「……あら? あんた誰?」
空からやってきた不思議な少女は紅白の巫女装束を思わせる服を着て赤い大きなリボンをしていた。
ただひとつ、一般的な巫女装束と比べ妙に腋が露出しているが。
気候に合わせ通気性を良くしているのだろうか?
この疑問は「モモタロスのベルトのバックルが何故桃の形なのか」と同じ位
どうでもいい疑問でもあるが。
『おいおい。いきなり「あんた誰」とは失礼なやつだな、てめぇこそ誰なんだよ?』
「ちょっと、モモタロスよしなよ……」
やや喧嘩腰に霊夢に接するM魔理沙。だがそんな事はお構いなしに霊夢は良太郎を問い詰める。
「魔理沙には聞いてないわよ。あんた、魔理沙の知り合い?」
顔見知りがいるからか、霊夢の態度は妙に妖精の話とは裏腹に友好的だ。
特に不審がる事も無く、良太郎の事を尋ねてくる。
「あ、僕は野上良太郎。この子とはついさっき知り合ったばかりなんだ」
「野上……あんまり聞かない名前ね。まぁいいわ。あんた人間でしょ?
あんまり用も無いのにうろうろする所じゃないわよ、この辺りは……」
良太郎に忠告しながらも、霊夢はM魔理沙の方を注視している。
それもそのはず、憑依された直後を霊夢は見ていたのだ。
そのときから魔理沙の異常な行動は気になっていた。ただ、妖怪が現れたのでそちらを優先させたが。
「怪物でも出るの?」
「そうそう……って、何で知ってるのよ!?」
良太郎の格好から、何も知らない外の世界の人間だと霊夢は思っていた。
だが、良太郎は妖怪のことを知っているような口ぶりだ。それどころか、待ってさえいるようにも思える。
「全く、知ってるならさっさと帰りなさいよ。……そこにもいるしね、妖怪が」
言うや否や、霊夢は不敵な表情を浮かべ御祓い棒をM魔理沙に向けて突きつける。
『……チッ、バレてるんなら話は早ぇな。けど俺は妖怪じゃねぇ、そこんとこ覚えとけ』
モモタロスが憑依した今の魔理沙は普段と異なっているのだ。
それなりに付き合いの長い霊夢が怪しまないはずが無い。
「『俺』って言ってる時点で怪しさ満点よ。うふうふ笑われても困るけど」
『うるせぇ、この言葉遣いは生まれつきなんだよ。
俺はモモタロスっつーイマジンだ、妖怪なんかじゃねぇ』
二回も言うほど妖怪扱いを否定するモモタロス。だが霊夢にしてみればイマジンなど聞いたことも無い存在だ。
唯一判断出来る基準は、外の世界にも妖怪がいるらしいと言う情報、ただそれだけ。
そう考えれば、霊夢の推測もあながち間違いではない。
「いま……じん? 聞いたことの無い妖怪ね。そのかわいそうな言葉遣いと一緒にさっさと退治してあげるわ」
『だから妖怪じゃねぇっつってんだろうが。お前話聞いてんのか?』
あくまでもモモタロスを退治する構えの霊夢。妖怪退治も日常に含まれているのだから仕方が無い反応なのだが。
だが、相手がまずかった。今の魔理沙は普段のそれなりに冷静な判断も出来る霧雨魔理沙ではなく
ノリと勢いだけで渡り歩き、喧嘩の売り買いも大好きなイマジン、モモタロスと全く同じなのだ。
喧嘩となれば黙って引き下がったりはしない。これがさらに場の空気を悪くしている。
『ああそうかい。良太郎、この分からず屋のボロ服女は一度怖い目見なきゃわからねぇらしいぜ……気はすすまねぇけど』
「ボロ……これは元からこうよ!」
ボロ服。確かに一般的な袖付の服として見れば霊夢の巫女装束はある意味、ボロ服と言える。
だが普段から文句も言わずにこの格好をしているという事は、それなりにこの服が気に入っている証拠。
お気に入りを貶められればいい気はしない。楽園の素敵な巫女と言えど、その辺は一般人と何ら変わらない。
