本編92~98

『地球教の影』

 作者・大魔女グランディーヌ

92

ジャブロー・ティターンズ基地***


ここは南米アマゾン川流域地下にある巨大地下空洞に築かれた
地球連邦軍の旧司令部ジャブローである。
現在はティターンズが拠点のひとつとして接収し、使用していた。

ジャマイカン「閣下、ジュピトリスのパプティマス・シロッコから通信が入っております」
ジャミトフ「シロッコめ。ようやく、こちらの呼び出しに応じたか…」

〔通信のコール音〕

シロッコ「映像通信でのご無礼をお許し下さい、ジャミトフ閣下」
ジャミトフ「シロッコよ。こちらにはザフト軍がジェネシスを
 再建したという情報が入っているが…これはどういうことだ?
 貴様を介して結んだジュピトリアンと結んだ密約では、
 ジェネシスに関する項目は含まれていなかったはずだ」
シロッコ(………)
ジャミトフ「ザフトがヤキン・ドゥーエとボアズを再建することまでは
 容認していたが、ジェネシスの件は聞いておらんぞ」
シロッコ「我々の調査によりますと、ザフト軍ザラ派によるジェネシス再建は
 彼らの情報かく乱であるようです」
ジャミトフ「情報かく乱? 戯言はよせ。
 ザフトはこのジャブローをジェネシスで撃つつもりなのだろう?」
シロッコ「パトリック・ザラがそのつもりなら、とっくにジャブローは壊滅しております」
ジャミトフ「…ならば、単なる脅しだと言うのか?」
シロッコ「おそらくは。

 こちらでもザフトの手によって再建されたジェネシスの存在を
 確認しておりません。それよりも…ザフト軍が宇宙で足場を固めている今が、
 三輪長官の後押しをして一気に極東地区を全面占拠する絶好の機会かと…」
ジャミトフ「貴様も知っていようが、地球にはGショッカーの軍勢の他に、
 例の時空クレバスから現れる正体不明の怪物群が各地に現れておる。
 ティターンズ部隊はそれの対処で忙殺されているのだ」
シロッコ「ならば、早急に我々ジュピトリアンの部隊を地上へ降下させましょう」
ジャマイカン「…こちらには、ネオ・ジオンの降下部隊に
 木星帝国のモビルスーツらしき機体が混じっていたという情報があるが?」
シロッコ「…我々ジュピトリアンも一枚岩ではないのです。どうか、ご容赦頂きたい」
ジャマイカン(………)
シロッコ「それでは…」

〔通信を切る音〕

ジャマイカン「シロッコめ…涼しい顔をして、よくもぬけぬけと…」
バスク「閣下。自分はあのパプティマス・シロッコという男を信用することが出来ません。
 あの男…閣下への誓約書に血判を押すなど…やり方がいちいち気に入りませんな」
ジャミトフ「確かに、奴は危険だ。だが、これからのティターンズは
 ああいう男も使いこなさねばならん」
バスク「…はっ」

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月軌道外宙域・サウザンスジュピター***


ドゥガチ「…貴君の意図は理解した。かねてからの約束通り、
     我が木星帝国は火星の後継者に対し全面的に協力しよう」
草壁「感謝致します、ドゥガチ総統。では我々は早速、政権樹立のための準備に入ります。
   地球圏各地で続発する黄泉がえり現象、そして時空クレバスの発生……
   今までの経験上、現在のような状況は…様々な勢力が一斉に動き出す
   前触れだとも考えられますので」
ドゥガチ「忠告として受け止めておこう」
草壁「…では、私はこれにて」

草壁と入れ替わりにシロッコが入ってくる。

ドゥガチ「地球圏偵察及び調査の任務、ご苦労だったな、シロッコよ」
シロッコ「はっ…。全ては総統クラックス・ドゥガチの御心のままに!」
ドゥガチ「お前のおかげで、現在の地球上での貴重なデータを得ることが出来た。
     フフフ…やはり人類の支配に地球など要らぬ……」
シロッコ(ドゥガチの真の目的は地球侵攻ではないのか……?)
カラス「ところでドゥガチ様、テテニス様の行方が今だ……」
ドゥガチ「テテニスか…ワシは娘など愛してもおらぬし、どこで何をして死のうと構いはせぬ…。
     大方あの海賊の小僧と行動を共にしておるのだろう。放っておけ……」

