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「たすけ・・・っぷぁ、だ、誰か助けて!!」

波の逆巻く海に落ち、私は必死にもがいていた。
何度も波に飲まれながら、必死で助けを呼ぶ。

苦しい。
息が続かない。
必死にもがいても、すぐにまた波に飲まれてしまう。

助けて。
たすけて。
だれか・・・

「たすけ・・・っ!!」

何度目かの波に飲まれ、私は意識を失った。

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私は、商家の下働きとして貿易船に乗っていた。
仕事は、船旅中の食事の支度と、洗濯。
場所が船の上ということを除けば、いつもの仕事。
だけど、今回はそれだけではすまなかった。

海賊船に、襲われたのだ。

洗濯中だった私は、どーんという衝撃で壁に叩きつけられ、気を失った。
気がついたときには、商家の旦那様共々縄で縛られ、海賊船の中にいた。
船員さんたちも一緒みたい。
どうやら海賊船の船長らしき人が、私達に向かってこう言っていた。

「お前たちは運がいい。普通の海賊なら乗組員は皆殺しだが、俺たちゃ奴隷の横流しが仕事でな。命だけは助けてやる。なに、食い物だったらお前達の船から頂戴したし、怖がることはねえ。ついでにお宝も頂いておいたから、安心して売られる覚悟を決めておけよ!」

海賊の男たちはそういうと、倉庫の扉を閉めた。

とりあえず命の心配はないらしい。
そうわかると、今まで押し黙っていた旦那様たちや船長さんたちは、あれこれと話をし始めた。
けれど、私にとっては奉公先が変わるだけで、後は周りの人が優しいかどうかだけの問題でしかなかった。

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海賊に捕まって、たぶん2回目の夜。
船長さんたちは旦那様たちを説得し、逃げる算段をしていた。
どうやらこっそりと脱出用の小船を頂戴して脱走する計画のよう。
それよりも私は、外の天気が荒れているのではないか、と心配をしていた。
さっきから船の揺れが大きい。
こういうときは、海が時化ていることが多い。
嵐に乗じて逃げ出すのは定石だとか言ってるけれど、逃げ出した後に生きて帰れるかの心配を誰もしていないことが不思議だった。

そして、ついに決行するときが来た。
船員さんがみんなの縄を切って回っていた。
私の縄も解かれた。
そしていよいよ、というとき、がりがり、みしみしといういやな音が船室に響いた。
誰かが言った。

「ちっ、下手くそが!座礁させやがったな!」

座礁。難破。

にわかに焦り出すみんな。
後先考えず飛び出していく。
私は一人、呆然としていて取り残されてしまった。
はっと気づいたときには誰もいなかった。
恐る恐る、私は船室を出て甲板へと向かった。

案の定、外は騒がしい。
争ってる声や、剣戟の音も聞こえる。
明かりがほとんどない中、何とか音のしないほうへ移動していると、不意に船が傾き、私はバランスを崩した。
なんとか壁に手をついて、体重を支えようとした瞬間。

「え、うそ・・・!?」

そこは扉だったようで、体重をかけたとたん向こう側に開き、私は体を支えきれず転がってしまった。
最悪なことにそこはもう甲板だった。
すでに船は傾いており、私は風雨が吹きすさぶなかをころころと海に向かって転がっていくばかりだった。

「・・・・・・!!!」

声にならない悲鳴を上げ、私は海に落ちていった。

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最終更新:2008年05月29日 19:11