本編59~64

『月と大地の邂逅』-7

 作者・シャドームーン

59

フォッグマザー深奥部***



シャドームーンに襲い掛かった怪物の一団が、細切れの肉片と
化して飛び散る。すでに床には数十体の怪物が屍を晒していた。
異様な臭気と煙が屍骸から立ち上る部屋で、魔物達を産み落と
した者と、“彼女”の愛しい者達を残骸に変えた者が対峙している。

フォッグ「おのれぇぇ~よくも私の可愛い子供達を!!」

影の王子は各部の駆動音を響かせ、ゆっくりと部屋の主に歩み寄る。
血の色の剣が、鈍い空気を裂いて掲げられた。

シャドームーン「貴様がケダモノ共の母親というわけか…」

シャドーセイバーの刀身が、赤い光を纏い始める。
彼は女の声を発している人面のオブジェに狙いを定め、居合い抜きの
ような動作で剣を抜き放った。半月型の赤いエネルギー波が部屋の
中央を直撃し、オブジェ諸共爆発音を響かせ砕け散った。
崩れた壁のさらに奥から、醜悪なフォッグマザーの本体が姿を現す。

シャドームーン「…チェック・メイトだ、女狐」
フォッグ「ギィィィ…ッ!!」
フォッグマザーとシャドームーンが対峙している部屋の真下―――
そこは生贄の儀式の間。誕生を待つ無数の怪物達の卵の中心に、
鳥篭のような檻がぶら下げられている…
中には生贄に選ばれた少女、柴田茜が囚われていた。

フォッグ「こうなれば…せめて残った子供達に私の最後の力を与え、
 今すぐにこの星の全ての餌共を食らい尽くしてやるわ!!
 生まれ出でよフォッグマザーの申し子達!! 今こそ、大孵化の時!!」

女王の胎内である母艦の「血管」を通じて、急速に注ぎ込まれた
エネルギーを得た卵達が一斉に孵化を始めた。
あっという間に部屋中が、 寝床から這い出して来た怪物の群れに
埋め尽くされ、その集団は我先にと生贄が入った檻に群がって行く。
耳を劈くような悪鬼達 の飢えた叫びに、少女は目を覚ました。

茜「…ううん…。……!  き、きゃあああ―っ!!
 パパー! お兄ちゃーん!!」

救いを求めるその声は、狂宴に歓喜する者達の雄叫びにより掻き消され、
虚しく響くだけであった。泣き叫ぶ少女が入っている檻を、怪物達の集団

が引き裂き始める。彼女はあらんばかりの声を上げて自分の兄に救いを求めた。

茜「お兄ちゃぁーんっ 怖いよー怖いよぉーー! お兄ちゃーんっ!!!」
シャドームーン「――…ッ!」


シャドームーンの超感覚器官に、階下から聞こえる少女の叫びが届く。
自分の兄を呼ぶ少女の声に、もう一つ異なる声が影の王子には聞こえていた……
人では無くなってからも、過去の記憶を全て失ってからも―――
いつも夢で彼を呼んでいた声。耳を傾けようとしても、別の夢によって消えて行く声…
それが今だけは、はっきりと聞くことができた。

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克美の声「信彦さん…私…」
杏子の声「だめっ! そこにいるのはお兄ちゃんなんかじゃない、ゴルゴムなのよ!」
RXの声「自分の目的の為なら、目の前で泣き叫ぶ子供を見殺しにする…
 そこまで落ちてしまったのかシャドームーン!! 俺はお前を…ッ 許さん!!」

いくつもの声が、現れては消えて行く。世紀王の闘争本能と、
秋月信彦として過ごした人の記憶が彼の中で反発を起こしていた。

シャドームーン「くっ…消えろ……ッ !」

突然、何かに憑かれたように苦しむ影の王子。
その隙をフォッグマザーは見逃していなかった。脈打つ「肉の壁」から
生えている醜悪な本体が、大蛇のように体を伸ばしてシャドームーン
に襲い掛かかった。さしもの彼も無防備状態を直撃され、背後の壁に
強烈に叩き付けられてしまう。両手に握られていたシャドーセイバーが、
激突の衝撃で床に転がり落ちていった。

