カイン&魔人アーチャー ◆devil5UFgA
「いい具合に、澱んでいるじゃぁないかの」
魔人アーチャー、
織田信長は広大な東京を眺めながら呟く。
目の前の東京は、偽りであるはずの東京は、確かに息をしていた。
邪が、魔が、都市の中に導かれている。
造物ではあり得ない、ねじ曲がったものが溢れている。
聖杯が息の音を上げつつある。
揃いつつある。
複数の英霊が、複数の奇跡の願い手が。
「準備は整いつつある」
声と同時に、カラン、コロン、と音が響いた。
下駄の爪先が地面を叩く音と、遅れて下駄の踵が地面へと突く音だ。
どてらを着込んだ銀髪の男。
世間から、世界から切り離されたような、気配の薄い男。
やはり薄い笑みを浮かべながら、魔人アーチャーへと男は近づいてくる。
「いやはや、なんともね。マスターも落ち着かないんじゃないのかの?」
「慣れているさ。お前が考えている以上に、俺は長い時を生かされている」
その男の名は、カイン。
原初の罪を背負った男、大地を血で穢した男。
「永遠の魂の牢獄、無意味なことだ」
「罪の始まり。まあ、人間だもの、是非もないねぇ」
「そういうことだ」
血の罪に与えられた罰は永遠の牢獄。
永遠の生命を与えられた、劣化しない、腐らない魂。
それこそが魂の永遠の牢獄。
「で、どうするかの」
「お前は決まっているだろう?」
「聖杯を利用させてもらう。アレは良い、良い兵器になる。
日ノ本を守るに過ぎたるほどの」
「唯一神を殺すのはメシアだ、となると、聖杯より生まれし物ならば唯一神を殺せる」
カインの目的はただひとつだ。
己を呪い、罰を与えた唯一神の打倒。
カインである限り、永遠の牢獄の中で呪い続けた夢。
――――それは『昭和の大日本帝国の一員である、たった今現在』のカインでも例外ではない。
「危機がある、日ノ本は狙われている」
「いつものことだ。お前が英霊ですらない、生存時の瞬間ですら唯一神は日本を狙っていた」
神々の代理闘争、そんな戦争は確かに存在する。
己のために、人を使って、人が戦争する。
そんな戦争だ。
『魔人アーチャーを召喚した軍人』が所属していた大日本帝国が参戦した、第二次世界大戦がそうであるように。
『魔人アーチャーが聖杯を改造している瞬間に現れたカインという日本軍人』の向かう第二次世界大戦がそうであるように。
神々の代理戦争は、人と神話の歴史であった。
「日の本が危険に晒されている、天魔の類によって。
儂にはそんな理由があれば十分じゃ」
それを、目の前のマスターから聞かされた。
ならば、立たざるを得なかった。
どのような逸話で語り聞かれていようとも、織田信長は日本の英傑だからだ。
そして、神代の存在であり、神の御子とも繋がりのあるカインとの共同によって聖杯を完成させた。
日ノ本の国を天魔より救うために。
「正しくはないな。悪魔は何もしない、ただ、人の心に己の思想を染み渡らせていく」
「第三帝国もかい?」
「アレは分かりやすいほどに、オーディンの意思がある。
もちろん、総統として動く者の意思も、理念も、野心も存在する。
しかし、その全てを十全に理解し、本人の意思を介在して操るのが悪魔だ」
死と詩を司る神、北欧の主神オーディンからの神託を授かったアドルフ・ヒットラー。
彼の者は神の一因である御子を殺しめた聖槍・ロンギヌスの槍を手にした。
その瞬間、彼の者が手にした槍はグングニル、勝利を導く槍となる。
彼の者は神の一因である御子そのものである聖杯を手にした。
その瞬間、聖杯は神の御子ではなくなった。
『崇めていたものを別のものへと変える』
貶めるとは、そういうことだ。
崇められ、ある種の幻想であることを前提とした崇高を、現実的な、頭のおかしな行動へと変える。
唯一無二の神を、オカルティズムへと貶めた。
頭のおかしな執着のものへと貶めるのだ。
「アレが行ったことには全ての意味がある。
『知恵』と『知識』、そして、『闘争』という点においては上回るものはない。
第三帝国の専横は、そのまま世界を鉤十字の旗の下に置いても良し。
例え負けても、エインヘリヤルの増員にも繋がる」
「第三帝国だけかい?」
「オリュンポス神族、天津神も、だ。
日・独・伊、あらゆる神々が大戦に『乗じて』、ヘブライへと仕掛けた。信仰を得るためにな。
お前が東京の聖杯戦争で上等な信仰補正を得られるように、信仰は存在すら不定形である神魔にはお前たち以上の意味を持つ」
「それは、それは」
信長は、パンパン、と手を叩く。
内部に異教神の住処を宿し、大いに貶められたギリシアの神々。
