虹色の空に点在する岩山。そして一面は荒野に砂漠。その上に線路を作りながらデンライナーは走る。
砂漠の砂粒一つ一つが流れる時である、ここは時間の中。時間を越える術が無ければ立ち入る事のできない場所。
「そういえば、まだ私の名前言ってなかったわね。私は博麗霊夢。見てのとおりの巫女さんよ」
「僕は野上良太郎。こう見えても、時の運行を守る『電王』なんだ」
『こいつの名前はしらねぇが、俺はモモタロスだ。本当は良太郎の相棒みたいなもんなんだがな』
デンライナーの食堂車。かつては時間の中を旅する乗客であふれていたが、いつの間にか電王のイマジンの根城になってしまっていた。
それでも、イマジンとの決着を前に気を落ち着かせる事ができる場所に変わりは無い。
落ち着いた事で改めて自己紹介を交わす霊夢と良太郎。そして魔理沙の体を借りたままのモモタロス。
『向こうに着くまでまだ時間はあるからアレでも飲むか。ナオミ、コーヒーくれ』
「え? 飲み物出るの!? じゃあ私には緑茶頂戴!」
「あ、僕も緑茶で」
「はーい。すぐにお持ちしますので少々お待ちくださいね」
ナオミと呼ばれたその女性はピンク色のメッシュの入った髪に時計をモチーフとした
未来的なウェイトレス風衣装、そして両腕にありえない数の腕時計をつけている。
このデンライナーの客室乗務員であり、独特なコーヒーを淹れる事を趣味としている。
(あれ? 間違えてモモタロちゃん用のコーヒー準備しちゃった……まぁいいか。雰囲気似てたし)
「ふむ、やっと乗って来てくれたようだな」
「あ、あんた……!」
ふと、彼女らに声をかけたのは背の高い女性。民族服に奇抜な形の帽子。そして背後には狐の尻尾が九本あるようにも見える。
八雲藍。幻想郷に住む九尾の狐であり、高名な妖怪の賢者の式である。
「私は八雲藍、見てのとおりの九尾の狐だ。ふむ、君が電王か」
「僕は野上良太郎。で、今魔理沙さんに憑いてるのが……」
『モモタロスだ。また随分偉そうなキツネおん……むぐっ!?』
(バカ、こいつはこれでも幻想郷で一番厄介な妖怪の使いなのよ。言葉には気をつけなさいよ)
魔理沙の体のままふんぞり返って自己紹介をするモモタロスの口をあわてて霊夢がふさぐ。
相手は妖怪の中でも位の高い九尾の狐。そしてさらにその上がおり、彼女はその直属の部下とも言うべき存在。
にもかかわらずモモタロスは横柄な態度を崩さない。
だが藍はそんな態度を気にも留めず、良太郎の隣に座る。
「気を悪くしたならごめんなさい。しかし、何故その九尾の狐がデンライナーに?」
「ああ、一つは私の主がここの支配人と会う約束になっていたのだが、その件についてな。
もう一つは……霊夢。お前についてだ」
「え? 私?」
目の前の九尾の狐がデンライナーにいる理由。それが自分にあると聞かされ、霊夢は目を丸くする。
それ以外にもよく知っているこの妖怪の主は、ここの支配人も面識があるらしい事に軽く耳を疑いもしたが。
「霊夢。意魔人(いまじん)については……知っているな?」
「大体はね。さっきまで戦ってもいたわけだし」
「ならば話は早い。霊夢、これを受け取れ。私から……と言うよりは紫様からだがな」
「これは……良太郎が見せてくれたのと似てるわね……あ、あら?」
藍が霊夢に渡したのはデンライナーのチケット。行先日時を示す帯の代わりに
無期限、と記された電王のバックルエンブレムを模った判が押されている。
霊夢がそれを受け取るや否やチケットには霊夢の姿が浮かび上がる。
これで、霊夢はチケットの正当な持ち主となったのだ。
「時の列車の乗車手形だ。ただし、それだけでは意魔人を追う事は出来ないぞ」
デンライナーのチケットには様々な種類がある。霊夢が受け取ったチケットの権限はデンライナーへの乗車権のみ。
イマジンが移動した先の時間を調べ、チケットを発行する権限は無い。
つまり、電王――良太郎の手助けはどの道必須なのである。
「ま、この列車に大手を振って乗れるだけでも御の字ってとこかしらね」
「ここの支配人は無賃乗車の類にはうるさいと聞く、気をつけることだ」
これで霊夢はデンライナーから下ろされ、時の砂漠の砂粒に飲まれる事態だけは回避できる。
後は、デンライナーの中で不用意に騒がない事。宴会などもっての外である。
近い事は割とよく執り行われていたりするのだが。
「はーい、コーヒー入りましたよ。良太郎ちゃんとそこの巫女さんは緑茶
キツネちゃんは油揚げのお味噌汁でしたね、ごゆっくりどうぞー」
『へへっ。キツネちゃんだけに油揚げ入りの味噌汁ってか』
「……むぅ。油揚げは確かに好きなのだが、キツネちゃん……」
ナオミはいつもと変わらない調子で飲み物を出す。一人だけやや浮いているが
流石に油揚げの入ったお茶、などというへんてこなものは飲めない。
コーヒーを省みるに、出てきてもおかしくないのがこのデンライナーの食堂車なのだが。
『へへっ、これさえ飲めばパワー100倍! いつでもクライマックスの始まりだぜ!』
ピンク色のクリームがたんまりと乗ったコーヒーを目に、M魔理沙の目が輝く。このコーヒー、見た目どおりの味しかしないのだが
どういうわけかモモタロスらイマジンには好評。とりわけモモタロスはこのコーヒーとプリンが大好物。
今日もいつものように飲もうと口へ運ぶが、今日は魔理沙の体である。
(う……ん? 私は一体どうしたんだ? ここはどこだ? ん? 私、何を飲もうとしてるんだ……!?)