『そうかい、そいつはかわいそうにな!』
「あったま来た! こうなったら魔理沙ごとあんたをとっちめてやるわ!」
「ちょ、ちょっとモモタロス!? 巫女さんもやめてよ、この子についてるのは……」
それはまずいと良太郎がフォローに入るが、霊夢はその静止さえ振り切る。
ルールとはいえ、不意打ちが来ないのがせめてもの救いか。
もはや聞く耳など誰も持たない。普段の魔理沙も霊夢と弾幕ごっこという名の喧嘩をする事は少なくないが
今は互いに不穏な空気が立ち込めている。普段の喧嘩とはわけが違う。
「だから、二人とも待ってってば!」
たまらず二人の間に割って入ろうとする良太郎。霊夢とM魔理沙は互いにぶつかろうとし
良太郎はちょうどその地点めがけて走っていたので、あわや三人で激突しそうになるが
M魔理沙が突撃の足を突然止める。何かの臭いを嗅ぎつけたようだ。
『ん? イマジンか……おいボロ服女! この勝負タンマだ、タンマ!』
「ちょっ……ここまできて逃げる気!? あとこれはボロじゃなくて元からこうなの!」
喧嘩大好きなモモタロスが戦いを避ける理由。
相手が霊夢のような見た目十代半ばの少女だから、というのもあるかもしれないが
一番の理由はやはり臭いで捉えた異変・イマジンである。
元々このイマジンを倒すために待ち構えていたようなものなので、霊夢と戦うよりも
イマジンと戦う方が優先順位が高いのは当然といえば当然だ。
「とにかく。すぐここに怪物が来るから巫女さんは下がってて!」
良太郎も何とか霊夢を引き下げようとする。イマジンとの戦いに巻き込むわけには行かない。
最も、その良太郎の願いはもう既にかなわないものとなっているのだが良太郎自身はそれを知らない。
「怪物? もしかしてそれ、でっかい人型の蔦まみれな奴の事?」
「知ってるんだ……なら話は早いね。とにかくそいつが来るから後は僕達に任せて、ここから離れて」
霊夢も既にイマジンと出くわしていたのだ。
相手をただの妖怪と勘違いしていたので先刻は不覚を取ったが、今度はそうはいかない。
必要とあらば妖怪以外も退治するのが博麗の巫女だ。
むしろ、霊夢からすれば目の前で早く逃げろと言っている相手のほうが頼りなく見える。
「そういう類の相手なら、あんたより私の方が得意だと思うけど?」
妖怪退治は霊夢にとって日常茶飯事。たとえ相手が未知の怪異であろうと、幻想郷で無闇に暴れるようならば制裁する。
荒事に慣れているからこそ、こういった言葉も飛び出せる。霊夢の自信の表れである。
『ところがそうでもねぇんだな。良太郎、こう見えて結構やるんだぜ?』
魔理沙の体を借りたまま、すかさず反論するモモタロス。
実際、良太郎はモモタロスと共に長い間、数多くのイマジンと戦い、時の運行を守ってきた。
その事を踏まえれば、モモタロスの言う事の説得力は十二分にある。
だがそれ以上に普段の良太郎が弱弱しく見えるためモモタロスのフォローもその説得力を失ってしまっている。
「そう言われてもねぇ……」
「その事について話すと、ちょっと長くなるけどね」
半信半疑に良太郎とM魔理沙を見やる霊夢。だが、話が長くなると念を押され問いただすのをやめる。
今長話をしている余裕は無い。近くに妖怪がいるらしいのだから。
その時、近くで響き渡る爆発音。何かが破裂したような、そんな音。
霊夢も引っかかったアリスの置き土産に何者かが触れたのだ。
「今の……アリスさんの人形だ!」
『ならイマジンだな。ちょうど臭いもしやがるし、間違いねぇ』
「音はあっちから聞こえたわ!」
良太郎、霊夢、M魔理沙の三人は爆発音の聞こえた方角へと走っていった。
