本編324~333

『絆は種族を超えて…』-1

 作者・シャドームーン
324

東京・牧村教授邸***


ある平日の朝―――
テーブルを囲み朝食を摂る牧村家の人々は、新聞の一面を飾る
「公民権法案の提出」の記事について談笑していた。

牧村教授「フム…素晴らしい法案だ。これで地球に暮らす、様々な
 種族の人々と互いに手を取り合い少しでも平和に貢献できれば」
牧村夫人「でもあなた…非ナチュラルと呼ばれる人たちには、
 恐い人たちも多いと聞きますよ。…何だか心配だわ」
美樹「そんなことないわよ! 人間じゃないからって、何も悪いことを
 してない人たちまで不当に差別するのは良くないわ!
 私たちとちっとも変わらない、素敵な人たちだってきっと大勢いるわ。
 ねえ、明くんもそう思うでしょ?」

楽しげな話声が響く、どこにでもある家庭の、普段と何も変わらない日常。
「そこ」にいる人々の中で唯一人だけ、彼らの知らぬ非日常に身を置く
男が同じテーブルに着いている。

その男、不動明。デーモン族の勇者・デビルマン。

魔王ゼノンの勅命を受け、人間社会を滅ぼすために彼はやって来た。
不幸にも彼の「宿り木」として殺された青年、不動明の名と姿を借りて…
しかし彼は同胞たちの期待に反し、裏切り者として生きる道を自ら選択した。
冷酷にして最強、デーモン族の誇りとまで呼ばれた彼が、敢えて仲間たちを裏切り
修羅道を歩む決意をしたのは、最初は唯一つの理由からであった……
たった一つだけ、男が己の命を賭けて守りたい、いつまでも傍にいたいと思ったもの。
それが今、彼に優しく微笑みかけている少女…牧村美樹であった。

美樹「…明くん? 明くんってば! もう、聞・い・て・る・の?」
明「ん…あ、ああ…聞こえてるよ。たく、朝から耳元で怒鳴るなよな」
美樹「ま、何よ! 聞こえてたんなら、返事くらいしなさいよね!」
明「へいへい…」
健作「エヘヘヘ、お熱いですねえお二人さん。もう婚約しちゃったら~?」
美樹「こらっタレちゃん! どこでそんな言葉覚えたの!」
健作「や~い赤くなった赤くなった! やっぱりお姉ちゃんは明兄ちゃんが好きなんだあ♪」
美樹「……っ く、この~~待ちなさい!!」
牧村夫人「これ二人とも、食事中ですよ!!」

年不相応にマセた弟にからかわれ、真っ赤になってそれを追い回す美樹。
その騒々しい様をパイプを咥えて優しく見つめる牧村教授と、叱りつける夫人。
何の変哲もない見慣れた光景…それが彼にとってはかけがえのないものになっていた。

人の世に、愛がある。人の世に、夢がある。この美しいものを、何としても守りたい――

デビルマンが牧村美樹に抱いた恋愛感情は、ともすれば宿り木となった不動明の
彼女への想いが強く作用したのかもしれない。しかし今となってはそんなことはどうでも
よかったのだ。美樹を守るため、と言いながらデーモン族の刺客と戦い続けるうちに、
彼の戦いは最愛の人の家族や親しい人々、そして彼らの生きるこの世界を守る
戦いへと変化しつつあったからだ。それは彼自身、無自覚なままそうなっていったのだが。

325

牧村教授「う~~む。……似てきたかな」
牧村夫人「?何かおっしゃいましたか、あなた」
牧村教授「いいや、ははは。何でもないよ母さん、コーヒーをもう一杯頼めるかな」
牧村夫人「はい。じゃあ今度は、砂糖は抜きでいいですね?」
牧村教授「あ、ああ。かまわんよ」

