「平穏いまだ来ず、かあ…」

紙面に踊る、『宰相、迷宮へ核攻撃!?』の大見出しを、最後に目で見て確かめると、ぱさり、新聞を器用に四つに折りたたみながら、コヒメは溜め息のように呟いた。

季節は十月を迎え、なお、夏は終わらない。
元々西国であるレンジャー連邦では、年中夏のようなものではあったが、どこもかしこも夏だと聞くと、東国にでもまたリゾートに行きたくなる。

「あの旅行はよかったなあ…」

三月の末頃に行った先は、温泉と清流のせせらぎもある、緑豊かな国だった。同じ共和国でも、地方が違えばこうも違うのかと、見るまでは想像だにしなかった大樹の数々に、その年輪を思ったものだ。四季のあるあの国では、きっと今頃紅葉が見ものだろう。是非、また行きたいものだ。

そう、ぼんやりと夢想していたところ、やってきたのは丁度その三月の旅行に同行したアスミだった。髪は長く、控えめでおっとりとした造りの顔を、きょとんとさせながら聞かれる。

「サボりですか、コヒメさん?」

杖を片手に地べたに直接座り込んでいる、紫の三角帽子にマントをまとった彼女は、さぞ奇異に映った事だろう。

彼女らは、交代制で王宮の、特に藩王の護衛を持って任じるものたちだった。王の亡くなれば、国は滅びる。平時から、怪しいものがいないように見張りをするのは、軍の中でも選りすぐりのものにしか勤められない、重要な仕事。

とは言っても、本土に敵の侵攻を許した事がない連邦において、今では半ばただの慣習化してしまっているけどなあ…とコヒメは思いながらも、プライベートでも付き合いのある友達へと冗談めかしながらも返事をした。

「有意義な時間の過ごし方と言ってほしいなあ」

こし、こし。足で自分の真下の地面を払って見せる。

ほら、と示されて、あ、とアスミは口を押さえた。

それは、注意して観察しても、言われなければわからないようなものだった。王宮を取り巻く外壁の、そのまた土台となっているブロックの上には、当然砂が覆っている。その、砂の下、ブロックに、刻み込まれている紋様があったのだ。

しゃがみこんで、手で紋様のあとをたどるように、砂を払ってみると、はたしてその紋様は延々と続いているらしかった。

「全然気がつかなかった……」
「あはは、うん、無理もないよ。八月にみんなで彫ってから、気配が隠れるように術をかけてあるから」

ぱん!

と、柏手を一つ、打たれ、はっとする。

気がつけば、もう足元にあったはずの紋様がさっぱり見えない。

ぱら、ぱら、ぱら、砂を上から改めて降りかけ、物理的にも紋様を隠したコヒメは、コンと杖でその上を軽く打つと、それで再び壁際に腰掛けて新聞を読み始めるのであった。

「これ、どういう効果があるの?」
「んー。初歩的なものでね、線を踏み越えるものに、藩王への害意があるかどうか、量るものなんだ」
「じゃあ、例えば悪人さんが踏み越えたら…?」
「警報が鳴るの。もちろん、普通の人には聞こえないけど。それで王宮内にも厳戒態勢が敷かれる」
「へえー……」

術式を扱えない、ただのメカニックに過ぎないアスミにすれば、何がどうなっているのかさっぱりの話だ。

すごいなあと素直に思う。

「一応人が張り付いてないと効果ないんだ。だから、これでも神経使ってるんだぞ」
「えと…ごめんなさい」

きっ、とにらまれるようにして見られ、アスミは頭を下げる。
すると、コヒメはにっこり笑って頷いた。

「いいよう。そのかわり、実際に見て回る人がいないといけないんだもの」

私にはそのおっきなスパナ、到底扱えないし、とコヒメは彼女の背負っているものを指さして言う。
それは大人が一抱えもして、それでようやく持っていられそうな、馬鹿でかいスパナであった。分厚く、太く、大きく、それはまさに鉄塊であるとでも、そう形容したくなるような、破壊的な威容を誇る、スパナであった。