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地球連邦宇宙軍・月基地・作戦会議室***


地球圏各地で続発している“黄泉がえり”現象は、
突然の強硬派指導者の復活により各勢力において主戦派が力を盛り返し、
皮肉にも再び世界に騒乱と戦争の火種をばら撒く結果となった。

火星にある小バームはオルバン派とエリカ派に、
プラントはザラ派とクライン派にそれぞれ分裂して内戦状態へと突入し、
それに加えて今回の木星帝国と火星の後継者が結託しての
ジュピトリアンの再蜂起である。
連邦軍の月基地では、そのことに対する事変報告がなされていた。

ジュン「草壁春樹、元木連(木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び
 他衛星国家間反地球共同連合体)の実質的№1で、階級は中将。
 反草壁派の若手将校達による熱血クーデターの際に失脚し、行方不明。
 その後、第一次火星極冠事変で身柄を拘束され……」
ムネタケ「見事に脱獄しましたな」

ジュンの報告にムネタケはやっかいそうにつぶやく。

秋山「いや、元木連組としてまことにすまんことです。この通り」
コウイチロウ「君のせいじゃあるまい」

謝る秋山少将を押さえるミスマル総司令。
秋山は強硬姿勢をとり続けた草壁に危機感を抱いて先のクーデターを仕掛けた張本人だった。

コウイチロウ「秋山君。草壁という男、どういう人間かね。
 直属の部下だった君の目に彼はどう映った?」
秋山「正義に燃える熱血漢、理想のためなら死ねる男。ただ問題なのは、
 自分の理想が他人にとっても理想であると思い込み、頑なに信じていることです」コウイチロウ「……ところで話は変わるのだが、 木星でジュドー・アーシタくんが行方不明になったというのは本当かね?」ジュン「はい。ブライト大佐たちロンド・ベル隊も懸命に捜索を続けていますが…」ムネタケ「心配ですな。ジュピトリアンがニュータイプを 放っておくとも思えませんからな…」

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一方その頃、地球では…。

東京・赤坂 白河尚純の別邸***


白河「よくやってくれました。
 これで極東の連邦軍は事実上我々の支配下に入りました。
 これもあなたのおかげですよ、来島副長官」
来島「………」

政界にその名を知られる大物――白河尚純。
ヒルカワを使って地球連邦軍極東支部のスキャンダルを次々とでっち上げ、
さらには今ここにいるI.N.E.T.副長官の来島を言葉巧みに抱きこみ、
一連の疑惑を偽証させた黒幕である。

来島「……白河さん、約束はわかってくれていると思うが…?」
白河「わかっていますよ。ティターンズはI.N.E.T.に手出しはしません。
 それは私の名において固くお約束します」
来島「………」
白河「そう気に病む事はありませんよ。
 貴方のした事は世界平和のために必要な事だったのです。
 決して悪いようにはしませんとも」

来島は額に汗をたらしながら席をゆっくりと立ち、
応接間の窓から外の風景に目を向ける。深呼吸した来島は、
ふと、邸宅玄関のすぐ前の街路を行進する
100人ほどの不気味な集団に気付いた。
赤く縁取った白い長衣を身に着け、“聖地を死守せよ”と記したプラカードを掲げ
なにやら詠唱しつつ、ゆるやかに歩んでいく。

来島「あれは何だね?」
白河「ああ、地球教の信者たちですよ」
来島「地球教?」
白河「昨今急激な勢いで信者の数が増えている宗教です。
 ご神体というか、崇拝しているのは地球そのものだそうで」
来島「地球をね……」
白河「人類の故郷である地球は、いわば最高の聖地です。
 それが今、幾多の異星人や怪物共によって侵略の危機に晒されている。
 地球を脅かす敵に対し百倍千倍の血の報復を与え、全人類の魂を導く
 大聖堂を建てようというのです。どんな犠牲を払っても、
 やがては地球を全宇宙の中心とするための聖戦に協力するとか……」

来島は呆気に取られた。

来島「馬鹿馬鹿しい。まさか本気ではないだろう。
 どうせよくある金目当てのインチキ宗教に決まっている!」
白河「…いや、案外不可能な事でもないかもしれませんよ」
来島「……白河さん、まさか貴方や三輪長官、
 それにティターンズの背後にいるというのは――!?」