ふと、魔理沙の意識が目覚める。目覚めても全ての行動の権限はモモタロスの側にあるために魔理沙はどうする事も出来ない。
イマジンに取り憑かれた者はイマジンに意識を支配されてしまう。これが今、些細な不幸を生み出そうとしていた。
「うぇ……これ本当にコーヒー? 私がたまに見かけるコーヒーとは全く別物なんだけど」
「ここのは……特別って言うか、何て言うか……」
M魔理沙が飲もうとしているコーヒーを目にするや、つい感想がもれてしまう霊夢。
気を取り直すようにお茶を啜りながら良太郎の説明に耳を傾ける。
本当に飲めるのか、という心配をよそにM魔理沙はコーヒーのカップを口につける。
『いーただきまーす』
心なしか明るいトーンでいただきますを済ませるM魔理沙。
ピンク色のクリームとコーヒーが口の中に入り、喉を鳴らす。
(うげっ!? 何だこりゃ!? おい、何で私はこんなまずいものを飲んでるんだ!?)
『かーっ、うめぇ! やっぱナオミのコーヒーは最高だぜ!』
「……の、割には手が震えているぞ。どうした?」
絶賛の声とは裏腹に、藍の指摘通り少々カップを持つ指が震えている。まるで相当まずい物を口にしたときのように。
魔理沙にとっては相当な苦痛、モモタロスにとっては至福の時。
その意識の乖離が、予想外の事態を引き起こしたのかもしれない。
「まるで酒をあおる鬼ね……そんなにおいしいの? それ」
『ああ、俺はカッコよく戦える事とこのコーヒーが飲めるだけで人生最高にクラ
「うまいわけあるか! 無茶苦茶まずいんだぜ、このコーヒー!」』
モモタロスの賞賛の声を遮るように罵倒の言葉が飛ぶ。魔理沙本人の感想だ。
イマジンの支配さえ振り切るほど、このコーヒーの味は独特なのだ。
「おいしいのかまずいのかどっちなのよ……ってそれ私のお茶!」
魔理沙は口直しに、霊夢のお茶を掠め取るや一気に飲み干す。熱さなど気にしていられない。
口の中の不快感を押し流すように、熱いお茶が魔理沙の喉を通る。
『うわっちゃあああああっ!?』
これがショック療法となったのか、魔理沙自身も熱さでのたうち回っているが、その隣に
同じようにのた打ち回っている赤鬼がいる。
鬼が憑いていた、というその事実に霊夢も藍も目を丸くする。
「あ、あんたに憑いてたのって……!!」
「ああ、間違いない。こいつは……鬼だ!!」
かつて最強と謳われた種族、鬼。今でははぐれものがのらりくらりと幻想郷に滞在するのみとなったが
その名は今なお轟いている。だが、目の前でのた打ち回っている赤鬼にはそんな貫禄は感じられない。
それどころか、警戒するのは霊夢と藍だけで、コーヒーを淹れていたナオミも、良太郎も一切警戒する事は無かった。
ナオミに至ってははしゃいですらいる。幻想郷にとっての鬼がどういうものかを知らない、というのもあるのだが。
「あ、モモタロちゃんだ! 今までどこにいたんですか?」
「モモタロス、魔理沙さんから抜け出せたんだね」
「はふっ、はふっ……む、無茶しやがるぜこのチビ。口の中や喉がヒリヒリするぜ……。
ょ、ようナオミ。今日のコーヒーも……はひっ、はひっ……最高だったぜ。じ、邪魔が入ったけどよ」
モモタロスはまだ熱さでうまくしゃべれず、口元を押さえている。一方の魔理沙も同じように口元を押さえている。互いに半分涙目だ。
「ふーっ、ふーっ……誰のせいだよ。私の体散々勝手に弄った挙句、変なものまで飲ませるなんて。
おまけに体中が痛くて痛くて仕方ないぜ……」
先程までの逆立った髪や赤いエクステ、真っ赤な瞳は消え去り、元の少々くせ毛な長い金髪に茶色い瞳に戻っている。
今の魔理沙は本来の霧雨魔理沙その人である。
「魔理沙離れて! 鬼よ、鬼がいるのよ!!」
「貴様……一体何が目的だ?」
「え? あの……二人とも?」
魔理沙からモモタロスが飛び出した途端、暢気にお茶を啜っていた巫女は成りを潜め、妖怪退治の鬼巫女の目に変わる。
九尾の狐も、霊夢ほどではないにせよただならぬ気を発している。
二人の豹変に、良太郎はただ戸惑うばかりだ。
「鬼? ……あ! お前、森で見かけた赤い妖怪! よく見なかったけど鬼だったのか!