席を離れた夫人をチラ見しながら、牧村教授がそっと明に耳打ちする。

牧村教授「まあ…家内に似て少々口五月蝿いのが玉にキズだが…、
 明くん。美樹のこと、私からもよろしく頼むよ」
明「へっ!? ど、どうしたんですか、おじさん。改まって」
牧村教授「ふふふ…こういっちゃ何だが、君のお父さん――不動教授もきっと天国で
 喜んでくれるんじゃないかと思ってね。昔は繊細な印象のあった君も、この家に来て
 からすっかり頼もしくなったようだ。あの事故では私も大切な友人を亡くしたが……
 明くん、君を引き取って本当に良かったと思っている。だから、迷惑かもしれないが、
 これからも末永く私の娘や息子と仲良くしてやって欲しい」
明「めっ、迷惑だなんてそんな! 俺のほうこそおじさんたちにどれほどお世話になってるか…
 その…こちらこそ、よろしくお願いします…」
牧村教授「おお、そうかね! それは良かった。いやあ今だから打ち明けるんだが、
 最初に君がうちに来た頃は何というか…まるで人が変わったように目つきが鋭く
 なったような印象があったんでね。新しい生活に馴染んでもらえるか心配してたんだよ。
 まああんな体験をすれば当然だし、私の取り越し苦労だったようだ。ん、ありがとう」

夫人が置いたコーヒーカップを手に取り、再び牧村教授は新聞に目を向けた。
「人が変わった」という表現は的を得ている。何故なら今ここにいる不動明は全くの別人…
いや人間ですらない。本当の不動父子はとっくの以前にヒマラヤの山中で息絶えている。
登山中に父子がデーモン族が眠る氷の国へ転落したのは、確かに不幸な事故だろう。
不動教授はその事故により死亡した。だが…息子の不動明は殺されたのだ。
他ならぬ、人間界へ潜入するために「宿り木」を必要としていた自分の手によって。

明「おじさんたちは知らない…この俺が、おじさんの親友の息子を手にかけその顔と
 体を奪った男だということを。元は人間界に災いの種を振りまくためにやって来た
 デーモン族だということを。美樹やタレちゃんを、彼らの親しい人間たちを、
 幾度となく窮地に陥れた化物どもの仲間だったという真実を。
 俺がデビルマンの正体をもし明かしても、皆は俺に明として接してくれるだろうか…」

『公民権法』か…物好きな政治家もいるもんだぜ、と明はパンを齧りながら故郷である
ヒマラヤの奥地――地球の先住民族デーモン一族が棲む氷の国を思い出していた。
デーモンにとって人間は自分たちが氷に閉じ込められている間に繁殖した、不倶戴天の
敵であり滅ぼすべき存在である。奴らと人間が、平等に相容れるはずがない。

デーモンから見てそうであるように、人間もまた自分たちの理解を超えるもの、
自分たちより優れたものを決して受け入れはしない。両者の利害は水と油…
議論するだけ無駄。ん?だったら何故、自分は人間の側について奴らと戦っているんだ…?
柄にもなく、こんなことを考えてしまう。それもこれもこんな奇妙な法案を提出
しやがった、あの変わった人間のせいだ。なんといったか、あの総理大臣。

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美樹「でも剣総理って立派よね~! こんな思い切ったこと、そうそうできる
 ことじゃないわ。凛としてて意志の固そうな雰囲気だし、その上ハンサムだし☆」
明「けぇーーっ! こういういかにも弱いモンの味方でございって野郎ほど、
 腹の底は信用ならねえんだよ!」
美樹「も~~どうしてそう捻くれてるのかしらねえ、君は」
健作「いひひ…明兄ちゃん、妬いてるね?」
明「うっせーマセガキが!! おら、メシ食ったらとっとと学校へ行きやがれっ!」
健作「はあ~~い! じゃ、行ってきま~す!」
牧村夫人「タレちゃん、車に気をつけるのよ~~」
明「たく~。どいつもこいつも…」
美樹「ほら明くん? 学校へ行くのは、私たちもよ。さあグズグズしてると遅刻
 しちゃうわよ! あたし、先に行ってるからね」
明「お、おい美樹ちゃん、そりゃあねえだろ! ちょっとぐらい待っててくれよ~」

いそいそとカバンを持ち、玄関へ向かう美樹。間抜けなことに一人、まだパジャマ
姿でいた明は、急いでトレードマークである「A」のイニシャルが胸に入ったシャツに着替え、
ズボンのベルトを締める。多少慌てた様子で彼もカバンを持ち、美樹の後を追う。