いつの時代にも狂信者の種は尽きない。
遠い遠い昔、“十字軍”というものが地球上に存在した。
聖地を奪回すると称し、神の名のもとに他国を侵略し、
都市を破壊し、財宝を奪い、住民を虐殺して、
その非道を恥じるどころか、異教徒を迫害した功績を誇示すらしたのだ。
無知と狂信と自己陶酔と非寛容によって生み出された、歴史上の汚点。
神と正義を信じて疑わない者こそが、最も残忍に、狂暴になりえるという事実の、
それは苦い証明だったはずである。
その愚行を、今度は地球教徒たちが宇宙的規模で再現しようというのだろうか……。

96

ジャブロー・ティターンズ基地***


ティターンズ総帥ジャミトフ・ハイマン大将は、基地内の一室に坐っていた。
窓のないその部屋は厚い鉛の壁にかこまれて密閉されており、空間そのものが極性化されている。

ジャミトフ「私です。お応えください」

極秘の定期通信を明確な言語の形で思考する。

???「私とはどの私だ?」

彼方から送られてきた返答は、この上なく尊大だった。

ジャミトフ「ティターンズ総指揮官、ジャミトフ・ハイマンにございます。
 総大主教(グランド・ビショップ)猊下には御機嫌麗しくあられましょうか?」

あのジャミトフとは思えないほどの腰の低さである。
ジャミトフを知る者が一人でもその場にいれば、この男でも冷たい汗を
肌ににじませることがあるのか、と目を見張ったであろう。

総大主教の声「機嫌のよい理由はあるまい……わが地球はいまだ正当な地位を回復してはおらぬ。
 地球が宇宙全ての知的生命に崇拝される日まで、わが心は晴れぬ。
 地球は長い年月に渡り、異星人どもの侵略を受け、不当に貶められてきた。
 だが、屈辱の晴れる日は近い。地球こそが人類のゆりかごであり、
 全宇宙を支配する中心なのだ、と、母星を捨て宇宙移民者となった亡恩の徒どもが
 思い知る季節が両三年中には来よう」
ジャミトフ「そのように早くでございますか?」
総大主教の声「疑うか、ティターンズの首領よ」

思考波が低く陰気な笑いの旋律を奏でた。総大主教(グランド・ビショップ)と称される
宗政一致の地球教統治者の笑いは、ジャミトフをぞっと総毛だたせる。

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総大主教の声「歴史の流れとは加速するもの。ことに“黄泉がえり”の奇跡も重なり、
 地球圏の各勢力間において権力と武力の収斂化が進んでおる。それに間もなく、
 新たな民衆のうねりが加わろう。全宇宙に潜んでいた地球回帰の精神運動が具体化して現れる。
 その組織化と資金調達はブルーコスモスの者どもに任せておったはずだが、
 手抜かりはあるまいな?」
ジャミトフ「ムルタ・アズラエルからの話では、順調に進んでいるとの事にございます」
総大主教の声「われらの偉大なる先達は、そのためにこそ各地に
 忠実なる者を送り込んで富を蓄積せしめた。地球至上主義者たちが
 その特殊な地位と権力を生かした政治力と経済力によって世俗面を支配し……
 戦火を交えずして全宇宙は地球の支配下に入る。実現に数世紀を要する遠大な計画であった。
 わが代にいたってようやく先達の叡智が実を結ぶか……」

そこで思考の調子が一変し、鋭く呼ぶ。

総大主教の声「ジャミトフ」
ジャミトフ「は……!?」
総大主教の声「裏切るなよ」
ジャミトフ「こ、これは思いもかけぬことをおっしゃいます」
総大主教の声「汝には才幹も覇気もある……故に悪い誘惑に駆られぬよう、忠告したまでのこと。
 かのナポレオン、それにヒトラーがなぜにあのような末路を辿ったのか、充分に承知しておろう」
ジャミトフ「ティターンズがここまで勢力を回復することができましたのは、
 猊下のご支持があってのこと。私は亡恩の徒ではございません」
総大主教の声「ならよい。その殊勝さが、汝自身を守るであろう」

定期通信を終え、部屋を出たジャミトフは、大理石のテラスにたたずんで星空を見上げた。
ティターンズがただジャミトフ個人の所有物であったなら、彼こそが地球圏を実質的に支配する
存在になり得たかもしれない。しかし残念ながら現実は違う。
地球を群星の首都たらしめようとする“地球教”という名の偏執狂どもによって、
今の彼は一介の下僕に過ぎなかったのである。だが、独語するジャミトフの口の端が、
狐のように吊り上がった。

