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くしゃりと泣いた帽子なしの吉田を描こうか。吉田を可愛がる青森の男臭さを描こうか。微笑ましいくらいに水着でいるかと戯れる、2人の女性を描こうか。

…吉田は本気で青森のことを怖がっていたし、青森は、そんな程度のことで怖がれる吉田のことを、そんな風にして育ってきた子供のことを、多分、とても可愛く思っていたのだろう。こんなことで泣けるのか。こんなことで怖がれるんだな。それがなんとも平和で可愛らしく、どんな格好をしていても下着よりさえ鋼の銃口が似合う男は、からかってしまったのだろうと思う。

切り取るのならば、どこだろう。

自分たちだけの空間、秘密基地。今だけはほかの誰もここを独占できない、自分たちだけの時間、秘密基地。そんなことを思いながらに理解されずに頭をかいた、青森の男くさい大人の郷愁を描くべきだろうか。

くつくつと面白そうに銃をぶっ放しながら、女の子たちのリアクションを見て楽しそうに自分流のくつろぎ方をしている青森。

いつでも戦場のことを忘れていない、青森。

…………

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緊張しなくてもいい時間がある。自分たちのほかに誰もやってこない場所がある。目に優しい女子供の水着姿があって、手には使える銃があり、そして俺は、リゾート中だ。

青森恭兵は、笑いながら海岸を見て、そうして口を開いてここがお前達の秘密基地ってやつかと、赤毛の少女に上機嫌そうに話を振った。もっとも、彼が笑っていることに気がつけたのはその時その場には誰もいなかったし、彼の表情筋も、笑っていることをまったく伝えはしなかった。

子供たちの引率のつもりで来たから、持参の折りたたみチェアを広げると、そこに座ってのびをする。見ている先では、浅田という、これまた年端もいかないような肌の浅黒い、青い瞳のまんまるで性格が真面目そうな少女が、同じ年の頃の少女に近寄り逃げられていた。

GUUUUUN!

無造作なトリガー。手指の延長みたいな気軽さで、銃弾が小石を跳ね滑らせる。ぽてっ。帽子をかぶった少女がこけた。水着の上からシャツを着ていて、なんとも子供らしい内気さ。まだまだ女じゃない。

きゃ、という可愛らしい声でしりもちをついた赤毛の少女の手を取りながら、青森は笑った。唇よりは喉から出るそのくつくつと押し殺したような笑い方は皮肉そうで、何に対して皮肉そうかといえば、浅田が帽子の少女と仲良くしたがっているのを婉曲なやり方でしか手助け出来ない、自分に染み付いたねじれた態度にか、それとも単に、その親切にも気付かない子供達の無垢な可愛らしさを見て自然と唇に浮かび上がった、大人になってしまった自分へか。秘密基地。自分たちだけの空間、自分たちだけの時間。ほかの、誰にもその瞬間だけは邪魔できないものがあるという小さな喜びを抱けた時期への郷愁。そんなことは、青森自身は塵とも思わなかった。思ったのかもしれないのは、今の青森じゃない。記憶は時を超える。ただ、それだけのこと。時を超える以上のことは、出来はしない。

赤毛の少女がぱらぱら小ぶりなお尻から砂を払う震動が、引き起こすためにつないだ手から伝わってくる。ま、子供でも……と、女性は女性だからな、というようなことを口にすると、少女はこれでも20は超えてますよ、と、ちょっと信じられないことを言った。うーん、この尻がか。へえ。その尻で。と、驚いてみせると、何処見てるんですかと顔まで真っ赤にして怒り出す。いやそんなことを言われても目の前で砂を払ってるしなあ。青森、笑いながら銃を抜き、亀みたいに丸まったままの吉田を見て、あらぬ方へとぶっ放した。

GUUUUUN!

