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第六話 鬼符「萃まる夢想」(前編)

2004年4月7日(第百十九季二)。
季節外れの雪が積もる荒れ果てた森の中、蔦の怪物やもぐらの怪物――イマジンと対峙する博麗の巫女。
その隣には割れた桃のような仮面をした赤い鎧の男がいる。季節外れの雪も異変だが
赤い鎧の男が巫女と行動を共にしているのもある意味異変と言えよう。
巫女はスペルカードを構え、赤い鎧の男も黒いカードのようなものをベルトのバックルにかざす。

宝具「陰陽鬼神玉」 / FULL CHARGE

自然豊かであった森とは不釣合いな電子音が鳴り響き、鎧の男が持つ赤い剣が光り、剣先が飛ぶ。
剣先は巫女が繰り出した陰陽球を振り回すように舞い、イマジンを粉砕する。
それが切欠となり、イマジンによって荒れ果てた森は元の季節外れの雪が積もった姿を取り戻す。
これが赤い鎧の男――電王がなすべき事、時の運行の守護である。役目を終えた彼らは
自分達が乗ってきた巨大な白い蛇のような乗り物――デンライナーに乗り、この時代を後にした。

その一部始終を、時間を越えて眺めていた一人の女性がいた。

(……以上が、電王と博麗の巫女による異変解決の全容でございます)
「ご苦労様。でも一つ訂正よ、この異変はまだ始まりに過ぎない。そう、始まりはいつも突然」

デンライナーに乗り込んだ九尾の狐、八雲藍を式として従えている境界の妖怪、八雲紫。
式である藍の目を通して、電王と巫女の戦いぶりを観察していたのだ。
一部始終を見終え、物思いに耽る紫。この結果は、紫にとってイマジンの存在は悩みの種となりうる事を示唆していた。
彼女が思い描く幻想郷を、根底から覆しかねないからだ。
実際、イマジンは平和な決闘方法を知らなかったとはいえ無視し、野蛮な破壊活動を繰り返した。
そんな幻想郷のあり方を、彼女は思い描いていない。

(しかし紫様、この手合いの外来種ならば追い返してしまえばよろしいのでは?)
「それが出来たらもうとっくにやっているわ。藍。霊夢に言っておいて頂戴、『最近、結界の管理がなっていない』とね。
 あとオーナーにもよろしく言っておいて。例の件について」

幻想郷と外の世界を隔てる結界。この結界一つで幻想郷は幻想郷足りえている。
そしてこの結界の管理を一任されているのが代々の博麗の巫女。現代の博麗の巫女である霊夢も決して例外ではない。

(はっ。では紫様、まもなく元の時間に戻りますのでその時にまた)

式と対話するための境界は消え、紫がいたその場には再び静寂が戻る。
紫の見る景色には、それなりに掃除の行き届いた古い神社と、全く手入れのされていない古い神社が映る。
だが手入れのされていない神社の方は、砂の中に消え去ろうとしていた……

(結界の異変、これは霊夢のせいじゃないわね。この原因は……)

東方俺参上 第六話
鬼符「萃まる夢想」

デンライナーの食堂車。時間の旅人達の憩いの場であり、電王と、そのイマジンの根城。
この城の主は、不可思議なコーヒーを淹れることを趣味としている。
静かな時間の中において、一際賑やかな空間。
イマジンとの戦いを終え、帰路に着く電王、そして霊夢ら幻想郷の乗客達。
二人の少女と、異形と、青年のティータイム。九尾の狐は何処に行ったのか、食堂車には見当たらない。

「おかげで異変も解決できたわ、ありがとう電……いえ良太郎さん」
「いや、僕達にとってもイマジンは倒さなきゃいけない相手だから、お礼なんていいよ」
「ちっ、良太郎ばっか褒めやがって俺はスルーかよこのボロ服女。今のはどっちかっつーと俺の活躍なんだからな!」