私には見当がついてるぜ、良太郎をさらうつもりだったんだろ!」
「はぁ? 何で俺が良太郎をさらわなきゃならないんだよ」
鬼は古来より人間をさらうとされている。鬼がいなくなって久しい幻想郷でもある程度の情報は伝えられている。
最も、モモタロスは鬼ではないので三人の意見は全くの的外れなのだが、モモタロスの弁はあまりにも説得力が無さ過ぎる。
「妖怪が人を食べるように、鬼は人をさらうからよ。あんた、魔理沙に憑いて何するつもりだったのよ?」
「話が見えねぇ。つか、鬼ってどこにいるんだよ? 良太郎、デンライナーに鬼なんか乗ってたか?」
「え? それは……」
モモタロスは見た目こそ鬼だが、これはあくまでもイマジンの特性「最初の契約者のイメージによって姿形が決定される」
によるものである。モモタロスに自身がイマジンという認識はあっても、鬼という認識は無い。
むしろ、名前から桃太郎という認識はあるかもしれないが。
「いやぁ、今鬼は乗ってないですよ?」
客室乗務員であり、デンライナーのモギリもやっているナオミにあっさりと否定される鬼の乗客の有無。
乗務員のお墨付きをもらい、打って変わって強気に出るモモタロス。
「ほら見ろ。大体、俺のどこが鬼に見えるんだっつーの!
おい良太郎、お前からも何か言ってやれ! お前のせいでこの格好になってるわけだしよ」
「そ、そういわれても……」
(いや……だって)
(どっからどう見ても……)
(鬼なんだぜ)
肩を叩いたり、ポージングを決めたりして自身の体のアピールをするモモタロス。
だが、色といい角といいどう見ても鬼にしか見えない。モモタロスとナオミ以外の全員がモモタロスを見て鬼を連想するだろう。
最も、霊夢達がよく知る鬼はさらに別の姿形をしているのだが。
「ま、何はともあれ魔理沙が元に戻ってよかったわ。あのままだったらどうしようかと思ったわよ」
「……あれ? そういや何で霊夢がここにいるんだぜ? おまけに紫んとこの式もいるし。っつーか、ここどこだ?」
妖怪(モモタロス)に接触しようとした時点から魔理沙の記憶は途切れている。
良太郎が説明しようとしたその時、車内にアナウンスが鳴り響く。
「まもなく、2004年4月7日に到着します。なお、この時間ではイマジンが暴れておりますので
お客様各位、不用意にデンライナーの外へ出ないようお願いします」
目的の時間への到着を知らせるナオミのアナウンス。イマジンとの決着が近づいた印である。
「時間? いまじん? どういう事なんだ?」
「ごめん、後で説明するよ。今からちょっと怪物退治に行かなきゃいけないんだ」
「そういうこと。あんたはゆっくり休んでなさい」
腑に落ちない表情をする魔理沙をよそに、霊夢はお祓い棒に札、アミュレットを準備しており
良太郎もライダーパスとベルトを用意している。モモタロスも自分の出番をまだかまだかと待ちわびている。
デンライナーの窓から映る景色は虹色の空をした砂漠ではなく、雪の積もった魔法の森へと変わっていった。
流れる景色が静止すると同時に、三人はデンライナーの外へと飛び出した。
「みなさん、がんばってください!」
「あっ、おい! 良太郎、お前妖怪退治できるのかよーっ!」
事情を知らない魔理沙の声は食堂車の中にむなしく響き渡った……
(さて、見せてもらおうか。電王の力を)
藍は真剣な眼差しで彼女らを見送った。油揚げの味噌汁を飲みながら。
2004年4月7日(第百十九季二)
いつものように本を読んでいると私と同じように本を読む妖精がいた。
悪戯ばかりでせわしなく飛び回る妖精の中にも変わり者はいるものだと思い
私は彼女がどんな本を読んでいるのか、少し気になった。
その答えは、思いもよらぬ形で知ることになるのだが。
「ルナ、早く行くよ! 今日はあの湖に行くんでしょ!」
「待って、今行くから!」
遠くから本読み妖精を呼ぶ声が聞こえる。やっぱり、こうせわしなく飛び回ってこそ妖精だと思う。
本を置き、すぐに飛び出す白い服の妖精。こっそり読もうかと思ったが、
妖怪の私がそんな妖精みたいな真似をするのも馬鹿馬鹿しい。
後で聞けばいいやと思い、小休止のためにお茶を用意しに本を傍に置いてその場を離れることにした。
ここで、私はあの妖精がどんな本を読んでいたのか思い知ることになる。
そう、私の本と新調したばかりの栞と引き換えに。
妖精はどうやら私の本と間違えて持っていったらしい。困った。
本は手に入れるあてが無いことも無いが、あの栞は……あれ? 栞ってなんだっけ?
