本編26~31

『月と大地の邂逅』-2

 作者・シャドームーン

26

謎の飛行物体が雲を突き抜け、富士上空に姿を現して行く。
それは奇怪な生物のようであり、機械の要塞のようでもあった。
太古より宇宙に災厄を齎し続けて来た邪悪な生命体の巣窟――
巨大機械獣母艦・フォッグマザーが今再びこの星の大地を侵そうとしていた。


フォッグマザー内部***


フォッグ「生まれ出でよ…銀河宇宙を支配する我がフォッグマザーの
 申し子たち…歓喜の産声を上げて!!」

ここは怪物達の奥の院。不気味に脈打つ有機物と無機物類で
装飾された部屋の壁の上部に、人面のレリーフらしきオブジェがあり、
そこから女性と思しき「声」を発していた。そのレリーフの前には、
白い衣服を纏った三人の男女が並んでいる…

ガライ「フォッグマザー…例のオトコが近くまで来ているそうです」
ズー「あのオトコがシャドームーン…? クスクス…そうは見えけど」
アギト「ああ。この星に繁殖している脆い生物達と、どう違うというのだ」
フォッグ「ゴルゴムの世紀王を侮ってはなりませんよ王子…
 シャドームーンは世紀王候補のアナタにとって最大の脅威となるでしょう。
 ですが――…今は確かに不完全です…よろしいですね?」
ガライ「…おおせのままに、マザーよ」

奇妙な気品を漂わせるガライと呼ばれた長身の男が、傍らに立っている女に
合図のような仕草を行う。その女は美貌とは裏腹に冷酷な笑みを浮かべ、
優雅な足取りで部屋から出て行った―――

フォッグ「シャドームーン…あの男にだけは決して負けてはなりません。
 王子、あなたが次期創世王として君臨する日を楽しみにしていますよ」
ガライ「お任せくださいマザー。貴女の憂いは必ず取り除いて御覧に入れます。
 そして一日も早く…Gショッカーを統べる偉大なマザーとなられる事を……」
アギト「時に此度の生贄だが…相応しい生物を見つけておいた」
ガライ「ほう? どれ…」

三人のうち最年長と思しき初老の男が、部屋の中心に置かれた台を指差す。
台といっても勿論、この部屋の装飾に合わせて特注したかのような、奇怪で
グロテスクな形をしてはいるが……。台の中心部には、花壇に水をかけている
あの牧場にいた少女の姿が映し出されていた。

ガライ「うむ、生贄として申し分のない生物のようだ…任せるぞアギト」
アギト「…あァ…すぐに捕獲してくる」

初老の男は踵を返すと、獰猛な肉食獣のような目つきとなり、
およそ人間とは思えぬ速さで駆け出して行った。

27

富士の樹海***


秋月信彦は己の中に宿る、超常の五感を頼りに森を進んでいた。
いや…「突き動かされて」と言うべきなのかもしれない。
すでに周囲の景色は、鬱蒼と生い茂る木々に覆われ、日中であるにも
関わらず頭上からの光は遮られている…不気味な程の静寂が青年の
息遣いと足音だけに反応している。まるで命ある者全てが活動を停止
したかのように、辺りには生物の息吹きの欠片も感じられない。
感じるのは唯一つ―――…

おそらく自分だけが感知できる魑魅魍魎の咆哮。
それが確実に近づいている…いや、すでに“奴ら”の領域内のようだ。

信彦「ケダモノめ……姿を見せたらどうだ」
怪物「――餌ガイルゾ オレタチノ餌ダ…グゲゲゲゲ!!」

鋭い叫び声が飛びすさった。澱んだ大気を伝わって、
その叫び声は無数の魔物達を呼び集める。

怪物「…餌ダ、餌ダ 食ワセロ…食わせろオオオオオ!!!」

この星の生命という生命を食らい尽くすまで、宴をやめぬ悪鬼共が、
飢えた叫び声を上げ森の木々の間から一目散に集まって来る。
その光景はさながらこの世の地獄の様相を呈しており、この青年が
何処にでもいる「普通の若者」ならすでに正気を失っていただろう。
しかし彼は普通の若者とは決定的に異なっていた。

こんな悪夢そのものが具現化したような光景を目の当たりにしても、
恐怖などという感情は彼には微塵も湧いて来ないのだ。
それは「狩る側」の動物が獲物に囲まれようと微動だにしないのと近い……
青年――秋月信彦は「地獄」の渦中へと自ら足を踏み入れる。

