冷たい風の、喉元に一筋そよぐような感覚があった。
夜更けのことである。
「動くな」
低く、くぐもった声は、肌に感じているものを裏付ける、冷ややかな圧力があった。
「どなたですか」
“彼女”は穏やかに、だが、毅然と言葉を返す。
橙の瞳をした、窓明かりに肌の濃い色を晒す、女であった。胸に髪がかかっている。
身じろぎをすれば、即座に圧力は物理的な刃となって降りかかるだろう。
だから、“彼女”は目の前の黒い影を見つめるだけにした。
金色の瞳をした、覆面の、黒尽くめの男。
それ以上のことは解らない。
男は覆面の下で再び口を開いた。
「レグ=ネヴァ」
どうやらそれが男の名前であるらしかった。
“彼女”は一度、唇でその名前の響きをなぞってから、彼の頬へと手を伸ばそうとした。
喉元に、刃が食い込む。
肌一枚で、かろうじてそれは止まっていた。
「…………」
何を求めるのか。そう、目で問い掛けると、男は覆面の口元を開け、生の声で語り出す。
「答えを」
瞳はまるで、天に浮かぶ満月のようで。
「俺達は、何のために生かされている?」
問い掛けは鋭い慟哭の如く、耳を刺した。
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時は遡る。
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『君の答え』
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最終更新:2008年04月02日 10:01