私、何をしようとしていたんだっけ?
遠くに妖精の悲鳴が聞こえるような気がしたが、そこからの記憶は途切れてしまった。
「ククク……っふぇっくしょん!! お、おのれ4月だというのになんと言う寒さだ!
まあいい、暴れて暖をとるとするか。ちょうどいい焚き木もあることだ……はぁっ!!」
雪の積もる魔法の森の中。切り株を机に本を読んでいた朱鷺色の羽根の少女から砂が噴き出し
蔦を模した妖怪――アイビーイマジンが現れる。寒さに震えながら、乱暴に蔦を振り回し、木々をへし折っていく。
突然の異変に戸惑う妖精達。あるものは逃げ惑い、あるものは混乱し弾幕をところかまわず撃ちまくる。
妖精の笑い声は瞬く間に阿鼻叫喚へと変わり、平和な雪景色の森はその姿を大きく変えた。
我が物顔で暴れまわるイマジンを威嚇するようにデンライナーが割って入り、イマジンの出鼻をくじく。
デンライナーが走り去った後には霊夢、良太郎、モモタロスの三人が並び立っていた。
「へへっ……俺、参じょぶえっくしょん!! おい、なんでこんなに寒いんだよ!」
「た、確かに寒いね……4月の割には」
「あー……確かあの幽霊の異変解決する前だったっけ、こんだけ寒いのは。
それは後で何とかするとして……今は目の前のあんたよ!」
季節外れとも言える寒さに震える三人。その寒さを振り切るように
お祓い棒をイマジンに向けて突きつける霊夢。
「くっ、電王だけでなく小娘まで追ってくるとは。しつこい奴め!」
「この幻想郷で、私から逃げられる妖怪なんていないのよ」
「フッ、ならばその第一号になってやろう!」
暴れた拍子で少々溶け出したとはいえ、地面には雪が積もっている。イマジンはその雪を煙幕の代わりに使い、逃走を図る。
現代の時間で、霊夢に使った逃走手段とまったく同じだ。
「くっ、どっちがバカの一つ覚えよ……!」
「逃げやがった! 良太郎、ボロ服女、追うぞ!」
「待ってモモタロス、囲まれてる……!」
視野が回復したとき、そこにいたのはイマジンではなく、妖精の大群だった。
小さくて視認はしづらいが、その目は正気を失っておりただひたすらに弾幕を張りまくる危険な存在と化していた。
よほど混乱しているのか、その弾幕を張る方向もでたらめだ。
「弾幕をかいくぐって親玉のところへ行く。いつもの異変解決と同じじゃない。
悪いけど、先に行かせてもらうわよ」
弾幕をかいくぐり、イマジンを追跡する霊夢。妖精を札で撃ち落すのも忘れない。
追っている相手はいつもの相手ではないが、今やっている事はいつもの弾幕ごっこ。霊夢にしてみれば日常茶飯事だ。
「待って! イマジンは危険な相手なんだ、一人で突っ込んだりしたら……おわっとと」
「あのボロ服女、勝手に突っ込みやがって! にしても、こいつらもさっきからうるせぇな……っと!」
だが良太郎やモモタロスはそうも行かない。イマジンと銃撃戦になったことはあるが
これほど分厚い弾幕をかいくぐった事は数えるほどしかない。妖精のでたらめな弾とはいえ、よけるのに精一杯だ。
雨霰のように弾を撃ち続ける妖精を威嚇するように、モモタロスがモモタロスォードを地面に叩き付ける。
あまりの鬱陶しさに、怒りがクライマックスに達したのだ。
「やいやいてめぇら! 何するつもりかしらねぇが、戦うっつーんならこの程度でびびってんじゃねぇよ。
ただ俺らにちょっかい出すだけなら、怪我しないうちにとっとと帰りやがれ! 俺らにちょっかいかけると怪我するぞ!!」
モモタロスの表情と地の底から響き渡るような声で、弾幕を張る妖精を威嚇する。
臆病な妖精はあたふたと逃げていくが、パニックを起こした上に威嚇されたことでますます混乱し、突っ込んでくる妖精もいる。
最も、モモタロスには簡単によけられてあさっての方向に飛んで行ったり木に激突したりしているのだが。
「モモタロス……完璧におびえてるよ、みんな。弾幕は止んだみたいだけど」
「しゃあねぇだろ。下手にうろちょろされるとイマジン倒すときに邪魔になるだろうが。
っつーわけで……コホン。チビども、そこを通せ!!」
最後に一吼えし、モモタロスォードを振り回し叩き付ける。
振り回した剣の風圧や、叩き付けた際の衝撃波はちょっとした弾幕となり妖精を追い払う。
