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第3話 会符「ガール・ミーツ・イマジン」

光の三妖精が棲む大木の家。その窓を突き破って緑色をした蔦の塊のようなものが飛び出してきた。
それは蔦の塊のようでありながら、人の形をしているようにも見えた。
手足、らしきものが確認できたからである。手らしき部分に何かを持っているようにも見えた。

「蔦の妖怪!? けどこんな妖怪、見たことも聞いたことも無いわね……」
いち早く蔦の塊を目視した青い妖精、スターサファイアが感想を漏らす。
彼女ら光の三妖精も悪戯目的であちこち出回っており、比較的多くの妖怪を目にしているが、この蔦の妖怪は初めて見るタイプであった。
その妖怪の外見もさることながら、それ以上に蔦の妖怪が手らしき部分に携えているものに驚きを隠せなかったのは赤い妖精、サニーミルク。

「あーっ! あれは私達が拾ったやつ! 返せドロボー!」
この幻想郷には様々な物が流れ着いてくる。古くなった代物や、曰くつきの物等等。
この蔦の妖怪が携えているそれ――星条旗も、何らかの要因でここに流れ着いた物である。
一説にはかつてある国が月面着陸に成功した暁に立てたものが、何らかの要因でここに流れ着いた……とも言われているが、真偽は定かではない。

「妖精の家に泥棒に入るとは、随分暇な妖怪ね」
妖怪のやることじゃない、と言わんばかりの嫌味を言うのは白い妖精、ルナチャイルド。
力関係では妖怪のほうが遥かに上であり、泥棒に入るよりも脅して奪い取ったほうが早い。
だが、そんな事はこの妖怪も知っていたらしい。

「挨拶をしようと思ったのだが留守だったのでな、勝手に上がらせてもらった。
 それよりお前達、妖精だな? お前達が盗んだ物を奪い返す。それが俺とあいつとの契約だ」

その証拠に、蔦に覆われた彼女ら三妖精の家の中。その床に落ちているルナチャイルドが読んでいたゴシップ新聞。
一面記事には巨大な赤目の白蛇の記事が、さらにめくって三面記事にはこう記されていた。

「連続通り魔事件まだ続く――被害者は全て妖精、犯人は一体!?」
「謎の妖怪『意魔人(いまじん)』の秘密に迫る! 上白沢慧音独占インタビュー!」


東方俺参上 第三話
会符「ガール・ミーツ・イマジン」

魔法の森から少し離れた場所に神社がある。幻想郷を一望出来、普通の人間ならば
到底たどり着けないような場所にあるこの神社こそ、幻想郷の要とも言える博麗神社である。
この滅多に人の訪れない、だが人間、特に外来人にとっては最も安全なこの神社を一人で
支えている少女がいる。彼女こそ幻想郷の異変を解決し
平穏を保つ使命を背負った博麗の巫女、博麗霊夢その人である。

だがそんな重役にもかかわらず、彼女の日常は境内の掃除
お茶を飲みつつ縁側で日向ぼっこ、滅多に来ない参拝客
……の落とす賽銭を待ちわびる、と言ったおおよそ緊張感とは縁の無い日常である。
異変が解決されるおよそ数刻前でもこれは変わらない。本来、幻想郷の異変はその程度の物であることが大半である。
勿論、自分から異変に関する情報を集めに人里を訪れたり、等と言う事も稀にあるか無いか程度だ。
殆どの異変の元凶をその場のノリ、行き当たりばったりで見つけているのは
神に仕える巫女ならではの荒業だろうか。あの外来人の青年には到底真似できない。

この「犬も歩けば棒にあたる」ならぬ「巫女も飛べば元凶に出会う」手法は
霊夢の強運のお陰と言われているが、裏を返せば「飛べば必ず異変に出くわす」とも取れる。
その事例に例外の無い事は、今これから証明されようとしていた。

「たまには、森の周りで空の散歩でもしてみようかしら」
何者にも縛られること無く空を気ままに飛び、自分の心のままに往く。博麗霊夢とはそういう少女である。
魔法の森上空を飛ぼう、と言うのもただの気まぐれ。当然、今その場所で起きているちょっとした異変のことなど、彼女は知らない。
図らずも、今異変解決の切り札が場に出ることになる。