牧村教授「ん、いつもの明くんだ。はははは!」
牧村夫人「本当ね、クスクス…」

美樹「明く~~ん? 早くしないと、本当に置いていくわよ」

玄関の向こうに、明に手を振る美樹がいる。彼は心の中で強く頷いて見せた。

明「(…何故もクソもねえ。俺がここにいるのは美樹を守るために決まってらあ。
 例え俺の正体を知られて美樹に嫌われたって…嫌われたってよう…俺は…)」

「バゥンッ ドッドッドッド…」

美樹「あ……」
明「一緒に行こうぜ。乗れよ、美樹」

愛用のネイキッドバイクに跨り、ヘルメットを差し出す明。
以前なら、乱暴な運転で登校する明を怒り飛ばし嗜める彼女だが――

美樹「うん♪ …明くん、しっかり掴まってるから…絶対に振り落とさないでね」
明「ああ、分かってる。美樹を乗せてる時は、安全運転ってやつに気をつけるさ」
美樹「んもう、いつも安全運転じゃなきゃダメよっ! そ・れ・か・ら。
 ヘルメットは明くんがまず被らなきゃいけないでしょう!」

いつもノーヘルで走り回る明だが、今日は珍しく腕に提げていたヘルメットを
ちゃんと被り顎紐を締めてみせた。

明「ほら、これで文句ねえだろう? やれやれ…美樹ちゃんにゃあ敵わねえよ」

後部シートに牧村美樹を乗せ、不動明―デビルマンが駆るマシンが走り出す。
登校には20分もかからないが、彼はこの瞬間が一秒でも永く続いて欲しいと
感じていた。次々と強敵を送り出す魔王ゼノン。いつかは雌雄を決さなければ
ならないだろう。果たしてデビルマンの能力で勝てるのか?
自分がやられたら、美樹とその家族、そしてこの美しい世界は一体……?

明「(美樹…俺は負けねえよ。どんなことがあっても、お前だけは俺が絶対守ってやる。
 お前がいるこの世界が…俺も好きだ。お前を傷つけるなら、人間だって許さねえ!
 その人間たちが…デーモンの俺を拒絶しても…それでも俺は―――…
 お前のために、おじさんたちやタレちゃんのために、奴らと戦い続けるよ…)」


二人が学校へ向け走り去った数秒後、牧村邸を監視する影があった――
ムササビのような姿をした妖獣、ヒムラーは静かに人間の若者へと変身する。
人間名「氷村巌」を持つこの魔将軍ザンニン配下の妖獣は、不動明と
同じタイプのネイキッドバイクに跨り不適な笑みを浮かべた……

氷村「クックック…デビルマンめ、相も変わらず小娘にご執心か…
 裏切り者の貴様がいつまでも人間の中で平穏に暮らせるものか」

「ドゥンッ!!」

ヒムラーこと氷村巌は、アクセルを捻るとすぐさま二人の後を追うのであった。

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東京・埋れ木邸***


ここは閑静な住宅地にある、ごくありふれた一戸建て二階の一室。
子供用机に新聞を広げ、熱心にそれを読んでいる栗色のクセっ毛
のある少年と――何やらおかしな姿をした生物が会話していた。

真吾「う~ん……」
百目「悪魔くん、何て書いてあるんだモン?」
真吾「うん。要するに、人間以外の生物…例えば悪魔とか妖怪を、
 理由もなく仲間外れにしちゃいけませんってことかな」
百目「わあ! それはとってもいいことだモン♪」
真吾「そうだね…きっとファウスト博士や皆も、喜んでるんじゃないかな。
 皆元気かなあ……メフィスト二世はどうしてるだろう」
百目「モン♪ メフィスト二世のことだから、そんなニュースも何処吹く風で
 きっと死神屋のラーメンでも食べてるに決まってるモン!」
真吾「あははは、そうだね」

仲良く大笑いしている少年と、犬のような…いや犬と呼ぶには無理のある、
全身に目玉が付いている珍妙な生物はいそいそとランドセルを背負い始めた。
どうやら登校前らしいこの少年――埋れ木真吾、通称「悪魔くん」とおかしな
生物こと悪魔くんの十二使徒の一人、第六使徒「百目」は少し前まで、
ファウスト博士が校長を務める「見えない学校」で共に学んだ仲である。

