本編134~137

『協力者たち、集う』

 作者・シャドームーン

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日本―東京―***



都内某所にある「喫茶アミーゴ&立花レーシングクラブ」
ここはコーヒーショップとオートバイ販売店が半分づつスペースを共有している、
一風変わった店である。なんでも店のオーナーが、本業の喫茶店とは別に
趣味であり、自身の“夢”でもあるバイク店経営をあきらめきれず、
それならばと盛大に改装を行って現在のような店内に落ち着いたらしい。

立花藤兵衛――そう名乗るマスターは、好感の持てる気さくな人物であった。
その人柄を慕ってか、この店には少年や少女達がよく遊びに来ているようだ。
ただ一つ不思議に思ったのは、子供達が皆口を揃えて「会長」と呼んでいること。
単に彼等の間でそう呼ばれているだけの、ニックネームかもしれないが………
この立花という人物には一介の店主とは思えないような秘密があるように感じられるのだ。
そう、“私たち”と近い、「一般人が決して知ってはならない世界」を見て来たかのように。

藤兵衛「さあどうぞ。八荒クンも一息入れてどうだね?」
舞「あ、おいしー♪ 八荒さーん!ここのコーヒーとってもおいしいわ!」

カウンターでコーヒーを飲みながら手を振る女性、仰木舞の喜ぶ顔を見て、
バイクスペースで愛車を弄っていた男、北八荒が心底嬉しそうに飛んで来た。

八荒「でしょでしょ~!? そりゃあもう、オヤっさんの淹れてくれるコーヒーは
 最高なんだから!いや~舞ちゃんがそんなに喜んでくれて俺も嬉しー! 」
藤兵衛「他ならぬ八荒クンの彼女に失礼があっちゃあいかんからな。
 若い二人の未来に乾杯して、ワシからもう一杯サービスだ」
舞「わあ、ありがとうマスター! あ…でも私達、そんな間柄じゃありませんから♪」
八荒「そ、そんなあ~…トホホ」
藤兵衛「ハハハハ、いいねえ若いってのは!」

屈託無く笑いながら、マスターはカウンター越しに向かいのバイクスペースの壁に
飾ってある、写真の入ったパネルを眺めていた―――――
その写真には、本郷猛と滝和也がモトクロスレースで優勝と準優勝を飾った時の
ワンシーンが写っている。傍らでライダーガールズと共に祝杯のシャンパンを浴びて
はにかんでいる、立花藤兵衛もそこにいた。

藤兵衛「…………」
舞「…ね、八荒さん?」
八荒「ん? どうしたの」

舞が小声で八荒に耳打ちする。

舞「あのマスターの風格、きっと只者じゃないわ…時々覗く…なんていうか
 どこか寂しそうな表情、八荒さんは何も感じない?」
八荒「オヤっさんが? まさかぁ~…う~んでも言われてみれば何となく…」
舞「…流星さんと別れた時の、私達に似てると思わないかしら」
八荒「!……流星」

メタルダーが命賭けでネロス帝国を滅ぼしたあの日以来、舞と八荒の二人は
心に大きな喪失感を背負ったままそれぞれの日常に戻っていた。
「僕は…いつか必ず蘇る!」二人にそう言い残し、何処かへ去って行ったかけがえの無い“友人”…
その言葉だけを信じ、舞と八荒は定期的に連絡を取り合いながら、メタルダーの行方を案じていた。

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舞「八荒さん、私…流星さん…メタルダーにもう一度会えるような気がするの」
八荒「舞ちゃん…。でも、メタルダーはもう…」
舞「ううん、流星さんは言ったわ。いつかきっと蘇るって…
 それがこの頃、とっても強く感じられるの。
 まるですぐにでも、スプリンガーと一緒に元気な流星さんが帰って来るんじゃないかって…」
八荒「…分かった。俺も舞ちゃんの予感を信じるぜ!
 へへっ…流星の奴、早く現れろってんだー!」
藤兵衛「ん、流れ星がどうかしたのかね?」

気がつけば、ぐぐぐ、と拳を握りしめて高らかにシャウトしている八荒であった。

八荒「ほへ!? あ~…いやスンマセン、突然大声出しちゃって…アハハ」
舞「ふふっ、八荒さんたら…。ごめんねマスター、
 ちょっといなくなっちゃった御友達のこと思い出してて」
藤兵衛「いやいや構わんよ。いなくなった友人か…
 ふふふ、思い出すなぁ…ワシにもいたよ」
舞「あの、もしかしたら…あそこのパネルに写ってる人達のことですか?」