彼らと入れ違いに、赤い羽根の少女がふらふらとやってくる。彼女もまたイマジンを探している。
望みを叶えるとイマジンは言うものの、やり方があまりにも酷い。
「妖精にとられた大事なもの」を取り戻すためとはいえその方法が強盗では、どっちが悪者だか分かりやしない。
たとえ相手が妖精でも、いや相手が妖精だからこそ
強盗という手段を止めさせるべく弱った体を押してここまで来たのだ。
だがそれが、思いもよらぬ転機をもたらすことになる。
「これは……!!」
地面に落ちている小さな板切れ。これこそが彼女の捜し求めていたもの「本の栞」だったのだ。
この本の栞にどのような思い入れがあるか。それは彼女自身しか知らぬものだが
これでイマジンが妖精を襲う必要は無くなった。
結果としてイマジンは何の手助けもしていないことになったのだが、これで望みは叶えられた。
イマジンを制止すべく、赤い羽根の少女も栞を拾い上げふらつきながらも走っていった。
「ゲホゲホッ……何だこの人形は」
アリスの仕掛けた罠。魔法の糸に反応し、爆発する人形がイマジンに襲い掛かってきたのだ。
不意打ちは幻想郷の決闘儀式・スペルカードルールからすればご法度。
だが今回は誰もスペルカードルールに則って戦っていない。特にイマジンの側からすれば従う理由が皆無である。
それ故に、この罠による不意打ちも誰かが見ていたとしてもそれを咎めないだろう。
不意打ちを食らった当のイマジンはご立腹だが。さらに止めとばかりに不意の飛び蹴りを浴びる。
『おりゃああああっ!!』
「はああああああっ!!」
「やああああああっ!!」
バッタのヒーローみたいな事をやっているモモタロスや、それに合わせた事のある良太郎はともかく
霊夢も意外に飛び蹴りを得意としている。
空を飛ぶ事が日常茶飯事な彼女にとって、飛び蹴りはそれこそ朝飯前の芸当である。
M魔理沙と霊夢、そして良太郎のトリプルキックが、華麗にイマジンの頭部に直撃する。
『へへっ……俺、参上!!』
「むうう、おかしななりをしているが貴様電王のイマジンだな!?」
両腕を広げ、ポーズと台詞を決めるM魔理沙。モモタロス流の登場口上だ。
ここからモモタロスのクライマックスが始まる。対峙するイマジンもそれにつられているのかのような態度をとる。
だが本人達以外にはどうでもいいらしく、霊夢にあっさり突っ込まれる。
「それがどうしたのよ、無駄口聞いてないで行くわよ」
『いいだろ別に、これやらないと気分が出ないんだよ』
口上などどうでもいいという霊夢に反論するM魔理沙。ノリと勢いで押すモモタロスにはこの口上こそがとても重要な事である。
「時間は変えさせない。ここが僕の知ってる世界じゃなくても……変身!」
良太郎がデンオウベルトを巻き、ライダーパスをバックルにかざす。電王の基本形態・プラットフォームへと変身する。
これ以上に戦える形態はあるのだが、必要なモモタロスが未だ魔理沙から出られない状態のため、変身することが出来ない。
本来の力は出せなくとも、これが今の良太郎が持つ道具で発現出来る最大限。後は持ち前の精神力が武器だ。
「へぇ……外の世界には変わった術式があるのね。変化の術なんてただの人間が使える代物じゃないわよ。
ま、あんたが強いって理由はなんとなくわかったわ」
「これも話すと長くなるから……今はあの怪物を倒す事に専念しようよ」
電王のシステムに関心を抱く霊夢。見た目ただの人間な良太郎が一瞬にして異形と化したのだ。
確かにこれならば、妖怪相手にも引けはとらないだろう……おそらくは。
(けどこの構え……本当に強いのかしら?)