(この方角……あの赤いの、やっぱり良太郎を食うつもりか)
一方、魔法の森。大木からは少し離れた場所。赤い異形はなおも走り続けていた。
彼こそが、良太郎と共に戦い、電王として時間を守りぬいたイマジン――モモタロスである。
モモタロスは一直線に走り続ける。だが風向きはさらに変わり、思わず立ち止まる。
もしモモタロスが後ろからの追跡者に気づいていれば、こんな迂闊な行動はとらなかっただろう。


「この臭い方、複数いやがるな。ちっ、良太郎探しに来たはずがイマジン退治かよ……あん?」
とにかく近い方へと走ろうとした矢先。今急に立ち止まったことが原因で
後ろから来る追跡者にとっても思いがけない事故が起こることとなってしまう。
追跡者は猛スピードで空から迫っていた。そして、距離を詰めるために高度を下げた。スピードは落とさずに。
追跡者にとってみれば、この程度の空中コントロールなど朝飯前だったのだ。……対象が急に止まりさえしなければ。
こうなれば結果はひとつしかない。突然止まった追跡対象。猛スピードで迫る追跡者。ブレーキなど間に合わない。

「急に止まるな、おい、どけ、動け! 動かないとぶつかる! 私がぶつかる!」

ドンッ!! ズサァァッ!!

『いつつ……な、何だぁ!?』
不意にモモタロスは突き飛ばされてしまい、そのまま地面に激突してしまう。
モモタロスもこんな事態は予測しておらず不意打ちで相当なダメージを受けたようにも見える。
しかしそのダメージは、おそらく物理的な意味以外で、後々響いてくる結果となるだろう……
それでも起き上がり、周囲を見渡すが辺りには誰もいない。おそらくぶつかって来たであろう追跡者でさえも。

『バカヤロウ! どこ見て……って当て逃げかよ、クソッ!』
ぶつかってきた相手にヤキを入れたいのは山々だが、今はイマジンの追跡だ。
モモタロスはしぶしぶ、臭いの近い方角へと再び走り始めた。

だが、モモタロスは気づいていない。
突然、周囲の木が急激に高くなったこと。
走る感覚が妙に重くなっていること。
そして、己の姿が野上良太郎のイメージした「桃太郎」の「赤鬼」ではなく
幻想郷に住む普通の魔法使い「霧雨魔理沙」と呼ばれる少女のものになっていることに。

さらにその上空。今度は巫女が飛んでいる。だが彼女は先刻までの追跡者と違い
猛スピードというほどの速さで飛んでいるわけでもなく、何かに流されるかのようにふよふよと飛んでいた。
しかしその視線は、彼女のよく知る少女の姿を的確に捉えていた。


「あら? 魔理沙が箒に乗らないどころか、走って移動するなんて珍しいわね」
彼女のよく知る魔法使いの少女は、これが常識だと言わんばかりに箒を移動手段としている。
だが遠目に映る少女は、飛ぶどころか自分は飛べませんといわんばかりに走っている。
彼女が隠れて色々やっている事は話に聞く程度には知っている。
異変でもないので勝手にさせていたが、これは明らかに毛色が違う。
今の魔理沙の行動は、明らかに普段の彼女とは異なる行動だから。

(異変の前触れ? とにかくちょっとつついてみる必要がありそうね)
不信感を抱きつつも、それでいて普段どおりに空を飛びながら、霊夢は魔理沙と思しき少女を追いかけることにした。

三妖精の棲む大木。その根元では、大木に棲む光の三妖精と幻想郷では見慣れない蔦の妖怪がにらみ合っていた。
だが、明らかに妖精の側は見た目でも気迫でも負けている。
そこに大木に絡まった蔦や木の根で転びながらこの幻想郷に迷い込んだ青年、野上良太郎が駆けつける。
その時、この蔦の妖怪に目等の表情を推し量るものは見当たらないが
明らかに動揺した声を上げる。そしてそれは、良太郎も同様だった。

「い、イマジン……!?」
「なっ、貴様電王か! 何故ここに!?」
明らかに何らかの因縁が存在することを示す二人。三妖精もこれにはまたしても驚きを隠せない。
はじめから幻想郷にいる霧雨魔理沙、そして博麗の巫女ならば妖怪との面識があってもおかしくないが
この野上良太郎は妖怪などいないとされる外の世界の人間だ。