モモタロスがここまで考えて妖精を威嚇したかどうかはわからないが
イマジンと戦うにあたって妖精の存在は確かに邪魔になりかねない。おまけに妖精自身にも危険が及ぶだろう。
結果的にモモタロスの行動は、乱暴ながら妖精の避難誘導となったのだ。
蜘蛛の子を散らしたように退散する妖精をよそに、良太郎とモモタロスもイマジンを追って走り出す。
だが、戦いも逃げもしない妖精もいる。光の三妖精の一人、ルナチャイルドだ。
倒れてきた木に挟まって、身動きが取れなくなっている。サニーとスターが引っ張り出そうとしているが
妖精の力でルナにのしかかっている木はどうにかできそうも無い。
「おい良太郎、何してるんだよ!」
「木に挟まってる! モモタロス、手を貸して!」
イマジンを倒すことも大事だが、目の前で困っている相手を見過ごすこともできない。たとえ相手が妖精であっても。
その心意気こそが、弱い良太郎を電王として駆り出していた最大にして最強の動力源。
何だかんだ文句を言いながらも、モモタロスもつられて救助に動く。
「しゃあねぇな……おいチビ、今助けてやっから動くんじゃねぇぞ! ……ってコラ!
そこの二人! ダチだろうが、逃げんな!!」
「モモタロス、怖がらせてどうすんのさ……」
そのとき、すでに霊夢とイマジンの戦闘は始まっていた。
札と針、そして蔦が飛び交うその戦場は、まるで変則的な弾幕ごっこのようにも見える。
霊夢対アイビーイマジンの戦いも既に3回目となる今回、着実に札と針はイマジンを追い詰めていた。
「さあ、おとなしく退治されなさい!」
「ぐっ、おのれ……!」
最後の一撃を繰り出そうと霊夢は新たな札を取り出し、意識を集中させる。
今までの戦いで満身創痍となったアイビーイマジンに、霊夢の攻撃を止める術は無い。
「はあああっ!!」
光を帯びた数枚の札が、札にしてはありえない速さでアイビーイマジンめがけて飛ぶ。
だが、札がアイビーイマジンを貫く寸前、札を遮る様に地面から砂が噴出し、実体を得る。
黒いコートに右腕の巨大な爪、左腕のドリル。ヘルメットのような頭に丸メガネのような目。
どことなく、モグラを髣髴とさせる妖怪……いや、モールイマジンがそこにいた。
それも2体。元々彼らは3体以上でチームを組んで活動するイマジンだ。
彼らの妨害により、アイビーイマジンに止めを刺すことはかなわなかった。
「うそっ!? こいつらも意魔人なの!?」
「そうだよ! イマジンだよ!」
「俺達の邪魔する小娘は引っ込んでろよ!」
「どうだ? 一気に形勢逆転だな!」
モールイマジンは下劣な笑い声を上げながら、アイビーイマジンは今までの仕返しとばかりに霊夢へとにじり寄ってくる。
初めはショックを受けた霊夢だが、追い詰められながらもイマジンを睨み返す。博麗の巫女の意地とばかりに。
「……嫌な目だよ。まずその目から潰すよ!」
「そうだそうだ! こんな生意気なクソガキ、やっちまえー!」
霊夢の態度に腹を立てたモールイマジンの爪が、霊夢の頭上に輝く。周りからはやっちまえコールが響く。
相手は集団の似非妖怪。霊夢はあくまでも人間。妖怪と人間の力の差を埋めるべきルールが
存在しない今、決着は血生臭いものになると思われた。
霊夢が目を閉じた瞬間、まばゆい光が周囲を包む。
モールイマジンはモグラをイメージして現出したイマジン。やはり強烈な光には弱いらしい。
「ぐああああっ!?」
「く、くそっ、見えないよ!」
「ぐっ、相方がやられたのはこいつの仕業か!」
目の痛みを訴え、狼狽するイマジン軍団。恐る恐る霊夢が目を開けると、サニーミルクが驚いた顔をして宙に浮いていた。
「妖精が? なんで……」
「ここは私達の森。その森でこれだけ酷い事をするなら、私達だって怒るわよ。
……それにしても驚いたわ、妖怪に私の力が通じるなんて!」
「巫女がどうのこうのじゃなくて、私達がやりたい事をやってるだけよ。いつもどおりにね。
だから今私達を退治しないでよ? 恩着せるわけじゃないけど。
それからサニー、感心してないで少しは私もほめなさいよ。音消してたお陰でこういう真似できたんだから」
異変が起きた時、妖精の力は増幅される。だが、妖精の力の源である自然はイマジンの手で破壊されている。