昔からの彼女のトレードマークでもあり、アスミはこれを、まるで自分の手足のように振り回す。
腕力や、筋力ではない。無論、それを支えるだけの体幹の力がなければこうして普段から持ち歩くことは出来ないのだが、アスミはこれを扱うのは、鉄の呼吸を知ることだと同じだと思っていた。

整備士は、鋼に心を通わせる。
それはパイロットがするのとはまったく違うやり方で、鋼の動きからではない、佇まいから、その呼吸を読み取り、ゆがみを感じ取って正す、そういうものだった。

呼吸を知れば、あとは自分の力をそこに加えてやるだけでいい。力尽くで振り回す必要など、どこにもない。

機械というものは、すべて画一的のようでいて、部品一つとってみてもどれも厳密に同じ形をしているわけではない。設計値にあわせればそれでいいというようなものではなく、またそうやって強引に直した部品は必ずあとで軋みを上げる。なるべくそっと、全体のバランスが取り戻せるように、互いの相性を見てやりながら直すのが、いいメカニックになるコツだと、そう彼女は師に教わってきた。

このスパナはその師から譲り受けたもので、機体の四肢をばらすような、大掛かりな整備の時にしか使えないような代物ではあったが、巨大な鋼の重心や、その扱い方を肌身で直接感じるために、アスミはこれをいつも身に着けていた。その奇行が偶然軍上層部の目に止まり、怪力の子がいるらしいと、特別にこの護衛任務に抜擢されたのだ。

「ほんとに曲者が忍び込もうとしてたら、物理的に取り押さえないといけないし。だから、役割分担だねっ」

そう、小さな顔いっぱいににこりと笑う、コヒメのその笑顔の屈託のなさに照れて、アスミは「そんな…」と手を振り否定した。

「私、にぶいからきっと一人じゃ気付かないよ」
「そんなことないよぅ。アスミちゃんだって立派な舞踏子だもの。ホープくんたちと同じくらい、鋭い感覚持ってるじゃない」
「でも、まだまだ新米だし…」

ばん!
と、背中を叩かれた。

「大丈夫!
舞踏子って、藩王さまが認めた人しか、なれないんだよ?
もっと自分を信じていいって、アスミちゃんは」
「う、ん……」

引っ込み思案気味な自分を変えようと、一念発起して舞踏子になるために訓練を受け、砂漠のバラという、貴重な鉱石を何の手がかりもなしに探し出すという試練をくぐりぬけた。その、最後の席で、藩王である蝶子自らに祝福をされ、名前を呼ばれた時の感動を、彼女は今も忘れていない。

仕事は相変わらずメカニックだったが、一つ、自分でも成長を実感出来るほど、あの訓練の日々と試練は本業にも役に立った。

『おめでとう、水ノ菜明日美(ミズノナ=アスミ)さん』

そう、名を呼んでくれた蝶子の笑顔を思い出す。

うん、とアスミは頷いた。

「そうだね。そうでないと、私を信じてくれた人達に失礼だものね」
「そうそう!
人間苦手なことなんていくらもあるもん、出来ることだけ見てればいいんだよ。それで、出来ることだけ、誇ればいいんだ。それさえ出来れば、胸張って生きていられるもん」

だいたい、苦手のない万能なキャラなんてどこにもいないしねー、と言いかけて、ふっとコヒメは口をつぐむ。

「いや、まあー…中にはほら、ドランジさんたちとか、女王陛下とか、見よう見まねならオールマイティな人たちもいるけどさ。あれは例外例外」
「うん、わかってる」

くすり、自分を元気付けようとして、慌てる友人を見て、笑うアスミ。

その、友の名を思う。

歌川小姫(ウタカワ=コヒメ)、やはり、水に関する名前が付けられている。

この国には、多様な言語で名づけられた国民たちがいるが、不思議と意味をたどれば水にまつわる名前が多い。それはきっと、この海と砂漠に囲まれた土地で、子らを祝福するための親なりの愛情だったのだろう。

