本編249~253

『帰ってきたあの男』-2

 作者・凱聖クールギン
249
御前会議の終了後、ゴーストバンク内の一室で語らう
バルスキーとガテゾーン。

バルスキー「お前がこんな形でゴーストバンクに帰って来るとはな。
 何年ぶりだろう。久々の感想はどんなものだ?」
ガテゾーン「懐かしかったぜ。やっぱり何だかんだ言っても
 ここは俺の生まれた場所だからな」
バルスキー「お前にとっては、嫌な思い出の蘇る場所ではないかと思っていたがな」
ガテゾーン「ハハハハ…。確かにここじゃ色々あったがね。
 もう忘れちまったさ。ここにいるのが虚しいと感じた時もあったが…
 でも今じゃ、ネロスの戦闘ロボット軍団にいた日の事を後悔はしちゃいねえ」
バルスキー「あの頃の我々は、何と言えば良いだろうな…。
 顔を合わせる度に、思い切った遠慮のない意見を交わし合っていたものだった」
ガテゾーン「ハッキリ言いなよ。反りの合わねえライバル同士だったってな。
 俺とあんたじゃポリシーがてんで逆方向だったんだ。仕方ねえ事さ。
 あんたみたいな真面目な優等生と違って、俺は生来根っからのはみ出しモンだからな」
バルスキー「何だ、皮肉か?」
ガテゾーン「いや、褒めてるのさ」

ガテゾーンはかつて――あの豪将ビッグウェインなどが現役でいた頃――
戦闘ロボット軍団に所属し、
今は凱聖のバルスキーとともに暴魂の地位にあった。
バルスキーがもっぱら戦闘と指揮能力で実績を積み上げて行く一方、
ガテゾーンは自らロボットでありながら技術者としてロボット開発に励み、
戦闘ロボット軍団員の数体――彼らもまた、皆既に過去の名前となっている――を
ネロス帝国のために製作して来た。

しかし、高度な自律機能と自由意思とを備えたガテゾーンのAIは、
いつしか創造主ゴッドネロスの組み込んだプログラムを超えた個性と自我を、
彼の内部に少しずつ発達させて行く。
もっと独創的な作品を創りたい…!
だが日増しに高まるそんな自己表現の欲求は、
絶対の忠誠と滅私奉公が求められるネロス帝国にあっては余りに異端なものだった。

250
十数年前――

長野・権現山***


雪深い長野の山中で、一人の男を銀色の戦闘ロボットが追跡していた。

シュバリアン旧型機「俺はネロス帝国最強の戦士、
 戦闘ロボット軍団爆闘士シュバリアン!!
 宇宙人のスパイめ、とうとう追い詰めたぞ!」
男「おのれ…。こうなれば仕方がないわ…!」

腕の機関砲から男に向けて弾丸を放つシュバリアン旧型機。
男の足元で爆発が起き、地面の雪が飛び散って男の姿を隠した。
雪飛沫が収まった時、男は地面に倒れており、
そのすぐ傍には権現山の伝説の雪男――いや、
雪男宇宙人バルダック星人が立っていた!

シュバリアン旧「エイリアンめ、遂に正体を現したな!」
バルダック星人「フッハハハ…! この星にこんなロボットがいるとはな。
 愚かな地球人が造ったにしては上出来だ。
 おまけに我々の計画を察知するとは、なかなかやると褒めてやろう」
シュバリアン旧「貴様ら、何を企んでいるのだ?」
バルダック星人「我々バルダック星人は、地球を雪と氷の惑星にして移住するため
 240年前から地球に潜伏して情報を集めていたのだ。
 この権現山に伝わる雪男伝説は、我々の正体をカモフラージュするには
 実に好都合だったぞ。フハハハハ」
シュバリアン旧「貴様が乗り移ったその男は、桐原コンツェルン傘下企業の重役だ。
 どうやらこの星の触れてはならない世界に手を出してしまったようだな」
バルダック星人「笑わせるな!
 地球人など、我々バルダック星人からすれば虫ケラのようなものだ!」
シュバリアン旧「死ねい!」