シャドームーン「ぐぉ…っ」
フォッグ「アハハハ、愚かな王子よ…戦闘中に気をとられるとは!」
シャドームーン「チ、女狐が…」

さらに怒れる女王の猛攻が続く。シャドームーンがめり込んでいる壁が、
不気味に隆起しながら彼を喰らうように飲み込み始めた。
銀と黒の強化皮膚が負荷に反発して軋み、音を立てる。

フォッグ「ウフフフ…お前程の強大なエネルギーを持つ餌を、
 私の胎内で融合捕食すれば、新しいガライを生み出せる!!  
 お前の月の石を我が王子に与えてなぁ…!!」
シャドームーン「フン…バケモノが、世紀王を餌呼ばわりか」

????「…目覚めよ、目覚めるのだ…
 シャドームーンよ――…」

勝ち誇るフォッグマザーの高笑いが、ピタリと止まった。
今この部屋にいる彼らにだけ、それも脳に直接響いてくる謎の声。
蠢く蛇のような本体の頭についた、女王の顔に動揺が走る。

フォッグ「こ…この声…お、お前は…!!」
シャドームーン「貴様は何者だ…何故、私に語りかける?」

????「フフフフ…私の声を忘れたかシャドームーン。
 我が息子よ…―――…」

シャドームーン「うぅ…ぐぁぁあ!」


再び蘇る、記憶の断片。親しみと懐かしさを覚える夢を、
常に覆い尽くす悪夢の元凶。その声の持ち主は、
己に決して逃れられぬ宿命の烙印を刻んだ存在。

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シャドームーン 「創…世…王…ッ!!」
フォッグ「ギィィィ…ッ!! ゴルゴム創世王… 遥か古の時代より、
 またしても私の邪魔をッ!!」
創世王の声「ククク…愚かな女め…貴様はまだ己の立場をよく
 理解しておらぬか…―――だがそれでよいのだ。
 お前達の企てが、我が息子をより完全な形で覚醒させてくれた…」
フォッグ「な…なんだと!? …では邪神達は最初から私を…ギ、ギャァァァッ!!」


突然苦しみ始める女王に、今度は創世王ではない、別の声が語りかけた。

????の声「フハハハハご苦労だったなフォッグマザーよ。
 諸君らの役目は終わった…潔く死ぬのだ!!」
創世王の声「シャドームーンよ…その黄泉帰りし魂で、再び我が王座を
 目指すがよい。真に次期創世王を望むならばこの剣を取り、
 お前の覇道を阻む者を全て、見事退けてみせよ――…!!」

フォッグ母艦の頭頂部を突き破り、天空から一筋の矢が部屋の床に
突き刺さる。立ち上る煙の中に、赤い光が煌いた。
そこに現れたのは、何処か優美な形をした金色の柄……

シャドームーン「あれは…サタンサーベル!!」

凄絶な“力”が解き放たれ、シャドームーンの全身から蒼い閃光が迸る。
彼を飲み込まんとしていた有機体の肉壁に亀裂が走り、内部から爆裂
して弾け飛んだ。金色の柄を持つ剣が、世紀王の手に戻る。

フォッグ「アアアアアア―ッ…!! …ヒ、ヒイイィ!」

苦しみの声を上げる女王には一瞥もくれず、世紀王はサタンサーベルの
赤い刀身を眺めていた。天・海・地の石で、初めて彼が復活を遂げた時の
記憶が、破壊者としての人格と共に心を支配して行くのが、今の彼には
バラバラの心が統制されるように心地良く感じられた。

シャドームーン「フフフ…ハハハハ…ッ! ハァーーーハハハハハ…
 我が名はシャドームーン、この剣は私の為に用意されたもの……
 フフ…、フフフフフ…そう…俺こそ、次期創世王だ―――ッ!!」
????の声「クックック…それでいいのだシャドームーン …
 …闇の月の仔よ―――…フフフ」

サタンサーベルを頭上に掲げ、高らかに宣言するシャドームーン。
まさしく、かつて日本を制した暗黒結社ゴルゴムを統べる世紀王の姿が
そこにあった。失われた自我の「半身」は取り戻した…
だが、彼の中には僅かに――――。