藤兵衛「ああ…あいつらもそうだし、他にも色んな奴がおったよ。
 今頃は何処でどうしているのやら…」
八荒「あそこに写ってるの、元オートレーサーの本郷選手と滝選手ですよね!?
 俺がまだ暴走族のヘッドやってた頃、憧れの人達だったんだよなあ~~!」
藤兵衛「ほぉ~そりゃ初耳だな!
 あの頃、ワシの周りには本当に心を許せる人達が集まっていた。
 グランプリ王者をこの手で育てるのが夢でなぁ。ワシを含めて、みんな若かったよ…ふふふ」
八荒「なんの、オヤっさんは今でも充分若いじゃないですか! 俺も何度か世話になってるし…
 そういや本郷さんも滝さんも、いつの頃からかレースで姿を見なくなりましたけど、
 引退したんですか?」
藤兵衛「さぁなぁ…せわしいあいつらの居場所など、分からんよ――…」

茂「フーン、いなくなった連中ね…俺も一応、含まれてるのかい? だったらここにいるぜ」

店の扉をガチャリ、と開けて若い男が一人入って来た。
紺色のデニムジャケットにデニムジーンズという服装で、腕と足には薔薇の刺繍が入っている。
下に着ているシャツには何かのイニシャルか、「S」のマークが大きくプリントされていた。

藤兵衛「! お前…茂!!」
茂「よっ。オヤっさん、帰ったぜ!!」

…ゴイィ~ンンン… 開口一番、城茂のドタマに藤兵衛のゲンコツが炸裂した。

茂「つぅ…っ!」
藤兵衛「バッカモンが―!!お前らと来たら便りの一つもよこさないで…コノヤロウ!!
 今はいんたーねっとやらめーるやら便利なモンがあるんだから、
 どっからでも連絡できるじゃろーが!」
茂「ンなこと言ったってよ~…ここにはPCも無いし、オヤっさん携帯も持ってねぇじゃねえか!」
藤兵衛「あっ…そーだったか、そりゃスマン!」

高らかに笑いながら、藤兵衛は城茂の背中をポンポン、と叩き、目には少し涙を浮かべていた。

藤兵衛「よく帰って来た…!」
茂「へへっ…心配かけてすまねぇ、オヤっさん」

再会を喜び合う藤兵衛と城茂を見つめ、仰木舞は微笑む剣流星の姿を重ねていた――

舞「(…流星さん…貴方も早く帰って来て…)」
八荒「あーーーーーーーーー!!」
舞「きゃっ…八荒さん!?」

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感傷にふける舞をよそに、八荒が突然声を張り上げて城茂を指差した。

茂「ん…俺の顔に何か付いてるか?」
八荒「茂さんじゃないっスかー! 俺です、北八荒です、お久しぶりです!!」
舞「え…八荒さん、お知り合いなの?」
藤兵衛「なんだ茂、八荒クンを知っとったのか?」
茂「ん~ちょっと待ってくれ。えーーと… … … …すまねぇ、誰だっけ??」

八荒「でぇっ!? 茂さん、そりゃないっスよ~。ほら、族時代にお世話になった…」
茂「北八荒ねぇ……おー! お前、あんときの小僧か!?」
八荒「そうです!あの北八荒です!あれから足洗ってレーサーの端くれやってます!」
茂「なっつかしいな~他の奴らはどうしてる?」
八荒「徹也も卓治も徹も、マスターも、リサも、美樹も皆今じゃ真面目に働いてますよ。
 好き勝手に暴れ回ってた頃、たまたま道で会った茂さんに因縁ふっかけて…」
茂「そうそう、それで反対に俺がボコボコにしてやったんだよな」
八荒「茂さん強かったなぁ~~俺達全員、あべこべに説教されましたよね…今では感謝してます」
茂「フッ…そうか、お前も見違えたな。ちったぁ、男の顔になったじゃねえか!」
八荒「本当ですか!? うう、嬉しいっス! 茂さんはあの頃と全然変わってないんですね!」

茂「……。ま、俺は永遠に“兄貴”だからな!」
藤兵衛「(…茂…)」

八荒「ええ、茂さんはいつまでも俺らの兄貴ですよ!!」
舞「男同士で盛り上がってるとこ悪いケド、八荒さん。私にも素敵な兄貴さんを紹介してくれない?」
八荒「わっと!ごめんよう舞ちゃん…え~こちら、俺と仲間が昔世話になった城茂さん。
 でもってこちらの彼女が、俺の恋…もとい友達の仰木舞さんです!」
舞「初めまして!仰木舞です。カメラマンをやってま~す。よろしくお願いします!」
茂「城茂だ、よろしく。ん…おっと」

