『月と大地の邂逅』-3
作者・シャドームーン
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富士の樹海***
「ギシャアアア…ァァ!!」
人や動物のものではない、異質な悲鳴が樹海に響き渡る。
ほんの数分前までここは彼らにとって御馳走にありつける楽園のはずであった。
ところが今は、獲物であるはずの相手によって虐殺の宴が開かれている。
白銀の戦士が振るう破壊の閃光――「シャドービーム」は逃げ惑う怪物共を
次々と蒼炎に包み込み、一匹、二匹、数匹、数十匹と抹殺して行く。
それはもはや、一方的な殺戮の様相を呈していた。
ガシャンッ… ガシャン…ッ
この世ならざる者達の奏でる阿鼻叫喚の断末魔――――
それらが全て消え、再び静寂が辺りに訪れた時、無機質な金属音だけが
樹海に響き渡る。頭上の茂みの隙間から、僅かに差し込む陽光が
緑色の複眼に反射し、エメラルドグリーンの輝きを放っている。
影の王子は、眼前に立ち尽くす女怪人を見据えて冷ややかに語りかけた。
シャドームーン「どうした、蜂女…―――怖気づいたのか…?
ならば服従せよ、怪人。…我が下僕共よ!!!」
ずしりと、重い声が響く。
ズー「う…っ? ア…ア…シャ、ドームーン…様…!?」
シャドームーンのマイティアイを直視してしまった蜂女は、
虚ろな表情を浮かべ膝から崩れ落ちそうになるが…
なんとか踏み止まり、ギィィッと下唇を噛み締めた。
蜂女ズー「クッ…! 私達の王子はガライだけよ!
オ…、オ、オマエの思い通りには…ならない…!!」
世紀王の呪縛を拒絶した蜂女は、気力を振り絞り片方の翅で
空中高く舞い上がった。そして両手を眼下に突き出し、
エネルギー弾・パームニードルを連射する。
シャドームーン「死を選ぶか……」
シャドームーンは両肘のエルボートリガーを合わせ、赤い刀身を湛える
剣を二本出現させ両手に構えた。二刀の魔剣、シャドーセイバーが
降り注ぐパームニードルを弾き返し、周囲の木々に命中して爆発して行く。
防戦しながら緑のマイティアイで連射の隙を解析していた影の王子は、
ニードルの雨が止まった瞬間を狙い左手に持つ短剣を飛ばした。
蜂女ズー「ギャァッ!!」
高速で飛ぶ短いシャドーセイバーが、蜂女の腹部を突き破った。
女怪人は貫れた腹から火花を噴出させ、方向感覚を失った羽虫のように
悶え苦しむ。そして錐揉みしながら地面に激突し、力無く横たわった…
シャドームーン「…他愛のない。命など脆いものだ…人も、魔も。
命…? 私が以前見たことのある命とは、もっと輝きに満ちていた
ような気がする……何故だ……」
刹那、影の王子の脳裏にはいくつかの顔がフラッシュバックしていた。
その中で憎悪と親しみを同時に感じる男と、一番最近に見たことが
あるような少女の顔が、何かを彼に訴えかけていた。
しかしその声は、殺気を放つ何者かの気配で掻き消される。
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ガライ「オマエがセイキオウ・シャドームーンか。目障りな生物め」
シャドームーンは機械音と共に顔を上げ、殺気を向けて来た
敵を見据える。蜂女ズーの人間体と同じく、白い衣服を纏った長身の男。
フォッグマザーの慈愛を一身に受けて生まれ出でた怪物達の頂点に立つ者、
コブラ男ガライ王子は地面に横たわる瀕死の女怪人の傍へ降り立つ。
蜂女ズー「…ガ…ラ…イ…」
息も絶え絶えに、その女怪人は愛しげに己の王子の名を呼んだ。
次の瞬間、全身が蒼い炎に包まれ、先程の怪物達同様に消滅した。
白煙を上げる消炭と化した彼女を見て、ガライは首を捻った。
ガライ「――また、壊れたか。オマエはナゼ壊れない?」
フォッグの王子は、同族の死に表情一つ変える事もなく、
まるで関心が無いといった素振りで銀の戦士に鋭い眼差しを向ける。
シャドームーン「…教えてやろう。何故なら体内に蒼く輝く月の石を持つ、
この世紀王シャドームーンこそが、完全なる生命体だからだ」
ガライ「完全ナル生命体…次期創世王になるのはこのワタシだ!!
そして全宇宙を母なるフォッグマザーに捧げるノダ…グオオオ―ッ」
男の顔がグニャリと歪み、怪人に相応しい姿へと変貌を遂げる。
白い強化皮膚の鱗に覆われた怪人・コブラ男ガライが全身から禍々しい
殺気を放ち、澱みきった鈍い空気を切り裂くかのようである。
ガライ「セイキオウ・コウホにもうオマエなど必要ないノダ。ワタシこそがその
キングストーンを持つに相応しい生物…死ねッ、シャドームーン!!!」
シャドームーン「貴様如き醜い怪人が、次期創世王だと…フフフフフ…
器以上の物を欲する者は身を滅ぼす…ではフォッグマザーとやらには、
このシャドームーンが相応しい末路をくれてやろう。来るがいい」
△シャドームーン→蜂女ズーを葬り、続いてガライと対決。
●蜂女ズー→シャドームーンに倒される
●コブラ男ガライ→フォッグの王子の誇りをかけてシャドームーンに勝負を挑む。
最終更新:2020年10月29日 09:59