自分が一万年に一人現れるという真の「悪魔くん」だと知らされた日から、
真吾少年は十二人の仲間たちと出会い、人間と妖怪や悪魔が平和に共存
できる世界を目指していくつもの大冒険を潜り抜けてきた。そしてついには、
人間の暮らす地上界はおろか、地獄界や桃源郷、妖精界まで支配を目論んだ
東嶽大帝の野望を阻止することに成功し、長い旅を共にして来た仲間たちとの
別れを経験して彼は普通の少年としての日常へ戻っていた。
ところがこの百目だけは、ひょっこり真吾少年のところへ帰って来たのだった。

メフィスト二世「――人を見縊ってもらっちゃあ困るなあ」
真吾&百目「メ、メフィスト二世ーっ!」
メフィスト二世「よっ! へへっ…元気にしてたかい?」

ベランダに颯爽と降り立ち、ステッキをクルリと回して逆さへの字をした口元で
微笑むシルクハットに黒マントの紳士。…の格好をした子供が陽気に挨拶する。
魔界で知られたメフィスト一世の息子、第一使徒「メフィスト二世」である。

真吾「君こそーっ! よく会いに来てくれたね…突然来るからびっくりしたよ」
百目「メフィスト二世~~あ、あ、会いたかったんだモ~ン!」
メフィスト二世「まー俺がいなくてそろそろ寂しがってんじゃないかと思ってね。
 遥々こうして懐かしい友達に会いに来てやったんだよエヘン!」
真吾「うふふふ…変わってないね、メフィスト二世。さ、あがんなよ!」
メフィスト二世「おう、う~ん…窓からこの部屋に入るのも久しぶりだぜ。
 お邪魔しまあ~~~~すっ、と! あ…そうだ百目、お前さっき何か
 ラーメンがどうだとか言ってたよなあ? …ズバリ、あるのか!?」
百目「やっぱりメフィスト二世は、メフィスト二世だモン!!」
真吾「ほんとだ。…ぷ。あ、あははははっ」
メフィスト二世「なんだよぉ~~あるのかないのかはっきりしろよう!」

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エツ子「おー兄ーちゃんっ!! 早くしないと遅刻するって、さっきから
 呼んでるでしょ!!」

怒声と共に勢い良く部屋のドアがドバァーーンッと開け放たれた。
廊下にはまん丸眼鏡をかけた女の子が、腰に両手をあててふくれ面を
して立っている。ポカーンとした表情で部屋に佇む一同。メフィスト二世だけは
目を皿にしてその女の子を凝視しているが、彼女は気づいていないようだ。

真吾「エ、エツ子……あーっ! そうか登校前だったんだあ~!」
百目「そうだモン!遅刻すると怒られるモン!もう、メフィスト二世が
 急に来るからだモン!」
エツ子「たくー、百目ちゃんまで何寝ぼけてんのよ。メフィスト二世さんが
 いるわけないじゃな…え」

メフィスト二世の静止した視線と、彼女の視点が重なり合う。
女の子もまた、一旦眼鏡を外して丹念にナプキンで拭いた後、
再びシルクハットの少年を凝視する。

エツ子「…メ…メフィスト…二世…さん?」
メフィスト二世「エ……エッちゃん」
真吾「うわー…」
百目「二人とも目が輝いてるモン…」

ほろほろと、彼女の頬を熱い涙が伝っていく。ついに堪えきれず、女の子が
両手を広げて駆け出した。メフィスト二世はマントで浮きながら彼女に駆け寄る。

エツ子「うわーんメフィスト二世さぁんっ! どうして急にいなくなっちゃったのー!!」
メフィスト二世「すまねえエッちゃあーーんっ!!」
エツ子「二世さあ~~ん!」
メフィスト二世「エッちゃん! 俺に…っ 俺に…っ ラーメンを作ってくれーー!!」
エツ子「………ふぇっ!?」

情熱の涙を流しながら走ってくる女の子を、しっかりと抱きとめてやるのかと思いきや、
メフィスト二世は彼女の両手をガシィッ!と掴み真剣な表情でそう言い放つのだった…。