良太郎……というよりは電王の実力を認め、霊夢は外から来た協力者に礼を述べる。
だが、先刻電王として戦った一番の功労者であるモモタロスはスルーされっぱなしであり
モモタロス自身、相当気に入らない様子だ。

「モモタロス、抑えて抑えて。誰がイマジン倒して異変解決したっていいじゃん」
「よくねぇよ! 良太郎、てめぇからもこのボロ服女に何とか……って何してんだマリモ?
 さっきからベルトとパス睨みやがって、何かついてんのかよ?」

モモタロスの戦う目的が「かっこよく戦う事」である以上、このような不当な評価は
彼にとって腹立たしいことこの上ないのである。だがそんなモモタロスの野次も、霊夢にしてみればそよ風も同じ。
何者にも囚われない巫女の性分は、こんな所でも無駄に発揮されていた。
そんな彼らのやり取りをよそに、説明のためにテーブルの上に置かれたデンオウベルトとライダーパス。
これらをまじまじと見つめる少女の姿がある。魔理沙の悪い蒐集癖がうずき始めているのだ。

「ああ、外の世界には変わった道具があるんだな、って思ってたところだぜ。
 って言うか、まさか妖怪退治までやってるなんて知らなかったぜ。すごいな良太郎!」
「てめぇもかよ、あれは良太郎よりむしろ俺の活躍だっての! 良太郎が何もやってねぇってわけじゃねぇけどよ」
「妖怪退治ったって、みんながみんなやってるわけじゃないけどね。
 それに、モモタロスも言ってるけど僕一人の力じゃないし」

魔理沙は何の変哲も無い、それどころか運がひたすら悪く寧ろ肉体的には弱い人間である
良太郎が道具を使って怪異と戦っている事に興味を抱いた。
彼女が日頃体験している妖怪退治のそれとは大きくかけ離れてこそいるが
好奇心は先ほどから疼き続けている。モモタロスの呼び間違いも意に介さない程に。

「なぁ、それ私でも使えるのか? 使えるんならちょっと貸してくれよ」
「うーん……これデンライナーのパス、これなんだけど。
 これが無いと使えないし、そもそもこれを貸すなんて出来ないよ」

デンオウベルトを使用するためには、ライダーパスが必要不可欠だ。ベルトだけあっても変身は出来ない。
逆に言えば、ある条件を満たしパスさえあればベルトももれなくついてくる。
ベルトはパスの持ち主の気やオーラといったエネルギーで初めて実体化できるからだ。
最も、魔理沙はその条件を満たしていないために変身はどの道出来ないのだが。
そしてパスを他人に譲渡したり、貸与する事は原則認められない。

「そんな事言わずに、減るものでもないしちょっと貸してくれるだけでいいからさ。私が死ぬまでには返すから!」
「ちょっ、使えないし勝手に持っていっちゃ駄目だってば……おわっ」
「どうした良太郎、そんなチビに負けてんじゃねぇぞ!」
「良太郎さん、諦めて頂戴。魔理沙の泥棒まがいの蒐集癖は今に始まったことじゃないから」
「ええええええっ!?」

半ば強引に良太郎のパスを借りようとする魔理沙。それを良太郎は頑なに拒むが、魔理沙も一歩も譲らない。
モモタロスも両者を囃し立てるだけで良太郎を助けようともしない。霊夢も、我関せずとばかりに茶をすすっている。

「良太郎、そのベルトは私がもらったぜ!」
「待って、勝手に決めないでよ! だめ、だめだって、らめぇぇぇぇ!!」

その時、食堂車の扉が開き、一人の少女がやってきた。
見た目は霊夢や魔理沙よりも若干幼い、黒いおかっぱ頭の少女――コハナだ。

「バカモモ! 見てないで何とかしなさい!」

少女の一喝がモモタロスに飛ぶ。その一喝は見た目にはとても釣り合わないほどの迫力を秘めていた。
その証拠に、モモタロスが竦み上がり、魔理沙も霊夢も目を疑っている。
その隙を突いて、良太郎は魔理沙からベルトとパスを取り返すことに何とか成功した。