愛は水、か……

「ん、何か言った?」
「ううん、なんでもなーい」

名は、意味だ。
意味は祈りだ。
これからも、授けられた自分の名に、恥じないように、生きていこう。
そう思いながらアスミは、もう随分と長いこと足を止めてしまっていたことに気付き、慌てて見回りに戻る。

「私が見張ってるから、一緒にいて大丈夫なのにー…」

その背を見送りながらコヒメは笑った。

そして、それにしても…と、改めて紙面に目を落としながら、呟く。

「迷宮だの、世界のリセットだの…試練はまだまだネバーエンディングだ」

/*/

濃密な、水の香がする。
どこかより立ち上るといった類のものではなく、土が、空気が、木々が、その身に孕んだ水を互いに交換しあう、その濃密な命のやりとりに、水の香を感じる。

苔生した地面に荒く叩き伏せられながら、レグ=ネヴァはそう思った。

砂利など除けられていない。だから、頬の皮膚がずたずたに抉れ、口の中が衝撃で切れた。

もう、慣れっこの味だ。

「立ちなさい…立て!」

言われるまでもない。

無防備に寝転がっている腹を、靴の爪先で蹴り飛ばそうとしてくる相手の足から庇い、交差した両腕に受けたその衝撃を利用して彼は立ち上がった。

きし、きし、金属的な音を立てて唸る右腕を、ぶるんと振って、構え直す。

「ほう…」

感心したように男はその構えを見やると言った。

「十人並みにはなった」

言葉に構わず、低く潜りこむようにして踏み込む。
相手の前方、直前になって体を一度右へ振り、その反動で左に回りこみながら、腰の後ろに隠したナイフを、相手から死角になるよう抜き払っている。

がっ。

「!」

前に出ている、左肩を掴まれた。

「そうだ。ここが隠れていないと、首を掴まれる」

とん、と軽く押されただけなのに、後ろへ吹っ飛ぶ。
自分を傷つけないよう、咄嗟にナイフを離しかけて、瞬時に思考を切り替え、大きく広げた両足で踏みとどまる。

「そうだ。武器は手放すな。相手に自分の持つ力を利用されることほど愚かなことはない」

男は依然、大地よりせり上がった巨木の根の上で、佇んでいる。

こちらへ向かってくる様子のないのへ、咄嗟に閃き、レグ=ネヴァはナイフを持つ手を変え、足元を切り払うように、薙いで突っ込む。

男の足は既にない。

「がっ!!」

視界が、闇にふさがった。
足裏で蹴りつけられた。いや、踏まれたのか、いずれにしても、そこから不自然にのしかかる人一人分の全体重の衝撃が、頚椎を圧縮し、ひどく軋ませる。

「そうだ。地の利をまずは取り戻せ。私が上で、お前が下だ。これは圧倒的な優位だ。だが考えて行動しろ」

言われ、がむしゃらに腕を前に掻き出す。
これなら相手は元の位置に着地出来ないはずだ。

とん、と、背後に軽い音がした。

背骨を指で突かれる。

「そして背後はさらに私が優位となる。考えろ、と言ったはずだが」
「……!!」

鼻血であえぐ呼吸音に、激痛のうめきが混じる。
神経を直接触られているような激甚の痛みだった。

突き飛ばされ、顔面をしたたかに木の根の表面で打つ。
髪を掴まれ、さらにもう一度、顔をそこへ叩きつけられた。

「今のは悪い答えを出した罰則点だ。もう一度行くぞ」

後ろ手に振り上げたナイフで、髪ごと相手の腕を切ろうとする。
ふわ、と離され、手ごたえはない。

かわりに膝裏を蹴りつけられ、体勢が崩れる。

考えろ、考えろ。

後ろを取られ続けている状態から脱するには、どうすればいい?

レグ=ネヴァは思考する。

そして、振り向きながら、飛び上がり、自らの背を樹の肌へと押し付けた。

「よし。だが、悪し」

眼前に、拳が迫っている。
小さく堅く、握りこまれた拳だ。

間に合わない。
感じた瞬間、レグ=ネヴァはすとんと自分でその場にしりもちをついた。

ごがあ!!!!