再びシュバリアン旧型機の銃口が火を噴いた。
氷点下の寒冷な星で生まれたバルダック星人は熱には弱い。
地球人の文明レベルを甘く見ていたバルダック星人は、
地球の表世界からすればオーバーテクノロジーとも言うべき
ネロス帝国の戦闘ロボットの攻撃力に怯んだ。

ロブル「シュバリアン! また抜け駆けしやがって」
グルーゾー「俺達も加勢するぞ!」

戦闘ロボット軍団爆闘士ロブルと機甲軍団烈闘士グルーゾーが
シュバリアンの増援に現れた。
しかしガテゾーン製のシュバリアンは、自分と製作者の違うこの二機とは
性格上の折り合いが悪く、日頃からライバル意識を抱いていたのだ。

シュバリアン旧「貴様らの助けなど必要ない!」

あろう事か味方に向けて発砲し、威嚇して戦いに割り込ませないシュバリアン。
再度バルダック星人に腕の機関砲を向けるが、
この数秒の隙を突いたバルダック星人は口から冷凍ガスを噴射。
シュバリアンの機関砲を一瞬で凍らせてしまった。

シュバリアン旧「な、何い~!?」
バルダック星人「貴様らも喰らえ!」
ロブル&グルーゾー「うぁぁぁっ!」

すかさずロブルとグルーゾーにも冷凍ガスを浴びせ、
凍らせて行動不能に追い込むバルダック星人。

バルダック星人「さあ止めだ。貴様のそのボディ、
 果たして絶対零度にどこまで耐えられるかな?」
シュバリアン旧「ぐ……ぬぬ…!」

その時、飛来した一本の矢がバルダック星人のコブのような頭の突起を刺した。

バルダック星人「…何者だ!?」

吹き荒ぶ風が雪を舞わせる中、雪原に立っていたのは灰色の“巨人”、
ネロス帝国にその男ありと怖れられた戦闘ロボット軍団豪将ビッグウェインだった。

ビッグウェイン「……」
バルダック星人「おのれ、覚えておれ地球のロボットども!」

もがきつつ、そう言い捨ててバルダック星人は姿を消した。

251

ゴーストバンク***


クールギン「ガテゾーン! 貴様の開発した戦闘ロボットが
 また軍規違反を犯したぞ!」
バルスキー「ビッグウェインの報告によれば、
 シュバリアンは戦果を独占するため独断で権現山の雪男伝説を調査し、
 宇宙人を追跡して戦闘、しかも援軍に来たロブルとグルーゾーを撃った。
 事情聴取ではシュバリアン自身も容疑を全面的に認めている」
クールギン「権現山をスキー旅行中の桐原コンツェルンVIPが失踪した件については
 ヨロイ軍団に任せると帝王の仰せがあり、
 我が配下の“影”が秘密裏に調査を進めていた。
 シュバリアンは独断専行でそこに割り込んだのだ」
ガテゾーン「お言葉ではありますがね、ヨロイ軍団長。
 コンツェルンVIPが行方不明になってもう二ヶ月。
 事件と権現山伝説との関連性は前から上がっていたにも関わらず、
 雪男の言い伝えなどバカバカしい、と
 端から相手にしなかったのはどこのどなたです?
 シュバリアンが独断で動かなければ、
 今頃まだ事件は解明されていなかったと俺は思いますよ」
クールギン「貴様、愚弄する気か!」
ガテゾーン「俺は断固としてシュバリアンを擁護する。それだけです」
バルスキー「結果的に奴の行動は宇宙人のスパイを突き止めた。
 …それは認めるが、兵がそれぞれ自分勝手に行動していては軍団にならん。
 少なくとも、軍規と命令系統の尊重は当然の義務だ」