真吾「わあああ! もうそれどころじゃないよ、今からじゃ走っても間に合わない!」
百目「ど、ど~するんだモーーーン!?」
メフィスト二世「慌てなさんなお二人さん。ここに頼りになる男、メフィスト二世様が
 いるじゃねえか。…乗りな悪魔くん! 折角来たんだし、今日はサービスしてやるぜ」
真吾「本当かいメフィスト二世ー! ありがとう、助かるよ!」
百目「さすがメフィスト二世だモンー! 悪魔くん、急ごうモンっ!」
真吾「うん! じゃあ頼んだよメフィスト二世」
メフィスト二世「あらよっと! じゃあ超特急で行くから、しっかり掴まってな!」

悪魔くんと百目を背中に乗せ、ベランダから飛び立つメフィスト二世。
…が、すぐに引き帰し部屋で呆然としている女の子に微笑みかけてニッコリ笑う。

真吾「うわわっ…どうしたのメフィスト二世!?」
メフィスト二世「エッちゃん! 学校から帰って来たら、美味いラーメン作ってくれよなっ!
 さあて、そんじゃあ今度こそ超特急で行くぜーーー!!」
真吾&百目「うわああああーっ!!」

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ベランダからメフィスト二世が飛び去り、こうして狭い埋れ木家の子供部屋には、
唖然としている真吾少年の妹・エツ子だけが残されたのであった。
パタパタというスリッパの足音を鳴らし、母・コハルが階段を上がって部屋へやって来た。

エツ子「………………」
コハル「エツ子? あら、真吾と百目ちゃんは? 一緒にいたんじゃなかったの?」
エツ子「あ…お母さん。 …はっ! ちょ、ちょっとーーーーーっ!!
 私も一緒に乗せて行ってよーーー!! ムキイイイイ!!
 お兄ちゃんばっかりメフィスト二世さんを~~っ …おぼえてらっしゃい!」

ぐぐぐぐ、と拳を握りしめ、歯軋りしながらシャウトするエツ子。
母・コハルは「変ねえ…」と一言告げて再び階段を降りて行った。
一階の居間では父・茂が二階から漂う只ならぬ怒気を感じ取り、何か閃いたのか
床下に設けられた「仕事場」へ向かっていた。

茂「むむむ! これは…いける。今日こそは良いアイデアが浮かびそうだぞぉ~!」


町の通学路***


星郎「あ、鬼太郎さんだ! 夢子ねえちゃん見て、あそこに一反木綿さんが…」
夢子「でも星郎…一反木綿さんにしては、形がヘンよ。鬼太郎さんのお友達かしら…」
星郎「い~なあ…ぼくも空を飛んで学校に行きたいなー」
夢子「何言ってるの。星郎、さあ行くわよ(…帰りに鬼太郎さんに聞いてみようかな♪)」

星郎「お姉ちゃん早く早くー! 先に行くねー!」
夢子「あ…もうっ、星郎ったら! ふふ…鬼太郎さん、今頃何してるかしら…
 ん~でもやっぱり朝は寝床でグーグーグーってとこかしらね。いいなー」


町の道路***


明「(…なんだ? この感覚…デーモンに近いような…)」
美樹「あら、空に…飛行機雲かしら?」

信号待ちの間、デビルマンの超感覚で空を飛ぶ謎の物体を感知する
明と、上空に目を向け指差す美樹。その後方から一台のオートバイが
迫りつつあった…

氷村「フフフ…いたなデビルマン。そして牧村美樹…」


町の上空***


真吾「ぶる…ッ 何だろう…とっても嫌~な悪寒が…」
メフィスト二世「どうした? 風邪でもひいたのかい」
真吾「い、いや…たぶん大丈夫…だと思う」
百目「それにしてもメフィスト二世が来てくれなかったら危なかったモン♪」
真吾「そうだメフィスト二世。もしかして、何か用事があったんじゃ…」
メフィスト二世「ご名答! さすが悪魔くんは冴えてるねえ。まあまずは久しぶりに
 会えたんだし、その話は後でゆっくりするつもりだったんだが…聞きたいかい?」
真吾「手短に話せることなら、今でもいいよ」
メフィスト二世「OK! じゃ、かいつまんで話すぜ。二人が話してた公民権法
 なんだが…あれに親父もファウスト博士も興味深々でなあ。
 特にファウスト博士なんか、長生きはするもんじゃ…な~んて涙流してたぜ。
 かと思えば、これまで以上に悪魔と人間の関わり方に深い意味が生まれる
 かもしれないとかなんとか…急にまたマジな顔して暗い雰囲気になるし…
 まあ~たく年寄りどもは心配性でいけねえよなあ」