かつん。はじけた小石がからかうみたいに吉田の頭をつつく。笑いながら波打ち際を切って海へ入るのを、怒りながら赤毛の少女が追いかけてきた。んや。20を超えてるってのなら、少女じゃないか。扇りんく。文句を言いながらも自分について泳いでくる小柄な女性。吉田のそばで自分の行動に右往左往している浅田が真面目に怒っているのを見て思い出す。熊本武士、うちの大将に良く似てる。

独り言をしながら泳いでいると、さっきまで怒っていたのをすっかり忘れてりんくが楽しそうに話し掛けてきた。青森さんは、泳ぐのは得意なんですか?

思い出すまでもなく体に染み付いて忘れがたい、これまで同じようにざぶざぶとやってきた局面の数々。何の気もなしにそれらが口をついて言葉に代わる。まあまあだな。泥沼や川の中を歩く方が得意だが。自分の日常がどちらか比べるまでもない。おっ。海岸を見ればむくれた顔でこっちに向かってくる、いつの間にやら帽子が飛んで子供らしい顔立ちがすっかりあらわになった吉田。さーてあのお嬢ちゃん、あの足取りや態度じゃそうは泳げまい。どれ、と気を許して隣に浮かぶ女性に賭けをもちかけた。溺れるほうに10にゃんにゃん。お前さんは?

青森さんがそういうことを言うなら、私は浅田さんが助けるに100にゃんにゃんですよ。自信満々にまだ会って間もない親しくもない仲間のことを信じるりんくが、結構、可愛かった。ありていにいうなら吉田が溺れるの前提で賭けを受けているあたりが、ちょっとずれてて、なおさらいい。さぱさぱと案の定溺れた吉田の後ろに回って彼女の体をすくい上げた浅田。ま、こんなもんだろう。今度おごる。ディナーでも。

それは多分戦火の戯れ。銃弾の下でかわす冗句、明日の命をも知れない傭兵が、まずい安物の、そんなものですら暖かい分だけ御馳走な、命をつなぎ、銃を握る指先に力を集めるための不可欠大事な食事を賭ける、そのことでああ今日も笑って負けておごってやるよと言うためだけの、勝っても負けてもいい他愛のないギャンブル。

カップ麺がディナーなことを知るなりりんくは美味しい手延べうどんもって行きますからと親切なことを言い出した。お、カップ麺が育ったな。願ってもない幸運、たなからぼたもち。戦場では気軽にそういうもんは受け取って、じゃんじゃんありがたく端から忘れて消費する。幸運は、命が続いている限り、また来るものだ。

青森の食生活を心配するあまりになんだか賭けの結果を自分でおかしくしているりんくに、彼は純粋に賭けの代価をつりあげてやる。賭けの代償は公平に。なんなら実用、弾でもいいが。

なんだか赤くなったり言いよどんだり、また赤くなったり、この赤毛の女性はとてもせわしない。ぎゅーしてください。ふむ。牛丼か?

そんなことを答えるかたわら、自分の振る舞いに対して本気で泣いてる可愛い吉田と、それを慰めるためになんでか本気になってる浅田を見て、青森はとても嬉しそうに笑った。他人のために本気になれる奴はいい。他人のために怒れる奴がいるのは幸せだ。そんな奴のための銃となり手榴弾となり地雷となり、まあ、要するに力になるのが、自分みたいな傭兵のしあわせだ。

牛丼か? ……違います。

がっくりするりんく。青森さん、わざとでしょう。さらりと理由を答えてやる。好かれる理由が見当たらなくてね。お前さんが俺の敵でないと、なぜ言える?