ティタン神族まで出張ってくればややこしくなるが、結局はオリュンポスの神々はヘブライに制止させられた。
本来、あの半島にはオリュンポスだけでなく、様々な出自の神がある。
ベルの神族もまた、地中海の神。
多重に絡み合った、複数の信仰の力によって、イタリアは早期に脱落した。
天津神は粘っている。
日本という国は、ある意味で複雑だ。
全てを塗り替えた、塗り替えたが、しかし、問題がある。
天津神の前、あるいは同時。
高天原に登らなかった、登らせなかった神々。
国を譲らせた神が、抑えつけられた神々が居る。
乗じるというのならば、今がそれだ。
いずれ、内部から壊れる。
「第三帝国はヘブライ神族に唆されたスラブ神族によって止められるだろうな。
第三帝国の本拠によって最も脅威であるのはヘブライじゃない、スラヴだからだ。
踊らされてることを理解しても、踊らざるをえない。
……大日本帝国もまた、いずれ終わる。
相手はあの唯一神だ」
「えらく買うじゃぁないか、伴天連の神を」
「あの傲慢なる唯一神は宇宙の大いなる意思のアバターだからだ」
簡素に応えた。
その中に隠し切れない憎しみを秘めた男だった。
直哉という罪人はこの世の全てを知り、その全てを憎む男だった。
「唯一神は殺すことすら難しい。難しいが、誰もが殺そうと思うぐらいには、不死身ではない」
「ほうほう」
魔人アーチャーは面白そうに相槌を撃つ。
カインは憎悪を隠そうともしない。
天を恨む、大地を穢した男の怨みは深い。
この魔都に相応しい物だ。
「だが、あの天に煌く、傲慢なる聖四文字の唯一神は何度でも生まれてくる。
宇宙の大いなる意思が人々の集合無意識を読み取った瞬間、奴は何度でも君臨する。
人は太陽なくして生きていけない弱き生き物だからだ。
そして、古今に至るまで、太陽とは唯一神であるからだ。
唯一神が祖神達を悪魔に貶めて、勝ち取ったからだ」
歯を軋ませながら、怒りをむき出しにして直哉は唯一神への憎しみを口にする。
魂を永遠の牢獄へと閉じ込めた、己の意思の死を迎えることが出来ない罰。
罪と罰の始まりである男。
直哉の魂の真名は、カイン。
弟・アベルを殺し、この大地に人の血を染み込ませた始まりの罪を背負った男。
唯一神の意思を裏切った、あまりにも多すぎる人間の一人。
唯一神の意思を憎む、あまりにも多すぎる罪人の一人。
「つまり、マスターの思惑としては……『新たな太陽を作る』ということかの」
「太陽は俺の弟、アベルだ」
「是非もねえなぁ、おい! いや、誤用だけど気にすんなよ!」
カカカ、と魔人アーチャーは笑った。
唯一神を殺しても宇宙の大いなる意志が人間の意志を読み取り、蘇らせる。
ならば、唯一神の代わりとなる太陽を用意する。
論理的といえば論理的だ。
しかし、唯一神を殺すというただ一点に置いて言えば、もう一つの答えがある。
「人を滅ぼすかの?」
「ことはそう単純ではないだろうが……しかし、単純で済むかもしれないな」
「そいつぁ見逃せんっつうの、わしも英雄よ」
笑みに鋭さが増す、この魔人は笑ったまま人を斬り捨てる女傑だ。
己の中の何かに従い、生き抜いてきた魔人だ。
「お前は神を殺せば良い、天下布武の旗を掲げる第六天より来たりし魔王。
今までそうしてきたように、な」
「とりあえず聖杯手に入れようぜ、ってことかの!」
先ほどまで向けていた殺気を消し、カラカラと笑ってみせた。
手にかけた刀を取り外す。
刀とともに殺意は納めた。
「俺の弟を万魔の王、ベルの王とする。唯一神をしてその存在自体を『敵対者』と貶めた『ベル』へと、な」
「いいんでね、そういうのもさ!
悪魔が神様なら、わしもワンチャンスあるしの」
あくまで、聖杯を前にしての同盟だと口にした。
カインは笑った。
魔人アーチャーも笑った。
神を前にして抗うために、彼らは今を笑った。
【マスターとしての願い】
唯一神の殺害、及び、弟であるア・ベルのベルの王としての覚醒。
【weapon】
【能力・技能】
魂が神代の時代より永劫生き続けているカインは、正しく神代の天才である。
魔術と関連されるものに高い適正と知識を持つ。
【人物背景】
聖書に記されている『カインとアベル』の逸話に記されたカインその人。
神から肉を要求され、大地を耕すことが仕事であったカインは肉を所持しておらず、弟を殺して神に捧げた。
殺人という罪を犯したカインは、神によって永遠という罪を与えられる。
以来、真の意味で死ぬこともなく魂が摩耗することもなく生き続けている。
本編開始の遥か以前、第二次世界大戦中より参戦。
【方針】
聖杯を手に入れる。
最終更新:2015年10月17日 18:39