼女はビジュアル的に裸になるらしい。
【weapon】
主武装は火縄銃と日本刀。
スキル「天下布武・革新」の効力で、「神秘」や「神性」が高い相手ほど宝具の効果や能力値が強化される。
さらに同様の能力がある宝具も所持しているため、相乗効果により「神性」「神秘」の高い英霊に対しては絶対的といえるほどに相性が良い。
反面、「神性」を持たない相手や「神秘」が薄い近代の英霊に対しては性能が低下し、宝具の力も有効に発揮されなくなってしまう。
「相性ゲーとか得意なんだよネ、わし!!」とは本人の弁。
【人物背景】
見た目は若々しいが、年季の入った尊大な口調で話す。所謂「ロリババア」。口癖は「是非もなし」。
場面によって言い方が変わり、「是非もなしかな?」「是非もないかな?」「是非もないんだよ!?」と使い分ける。
史実通り新しい物・珍しい物好きで「旧弊とか仕来りとかバカなの?死ぬの?」とか言っちゃうレベルで型破りな英霊。
いつも着ている軍服は大日本帝国陸軍の物ではなく、ナチスドイツの制服を元にしたもので、かっこ良かったのでマスターに似た物を作らせたらしい。
曰く「ジャーマンのセンスハンパないな!」
また自己顕示欲が強く、「真の覇王」を名乗る。基本的に賑やかな事を好むが、昔好きだった敦盛は、踊ると死亡フラグが立つので自重しており、酒の席でも披露する事はない。
幼名は吉法師。父・織田信秀は当初、彼女の弟の信勝に家督を継がせるつもりだったが、時は乱世・戦国時代。
信勝程度では、先の世まで織田家を存続させていく事などできないと判断し、女の子なのに幼い頃から妙に大物臭を漂わせていた彼女を当主に据えた。
家督相続後は男性として振る舞い続け、実は女性であることを隠すため情報規制を敷いていた。
だが、それらの事情が『尾張の大うつけ』などと呼ばれる信長の若かりし頃の奇行として後の世に伝えられることになる。
また信長にまつわる数々の面白エピソードは、性別を隠すために家臣が敢えて広めた情報工作によって生まれた物であるとも言われる。
目的を遂げるためには手段を選ばず、逆らう者には苛烈な弾圧と冷酷な裁定を下す暴君。
だが滅びに向かおうとしている日本の未来を思って行動しており、救国の英霊であるのは間違いない。
最終更新:2015年02月05日 01:57