だが霊夢には不安が残る。確かに良太郎は電王に変身し、戦う準備は整えた。だが、あまりにもその構えが情けなさ過ぎる。
これでも一時よりは改善されたほうなのだが、未だ霊夢の方が構えとしては美しい体勢を取れるほどだ。
「電王! それにさっきの小娘か。またわけの分からない紙切れを投げてくるのか?」
霊夢はこのアイビーイマジンとは再戦という形になる。
前回はほとんど攻撃が通らなかったため、イマジンもたかをくくっている。
あからさまな挑発からそれが見て取れる。
「このありがたいお札をわけの分からない紙切れ、ね……嘆かわしいわ」
これでも由緒正しき博麗神社謹製魔除けのお札である。
ただイマジンは妖怪とは構造が違ったらしく通らなかっただけの話。
ならばと霊夢は力を込め、御祓いと言うよりも目の前の悪人を撃破する。その為に札を投げつける。
「ふん、効かぬと言った……ぐおおおおっ!?」
札はイマジンに張り付くと閃光を放つ。何かが破裂するように光を放っているのだ。
先ほどイマジンに札を投げつけた時とは違い、イマジンも怯んでいる。
『へぇ、やるじゃねぇか。イマジン怯ませるなんてよ』
「さっきはあんたの事を誤解していたから効かなかっただけよ。
あんたが『ただの妖怪』じゃないなら、『ただの妖怪』用じゃないお札をあげるわ」
「お、おのれ小娘ェェェェェ!!」
効くはずの無い攻撃を受けて怯んだ。この事実はイマジンを激昂させるには十分だ。
激昂し周囲が見えなくなったイマジンに、攻撃の第二波を避ける余裕は無かった。
良太郎が、M魔理沙の必殺技を宣言する。
「隙だらけ……モモタロス、いまだ!」
『ああ、悪ぃが今回良太郎の出番は無しだぜ。いきなり俺の必殺技!!』
極致「モモタロスパーク」
ふとモモタロスの頭に流れ込んできた霧雨魔理沙のイメージ、マスタースパーク。
これをモモタロスが勝手にアレンジして使っている。
マスタースパークをイメージしながらも、その特性はノンディレクショナルレーザーに近い。
巨大な赤いレーザーで、敵を斬る。これで先刻も同型のアイビーイマジンを倒したのだ。
だが、レーザーの太刀筋は先ほどに比べ若干ずれている。
とはいえ先程のモモタロスパークをパート1とするならこちらは同・パート2程度の違いなのだが。
「やったわ! あんた、どうやってそのスペルカード編み出した……あら?」
『……クソッ、やっぱまだ慣れねぇな。ちょいとばかしフラフラするぜ』
即興で編み出したスペルカードであることと、本来のマスタースパークの使い方との相違点が
思わぬ落とし穴を生み出していた。
マスタースパークの火力は幻想郷でも名高い。その火力の源は魔理沙自身の魔力よりも
魔理沙の持つミニ八卦炉に拠る部分が大きい。
モモタロスパークはそれを魔理沙に憑依したモモタロスのフリーエネルギーで賄っている。
マスタースパークの火力を再現するために、一度に消費するエネルギー量が大きかったのだ。
その為に、魔理沙本体に加えモモタロス自身も見えない部分で消耗していたのだ。
普段俺の必殺技と称し剣を振り回すよりも消耗している。
それが照準のズレを生み、止めを刺し損ねてしまう。
爆発で生じた煙が晴れたとき、そこにいた蔦の妖怪は未だ健在であった。
「フッフッフ、とどめを刺し損ねたようだな?」
「こいつ、まだ動けるの!?」
「まずい!」
良太郎が叫ぶのと同時に霊夢が破魔札を投げ、電王が飛び出す。
今度の破魔札は当たればその効果を発揮する。そう、当たれば。
この時破魔札は確かにイマジンに当たった。イマジンの「武器」に。
両刃の鎌が破魔札を切り裂き、イマジン本体に当たることは無かった。
効果を失い、紙屑となって地面に舞い落ちる破魔札。だがその隙を突き、電王がアイビーイマジンの動きを封じる。
「モモタロス、何やってるの!? 早く離れて!!」
『す、すまねぇ良太郎。けど「コイツ」が限界らしい……』
良太郎の叫びも虚しく、M魔理沙はへたり込んでいた。慣れない体での格闘、大量のエネルギー消費。
そして霧雨魔理沙自身への肉体的な負担が重なったのだ。
モモタロスと魔理沙では、筋肉の使い方が違う。激しい運動ともなれば尚更だ。
おまけに長時間、モモタロスは魔理沙の体を自分の体のように振り回していた。
今の魔理沙は無理な運動を長時間続けた状態に近い。
これ以上はモモタロスはともかく、魔理沙の体が危険だ。
「まともに戦えぬ癖に、邪魔をするな電王!」
このプラットフォームでは、電王の力は半分にも満たない。ただ頑丈なだけだ。それを知らないイマジンではない。
電王の体を張ったホールドを振りほどき、アイビーイマジンは蔦で電王を霊夢めがけて突き飛ばす。
「うわああっ、巫女さんどいてぇぇぇ!!」
「ああもう、これくらい飛んで方向変えなさいよ!」
だが、それをはじき返すように自分の前に結界を張る霊夢。
これによって電王は結界に叩きつけられる事になったが霊夢は無傷だ。
電王も遠くまで飛ばされること無く体勢を立て直す事が出来た。
結界に当たった際にダメージは受けたが許容範囲である。
だが、その間にアイビーイマジンはM魔理沙に狙いを絞り込んでいた。
「さて。倒れなかったとはいえ今のは効いた。礼をせねばな!」
(クソッ、こいつの体から離れられれば何とかできるってのによ……!!)
