『月と大地の邂逅』-6
作者・シャドームーン
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必殺のJライダーキックの前に砕け散るサーベルダブラー。
立ち上る爆炎を背に、巨人となった仮面ライダーJは、ゆっくりと着地の体勢から
体を起こして辺りに目を配る。魔女キバは形勢不利を悟ってか、逸早く姿を
消していた。ほどなく、仮面ライダーJの体が光を放ち、元の大きさに戻っていく。
全ての精霊エネルギーを集結させる巨人変身は、強力無比な必殺技を
繰り出せる半面、パワーの消耗が激しいのだ。
ライダーJ「やれやれ、逃げ足の早い婆さんだな…ん? あれは―!!」
ライダーは此処から少し離れた場所に広がる、樹海の異常に気づいた。
森の中心部を刳り貫くようにできたクレーター、そこに生物とも機械ともつかぬ、
異様な要塞が鎮座しているのだ。「それ」が何なのか、彼にはすぐに分かった。
ライダーJ「フォッグマザー! あの中に茜ちゃんがっ!! …!?」
突如、彼の腹部にある「コア」――が共鳴を起こし始める。
全く同じ現象が、先程あの樹海内で起きていた事を彼には知るよしもなかったが、
大地の戦士としての本能がこの共鳴を呼び起こした者の存在を察知していた…
ライダーJ「…凄まじいパワーとパワーのぶつかり合いをフォッグ母艦内
から感じる…あの中で誰かが戦っているのか…一体、誰が??」
――しかし今は、一刻も早く少女を救い出すことが先決である。
彼は愛車ジェイクロッサーのアクセルを吹かし、機械獣母艦フォッグマザー
に進路を向けてマシンを発進させた。
◇ ◇
魔女キバ「行きおったか…どうやらこれで、フォッグマザーの
命運も決まったようじゃな」
サンドルバ「キバ! 無事だったか」
疾走して行くジェイクロッサーを憎々しげに見つめる魔女キバ。
その前に、魔法のような術で突然厳つい甲冑を纏った男が現れた。
ドン・ホラーの実子にして彼女の溺愛する息子、サンドルバその人である。
魔女キバ「おお、倅や…すまんのう、生意気な仮面ライダーの小童めが、
こともあろうに掟破りの巨大化をしおったせいで…大事な宝を手に入れ
損ねてしもうたわ。…で、そっちの首尾はどうじゃった、ん?」
サンドルバ「うむ。あの小娘はキバの言う通りフォッグマザーに献上したが……
本当にあんな餓鬼がシャドームーンの弱点になるというのか?
フォッグの連中に奴を襲わせ、共倒れを期待して月の石を頂くつもりだったが…
影の王子は噂以上に手強いぞ、キバよ。忌々しいが、全く隙がない」
魔女キバ「キヒヒ…わしの睨んだ通りなら、あのシャドームーンがいかに強かろうと
必ずあの娘を見れば動揺するじゃろうて。後はフォッグマザーの頑張り次第じゃが…
大地の石を持っとるボウヤもあちらへ向かった今、おそらく勝負は見えたのう」
サンドルバ「奴を行かせていいのか? キバよ」
魔女キバ「あ~ほっとけほっとけ。わしらがそこまで協力してやる義理はない。
生贄に必要な娘を届けてやったんじゃから充分じゃ。それに結果的にお前の
邪魔者の一人、ガライ王子を始末できたからのう…ギヒヒヒ!