そのため普段の異変ほど、妖精の力は増していない。つまりか弱い身でありながら、未知の外敵と戦ったのだ。
最も、彼女らの力の源は「光」であるためこの異変が起きても変化が生じるかどうかは定かではない。
「まさか、妖精に助けられるなんてね。よわっちい妖精に助けられるなんて、思いもしなかったわ」
「『弱かったり、運が悪かったり、何も知らなかったとしても、それは何もやらない事の言い訳にはならない』
さっきそこの人間が言ってたわ」
スターが言い終えるや否や、良太郎がモモタロスと並んでやってきた。
「どうやら、俺達の出番はまだ残ってるみてぇだな。ありがとよサンマ! 後は俺達に任せて早く逃げな!」
「モモタロス、サニーだよ。サニー。後は危ないからみんな早く逃げて!」
この時間ではまだ三妖精と良太郎達の面識は薄いのだが、おだてられているサニーは自分の名前が売れていると勘違いしている。
そのため、二人に名前を呼ばれても違和感無く受け入れている。
「私はサンマじゃなくてサニーだってば!
じゃ、後は人間と巫女に任せてとんずらするわよルナ、スター!」
「ルナ、今度は逃げ遅れないようにしないとね」
「む……わかってるわよ」
なけなしの勇気で怪物の出鼻をくじいた妖精は、光とともにその場から消えた。
彼女らが無事に逃げた事を確認すると、良太郎とモモタロスはイマジンを睨みつける。
霊夢も、その隙に良太郎達との合流を果たす。
「霊夢さん、大丈夫?」
「ちょっとでもいつもの異変と同じと思った私が甘かったわ。親玉と戦ってる最中に千客万来過ぎるわよ」
「いいじゃねぇか。そっちの方が面白いぜ。良太郎!」
「うん。モモタロス、行くよ!」
良太郎がデンオウベルトを巻き、バックルの赤いボタンを押す。軽快なミュージックホーンが鳴り響く。
「変身!!」
その掛け声とともに、ライダーパスをバックルにかざす。
モモタロスも手を叩いて気合をいれ、光る球体となって良太郎に取り憑く。
SWORD FORM
光とともに良太郎は電王・プラットフォームへと姿を変える。その上にアーマーが装着され
頭には割れた桃を模した仮面、モモタロスが憑依したことの証である電仮面が装着される。
赤いアーマーを纏い、剣を武器に戦う電王・ソードフォームである。
そして、お決まりの決めポーズ、決め台詞を言い放つ。
『俺、参上!!
……へへっ、やっと決まったぜ。おいボロ服女! こっからは俺にもクライマックスをやらせろよ』
「あんたが何言ってるのかわかんないわよ。それにしてもあんた……本当はものすごい術師?」
「ちょっと特殊な道具が使えるだけの、ただの人間だよ」
「良太郎!? ……へぇ、あんたは憑かれても意識保てるんだ。魔理沙の時はあんなだったのに」
『説明は長くなるしめんどくせぇからパスだ。それじゃ……行くぜ行くぜ行くぜ!!』
イマジンに対し、赤と白、そして赤と黒の二人が挑みかかる。電王も弱弱しい良太郎の戦い方ではなく
剣を用いたモモタロスの荒々しい戦い方をしている。
霊夢もそれにつられるように、お祓い棒を交えた肉弾戦に切り替えている。
「くそっ、せっかく追い詰めたのに逆転されてるよ!」
「こっち3体なのに押されてるよ!」
「ええい、やはり我らでは電王は倒せんか!」
あっという間に追い詰められるイマジン。戦闘形態の電王と幻想郷の守護者を同時に相手にしたのでは分が悪い。
『へへっ、それじゃそろそろ』
「とどめと行こうかしらね」
電王はパスをバックルにかざし、霊夢は懐からスペルカードを取り出す。決着をつける下準備は整った。
FULL CHARGE
宝具「陰陽鬼神玉」
『俺の必殺技、パート2!!』
「はああああっ!!」
デンガッシャーの刃をフリーエネルギーで飛ばし、自在に軌道を操ることのできる電王・ソードフォームの必殺技。
そして陰陽球に霊夢の霊力を集め、一気に放つ霊夢のスペルカード。
赤い光の刃と青白い陰陽球が飛び交う、シュールな光景。
それぞれ全く異なる攻撃だが、同時に繰り出したことで思いもよらぬ効果を生み出した。
空を斬る刃が陰陽球に突き刺さったのだ。これだけ見れば、互いに足を引っ張ってしまったと見えるかもしれない。
「ちょっ……必殺技決めるって時にあんたは何やってるのよ!」
『いいから黙ってみてろ! でやああああっ!!』