ジャミトフ「さて、誰が勝ち残るかな。Gショッカーか、ジュピトリアンか、地球教か……
 それとも私か……」

98

●パプティマス・シロッコ→自身はジュピトリアンに所属し、
 ジュピトリアンとティターンズの間の密約の仲介をしていた模様。
●草壁春樹→脱獄して火星の後継者を再結成。ジュピトリアンと合流。
●クラックス・ドゥガチ→草壁ら火星の後継者を迎え入れる。
●白河尚純→彼こそが江戸川総司令やサコミズ総監たちを追い落とした筋書きを書いた張本人。
△来島副長官→白河に抱き込まれ、連邦軍極東支部の一連のスキャンダルを公の場で偽証。
 それが江戸川総司令らの更迭やサコミズ逮捕の決め手になっていた。
●ジャミトフ・ハイマン→地球教総大主教より指令を受ける。
 ティターンズを背後から操っているのは、地球教と呼ばれる宗教団体。

【今回の新規登場】
●パプティマス・シロッコ(機動戦士Ζガンダム)
 木星船団の指揮官。木星帰りの男。あらゆる面での天才。
 人心の掌握にも長けており、ジュピトリアンの実質的な中心人物である。
 PMX-003ジ・オ (THE-O)パイロット。


●ジャミトフ・ハイマン大将(機動戦士Ζガンダム)
 ティターンズ総帥。


●バスク・オム大佐(機動戦士Ζガンダム)
 ティターンズの実質的な指揮官。ジャミトフ大将の指揮の下各部隊を指揮する。
 一年戦争時にジオン軍の捕虜となり拷問を受け、その際に視覚障害となり、
 それ以来スペースノイドを憎んでいる。


●ジャマイカン・ダニンガン少佐(機動戦士Ζガンダム)
 バスク・オムの副官でティターンズの実戦指揮をサポートする立場にある。
 直属の上官であるバスクには忠実だが、自分以下の者に対しては慇懃無礼な態度で臨む。


●クラックス・ドゥガチ(機動戦士クロスボーンガンダム)
 木星帝国総統。9体製作された自分のコピーを持つ。
 木星市民を手足のように使い、虫ケラのように始末する卑劣な支配者。


●カラス(機動戦士クロスボーンガンダム)
 ドゥガチ直属の工作員。総統直々の命令でのみ動く、悪魔のような男。


●草壁春樹中将(機動戦艦ナデシコ/劇場版機動戦艦ナデシコ-the prince of darkness-)
 元木連軍優人部隊総司令官。火星の後継者首班。蜥蜴戦争時の木連側の実質的指導者。


○アオイ・ジュン中佐(機動戦艦ナデシコ/劇場版機動戦艦ナデシコ-the prince of darkness-)
 地球連邦宇宙軍第三艦隊所属・戦艦アマリリス艦長。
 元ナデシコクルーの一人で、ミスマル・ユリカとは幼馴染である。


○ムネタケ・ヨシサダ中将(劇場版機動戦艦ナデシコ-the prince of darkness-)
 地球連邦宇宙軍参謀長。故ムネタケ・サダアキの父だが、息子とは性格が正反対の好々爺。


○秋山源八郎少将(機動戦艦ナデシコ/劇場版機動戦艦ナデシコ-the prince of darkness-)
 地球連邦宇宙軍の提督。熱血クーデターの中心人物で、
 地球と木星の和平の道を開いた現役の木連軍人。友好大使として
 地球連邦宇宙軍の月面本部にも籍を置く。


○ミスマル・コウイチロウ大将(機動戦艦ナデシコ/劇場版機動戦艦ナデシコ-the prince of darkness-)
 地球連邦宇宙軍総司令。ナデシコ独立部隊を結成した。
 ミスマル・ユリカの父親で、超がつくほどの底抜けの親バカ。


△来島副長官(電磁戦隊メガレンジャー)
 世界科学連邦I.N.E.T.の副長官。何事にも組織の論理を
 最優先させる傾向がある。


●白河尚純(仮面ライダーアギト)
 日本政界の大物。国会のアギト対策法案提出の中心人物。


●地球教総大主教(銀河英雄伝説)
 地球教の教主。外見は身体中の水分が枯れ果てたように見え、
 皺と筋の塊にしか見えない老人。地球を祭政一致の宇宙の中心にする事を目論む。

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最終更新:2020年10月29日 10:21