モモタロスパークの反動で動けないM魔理沙目掛け、両刃の鎌が輝く。
ゆっくりと、だが確実にM魔理沙の体へと金属の輝きは近づいている。
「魔理沙!!」
「モモタロス!!」
その輝きがM魔理沙の頭上に達し、今まさに無慈悲に振り下ろされようとしたその時、割って入る者がいた。
アイビーイマジンの契約者でもある、朱鷺色の羽を持った少女だ。
(あいつ……!)
「待っていろ、そう言ったはずだぞ?」
「もうこれ以上暴れなくていい。私の望むものなら、ここに……」
そう言って少女はイマジンに本の栞を突きつける。これでもうイマジンが暴れる理由は無い。
何故ならイマジンはそれを手に入れるために妖精相手の強盗を繰り返し
今彼女自身の望みとは全く無関係な者に危害を加えようとしていた。
それももうこれで終わり、彼女はそう確信した。
だが、それを思わぬ場所から制止する声が入った。
イマジンと戦い続け、イマジンの事をこの幻想郷では霊夢以上に知っている、良太郎だ。
「駄目だ逃げて、それでもイマジンは……!!」
「何だ、自力で見つけたのか。まぁいい、契約完了だ!」
「なっ!? そっちは何もしていな……!!」
イマジンは少女に蔦を巻きつけ、自分の下へと引き寄せる。そのまま少女の背中を開くと
隙間からは緑色の光が漏れ、イマジンはその中へ吸い込まれるように消えていく。
崩れ落ちる少女に駆け寄る霊夢と電王。
「あんた、今の妖怪をどこへやったの!?」
「この子に当たってもしょうがないよ。この子も利用されてただけなんだ、怪物に」
少女をたたき起こし問い詰める霊夢。相手が妖怪だからか手法が乱暴だ。
だが、その手は電王によって止められる。
今霊夢が力を振るうべき相手は目の前にいる妖怪の少女ではなく、消えたイマジンだ。
電王が少女の額にカードをかざすと、カードにイマジンの姿と西暦で記された日付が浮かび上がる。
「う……」
「気がついた? 疲れているところ悪いんだけど、この日付に覚えは無い?」
カードの日付を見せながら、良太郎はその時何が起きたかを少女に尋ねる。初めはぼんやりしていた少女だが
日付を確認すると慌てて飛び起きる。
「この日は……この栞を無くした日のはず! 本ごと妖精に盗まれて、本は取り返したんだけど
この栞だけはどこにも見つからなかったのよ」
「つまり、その栞を取り返すためにイマジンと契約したってわけか……」
「なるほど。それであいつは妖精を追い掛け回していたのね。で、あいつは何処に行ったのよ!?」
イマジンの奇怪な行動、活動理由、そして目的地。この全ては契約者であった彼女の証言ではっきりとした。
後は、捕まえて退治するだけだ。
「2004年4月7日。ここに、イマジンはいる」
「2004年……ってどういう意味よ!? もう何年も経ってるじゃない!」
今彼らがいるのは2008年の秋。ついこの間の夏は異常気象に見舞われたが、今は一段落して普段の穏やかな幻想郷である。
2004年は、もう遥か通り過ぎた過去の話。幻想郷に、過去へ行くことが出来るものはいない。
時間を操ることが出来るものはいても。
突然、周囲の木が消滅を始める。代わりに現れるのはへし折れた木々に荒れた大地。イマジンが過去を破壊した影響だ。
森が消滅するという異常事態。このままでは魔法の森ではなく魔法の荒野になってしまう。
「な、何よこれ……妖精の仕業!?」
「そんなわけ無いでしょ」
上空から少女の声がする。さっき置き土産をして帰ったはずのアリス・マーガトロイドだ。
「この森は妖精にとって家みたいなものって事位知ってるでしょ。何で自分の家壊さなきゃならないのよ」
森が消えたことでパニックを起こしあちこち飛び回る妖精。
見境を無くし、弾幕を張るものもいればへたり込んで泣き喚くものもいる。