だが、電王はその状態のままデンガッシャーを振りかざす。その様子はまるで鎖鉄球だ。
電王が刃の刺さった陰陽球を振り回す度、地面の雪が舞い上がる。横薙ぎで飛んできた陰陽球が三体のイマジンを打ち上げる。
そのまま陰陽球を逆方向に振り回し、宙を舞ったイマジンに直撃させる。
最後に大きく振りかぶり、頭上から陰陽球ごとイマジンは地面に叩き付けられ、爆発し、砂に帰る。
その衝撃で雪が舞い、役目を終えた陰陽球も光を放って消滅する。デンガッシャーの刃も、あるべき位置に戻る。
『ちょっとばかし予定は狂ったが、決まったぜ!』
「あんたやる事も無茶苦茶ね、悪くはないけど……ってあら?」
爆発の後を見つめる電王と霊夢。その電王の手にはいつの間にかカードが握られていた。
宙を舞う赤い刃。その表記はスペルカードのそれにほぼ等しい。
飛剣「俺の必殺技パート2」
「……どうやら、それがあんたの弾幕ってわけね」
『え? 団子?』
「そうそう、里においしいお店が……って違うわよ。弾幕ってのは……」
イマジンも退治し、目的は達成できた。その達成感から他愛も無い会話が生まれ、談笑を交わす。
だが、どこか霊夢の表情は浮かない。彼女が解決してきた異変は、季節感を破壊する程度に危険なものもあったが
基本的に死者の出ない、平和な異変解決だった。ところが今回はどうだ。
美しい木々はなぎ倒され、その下敷きになって消えかけている妖精や虫の息となった動物も少なくない。
雪景色には似つかわしくないほどに火の気が上がり、大暴れの痕跡は今なお消えない。
「……なんか、こうもボロボロになった森を見るとへこむわね。なまじ知ってる風景だからかしらね」
「それなら大丈夫だよ。知ってる風景なら……ほら」
2008年秋(第百二十三期九)
アリスの家から眺める魔法の森の風景も、ずいぶんと変わってしまった。象徴とも言うべき大木は無残にもへし折れ
所々は荒地と化し、かつての美しい風景は影を潜めている。その光景を眺めている妖精も、妖怪も表情はうかない。
「……なんだか、大変な事になっちゃったわね」
「全くね。はぁ……私達の新しい家、探さないと」
明るさだけが取り柄の光の三妖精でさえこのざまだ。
今は魔法の森だけだが、いずれ幻想郷全土にまでこの異変は広がるのだろうか。
だが、そんな考えも杞憂に終わる。それを示すように、雲の切れ目から陽が差し込んでいる。
その光に癒されるように、少しずつ森は元の姿を取り戻していった。
「アリスさん、ルナ、スター、外見て外!」
「何よ一体……ああっ!」
「森が……」
「元に戻っていく……!」
へし折れた木も、草の生い茂る土も、空を舞う妖精も、そして三妖精が住んでいた大木も……
全て、彼女らの記憶に存在し続けている魔法の森の姿を取り戻していた。
2004年4月7日(第百十九季二)
イマジンとの戦いを終え、魔法の森は元に戻った。
霊夢や、魔理沙、アリス、そしてここに住む妖精達の記憶しているとおりに。
「たとえ過去が破壊されても、明日や、明後日、それより先に過去を覚えている人がいれば、過去は消えない。
……本当言うと、こっちの……幻想郷だっけ。こっちでも過去が元に戻るかどうか、確信持てなかったんだけどね」
「よくわかんないけど……妖怪も退治したし、森も元に戻ったし、めでたしめでたし。ってとこかしら」
『ああ。俺も難しいことはわかんねぇが、これでいいじゃんかよ』
この時間で破壊された森も再びあるべき姿を取り戻す。だが、寒波と雪景色までは元には戻らない。
戻ったのは、あくまで2004年4月7日現在の魔法の森の姿。春雪異変の影響を受けた、森の姿。
「それじゃ、後は春を取り戻せば本当のハッピーエンドね!」
意気揚々と霊夢は飛び立とうとするが、電王は動く気配を見せない。それどころか、変身を解いてしまう。
モモタロスも良太郎の体から離れ、まるでこれ以上戦う気が無いようにも見える。
「待って。その……春を取り戻すっての、この日にやったの?」
「え? もう少し先のはずだけど……なんで?」
イマジンが行ったのは過去の破壊。魔法の森が焼き討ちにあったという、存在しない過去の付け足し。
今から霊夢がやろうとしているのは、春雪異変の解決の先取り。