信彦「私を食いたいか。愚かなことを―――」

なんだ…? 体の奥底から滾って来るこのドス黒い衝動は……
俺はこいつらを不快だと感じているのか…
身の程を弁えず、我が前に……立ち塞がるこいつらを…………

蜂女ズー「ハハハハ……アーーハハハハハ!」
信彦「――!!」

28

突然冷たい女の笑い声が周囲に木霊する。
木々の間から、何本もの赤い帯が飛び出し彼の身体を縛った。
それは生きているかのように四肢に絡みつき、締め上げた。

見上げると、怪物達の頭上に白い衣服を纏った女が浮かんでいる。
女の唇がニヤリと笑いに歪み、その顔が異形の者へと変貌していく。
やがて女は巨大な雀蜂を思わせる目と羽、そして毒々しい縞模様に
全身を覆われた怪人、蜂女へと変わり果てた。

蜂女ズー「さぁお前達…思う存分こいつを貪り、飢えを満たすがいい。
 だけどウフフ…こいつの中にある月の石は食べるんじゃないよ。
 あの石はガライに…私達の王子に捧げるんだから。クスクス…」
信彦「俺の中にある…月の石だと…?」
蜂女ズー「アハハハ! そうよ…オマエにはもう必要ないでしょう?
 今のオマエはそこいらにいくらでもいる、ニンゲンのオトコと一緒…
 ニンゲンって可愛い生物よねぇ…脆くてすぐに壊れるの。
 これから私達の儀式が始まるわ…ウフフ、またたくさん壊れるでしょうね」
信彦「儀式…ではさしずめ俺はその生贄というわけか」
蜂女ズー「いいえ、生贄はもっと若い生物をフォッグマザーがお望みだわ。
 オマエは私達の王子にとって邪魔な存在…だから始末するのよ。
 シャドームーンになれない今の内にね…ウフフフフ…」
信彦「シャドー…ムーン…ち、違う…俺は…っ!!」
蜂女ズー「そうアナタはシャドームーン。でも今は脆い生物。
 アーーハハハハハハハハハ…おやりッ!!!」

蜂女の冷酷な笑い声が樹海に木霊し、無数の異形達が飛び掛った。
生々しく飛び散る鮮血、赤く血に染まった人肉、死に際の生への執着に
満ち満ちた生命エネルギーは、彼らにとってどんなにか甘美な味がするだろう。

その魔物たちの甘やかな期待を…凄絶なる“力”が、微塵に打ち砕いた。
空を、大地を震わせて、青年の体から迸る蒼い閃光は怪物の数体を吹き飛ばし、
光を浴びた魔物は青白い炎に包まれ砕け散った。
文字通り「消滅」したのである。後には、白い粉しか残っていない………

恐怖が、地を這う異形達に充満した。

怪物「グゲゲゲ…オウダ オウノチカラダ…ゲ…ゲ…ゲ…」

じわじわと、怪物共が後ずさる。

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蜂女ズー「そ、そんなハズは! …うっ?」

蜂女の呪縛を破り、信彦はすでに怪人の頭上へ跳躍していた。
そして蜂女の頭に付いている翅の片方を力任せに毟り取る。

蜂女ズー「ギャァァァァッ!!」

バランスを崩し、蜂女は近くの巨木に激突して地面に転がる。
翅を千切られ悶える怪人を…青年は冷ややかに見下ろしていた。

信彦「人間が脆いと言ったな…だが、俺にとってはお前らも
 同じようだが…? 何だこの力は…何故こんな力が出せるのだ…」

銀の戦士「お前は改造人間の王として君臨する栄光の男だからだ」

秋月信彦の眼前に、あの夢に出て来る銀の戦士が立っている。
もはや幻覚なのかどうかさえ定かでないが、“そいつ”が己の中にいる
もう一人の自分自身だという事だけは理解できた。

銀の戦士「私を受け入れろ…そして小賢しい羽虫共を殲滅するのだ。
 憎むがいい。呪うがいい。お前の前を飛び交う虫ケラは全て抹殺しろ…
 そして今度こそ掴み取るのだ…次期創世王の座をな!!」

信彦「お前を受け入れろだと…断る。そうすればまた、俺はあいつと…
 俺は人間だ! お前を受け入れるくらいなら、このまま人として死を選ぶ!」

銀の戦士「フフフ…嘘はいかんな。私はお前なのだぞ……?
 お前にはこの黄泉帰りし魂で成さねばならぬ事があるのではないか…?
 こんなところで下衆共を相手に果てるというのか…?
 …私が、そしてお前が。殺さねばならぬ男をお前はよく知っているはずだ。
 その男の名は―――仮面ライダーBLACK、南光太郎!!」