後はシャドームーンがやられるか、フォッグマザーが滅びるか…どっちに転んでも
わしらに損はない。影の王子もフォッグもよっく働いてくれたわ…エ~ヘェヘヘ」
サンドルバ「それもそうだな。 これで我々マクーの邪魔となる勢力が一つ
消えるわけだし、父上にも喜んで頂けるだろう。ウワハハハハ!」
魔女キバ「なんせGショッカーには世紀王候補が掃いて捨てる程おるからのう。
こうやってココ(頭)を使いながら、目の上のたんこぶを潰していくのが賢い者の
やり方じゃ。 キングストーンを奪取できなんだのは口惜しいが、
この成果には“あの御方”もご満悦のはず…ま、いづれは消えてもらわねば
ならんがの。キヒヒヒ…」
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シャドウ「是非とも、その御方の名をお聞かせ願いたいですな…」
魔女キバ「だ、誰じゃ!?」
サンドルバ「うぬっ、これは…姿を見せろシャドウ!!」
満足のいく結果にほくそ笑むマクー親子の前に、何処からともなく
トランプが舞い飛び、ジェネルシャドウが姿を現した。
サンドルバ「貴様ァ… 盗み聞きかッ!!」
シャドウ「フン。Gショッカーの覇権を巡り、日夜策謀にお励みの方々に
比べれば可愛いものよ…しかし気に入りませんな、この私まで欺くとは…」
ジェネラルシャドウは二人に背を向け、腰のサーベルの柄に右手を添えて
軽く揺らしながら、淡々と言葉を発しているが……
その一言一言には刺すような殺気が込められていた。
魔女キバ「チィィ、“はぐれデルザー”の分際で無礼じゃぞ!!」
サンドルバ「俺は日頃から、貴様の慇懃無礼なもの言いが癇に障っていた!
文句があるなら此処で相手になってやるぞシャドウ!!」
シャドウ「私が貴方と戦う? 世紀王候補でもない俺が、わざわざ貴方と?
ククク…ご冗談を。そんな無益な決闘をするつもりはありませんよ」
サンドルバ「ハッハッハ! 怖気づいたか!!」
シャドウ「フッ…まぁ何とでも言えばよろしかろう。それより、サンドルバ殿の母君…
先程仰られていた、あの御方とは何方様のことですかな?
失礼ながら、幾らフォッグマザー様がゴルゴムの影の王子に激しい敵意を持って
いたとはいえ、貴女の企みに易々乗るとは思えませんのでね…相当な有力者の
入れ知恵でもなければ、こんな軽挙に及ぶとは考えにくいのです…」
魔女キバ「(ギクッ …こやつ…!)」
サンドルバ「……………」
魔女キバ「キヒヒ…な、何のことやらさっぱり分からんのう。それにお主のような、
いつ裏切るか分からんような輩に、教えることなぞ何も無いわ!」
シャドウ「ま…いいでしょう。組織間のいざこざなど私にはどうでもいいこと…
…唯一つだけ忠告しておこう…俺のプライドを悪戯に汚さんことだ…!!」
静かに、しかし重く響く白い改造魔人の言霊。
紳士的な物腰ではあるが、ジェネラルシャドウの透明なフードの奥にある瞳は、
凄みを帯びた迫力で二人を見据えている―――――――
サンドルバ「ヌゥゥ~ッ、貴様ァ!!」
魔女キバ「かまうでないサンドルバ。わしらの用は済んだ、引き揚げるぞい…」
サンドルバ「ちっ…おぼえておれよシャドウ。いづれ貴様もこの槍の錆にしてやる!!」
魔女キバが呪文を唱え終わる頃には、親子の姿は消えていた。
シャドウ「クックック…何とも呆れた醜さよ。憶えておけだと…
バカめ、貴様らなど俺の眼中に無い! 俺が再びこの世に舞い戻った
目的は唯一つ―――仮面ライダーストロンガー、城茂を殺すことのみよ…
さて、向こうも決着が着く頃合か…トランプフェイド!」
再び宙にはトランプが舞い散ったが、やがて消えて行った―――
○瀬川耕司/仮面ライダーJ→樹海に着陸した要塞フオッグマザーに向かう。
●魔女キバ→撤退
●サンドルバ→撤退
●ジェネラルシャドウ→決着を見届け、本来の「仕事」を果たすべくフォッグマザーに向かう。
【今回の新規登場】
●サンドルバ(宇宙刑事ギャバン)
マクーの首領ドン・ホラーの実の息子。マクーのプリンスゆえに我侭である。
まさに親の威光をかさに威張り散らすタイプで、部下の評判はあまり良くない。
しかし武芸の腕前は確かで、槍を駆使してギャバンと互角に渡り合う。
武者修行の旅からマクー城に戻ると、早々にハンターキラーを失脚追放に
追い込み幹部の座を独占した。しかし度重なる失敗とあまりの放蕩ぶりに
父ホラーに愛想を尽かされ、マクー城追放を言い渡されたこともあった……。
最終更新:2020年10月29日 10:04