これも、この日付には行われていない。時間をずらし、存在しない過去を付け足している。
異変解決を少し早めるだけ、でもそれがどのような影響を与えるかは計り知れない。
過去を変えるという行為自体、大小どれ程の影響を与えるのか全くの未知数なのだ。
「ごめん。僕達だって、過去を変えちゃいけないんだ。その異変解決は手伝えないし、もしやるなら……」
「……ふぅ。やっぱ、よくわからないけどまぁいいわ。結局春は取り戻せるんだし、今やる必要もそれほど無いわね」
分からないなりに納得する霊夢。春雪異変が解決したことは、現在の霊夢にとって紛れも無い事実なのだ。
たとえこの時間の森が季節外れの雪景色でも、いずれあるべき姿を取り戻す。
それは霊夢も、森に迷い込んだ良太郎も知っている。この時間から未来の魔法の森は、季節感あふれる場所であったから。
「さぁて。やる事やったし、デンライナーに帰るか! ……さっきから寒いんだよ」
「そうだね、風邪引きそうだし帰ろうか」
「そうね、改めてお茶でも貰おうかしら。魔理沙に飲まれちゃったし」
空が虹色に輝き、デンライナーがやって来る。良太郎、霊夢、モモタロスを乗せると
彼らが元いた時間へとデンライナーは出発する。
過去を破壊しようとしたイマジンを追う電王と巫女の電車の旅は、ひとまずの終わりを迎える。
「今の……一体、何だったのかしら」
「これだけ寒いのも異変なのに、あれからさらに変なの沸くし」
「けど、まさか巫女を助けることになるなんて思わなかったわ。ルナも人間に助けられてたし」
帰路に着いた彼らを見送る三人の影。良太郎とモモタロスに助けられた三妖精。
彼女らも、また明日から悪戯三昧の日々を過ごす事になるのだろう。そして……
「あ、そういえばあそこに本置いてきたままだったわ」
「え? じゃあ取りに行かないと……って二人とも、後ろ……」
「げげっ!? 何で巫女がまだここにいるのよ!?」
「人を道に迷わせてる性質の悪い妖精がいるって聞いたのよ。異変解決に行く時に私が道に迷わないようにしないとね」
今三妖精と対峙しているのはこの時間の霊夢。先程三妖精が出会い、力を貸したのは現代の霊夢。
三妖精に、この二人の違いを把握する程度の力は無かった。
この時代の霊夢に、彼女らとの休戦条約は締結されていない。その証拠に霊夢は臨戦態勢をとっている。
「に、逃げるわよ!」
「もちろん! やっぱり巫女は人でなしだわ! 悪魔だわ! 幻想郷の破壊者だわ!」
「あ、待ってよ二人とも! あーん、さっきの二人ももういないし、何でこうなるのよ!」
三妖精にはたまった物ではないかもしれないように見えるが、幻想郷はあるべき姿を取り戻す。
森を覆う雪が溶け、春の訪れを告げる妖精が過ぎ去るのはこれから少し後。
「あら? 私何してたんだっけ……あ、そうそう。本、本。
あ、この本はあの妖精が持ってた本じゃない。本読み妖精なんて珍しいし、持って行ってあげるか。確か……」
それから、本を携えた朱鷺色の羽の少女が妖精と本を読んでいる姿が度々確認できた。
と言う噂話もあったとか無かったとか……
チチチチチチ・・・チッ・・・チッ・・・チッ・・・
次回予告
無事デンライナーに戻る事が出来た良太郎。だが今度は入れ違いになってしまった他のイマジンを探す羽目に。
「え? まだあと3人もいるの!?」
「4人一緒だと目立ちすぎると思ってよ……亀公達どこ行ったんだか」
「いや、1人でも十分目立つぜ……お前ら」
手がかりを得るために、人里へ向かおうとする良太郎達。
だが、博麗神社では予想だにしない異変が起きていた。
「ここに来れば帰れるんじゃなかったのか!?」
「もう妖怪を恐れて暮らす生活はいやだ! 早くここから出してくれ!」
(……そういや、結界の調子がおかしいとは思ってたのよね。こういうのは予想外だけど)
さらに、神社の近くで鬼を見たという噂が広がり……
「だから、俺は鬼じゃねぇっつってんだろうが!!」
「いやぁ。どっからどう見ても鬼ですって。これを鬼じゃないって言ったら、何なんですか?」
「んん? 鬼? 鬼だって!?」
そして……
「探さなきゃいけないって気がする……色々と。俺、大事な事忘れてるって気がするよ」
最終更新:2009年06月30日 02:42