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茜「お兄ちゃぁーーん…っ!」
シャドームーン「…! ………」

「生贄の間」では、我先にと群がる怪物の幼体共が、今まさに少女を
捕らえようとしていた。檻は半分以上が引き裂かれ、飢えた魔物達の
鉤爪が何度も籠の金属を引っ掻く。同胞達を踏み越えて跳躍して来た
一体が、彼女の着衣の一部を裂いた。

茜「あーん、あーん! 怖いよぅ、怖いよぉーーっ!」

ウオオオオオンッ


その時、フォッグ母艦の壁をブチ破って、ジェイクロッサーが
マシンの爆音を轟かせ狂宴の中へ飛び込んで来た。

ライダーJ「トォォォ―ッ!!」

大地の戦士は、中央にぶら下がる籠に群がる怪物共の数体を、
フロントタイヤの体当たりで吹っ飛ばして一団の前に躍り出る。

ライダーJ「茜ちゃんッ、今助けるぞッ!! …うぉっ!?」
怪物「エサダ…オレタチノエサダ…ジャマヲスルナ…グゲゲゲゲ!!」
ライダーJ「くそ、これではキリがない…!!」

しかし蹴散らしても蹴散らしても、狭い空間で雲霞の如く
押し寄せる魔物の群れは、怯むことなく少女に迫ろうとしていた。

シャドームーン「俺は……」
創世王の声「どうした…何をしているシャドームーン。
 サタンサーベルで、目の前にいる不良品種を粛清するのだ。
 それでお前は完全にゴルゴムの次期創世王に戻る…」
シャドームーン「…シャドー・パーンチッ!!」

創世王が望むフォッグマザーではなく、突然シャドームーンは足元の
床めがけて拳を叩き込んだ。蒼い閃光が「生贄の間」の天井を貫き、
真下にいた怪物の一角が消し飛んだ。

小規模のクレーター状に抉られたその場に立つのは、銀色の戦士。
ゆらりと振り返る緑の複眼に、赤い複眼の戦士が映り込む。

ライダーJ「お前は…?」
シャドームーン「…………」


影の王子は無言で周囲を見回し、半壊寸前の籠の中で
泣きじゃくる少女に視線を合わせた。

シャドームーン「…心配するな…家に送り届ける
 くらいの力はまだ残ってる」
ライダーJ「えっ…?」

銀色の戦士は静かにゆっくりと、籠の方向へ歩き始めた――――

怪物「グゲゲゲゲゲゲ!!」
シャドームーン「退け。貴様らに用はない…」


怪物の数体がシャドームーンに襲い掛かったが、
彼が一歩前に進む度にバラバラになって千切れ飛ぶ。

ライダーJ「(速い…!!)」

銀色の戦士がサタンサーベルを怪物の群れに突き付ける。
魔物達に恐怖が走り、じわじわと後ずさる。籠を取り巻く円が、
少しずつ大きくなっていく。檻の中で、正視に耐えぬ光景に目を
閉じていた少女が、薄く涙に濡れた瞼を開いた。
ぼやける視界に映る、銀色の人影と緑色の人影――――。

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茜「仮面…ライダー…? それに、ぎんいろのひと…
 やっぱり、来てくれたのね…」
シャドームーン「さぁ、もう心配は要らない…」


銀色の戦士が檻を広げ、憔悴し切った表情の少女を抱きかかえた。

茜「よかった…きっとまた会えるって、お兄ちゃんも…
 言ってたから…嬉しい――…」


急に緊張の糸が切れたのか、それとも安堵した為か…
少女はそのまま再び気を失った。

言葉を交わす間もなく、少女を抱いたシャドームーンを
怖気づいた前列の集団を飛び越えた怪物共が取り囲む。
仮面ライダーJも跳躍し、銀の戦士と背中合わせに立った。

ライダーJ「あんたも仮面ライダー…なのか?」
シャドームーン「違う。我が名は…シャドームーンだ」
ライダーJ「でも、その子を助けに来たって事は…味方だよな?」
シャドームーン「…………」

銀の戦士はその問いには答えない。
しかし今は、彼が守ろうとした少女を救うという点で共闘する
理由はライダーにとって充分だった。大地の戦士は腹部のコアに
精霊エネルギーを充填させ敵の攻撃に備えた。

ライダーJ「これは…さっきと同じ…?」
シャドームーン「ほう…共鳴した原因は、貴様だったか」

仮面ライダーJの腹部に輝く赤い宝玉と、
シャドームーンのベルトの中心で蒼く煌く月の石。

月と大地を司る、超エネルギーを秘めた二つのキングストーンが
互いに反応を始める。増幅していく二つの光はやがて部屋を
飲み込み、機械獣母艦を突き破って外部へ放たれた…!!