舞が握手を求めて差し出した手を握ろうとしたが、何故か茂は手を引っ込めてしまう。

舞「…? あの、何か御気に障りました?」
茂「いや…そうじゃないんだ。すまないな…握手ってのはグローブを取ってするもんだが、
 俺はちょいとワケありでな…素手であんたと握手はできないのさ」
八荒「茂さん、もしかして手を怪我してるとか?」
茂「んーーー…そういうワケじゃないんだが、俺の握手は普通の人間には熱過ぎてな。
 素手で握ったりしたら、お嬢さんの綺麗な手が黒コゲになっちまう…」
八荒「えっ…それってどういう…―――」
茂「こういうことさ!」

城茂は両手を覆う黒いグローブを取って見せた。そこに現れたのは―――
銀色に輝くコイル状のものに覆われた、金属の手首である。

八荒「うわっ!? し…茂さん、その手は一体…」
茂「…フッ…そっちのお嬢さんはあんまり驚いてねぇみたいだな」
舞「私はもうそれくらいじゃ驚いたりしませんっっ! 
 …あ、ごめんなさい…何も事情を知らないのに…。」
茂「いいさ。それよりついでにもっと詳しく自己紹介しとくとするか!
 俺は城茂、バリバリの改造人間・仮面ライダーストロンガーだ!!」
八荒「か、仮面ライダー!!? …茂さんが…!?」
舞「改造人間…人類の味方、仮面ライダー…! 城さん、貴方が…」

藤兵衛「…っとにバカが!そんな大っぴらにバラさんでも…」
茂「かまわねぇさオヤっさん。風見さんから聞いた話だと、この二人は俺達の
 仲間の知り合いらしい。実は今日ここへ来たのは、オヤっさんに会うためと…
 あんた方に会うためでもあるんだ」
舞「城さん…貴方はもしかして…」
茂「ご明察! 調べてもらったら、なんとオヤっさんの店の常連だって言うじゃねぇか。
 こいつも何かの縁だろうな…安心しな、剣流星、彼は無事に復活してるぜ」

八荒&舞「――流星(さん)がっ!!?」

剣流星――超人機メタルダーが別れの時の言葉通り、蘇った!!
それは、二人が一日千秋の想いで待ち望んでいた吉報であった。
城茂・立花藤兵衛・仰木舞・北八荒の4人は、お互いのこれまでの経緯を話し合い、
店内の時計の針が過ぎていく――――。

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○北八荒→藤兵衛の店で城茂からメタルダー復活の報せを聞き喜ぶ。
○仰木舞→藤兵衛の店で城茂からメタルダー復活の報せを聞き喜ぶ。
○立花藤兵衛→城茂と再会
○城茂→藤兵衛と再会、メタルダーの無事を舞と八荒に伝える。

【今回の新規登場】
○北八荒(超人機メタルダー)
元暴走族のリーダーで、世界トップを目指すグランプリ・ライダー。
オートバイ雑誌の取材で仰木舞と知り合い、惚れてしまうが片想い中。
剣流星が超人機と知り、以後協力してネロス帝国に立ち向かうが力不足。
自称、“ネロスハンター”。ジャック電撃応援団という昔のバイク仲間がいる。

○仰木舞(超人機メタルダー)
写真雑誌「週刊アップ」等の仕事をしている女性カメラマン。
超人機・剣流星にとって最初に出会った人間の友達である。
流星の正体を知り、共にネロス帝国に立ち向かうべく様々な面で協力した。

○立花藤兵衛(仮面ライダーシリーズ)
スナック「アミーゴ」、立花レーシングクラブ、スポーツグッズ店、喫茶COLなど
様々な職業の顔を持つ仮面ライダーたちの育ての親にして良き協力者。
少年仮面ライダー隊の会長も兼任している。デルザー軍団壊滅を見届けた
後は表立つ活動はしていないが、ライダー達とは今でも交流がある様子。
幅広い人脈と気さくな人柄で多くの子供達や女性に慕われている。

○城茂=仮面ライダーストロンガー(仮面ライダーストロンガー)
天涯孤独な青年、城茂が悪の組織ブラックサタンに殺された親友の仇を討つ
ために自ら志願して改造手術を受けた7人目のライダー。
カブト虫の強力な力と発電装置を内蔵した改造電気人間であり、後に超電子ダイナモを
内蔵され、改造超電子人間にパワーアップ、チャージアップが可能となる。
元々放浪癖があるためか、他のライダーと比べて一つところには留まらず、常に世界中を
旅しているため最も情報通な存在。行く先々で他のライダーと連絡を取り合い、また一番
定期的に日本へ帰って来ては立花藤兵衛とも会っていたらしい。
その心の奥には、デルザーとの戦いで命を落とした電波人間タックル=岬ユリ子への想いが
今も眠っている…

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最終更新:2020年10月29日 10:35