これも戯れ。ざれながら、浅田とこちらを交互に見て、自分で見たものと、浅田の言ってること、どっちを信じたらいいか迷ってる吉田に、ぎらりきらりと瞳を向ける。いつも通りの目つき。生き延びるために相手を喰い殺すのに容赦なく、また、仕事を遂行するのに邪魔する相手を轢き殺すのに容赦ない、いつも通りの傭兵の目つき。

「うー…それは難しい問題ですけど。青森さんが浅田さんと吉田さんの為にしていることは、優しいことだと思うので。」

「そういう青森さんが、私は好きでここに連れてきていただきました。そのために、努力もしました。敵ではないことは誓っていえます」

真面目に答えるりんく。だから自分も真面目に答えよう。子供に優しいのは当然だ。そうでない奴は死んでもいい。笑う。ま、スパイならもう少しいい尻をしてるか。尻、尻、尻。やわらかいその内側から全体を引き締めて、体全体の動きをしめる、重要な場所だ。まとうそれぞれの特有の気配ってものは、どんなに隠しても身のこなしや体つきからわかるものだ。鍛えられてる奴、そうでない奴、何を目的に鍛えたか、どう、鍛えたか。

お尻は関係ありませんーー!!と、真っ赤になってまたもずれたつっこみを返すりんくの顔が、不意に恥じらいで今度は赤くなった。吉田も悲鳴をあげた。浅田もびくっと驚いたように辺りを見回す。真っ赤になって青森の頬をつねるりんく。素直に青森はつねられた。どうしたんだいおじょうちゃん、そんな平気な風情で、笑ってみてる。

イルカだ。

あわてて痛かったですかと詫びるりんくがおかしくて、まあ、と答えてやりながら青森は笑った。平謝りして、落ちこんで、今度はもうイルカに乗って、みんなに一緒に乗りませんかと誘うりんく。いやいや、見ているほうが。本心だった。ころころと変わるりんくの表情を見ているのは、純粋に楽しかった。ぐいっとまた腕をつかまれる。折りたたみチェアからすっころんだ時もそう。うーん、どうも弱いな。押しには。

吉田も嬉しそうにイルカを撫でて、抱きしめてる。泣いた子供がもう笑った。浅田も一緒になって、嬉しそうに撫でている。

青森、やられてばかりでいられないのも性分か、男の身体には色々あるんだ、と、フェイントをかけてからりんくをやりこめる。赤くなってイルカを降りる彼女を見ながら舌を出す。

りんく、照れながら怒り心頭で、青森さんのばかー!

イルカ。きゅーと鳴いた。

浅田はくすくす笑ってる。

そんな間にも、いつの間にかイルカはするする吉田を引っ張って流れていって、さぱさぱ溺れる吉田を助けに浅田も溺れる。やれやれ。青森は2人分の体重を効率よく引っ張るために、水着の首筋をつかんで引っ張りながら助け出す。みよんとのびた水着の生地と肌色の隙間から、うん、なかなかの絶景。おっ、子供だがいい眺めじゃないか。

ぽかすかわめきながら殴ってくる吉田に対し、青森はとても嬉しそう。そうそう、子供はとりあえず元気でなくちゃな。殴り合いもできないようじゃな。人間関係なんか、出来はしない。優しく笑うと、殴るなら急所を狙え、ここだと、吉田に教え、ひょいとかわした。いいぞ。戦場はどこででもある。

生きて、育ってほしい。親が子に望むこと、たった一つ。それだけのこと。まるきり間違った、何もかも間違った、けれどもとても父親的な態度と愛情で、彼は吉田に告げた。今やるなとか、別のところでだとか。戦いはそれができないから戦いだ。きゃあきゃあと、父親心に関係ない、女の子らしい理屈でそれを止めようとして、自分の頭を固定してくる浅田と、吉田をサポートするりんくを見ながら青森は笑った。そうだ、いいぞ。そして何食わぬ顔でしゃがむと、水にもぐってあっさりパンチをかわす。ひょろりと拘束をぬけて、何事もなく海から上がり、水着を脱いだ。さあ、リゾートもひとまず終わりだ。

素っ裸のまま肩を叩かれ、青森はそのまま振り返る。

「って、ぬぐなー!」

りんくのつっこみ。浅田は吉田を目隠し。

小笠原の一日が、こうして今日もまた何事もなく平和に過ぎていった。

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~小笠原の一日:扇りんく様ご依頼SS番外編:傭兵の幸せな休日~

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-The undersigned:Joker as a Clown:城 華一郎
最終更新:2007年06月12日 05:28