「おいコハナクソ女、俺の力で無理矢理マリモを引き剥がせってのか?」
「そういう事言ってんじゃないの、良太郎困ってたでしょ!」
「僕は何とか大丈夫だけど……魔理沙さんごめん、でもこれはどうしても渡せないものなんだ」
「そういわれると余計欲しく……や、なんでもねぇぜ」

茶をすすりながらその一部始終を見届けていた霊夢は
赤鬼もどきと口論する少女の姿を見てとある鬼の少女を思い浮かべていた。
魔理沙は魔理沙で、しつこく良太郎からベルトとパスを拝借しようとしたが
少女の気迫に恐縮し、今は引き下がるしかなかった。

「ところで良太郎さん、あの子は? あの魔理沙も引き下がらせるって只者じゃなさそうだけど」
「あの子はハナさん。デンライナーの乗客で、僕のいた時間よりも未来から来たんだ。
 ハナさんはちょっと色々あって、小さくなっちゃったけど本当は僕より少し年上なんだよ」
「あ、自己紹介が遅れてごめんなさい。私はハナって言います」
「ハナクソ女、もしくはコハナクソ女って気軽に呼ん……
 あだっ、親しみやすいようにあだ名教えてやっただけだろうが!」
「人が気に入らないあだ名を勧めるな、バカモモ!」

さっきまでモモタロスと口論を繰り広げていた態度をコロリと変え自己紹介をするハナ。
だがその変わった態度もモモタロスの茶々で一瞬に元に戻ってしまう。
モモタロスに負けず劣らず気性が激しい上、反論や反撃にいちいち真剣さが見え隠れする。
ハナの自己紹介と良太郎の説明を聞いた魔理沙が、素朴な疑問を口にする。

「なぁ、未来の人間って妖怪を素手でぶちのめせるほど強いのか?」
「え? そ、それは……」

この質問にはハナも答えに詰まる。彼女自身は少し変わった特性があるとはいえ本人は
いたって普通の少女のつもりである。結論から言えば、彼女は「かーなーり特別」なのだが。
答えに詰まるハナに、霊夢があてずっぽうで、しかし的確に答える。

「多分、あの子が特別なんでしょ。あの二人仲良さそうだし、類は友を呼ぶって言葉よ」
「なるほど、喧嘩できるほど仲がいいってか」
「げっ、気持ち悪い事言うなよ。俺とハナクソ女がなん……ぐえっ!?」

霊夢本人は適当に答えたつもりだったのに、大正解であった。
ただし、後者の意見は当の二人にしてみればそれこそ「冗談じゃない」意見であった。
片や一時ほどではないとはいえイマジンを極端に憎んでいる少女。片や我が強く乱暴者なイマジン。
モモタロスも態度に明確に出るほど不快感を示していたが、それ以上にハナの怒りが爆発する。
当然、怒りの矛先は……モモタロスだ。

「……冗談言わないでください! 私とこんなバカモモが仲いいだなんて!」
「……だからって何でいちいち俺を殴るんだよハナクソ女!!」
「ちょっと、二人ともやめてよ。お客さんの前だってば……」

「ね、仲いいでしょ?」
「ああ、大体わかったぜ」

喧嘩する二人を止めようと四苦八苦する良太郎だが、霊夢と魔理沙は気にも留めていなかった。
それどころか、その様子を楽しんでさえいる。だが、その決着は意外な形――水入りという形で付く事になった。

「そ~こ~ま~で~です。二人とも、レクリエーションも程ほどにお願いしますよ?」
「す、すみません……」
「うっ、こいつが殴ってく……ごめんなさい」

時の中を走る列車、デンライナーのオーナーに制止される。
モモタロスも一瞬反抗的な態度をとったがすぐに大人しくなる。
デンライナーの中で必要以上に騒げばデンライナーから追い出されてしまう。その事について二人はよく知っていた。
オーナーが乗車拒否のレッドカードを引っさげて出てくれば、引き下がるしかないのだ。