「君には関係ないよ。でも、もし君が過去に飛んで悪さをするんなら、見逃すつもりは無い」
「そうは行くか。こっちはお望みの物が手に入ったんだ。貴様の相手などしていられるか」
イマジンと呼ばれたこの蔦の妖怪――アイビーイマジン。イマジンは任意の人物と契約を交わす。
その契約とは望みを叶える代わりに望みを叶えた人物の過去を奪う。
過去を奪われれば、その過去は「無かったこと」になり、現在、果ては未来まで変わってしまう。それがイマジンの目的である。

中にはモモタロスのように目的などお構いなしに好き放題な者もいるが。
だが、これで驚いているのは何度目だという突っ込みをする暇さえ与えられず
穏やかな顔から険しい顔へと変わった良太郎から三妖精は逃げるように促される。
だが、それよりも早くアイビーイマジンが走り去ってしまう。
蔦の妖怪でありながら、両足はしっかりと存在しているため歩く事も走る事も可能なのだ。
イマジンは契約を果たし過去へ飛ぶことが最大の目的なので
逃走する方が効率的ならばいくらでも逃げる。破壊活動は、今でなくとも行えるから。


「過去に飛ばれる前に倒す……! ここは僕に任せて、君達は早く逃げて!」
「「え? え? え???」」
(あれ? 気配が……まだこのあたりに?)
スター一人が気配を探る能力ゆえに不安を抱えるが、言われるがままに逃げる三妖精。
だが彼女らは案外暢気な物で「良太郎がもしかしたらあの妖怪を本当に退治できるかもしれない」と浮き足立っていた。
それは確かに間違いではない。なのだが……
良太郎が懐から黒い札のようなものを取り出そうとしたその時。

「変身などさせん!」
大木に絡まっていた蔦が動き出し、またもう一体の蔦の妖怪へと変貌した。二体に分裂していたのだ。
確かに、かつて良太郎――電王は、この蔦の妖怪――アイビーイマジンと戦った。
複数体に分かれるという特性も、一部のイマジンが所有している特殊な能力だ。
だが、かつて戦ったアイビーイマジンに、そのような特性は無かった。そのこともあってか、アイビーイマジンの不意打ちは成功し
良太郎は黒い札のようなものを落としてしまう。

「知っているぞ。貴様は変身できなければどうということは無い。おまけに貴様のイマジンもいないようだしな!」
「ぐっ、ううっ……!!」
良太郎の弱点を熟知しているかのように蔦で締め上げるイマジン。
良太郎には、彼に協力するイマジンがいる。彼らの力を借りることにより
普段の弱い良太郎とはまったく違う能力を発揮することができる。だが、今は呼び出すことができない。
呼び出さなくとも、ピンチにならずとも勝手に飛び出して来る位の勢いを持っているのが良太郎のイマジン。だが一向に出てくる気配が無い。

(もしかして良太郎って……弱い!?)
離れた場所から姿を隠し、音を消して様子を見守っていた三妖精。
だが、意気揚々と飛び出した良太郎があっさりと負けている様を見せ付けられ、絶望していた。
良太郎は確かに弱いが、何の変哲も無い一般人より若干弱い程度の強さである。
つまり、彼女らがよく知る人間、霧雨魔理沙などが人間にしては強すぎるのだ。

(でも私達でも勝てないよ、あんな妖怪。唯一勝てる可能性のある弾幕ごっこだって通じないみたいだし……)
おまけに、蔦の妖怪は明らかに幻想郷の決闘儀式――スペルカードルールを無視している。無視している、というよりも知らないのだが。
これは良太郎も同様である。だが彼女らは、最初良太郎が取り出した黒い札のようなものこそが、良太郎の持つスペルカードと誤認してしまったのである。
当然、外の世界の人間である良太郎が幻想郷の決闘儀式のルールについてなど知っているはずが無い。
それでも良太郎が当初自分の常識で幻想郷の物事を推し量ったように、彼女らも自分の常識で物事を推し量ったに過ぎない。


一方、魔理沙を追っていた霊夢は後ろが騒がしい事に気づく。
その一点だけ、妙に蔦植物が生い茂っているのだ。
上空からではわかりにくいのだが、そこでは星条旗を携えたアイビーイマジンが暴れていたのだ。

「何なんだ貴様ら、邪魔をするな!」
蔦で片っ端から妖精を叩き落していくアイビーイマジン。彼にとってみれば退路の確保なのだが
幻想郷の住人にしてみればこれだけでも異常事態である。
妖精にしてみれば、ほんの些細な悪戯に過ぎなかったのだから。
だが、その些細な悪戯にさえも過剰に暴力的に反応するのがイマジン。
これはイマジンの特性とも言え、願いを叶える際にも節々に見受けられる。