中には木が消えた影響で消滅してしまうものもいる。
「これがあの妖怪の仕業って言うんなら、許せないわね」
「みんな、あれを見て! 大木が……!」
穏やかな風景は一瞬にして地獄絵図へとその姿を変えた。ただ一日の過去を破壊しようとするだけで。
普段、妖精だろうと容赦せずに退治する霊夢でさえ、この光景を酷いと思えてしまう。
そしてイマジンによる破壊は、ついに光の三妖精の棲家さえも破壊してしまう。
大木が消えた影響で、荒野と化した外に放り出される三妖精。
「いたた……な、何がどうなってるのよ」
「ちょ、ちょっとサニー! いくらなんでも私達の家を隠すなんて!」
「それをやるくらいなら私達ごと隠すわよ! これは私の力なんかじゃない……本当に家が消えたのよ!」
まるでそこには最初から何も無かったかのように突然、大木は消え去った。
普段様々な悪戯を働き、それなりに制裁も受けている彼女達とはいえ、自分達の家が消えるなど前代未聞だ。
「こうしちゃいられない……!」
「だから、何がどうなっているのか説明しなさいよ! あの大木は昔からあるものよ、それが突然消えるなんて……!」
慌てる霊夢をよそに、良太郎が日付の入ったチケットをライダーパスに挿入する。
こうする事で時の列車デンライナーを呼び出すことができる。電王の特権だ。
「さっきの怪物が過去からこのあたりを破壊している。今から過去へ行ってそれを食い止める」
「過去ですって!? ……流石の私も時間を超える旅は初めてね。ま、どこへ逃げようと私からは逃げられないわよ」
ついていく気満々の霊夢。当然といえば当然なのだが、良太郎のパスで霊夢がデンライナーに乗れるかどうかはわからない。
かつてのモモタロスと違い、彼女は実体を持たないわけではない。乗車審査は、デンライナーのオーナーに委ねられている。
幻想郷の管理人的立場とも言える博麗の巫女といえど、例外では無い。
「こ、これが……」
「ま、まるで竜神様みたい……」
「か、カッコいい……!!」
時の列車、デンライナー。これがデンライナーでなくとも、電車など初めて見る三妖精は驚くばかり。
一人、サニーは目を輝かせていたが。
デンライナーは荒れ果てた魔法の森だった場所に停車すると乗降口のドアを開けた。
「一ついいかな。デンライナーで時間を越えるにはチケット……これの事なんだけど。これが必要なんだ。
でもこれで君が乗れるかどうかは僕にもわからない。もしオーナーに駄目って言われたら……
怪物は全部僕達に任せて欲しいんだ」
「……わかったわ。そうなったらお願いね。そうならないのが一番いいのだけど」
幻想郷にルールがあるように、デンライナーにもルールはある。
そのルールであるオーナーの意向に反してまで時間を越えてもいい結果は出ないだろう。
そして霊夢は、確信を持っていた。相手は幻想郷のルールを犯した外の世界の妖怪。ルールを犯した者の結末を。
後は、自分がやるか彼らがやるかの違いだけだ。実力的な意味で不安は抱えているが。
デンライナーに乗り込む良太郎を見送る霊夢。その後から、猛スピードでM魔理沙がデンライナーに乗り込む。
「はぁ!? 何であんたは顔パスなのよ!?」
『俺は元々デンライナーの乗客だ! 今はこいつから離れられないから、やむを得ずだやむを得ず!』
「な、納得いかないわ……って引っ張らないでよ!」
『いいから乗れって、良太郎も乗れって言ってただろうが』
霊夢を引き連れて勢いよくデンライナーに乗り込むM魔理沙。その直後、乗降口は閉じられる。
これが、電王にとっても霊夢にとっても前代未聞なイマジン追撃の旅への出発進行の合図となるのだろうか。
最終更新:2009年06月30日 02:43