アットウィキロゴ

東方携帯獣

「あら……? チルノ、そのボールどうしたの?」

 境内の掃き掃除をしていた私は、空中にふわふわと浮かんでいたチルノを見つけると、掃除の手を休めてチルノに声をかける。
 別にチルノに用があったわけでは無いが、なんとなくチルノが持っていたボールが気になったのだ。
 私の巫女服と同じ、紅白の色彩のボール。

「いいでしょ、500円で人間から買ったのよ!」
「500円!? ちょっとチルノ、ぼったくられてない、それ!?」

 チルノの能力は、太陽がさんさんと輝く夏場に結構重宝する。
 かくいう私も、氷を出してもらったり涼ませてもらったりして、お礼として極々たまにお駄賃をあげているのだけれど。
 500円という金額は、そのお駄賃を百回分近く貯めてようやく手が届く金額だ。
 何の変哲も無いボールの代金としては、あまりに不適当な……。

「…………霊夢、言っとくけどケチなアンタがあんまりくれないだけで、魔理沙とかはもっとちゃんとしたお金をくれてるからね」
「……うるさいわね。こういうことは金額より気持ちが大切なのよ。
 それに、どちらにしてもそのボールが500円もするなんて思えないわ。騙されたんじゃないの?」
「ふふん、馬鹿ね霊夢は!」
「な、なんですって!?」

 くう、馬鹿に馬鹿呼ばわりされるなんて。この上無い屈辱だわ……。

「このボールはただのボールじゃないのよ! よーく見てなさい!」

 チルノが腕を大きく振りかぶって、ボールを投げる。
 一瞬身構えたものの、ボールは私狙いでは無いようで、真っ直ぐに地面に向かって落ちていき、そして――

 ボンッ! という音とともに二つに割れ、ボールの中から何かが飛び出した。
 不可思議なことに、その飛び出したものはあの小さなボールに入っていたとは思えないほどに大きく、
私がその光景に呆気に取られているうちに、神社の石畳の上に着地した。
 いや、着地と言うよりは、墜落と言った方が正しいのかもしれない。
 だって、ボールから飛び出してきたそいつは――

「……鯉?」

 鯉だった。
 それも、ここが陸上である以上当たり前のことだが、物凄い勢いで弱っていっている。
 しかし、チルノはそんな鯉を指差して誇らしげに無い胸を張り、私の言葉を否定する。ああ、久々に鯉こくが食べたい。

「違う、こいつは鯉じゃないわ」
「鯉じゃない」
「鯉じゃないわ」
「鯉なんでしょ?」
「だーかーら! 鯉じゃないんだってば! もういいわ、『コイキング』! あんたの力、見せてやりなさい!」

 …………『コイキング』?
 突然、地面の上でピチピチしていた鯉の目に、光が灯る。
死んだ魚のようであった鯉の瞳が、今はしっかりと空を見据えている。


「な、何事……?」
「いきなさい、コイキング! 『はねる』よ!」

 瞬間。
 鯉は、空を舞っていた。
 チルノの指示通りに、跳ねて空中に飛び上がっていた。
 私の頭を悠々と越し、空中に浮かぶチルノの体も越えて、更に更に上へと。

「うふふふ、見た、霊夢? こいつの名前はコイキング。最強のあたいにふさわしい、最強のポケットモンスターよ」
「ポケット……モンスター?」
「こいつを売った親父が言ってたの。外から来た人間らしいんだけど、外にはこいつみたいなやつらがいっぱいいるらしいわ。
 そして、その中でも一番珍しく、一番最強なポケットモンスター……そいつが、このコイキングなのよ!」

 ……成程、外の生き物なのね、あいつ。道理で妖怪にしては見たことの無いやつだと思った。

「……………………」
「ふふん、どうしたの霊夢? あたいたちのあまりの最強っぷりに言葉も出ない?」

 あたいたちの、ってあんたはなんにもしてないでしょうが。そう突っ込みたかったけれど、ぐっと堪える。
 代わりに、チルノの後方を指差して、チルノに伝える。

「……で、その最強さん、いい加減にしまってあげた方がいいんじゃない?」
「え!?」

 私の言葉に、チルノが後ろを振り向く。
 私の指の先には、遥か上空から落下した痛みで、じたばたと苦しみ悶えるコイキングの姿があった。

「あああああああああああっ!?」
「あんな高いところから落ちたらそりゃ痛いでしょう。ほら、私はまだ掃除があるんだから早いとこあいつを連れて帰りなさい」

 慌てて、再びコイキングを紅白のボール(モンスターボールと言うらしい)の中に戻すチルノ。
 便利なボールだなあ、と内心私が思っていると、チルノが舌を出しながら叫んだ。

「れーむ! この借りは絶対かえしてやるんだからね!」

 ……私、何もしてないわよね?
 反論しようとしたけれど、意外と素早いあの妖精は、一瞬の隙に私の視界から姿を消していた。

「はあ……どうして私の神社にはろくな参拝客がこないのかしら」

 ……疲れた。もう日も沈みそうだし、残りはまた明日にしよう。とっておきのお茶もあることだし。
 そう決めて箒を片づけて、私は神社の中に入る。

 魔理沙が、お茶を飲んでいた。







「…………紫様。何故、彼らが幻想郷に? 彼らは別に忘れ去られていない、
それどころか、むしろ彼らが忘れ去られる日が来ること自体、私には想像がつかないのですが」

「ええ、あなたの言う通り、『種』そのものがここに来ることは有り得ないわ。それこそ、未来永劫ね。
 けれど、今の人間達は、いにしえより彼らが自分達と対等な存在であったことを忘れている。
 ひたすらに強さを求め、少しでも強い存在を産み出そうとしている。他者に勝つためにね」

「……………………」

「性格が嫌。生まれもった力が弱い。育成途中の事故。そんな理由で彼らを捨て去り、
 時には存在そのものをなかったことにして、そこまでして強さを追求した。
 そんなこんなで、彼らは今、此処にいるのよ。多分、彼らは今後さらに増えていくでしょうね」

「……………………」

「そんな顔をしなくても大丈夫よ。
 いざ異変となったら、彼女達を動かせばいい。そのための準備は、すでに済ませてあるわ」

「……………………」

「幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは残酷なこと、ね。
 ほら、そんな顔をしている暇があったら、とっとと夕食を作りなさい。有事に備えて、早く食べて早く寝たいのよ」

「………………はい、紫様」

「いい返事よ、藍」






ポケットモンスターが幻想入り――東方携帯獣――


「あ、霊夢。ご飯おかわり頼むぜ」
「はあ……こいつを入れられるボールが欲しい」
「ん、なんか言ったか?」
「なんでもないわ」



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年03月28日 15:06
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。