「サッカーのレギュラー選手になりたい」という願いならば、「ほかのレギュラーを痛めつける」事で叶えようとし
「失せものを見つけ出したい」という願いならば「契約者を半殺しにしてでも無理やりそこいらの穴を掘らせる」事で叶えようとする。
ひどい時には「思い出を消したい」という願いを「思い出の曲を消したい」と曲解し、「その曲を流すものを消す」事で叶えようとした事さえある。

最も、イマジンがやろうとしている「逃走」を「足止め」されているわけなので
手法は違えどイマジンでなくとも多少の実力行使に出る部分は仕方ないのかもしれないが。
それでも、方法が悪かったのだ。そしてさらに運の悪いことに、幻想郷を守る彼女に見つかってしまったのだ。

「はいそこまで。あんたも妖怪なら、妖精の悪戯如きで腹立てないの。……その前に私が退治するけどね」
霊夢は至って普通に妖怪に接するように接した。だがイマジンの側にしてみれば「何言ってんだ、ふざけるな!」という心境である。
イマジンの標的が妖精から霊夢に向いたことで、痛めつけられていた妖精は蜘蛛の子を散らすように退散した。にらみ合う霊夢とイマジン。

互いに誤解を抱いたままのファーストコンタクトである。霊夢はイマジンをただの妖怪と勘違いし。
イマジンは霊夢をただの少女と勘違いし。互いに、簡単に捻りつぶせると思っていたのだ。
イマジンも、霊夢も相手を倒すことに躊躇は無い。だが最悪な事に、霊夢が持っているのはあくまでスペルカード。
「妖怪退治」の道具であり、イマジンに通用するかどうかは定かではない。そもそも、霊夢もイマジンと戦うのは初めてだ。

(けれど、妙に砂っぽい妖怪ね……見たことも無い姿だし。ま、何とかなるでしょ)


「ちょうどいい。どの道電王は邪魔な存在だ、今ここで亡き者としてくれる!」
(あっ、良太郎が!)
締め上げる力をさらに強くするアイビーイマジン。今まさに目の前の妖怪は人間を殺そうとしていた。
悪戯で人間が死ぬ遠因を作ったことはあるが実際に目の前で人が死ぬところをサニーとスターは見たことが無い。
夜出歩く事の多いルナは、夜に人間が妖怪に襲われるところを目撃したことはある。
だがまだ日が高いこの時間に、人間が妖怪に殺される場面など出くわしたことが無い。
好奇心旺盛な、けれど気の弱い妖精には刺激の強すぎる殺人ショーは、突然の乱入によって幕を閉じた。
アイビーイマジンの背後に黒い小さな陰が蹴りを入れたのだ。

『随分調子に乗ってるじゃねぇか、この蔦野郎!』
「え……え?」
アイビーイマジンに背後から蹴りを入れ、良太郎を助けたその人物。
それはついさっき箒に乗ってどこへとも無く飛び去ってしまった霧雨魔理沙、その人だった。

だが、明らかに雰囲気が違う。魔理沙は普段から活発な印象を与える少女だが
今の彼女はそれを明らかに超えている。活発と言うよりも野性的、粗暴ささえ感じられる。
そして髪型。ややくせのある髪の毛を三つ編みにしていたが、今の彼女はまるで威嚇をする猫のように逆立っている。
そして、瞳は燃えるように赤く染まっている。普段の黒に近い茶色、金髪にはそぐわない日本人的な瞳の色とは明らかにかけ離れている。
そして、今の魔理沙自身に異変が起きていることは、次の一言、そしてポーズが決定的な証拠となった。

『俺、参上!』

チチチチチチ・・・チッ・・・チッ・・・チッ・・・




次回予告

『な、何じゃこりゃあ!?』
普通の魔法使いが、普通ではなくなった瞬間

「これが……魔理沙……!?」
その豹変ぶりは、少女を知る者の記憶さえ揺るがす
記憶を揺るがす、それこそが幻想郷に入り込んだ異形の目的でもあった

「契約完了だ……」

過去を奪う異形に、博麗の巫女と電王が立ち向かう?

『良太郎! イマジン倒すのは俺らの役目だろ!』
「モモタロス、早く出なよ……」

次回
憑変「変色マスタースパーク」






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最終更新:2009年04月16日 01:45
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