富士の樹海***



ヘビ女「なあっ!? ちょ…な、なんだいあれはっ!?」
ジェネラルシャドウ「仮面ライダーJ…それにもう一体は…まさか?」

樹海に鎮座するフォッグ要塞を挟むように、巨大な戦士が二人立っている。
銀色に輝く巨人は、掌に乗せたあの少女をライダーJに差し出した。

シャドームーン「我が力は破壊しか生まぬ…貴様、“守れる”か?」
ライダーJ「もちろんだ。俺の力はそのために在る…」

少女の体が光の玉に包まれ、ライダーの赤いコアの中へと吸い込まれた。
二人の巨大戦士は互いに頷くと、一気に上空目掛けてジャンプした。
150メートルを超える高空から繰り出されるWキック。

ライダーJ「ライダーキーック!!」
シャドームーン「シャドーキーック!!」

フォッグ「ギィィェェェェーッ…!! フォ…フォッグは、不滅なりー…ッ」

ドガァァァンン…
富士の裾野に、再び巨大な大爆発の轟音が響き渡った…

64

◇    ◇


ライダーJ「あんた…何処かで、会ってるような気がするよ。
 初対面のはずなのに…う~ん不思議だ?」
シャドームーン「貴様もか。実は私も…以前、お前に似た
 仮面ライダーと何処かで拳を交えた記憶があるらしい」
ライダーJ「そうか、あんたも…」
シャドームーン「私にはいくつもの記憶があるのでな……
 どれもが断片的で、何が本当の自分なのか思い出せずにいる」
ライダーJ「なあ、この子とはどういう――」

大地の戦士が呼び止めようとしたが、影の王子は振り返らずに歩き出す。

ライダーJ「やはり行くのか? Gショッカーに」
シャドームーン「仮面ライダー…その子はお前が、
 無事に家族の元に送り届けてやれ…」
ライダーJ「あんたに家族はいないのか…?」
シャドームーン「俺に…過去はない」
ライダーJ「分かった。この子は必ず送り届けよう」
シャドームーン「…頼んだぞ」
ライダーJ「過去はないといったのは嘘だな。
 あんたは、本当は失ったものを探してるんじゃないのか?」
シャドームーン「答える必要はない」

天から稲妻が降り注ぎ、その中へシャドームーンが消えようとした時、
仮面ライダーJは最後にもう一度、その背中に語りかけた。

ライダーJ「…いつか、見つかるといいな。本当の自分が」
シャドームーン「フッ…また会おう」

――雷鳴と共に、銀の戦士は姿を消した。


○柴田茜→無事に救出される
△シャドームーン→フォッグをライダーJとのWキックで倒す。
○仮面ライダーJ→フォッグをシャドームーンとのWキックで倒す。
●フォッグマザー→ついに全滅した…。
●ゴルゴム創世王→シャドームーンにサタンサーベルを与える。

【今回の新規登場】
●ゴルゴム創世王(仮面ライダーBLACK)
人類の歴史を影で操作して来た暗黒結社ゴルゴムの支配者。
復活後はGショッカー六柱至高邪神の一人として君臨している。
5万年ごとに交代し、その後継者に二人の世紀王となる若者を選び出し戦わせる。
キングストーン『太陽の石』と『月の石』が揃って初めて次期創世王となれるが、さらに
後一つ、『大地の石』がゴルゴムより分かれた種族により創造されたと言われている。
新たに選別が成されるGショッカー次期創世王に、シャドームーンを推しているのか、
それとも………。その老獪な真意は計り知れない。
太古の地球において、侵略して来たフォッグマザーとは何らかの因縁があるらしい。

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最終更新:2020年10月29日 10:05