信彦「!!…仮面ライダー…光太郎…そうだ。あの黒い戦士、あの男は…」

銀の戦士「そうだ。奴を葬るのはお前であり、この私だ!
 …それに信彦よ。このままではあの少女も危ないようだぞ…クククク…」

信彦「何…!? あの子だけは…あの兄妹だけは―――
 もう二度と…奪わせはしない!!」

凄まじい閃光が、樹海の闇を劈き、眩い光が広がっていく。
轟音と共に地響きが大地を揺るがし……その光がやがて消えていった。

そこに―――世紀王シャドームーンは立っていた。
緑色の複眼を備える銀のマスク。額には三つのセンサーが不規則に点滅している。
西洋の騎士を想起させる白銀の強化皮膚に覆われた体。腹部には黒い装甲で
覆われたベルトがあり、その中心部には蒼く輝く月の石、キングストーンが煌く。

―ガシャン…ッ
無機質な金属音を鳴らし、白銀の戦士が周囲の怪物共を見回し告げた。

シャドームーン「我が名は…世紀王シャドームーン…!! 」
怪物「キキィッ ゲッゲッ グゲゲゲゲッ…」

恐怖と畏怖の念がないまぜになって、辺りを支配している。

シャドームーン「このキングストーンを奪うと言ったか。
 貴様ら風情が取れるものなら、取ってみるがいい…」

全身から漲る闘気。ゆらりと一歩、影の王子は足を踏み出した。
蜘蛛の子を散らして、異形の者達は逃げ惑う。

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フォッグマザー内部***


フォッグ「…ギ…アアアアア!!  く、苦しい~…っ!」
ガライ「マザー!?」
フォッグ「おのれシャドームーン……覚醒したか…私をここまで苦しめる
 この力は、まさか…あの大地の精霊エネルギーと同じ…うっ…グウウウウ!!」
ガライ「マザー!!……チィィィィ、許さんぞ…元は下等な生物の分際で!
 ご安心下さいマザー。貴女のその苦しみ、すぐにこのガライが消し去って
 御覧に入れましょう。」


富士山麓付近***


一方その頃―――
かつて地空人によって仮面ライダーJに生まれ変わったカメラマン・瀬川耕司は、
軋み始めた空と大地の声に耳を傾け、各地で頻発する不可思議な現象を
独自に調査して各地を旅していた。

その中には、死んだの人間が突然目の前に現れるという奇妙な報告もあった…
過去にフォッグマザーと知られざる激戦を繰り広げた彼は、この富士一帯に
覚えのある邪悪な波動を察知し、足を踏み入れたのである。

耕司「大地が鳴いている…地球の生命が、救いを求めている!
 このところ世界各地で怪奇現象の報告が後を絶たない……
 あの時と同じだ。地空人が俺に発したテレパシーでは、
 倒したはずのフォッグマザーが復活したと告げていた。くそっ!
 今頃なんでまた、あいつらが生き返って来たんだ……!?
 だが俺は地球の叫びを無視するわけにはいかない。
 もう一度フォッグの侵略から地球の生命を守ってみせる!!」

シャドウ「――ならすぐに麓の牧場に急ぐことだな」
耕司「―…!? 何者だっ!」

一陣の風と共に、巨大なスペードのキングが目の前に現れ、
トランプカードの裏側からジェネラルシャドウが出現した。

シャドウ「お前が大地の精霊の力、Jパワーを宿す仮面ライダーJか。
 俺はGショッカーのジェネラルシャドウ。お見知りおき願おう…」
耕司「Gショッカー! 地空人が俺に警告した新たな脅威とは、お前達の事だな。
 倒したはずのフォッグマザーを復活させたのもお前らの仕業か!」
シャドウ「さぁな。それは俺には分かりかねる」
耕司「……?」
シャドウ「そんな事より…いいのかねライダーJ。俺のトランプ占いによれば、
 間も無くこの付近の人間達に魔の手が伸びようとしているのだが。
 フォッグマザーは大孵化に向け、再び無垢な少女を生贄にするそうだぞ?」
耕司「なんだと!!まさか…あの女の子が狙われているのか!?」
シャドウ「ほう、すでに会っていたのかね」
耕司「ここへ来る途中、奇妙な程に生命力の輝きに満ちた花畑に出会った…
 あの子は銀色の人がそこで寝ていたからだと言っていたが…」