衝撃が、分厚い生木の樹皮を粉砕し、木屑がぱらぱら頭にかかる。

両腕で顔をガードしながら、横に上体を振ることで、相手の正面から逃れようとした。

めぎ。

やはりこれも顔のあった高さから、強靭な繊維と水分で結び付き合う木肌が押し潰される音がする。

手をついて、さらに間合いを空けるようにして飛び起きながら、ようやっと立ってレグ=ネヴァは男の様子を見ることが出来た。

「30点だ。これでまた私が上を取ったことになる」

男は果たして、せり上がる木の根の上に、最初とまったく変わらぬていで、佇んでいた。
黒衣の膝に、木屑がついている。

「覚えておきなさい、レグ=ネヴァ、復讐者よ、地の利というものがいかに恐るべきものか、そしてそれを持つ相手を害するということが、いかに困難なのか。それが、これからのお前の克服すべき、課題なのだから」

はい、HA。
そう、レグ=ネヴァは切れ切れの呼吸から言葉を搾り出した。

それで今日の訓練は終わりだった。

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かつてムゥエと名乗っていた青年がまず最初に与えられたものは、新たな名前だった。

レグ=ネヴァ,それが彼の与えられた名前である。

「今日からお前は復讐者として生きるのです。これはそのための、刻印です」

HAと名乗った黒衣の男は、そう告げると、何もわからない彼を船に乗せ、この東国らしき地へと伴った。

次に与えられたのは、新たな右腕だった。

かつての腕より遥かに器用で筋力のある、見た目には、まったく義腕と思えないそれは、柔軟性も素晴らしく、機械とは思えないほどであった。

それらを与えたHAが始めたのは、レグ=ネヴァの意識を作り変えることだった。

まず最初の一ヶ月間、執拗に殴り倒された。
何か自分の意見を言うたびに、頬を、何度も、何度も張り飛ばされ、そうして彼は、その日の最後に何故その意見がいけなかったのか、優しく説かれて初めてそこで理解する。

体で教えに従うことを、叩き込まれた。
その間にも、数々の知識が山のような課題として積み上げられ、豊潤に与えられる資料と情報機器によるシミュレーションで、彼は暗殺者としての教養を磨いていった。

これは、最初、覚えがよいと誉められた。
次に、どうしてそれではいけないのか、机上の演習で鮮やかに完敗させられ、自分で屈辱を噛み締めた。

飴と鞭の原理なのだろう。
午前中の体で覚える訓練は、徹底的に痛めつけられ、逆らう気力もないほどぼろぼろにされるが、午後にある、脳で覚える思考の反射は、それまでと違って自分なりに頑張ることを許される。かわりにさらに完膚なきまでに負かされる、その、悔しさが、自ら学習しようという気力につながる。その気力がまた、翌日の午前を耐え抜く気力につながるのだ。

そのサイクルが、彼を短期間のうちに、戦士へと作り変えた。

次の一ヶ月でしたことは、狩りだった。
生い茂る森林の中で、野性の動物を対象に行われる狩りは、それまでに習得した技術の、よい実践訓練になった。

学んだことは、実際に使ってみて、使い方を覚えなければ意味がない。そうHAは説いていた。
実に合理的で、父から教わったことと、まったく同じだとレグ=ネヴァは感心した。やはり優れた物の考え方というのは最終的に行き着くところは同じということか。

かつては這いずるように他人のおこぼれで生き延びることしか出来なかった時期もあったレグ=ネヴァは、そうして自らの糧を自らの手で得られるようになり、少しずつ、少しずつ、自信を獲得していった。

HAは、最初の一ヶ月は食事まで面倒を見てくれていたが、狩りを実践している次の一ヶ月の間、ちょくちょく姿を見せない時があった。いずれの時も、一日の最後には、必ず丁寧に自分で与えた傷を治療してきた。