そこへ、無人だった玉座に帝王ゴッドネロスが現れる。

クールギン「帝王…!」
ゴッドネロス「ガテゾーン…。
 シュバリアンの勝手な行動は余の部下にあるまじきもの。
 余は、奴を欠陥品としてスクラップ工場へ送る事に決めた」
ガテゾーン「帝王…! シュバリアンは欠陥品などではありません!
 どうか、どうか死刑だけはお許しを」
バルスキー「私からも、シュバリアンの命だけはお助け下さいますよう
 お願い申し上げます!」
ゴッドネロス「黙れ! ガテゾーンの造ったロボットが軍規を犯したのは
 これが最初ではない。 良いかガテゾーン!
 余は、帥のロボット技師としての能力を高く評価し、
 これまで多くの戦闘ロボットの製作を任せて来た。
 だが! ここ数年、帥の造ったロボットはどれも
 奇を衒った独創性ばかりが先立って余の部下としての本分を忘れ、
 作戦行動に何度も重大な支障をきたしておる」

ロボットの思考の自由度を高めれば、それだけ自己主張が生まれ、命令からの逸脱も増す。
これは目下、ガテゾーンが技術者として直面している課題であり、
それを未だクリア出来ていない事には釈明の余地がなかった。
(なお、後にゴッドネロス自身も自ら造ったロボット達に同じ課題を見る事になるのだが、
 ビッグウェインやトップガンダーが正常に稼動していたこの当時には
 まだ知る由もない事であった)

ゴッドネロス「シュバリアンは処刑!
 帥にも製作者として責任を問い、階級剥奪の上、追って処分を下そう…。
 それまで謹慎して待つが良い」
ガテゾーン「帝王…!」

なおも追いすがろうとするガテゾーンだったが、
ゴッドネロスは玉座から姿を消してしまった。

ガテゾーン「これまで、か…」
バルスキー「早まるなガテゾーン。まだ望みはある。
 シュバリアンは戦闘ロボット軍団員であるからには俺の部下でもあるんだ。
 お許しを頂けるよう、俺がこの首を賭けて帝王に直訴してみるさ」
ガテゾーン「……」

252
階級を剥奪され、謹慎処分を言い渡されたガテゾーンは
ゴーストバンク内の一室で力なくうなだれていた。

ガテゾーン「俺はもう、駄目かも知れねえ…」

ゴッドネロスの忠実な使徒として生み出されたはずの彼だったが、
その高性能AIはいつしか創造主の意図を超えて複雑な思考を発達させ、
自分の生き方というものに悩むまでになっていた。
シュバリアンに見られた自己主張の問題が、彼自身の内部にも起こっていたのだ。
(だが、帝王ネロスはそれにはまだ気付いていない…)

ガテゾーン「ここでは、俺のやり方は受け入れられない…」

己の道を貫こうとする中で、いつの間にか彼は帝国内で孤立していた。
真面目一筋のバルスキーと意見がぶつかるのはしばしばだし、
今度のシュバリアンの一件でヨロイ軍団も敵に回した。
何より、帝王ゴッドネロスは既にガテゾーンを信頼していない。
それどころか忌々しく思われている可能性が高いのだ。
そもそもロボット工学者として一流の腕を自負するゴッドネロスは、
自分が生み出したロボットが、自分の理論の枠を超えて
独自の個性あるロボットを作り始めた事が面白くないという感情もあるのではないか…。

ガテゾーン「帝王はもしや、俺まで廃棄処分になさるおつもりではないのか…?」

ガテゾーンは疑心暗鬼に駆られた。
死を恐れたりはしない。だが、こんな死に方は残念で悔しくてどうにもならない。
もっと自由に、俺の生き方を思い切り試せる場所がどこかに欲しい――。

ふと、帝国からの脱出、という発想が彼の脳裏を過ぎった。

???「ガテゾーン、ガテゾーンよ」

どこかから声がした。威厳に満ちた、底知れぬ深みから響く悪の声。
ガテゾーンがふと顔を上げると、目の前に銀色の光のオーロラが壁のように立っていた。
その向こうに、黒い巨大な怪物の顔があり、赤い眼光が冷たくこちらを捉えている。
何か得体の知れない重力に引かれて、ガテゾーンはオーロラの中へ飛び込んだ…。