「さて、良太郎君も無事戻ってきたことですし……改めて幻想郷へと出発しましょう。
 では霊夢君。皆さんに幻想郷について教えてあげてください。私が話すよりも説得力がありそうですから」
「何で私が……ってオーナーさんは幻想郷について知っているんですか?」
「も~ち~ろん。古い付き合いの友人も、結構いるんですよ?
 今回は良太郎君を迎えに来た目的もあ~る~のですが、その古い友人に会うためでもあります。
 さ、ナオミ君。皆さんにもコーヒーを。私には、いつものを」
「はーい。そういえば私も幻想郷ってよくわかんないんですよ。霊夢ちゃん、教えてくださいよ!」

一同の期待のまなざしを受け、しぶしぶ幻想郷についてかいつまんで説明する霊夢であった……

少女説明中...

「お、おばけ……妖怪……幽霊……」
「き、肝試しとかには困らなさそうだね……って言うか、妖精や空飛ぶ箒だけじゃないんだ」
「うえぇ、マジかよ」
「わぁ、なんだか素敵な所ですね!」

ナオミのコーヒーを飲みながら、霊夢の説明を聞いた一同。
各々率直な意見を口にするが明らかにナオミの意見だけ浮いている。
幻想郷。人間と、あらゆる物の怪が住まう世界。妖怪はいざ知らずお化け・幽霊の類はハナの最も苦手とするところだ。
それらの区別があまりついていない魔理沙はモモタロスの頭を小突きながら首をかしげる。
反対に、ナオミは目を輝かせて霊夢の話を聞いていた。

「ん? みんなこいつみたいなの相手にしてるんじゃないのか? モモタロス、どう見てもお前が言うな、だぜ」
「そ、そうなんですけど……で、でもそういうのとイマジンとはまた別の代物ですし……」
「そういうこった、妖怪なんぞと一緒にすんじゃねぇ」
「私らから見たら一緒よ。後この場に妖怪いなくてよかったわねモモタロス。今の聞いたらボコボコにされてるわよ」
「……聞こえてたぞ」

モモタロスの背後から女性の声が響き渡る。霊夢、魔理沙、コハナのようなまだ幼さのある声ではなく
ナオミのようなハイテンションな声でもない。さっきまでこの場にいなかった九尾の狐、八雲藍の声だ。

「げっ、いたのかよキツネ女」
「ああ、言い忘れてました。藍君はその古い友人の使いで、わざわざデンライナーまで来てくださったのです。
 みなさん、あ~ま~り不躾な態度はとらないでくださいよ?」
「ところで支配人、紫様のおっしゃっていた件だが……」
「わ~か~りました、我々としてもその件を放置しておくわけには参りませんからねぇ。
 こちらでも、手配させていただきますよ」

出されたチャーハンの頂上に刺された旗を倒さぬよう気をつけながらオーナーが睨みを利かせる。
九尾の狐はメッセンジャーとしてデンライナーに乗り込んでいたらしく
オーナーに主の言伝を伝えると一礼してどこかに消えてしまう。

「オーナーさん、もしかしてその友人ってのは……どこかから突然出てきたりしません?」
「おや。最近会ってないので知りませんでしたが、その様子ですと意外と人間とも友好的なようですねぇ、彼女も」
(やっぱりあいつか……一体どういう交友関係もってるのよあいつは)

その一方で霊夢は今の言葉でオーナーの古い付き合いであるらしい友人を特定してしまった。
彼女自身も交流のある、あの妖怪しか心当たりが無い。

「ところで……あなた達はこれで自由に外の世界に出られるみたいね。返す手間が省けて助かるわ」
「返すって……俺たちゃ迷子かっつーの」
「僕は迷子で間違いないと思うよ。だって気づいたら幻想郷にいたわけだし」
「そうなのよね、デンライナーでトンネルに入ったら突然良太郎いないんだもの。びっくりもするわよ」