シャドウ「…フッ……。(銀色の…クククなるほど、そういう事か…)
 なら急いで駆け付けねば、何もかも死に絶える事になるぞ…
 その少女も、花も、虫も、それを育んでいる土もな…」
耕司「待てっ! ゼネラルシャドーとか言ったな… 
 何故、わざわざ俺に知らせてくれたんだ?」
シャドウ「まるで人質でもとるようなやり方は、どうにも気に食わん性分でね…
 俺はGショッカーに属してはいるが、勝手気ままにやらせてもらってるのでな。
 むしろフォッグの面々は、俺の仕事の邪魔になっている…と言うべきかな…フフ」
耕司「組織の一員なのに、勝手気まま…? 顔と一緒で変な奴だなあ」
シャドウ「クッ…! 顔の事は余計だっ。 ああ、それから……
 俺の名はジェネラルシャドウだッッ!! ゼネラルシャドーではなーい!!
 まったく…イントネーションに気をつけてくれたまえ。ではごきげんよう」

再び一陣の風が通り過ぎたかと思うと、舞い上がるトランプを残して
白い改造魔人は消えて行った。

耕司「……悪の組織にも、いろんな奴がいるもんだ。
 おっと、急がなくては… ジェイクロッサー!!」

瀬川耕司は傍らに停車していたオフロードバイクのアクセルに手を掛けた。
彼の腹部から精霊エネルギー・Jパワーが輝きを放ち始める。
するとバイクはバッタを模したようなフロントカウルを持つ「ジェイクロッサー」へ
と姿を変え、山麓の牧場に向かって疾走して行った。


△秋月信彦→眠ってた世紀王の人格がついに覚醒。しかし、心の奥底には…。
○瀬川耕司→柴田茜を救う為、牧場に向かう
●ジェネラルシャドウ→本人の美学から瀬川耕司に少女の危機を告げる。
●フォッグマザー→シャドームーンにJパワーと近しいものを感じ苦しむ。
●ガライ王子→シャドームーン抹殺に自ら出撃。
●蜂女ズー→覚醒したシャドームーンの覇気に戦慄する。
●トカゲ男アギト→大孵化の儀式に必要な生贄として、柴田茜に目をつける。

31

【今回の新規登場】
○瀬川耕司=仮面ライダーJ(仮面ライダーJ)
自然を愛する心を持つ、フリーカメラマン。以前は野鳥を中心に全国の山や森で取材していた。
フォッグマザー襲来の折、生贄に選ばれた少女・木村加那を守ろうとして命を落とす。
地空人と呼ばれる地底に生きる民の手で蘇生改造手術を施され、 大地の精霊エネルギー
「Jパワー」を宿す戦士・仮面ライダーJとして生まれ変わった。その名が示す通り、40メートルの
巨人へと変身する力を持つ。フォッグ撃滅後は元通りカメラマンとしての生活に戻っていたが、
地空人より新たな脅威が地球に迫りつつある事を告げられ、個人的に世界各地で起き始め
ている怪現象を調査していた。

●フォッグマザー(仮面ライダーJ)
太古から宇宙に災厄を齎し続けている邪悪な生命体。
巨大機械獣母艦フォッグマザーの深奥部に醜悪な本体が潜んでいる。
内部には無数の怪物達の卵を宿し、大孵化を行ってその星の生物を食らい尽くす。
大地のパワーで巨大化した仮面ライダーJのライダーキックで滅ぼされ、母艦もろとも
爆発四散した。「黄泉帰り」後にGショッカー闇女王同盟に参画している。
フォッグの王子ガライを次期創世王に推しており、 それが成就した暁にはGショッカーの
偉大なるマザーとして君臨する日を夢見ている。次期創世王の証の一つ「月の石」を持つ
シャドームーンを一番の邪魔者と見做しており、覚醒前の秋月信彦の闇討ちを計画する。

●コブラ男ガライ(仮面ライダーJ)
フォッグマザーが生み出した怪物軍団の王子。「自分以外の生物は皆すぐに壊れる」
と評し、冷酷で残忍な性格。仲間の死にすら表情一つ変えることはない。
世紀王候補としてバトルファイトを勝ち抜き、フォッグマザーを支配者に据えるのが望み。
シャドームーンには異様な敵対心を持っている(?)

●蜂女ズー(仮面ライダーJ)
フォッグマザーが生み出した怪物軍団幹部格の一人。ガライ同様に冷酷な性格で
人間の命など塵同然と見做している。王子には忠誠心が厚く、人間の女性に近い
淡い感情を抱いていたような側面もある。
先に孵化したばかりの怪物達を率い、秋月信彦を襲撃するが……。

●トカゲ男アギト(仮面ライダーJ)
フォッグマザーが生み出した怪物軍団幹部格の一人。人間体は初老の男風であり、
密かにマドーのガイラー将軍に容姿が似ていると噂されている。
3人の中では一番怪物の本性を前面に曝け出しやすい性格のようだ。
瀬川耕司を崖下に突き落として殺害した張本人でもある。
生贄の儀式のために柴田茜を狙う。

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最終更新:2020年10月29日 09:56