その日、ガテゾーンは忽然とネロス帝国から姿を消した。
行方は誰にも分からなかった。
ヨロイ軍団員達は彼の脱走を疑い、直ちに追討をとゴッドネロスに進言したが、
ゴッドネロスはまるで何かを知っているかのように、
「今回の件はこれまでとする」とだけ言ってそれ以上の質問や追及を許さなかった。
ゴッドネロスの眼が今までとは違う赤い光を放ったのを見て、
ただ一人クールギンだけが激しく慄き、全てを察した様子でひざまずいた。

そして数年後、怪魔界から地球侵略に現れたクライシス帝国の中に、
機甲隊長として己の造ったロボット達を率いるガテゾーンの姿があった…。
だがその時、既にネロス帝国はメタルダーとの戦いで地上から滅び失せており、
ガテゾーンの秘密を知る者は結局誰もいなかったのである。

バルスキー「今から思えば、あれは正に至高邪神様のご意思によるもの…。
 Gショッカーという大組織が再び我々を結び合わせてくれるとは、
 俺はこの数奇な運命に感謝するぞ…!」

253
●ガテゾーン→かつての同僚バルスキーとしばし旧交を懐かしむ。
 かつてネロス帝国内で孤立して階級剥奪処分を受け、
 その後謎のオーロラによって怪魔界へ転送された過去が明かされる。
●バルスキー→かつての同僚ガテゾーンとしばし旧交を懐かしむ。
●シュバリアン旧型機→バルダック星人のスパイ活動を突き止め抹殺を図るが失敗。
 軍規違反を犯しての行動だったためゴッドネロスに廃棄処分を宣告される(過去回想)。
●ロブル&グルーゾー→バルダック星人と戦うシュバリアンに加勢しようとするが、
 シュバリアンに妨害されバルダック星人の冷凍ガスを浴びる(過去回想)。
●ビッグウェイン→シュバリアンと戦闘中のバルダック星人を矢で狙撃(過去回想)。
●バルダック星人→権現山に潜んでスパイ活動をしていたが、
 シュバリアン旧型機に正体を突き止められ戦闘、
 ビッグウェインの矢を受けて退却する(過去回想)。

【今回の新規登場】
●元爆闘士シュバリアン旧型機(仮面ライダーディケイド/半オリジナル)
 ネロス帝国・戦闘ロボット軍団元爆闘士。
 かつてガテゾーンが開発したロボットで後の怪魔ロボット・シュバリアンの原型となる。
 後継機に輪をかけて自信過剰な性格が開発上の課題として浮き彫りになった。

●元豪将ビッグウェイン(超人機メタルダー)
 ネロス帝国・戦闘ロボット軍団元豪将。
 数々の戦歴を持ち、伝説の巨人と呼ばれた屈強な勇士。
 ゴチャックの武術の師として彼に戦いの全てを教え、厳しく鍛えた。
 戦いに虚しさを感じて引退し、修理工をしていたが後に帝国から脱走。
 脱走の手引きをして処刑されかけたゴチャックを庇い、メタルダーに勝負を挑んで散った。

●元爆闘士ロブル(超人機メタルダー)
 ネロス帝国・戦闘ロボット軍団元爆闘士。
 斧を武器として使う。裏切りの罪によりタグ兄弟に抹殺された。

●元烈闘士グルーゾー(超人機メタルダー)
 ネロス帝国・機甲軍団元烈闘士。
 機雷型の機甲軍団員。敵前逃亡の罪によりタグ兄弟に抹殺された。

●雪男星人バルダック星人(帰ってきたウルトラマン)
 雪と氷の惑星バルダック星から来た宇宙人。
 240年に一度、地球に大接近するバルダック星から仲間の円盤群を迎えるため、
 前回の大接近時である240年前から地球に潜伏し、
 権現山の雪男伝説を利用して身を隠しながら情報収集していた。
 口から吐くマイナス234度の冷凍ガスが武器。熱には弱い。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年11月08日 15:30