「早く治る方が、より多く、鍛えられるでしょう」

そう、HAはあの紫の唇で笑いながら、手当てをした。
サディスティックな男だと思った。だが、奇妙なことに彼の言葉遣いは、初めて出会った時と違って、丁寧になることが、時々あった。物を教えるためには優しく言い含めなければいけない時もあるからだろうかと、レグ=ネヴァはそう推測した。

「ようやく、すべてにおいて十人分の働きが出来るようになりましたね」
「はい、HA」
「ですが、お前の復讐するべき相手は、その十倍の力を持ってしてもなお足りない。強くなりなさい、レグ=ネヴァ、強く、強く、ただ強く、鋭く、この次は一点に強さを絞りこんで獲得しなさい」

HAは、二ヶ月が経った時、そう言われた。

ある日、連邦王宮内の見取り図が手渡された。警護の巡回システムまで図示して詳細に網羅されたものだった。

「どこで手に入れたのですか」
「私達の手は長い。そして、彼らの語る愛はあまりに矮小。そういうことです」

私達というのが何を指すのか、まだ、具体的には聞いた事がない。
ただ、それが皆に知られているような、名のあるまっとうな組織ではなく、そして非常に力のあるものだということだけは、理解出来た。

次に、連邦の詳細な構成員が示された。

「通称を、女王陛下と呼ばれるACEがいます。あと二月のうちには貴方も殺せるようになるでしょう」
「では、何が問題なのですか?」
「定まった行動パターンなく、王宮内を彷徨っている事です。これはただの器でしかありませんが、器のまま、独自に意志を持って動きます。予測の立てられない事が、どれだけ恐ろしいかはもう教えましたね?」
「はい」
「よろしい。今のお前には対応出来ずとも、二月後のお前には出来るようになる。出来るように、私達がお前を育てます」

HAは次に一人の男の写真を取り出した。

「これは…」
「カール=T=ドランジ。お前も知っている通り、生身で、一人で行動している限りはたやすい相手。居場所もほぼ限られており、不在の時間帯も把握しています。が、やはり義に厚く、どうかすると普段の行動を覆してでも、この国の危機に駆けつけようとします」
「では、どうすれば」
「簡単です。彼を愛する女達に手を出さなければいい」

そう言って、3人の女の写真を並べて見せる。一人は見覚えがあった。あの国の、摂政だ。

「愛とは矮小なものです。己の手の内にないものにはその庇護は届かない」

そう、ちょうどお前の救われなかった、そのように。

滴る毒の唇が、人間味を感じさせない、能面のような顔を動かして、そう、告げた。

「…………」
「次に移りましょう。これが最後の、そしてお前のもっとも邪魔となる相手」

橙の、瞳を持つ女の写真が、机上に投げ出された。

「…蝶子、藩王」
「いいえ」

恨みを呑むような、レグ=ネヴァの言葉はだが、即座に否定された。

「これはACE蝶子。私達が情報を掴んだ、藩王蝶子とは違う存在。もっとも危惧すべき障害です」
「障害……?」
「お前に彼女は殺せない。その力はない。うぬぼれないことです。そして間違えないことです」

胸を、あの晩のように、指で突かれ、
えぐられる。

「目的さえ果たせれば、手段など、どうでもいい。暗殺者として特化したお前は、彼女を出し抜き、彼女と同じ役割をするものを、殺す。それだけですべて事が足ります。つまり、奴等の身の破滅が」

くつ、くつ、くつ。
唇の上で毒が踊る。

「パイロット国家である彼らに生身で身を守る術はこれら以外にはない。舞踏子で使える魔術など、今のお前でも容易く打ち破れるほどの脆弱。明日から相手と状況を想定した実践演習を始めましょう、私達には時間はいくらでもある。対して、彼らの私達に備える時間は、ほんの刹那」

約束された勝利です…と、呟いてから、最後にHAは無感情な声でこう言った。

「お前の復讐を果たしなさい、レグ=ネヴァ。それがすべての答えになる」

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あの男は死にましたかと問う声がする。
あの男は殺したともと答える声がする。

そうですか。

これで真実を知るものは、私達だけですね。

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最終更新:2008年04月02日 10:07