ハナが言うには、良太郎はデンライナーで移動中、突然幻想郷に迷い込んだとの事。
霊夢は一人、だが確実な心当たりを思い浮かべていた。犯人はあいつか、と。
オーナーとの交友といい、良太郎にかけたと思しきちょっかいといい。

「そんな状態で私に驚くでもなく、よくあそこまではっきり意識持ってられたな。感心するぜ」
「実は最初のほう、夢だと思ってたけどね。落っこちて夢じゃないってすぐわかったけど」

魔理沙は魔理沙で「ここからあの大木の上に飛んできたのか」と納得し、あの時の様を思い出し笑いしている。

「そうだ、帰る前に良太郎さん。『意魔人』はまだ幻想郷にいるのかしら?
 あいつら放っておくと危なっかしそうだから早めに手を打っておきたいんだけど」
「いるぜ。俺の他に3人な。スケベガメ・クマ公・ハナタレ小僧だ」
「ウラちゃんにキンタロちゃん、リュウちゃんですね!」

霊夢の疑問、「イマジンはまだいるのか?」それはあっさりと答えが出た。モモタロス曰く、まだあと3人も。

「なにそれ?」
「僕達の味方だよ。ウラタロス、キンタロス、リュウタロス。今までごたごたしてて聞けなかったけど
 モモタロス、みんなどこにいるの? デンライナーにはいないみたいだけど」
「あー……それなんだがよ。まず良太郎、お前がここにいるってオーナーのおっさんから聞いて
 慌ててデンライナーをこっちにまわしてよ。俺ら4人でお前を探そうとしたんだが
 4人一緒だと目立ちすぎるって事でよ……」
「私も行きたかったんだけど、オーナーに止められて……」
「ハナ君がやられてしまっては元も子もありませんからねぇ。少しばかり裏目に出てしまいましたが」
「でもハナさんなら大丈夫そうですけどね、いつもモモタロちゃんやっつけてるみたいにすればきっと大丈夫ですよ」

珍しく歯切れの悪いモモタロス。良太郎捜索のために動いていたのは間違いないのだが
4人とも好き勝手に行動していた、と取れる発言である。
彼ら4人は皆一様に考えて行動するよりもノリで行動するタイプだ。皆好き勝手に行動していても全くおかしくは無い。
人を襲う妖怪を警戒し、ハナを同行させなかった事がそれに拍車をかけてしまっていた。

「それにしてもあんたねぇ……良太郎見つけたんならウラ達にも知らせなさいよ」
「そうは言うがよ、良太郎見つける前にマリモに間違えて憑いちまうし、見つけた後でも
 イマジンは過去に飛ぶしで実際あいつらと連絡取るどころじゃなかったんだよ」

彼らの良太郎捜索方法は、確かに手っ取り早く見つけるには的確と言えるのだが
地理がわからない場所ではミイラ取りがミイラになりそうな、危険な方法だった。
それでも無事良太郎と合流できたのだが、残り3人とも合流できなければ意味が無い。
各々が今も勝手な行動を取っていると思うと、ハナは頭を抱える。
現にモモタロスは魔理沙に取り憑くという失態を犯した。完全にモモタロスのせいではないとはいえ。

「あんた他人に取り憑いたの!? ごめんなさい魔理沙さん、このバカモモがご迷惑をおかけして……」
「ああ、私は別に体中が痛い事とまずいコーヒーを無理矢理飲まされそうになった事以外あまり覚えてないぜ。
 だから気にするなよモモタロス。あと私はマリモじゃなくて魔理沙だぜ」
「へいへい悪かったなマリモ(チッ、てめぇがぶつかってきたからああなったんだろうが)」

イマジンが憑依した人間の、憑依されている間の記憶は基本的に無い。
魔理沙の「あまり覚えていない」も、嘘偽りの無い言葉だ。
モモタロスも他人の体を勝手に使う、という件に関しては前科があるため反省はしている。
原因が魔理沙の側にもあるため理不尽さも同時に覚えてはいるが
思いっきり態度に出ていたため案の定ハナの制裁を受ける。

「態度が悪い! ちゃんと謝る!」
「まぁそこまで言わなくてもいいぜ。これはこれで貴重な体験……ろくに覚えてないのが悔しいところだけど。
 私もお前も良太郎も無事ならそれでいいと思うぜ?」
「駄目よ魔理沙さん、このバカモモは甘やかすとすぐ付け上がるんだから」

だが、当の魔理沙はその言葉に反し全く意に介してはいない。その一方できちんと謝らせようとするコハナ。
モモタロスの意見を半ば無視しながら二人の意見は堂々巡りを続けていた。
さすがに見ていた霊夢も飽きたのか、良太郎に話題を振る。

「良太郎さん、さっき話してたのが仲間なら連絡を取る方法はあるのかしら?
 外の世界には『けいたいでんわ』ってのがあるじゃない。ここで使えるのかどうか知らないけど」
「あ、それならあるよ。うってつけなのが」

良太郎自身も携帯電話を持っているが、仲間のイマジンとの対話にはさらに優れた携帯電話がある。
ケータロス。通常の携帯電話としてだけではなく、電王に別の力を与えることも可能なアイテム。
これを使えば、離れた場所にいるイマジンとの連絡も可能……なのだが。

「あ……あれ?」
「やっぱり駄目か。良太郎さん、言い忘れてたけど幻想郷じゃ『けいたいでんわ』は使えないのよ」
「いや、そうじゃなくて……あれ?」

幻想郷には携帯電話の基地局が存在しない。故に携帯電話による連絡は不可能だ。
ケータロスに基地局という概念があるかどうかは定かではないが
良太郎が懸念しているのは通話の可否では無い、もっと原始的な部分であった。

「な……ない、ケータロスがない!!」
「おい良太郎、大声出してどうし……ってはぁぁぁぁ!?」

電王の戦力にとっても重要な要素であるため、良太郎としても持ち歩いていたはずのケータロス。それが無い。
考えられるのは幻想郷に来た際、どこかに落とした事。

「良太郎、ケータロスが無いってどういうことだよ!?」
「無いんだよ、持ってたはずなのに!」
「魔理沙、あんたまさか……!」
「し、知らないぜ! 私だって良太郎がそんなの持ってたなんて今初めて知ったんだぜ!
 ところで良太郎。けーたろす……って、何なんだ?」

真っ先に魔理沙に疑いの目を向ける霊夢。だが良太郎は魔理沙の前でケータロスを取り出していないため
魔理沙も良太郎がケータロスを持っていたことを知らない。そもそもケータロスという名前自体聞いたことが無い。

「まぁ、携帯電話みたいなもの……かな」
「ああ、けいたいでんわなら知ってるぜ。しょぼい弾幕程度にしか役に立たないやつだろ」
「その使い方、多分間違ってると思います……」

通話のできない携帯電話など、ただの小さな軽い金属の塊である。投げて当たればちょっと痛い。
たとえ使い方として間違っていたとしても、本来の使い方ができない以上は別の使い方を模索せざるを得ない。
その使い方が、かけ離れているどころかその道具の寿命を縮める使い方であったとしても。

「ふむ。あ~れ~自体に電王に変身したり、時の列車への乗車権利が無いとはいえ……厄介なことになりましたよ」
「これでウラ達に連絡とる方法が無くなっちゃったわけね……」
(絶対見つけなきゃ……ウラタロス達も、ケータロスも!)

先ほどの大声や騒ぎでチャーハンの旗が倒れてしまい、食事を中断していたオーナーがその重い口を開く。
ケータロスにパスに相当する機能が無いとは言え、電王という機密の塊だ。そこから情報が漏れ、悪用されないとも限らない。
緊迫した空気が流れ始めた車内に、ナオミのアナウンスが響き渡る。元の時間に戻ってきた証だ。

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最終更新:2010年01月03日 03:16
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