百目「メフィスト二世、見えない学校に行って来たのかモン!
 懐かしいモン…もう一度、皆と集まって博士に会いたいモン」
メフィスト二世「お、たまには良いこと言うじゃねえか百目。そうさ!近いうちにまた
 皆集まることになりそうだぜ。実は今日、ファウスト博士に一度見えない学校へ
 悪魔くんを連れて来てくれって頼まれたんだよ。他の連中にも使いが行ってるぜ」
真吾「本当かいメフィスト二世!? でも、何で急にまた…?」
メフィスト二世「ん~俺も詳しいことは聞いてないんだが、何でも近頃世界中で
 勝手に死人が生き返ってる現象が起きてるらしくてなあ」
真吾「そのニュースなら知ってるよ。黄泉帰り現象とか、時空クレバス現象とか…
 学校でも情報屋が特ダネ掴むんだってはりきってたからね」
メフィスト二世「ぶはは、情報屋かい。あのメガネ、ま~だ懲りてねえんだな。
 でもな悪魔くん。お前さんなら、今この世界に何かが起きてることは、
 何となくでも感じてただろう?」
真吾「…うん」

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メフィスト二世「その黄泉帰りで、地獄界も大騒ぎさ。閻魔大王も原因がさっぱり
 分からねえみたいだし、上から下まで実質業務が滞っちまってるらしい」
真吾「そう……じゃあニオウ様もとっても困ってるんだね…」
メフィスト二世「ああ。親父のところにまで、原因調査の依頼が来るぐらいだからな。
 ファウスト博士が危惧してるのは、また東嶽大帝みてえなでかいワルが復活して、
 前以上の規模で全世界征服を企んでるんじゃないかってことさ。しかも人間界
 じゃあえらく俺たちみたいなのに、寛大な法律ができそうだろう?
 どっちにも付きたくなくて、隠れてる奴らも大勢いるんだ。そういう奴らが人間にしろ
 悪魔にしろ妖怪にしろ、心底腐ってる悪い野郎に利用されないように……
 とにかく、学校が終わったら迎えに来るぜ。さあ、そろそろ到着だぜお二人さん!」

真吾「うん分かった。また後でねメフィスト二世。ありがとう!」
百目「サンキューベリマッチョ☆ だモン!」
メフィスト二世「いいってことよ。じゃあまたなっ!」

メフィスト二世は人目に付かぬ校舎裏に二人を降ろし、飛び去ってゆく。
行き先はもちろん、「エッちゃんのラーメン」が待つ(…と本人が思っている)
埋れ木家である。真吾少年と百目はメフィスト二世に手を振り、教室へ
向かった。クラスメートたちが次々と声をかけてくる。

貧太「やあ、おはよう悪魔くん、百目くん」
キリヒト「おはようございます。今日も素晴らしい朝を迎え神に感謝を…」
真吾「おはよう、貧太くん、キリヒトくん」
百目「おっはよぉーーだモン!」
真吾「あれ、情報屋は来てないの? 珍しいなあ~」

情報屋「ウッフッフッフ~! 見たぞ見たぞ悪魔くん!
 昨日、ぼくはとうとう時空クレバスから怪物が出て来るところを
 シャッターに収めることに成功したのだあっ!!」

真吾「うわっ! お、おどかさないでよ情報屋…」
貧太「本当かなぁ…ま~たいつも通りのガセネタ掴んだんじゃないの?」
キリヒト「おお恐ろしい…それが真であるならば、世界はどうなってしまうのでしょう」

情報屋「し、し、失敬な! 今度こそちゃあ~んと証拠を……あれれ!?」

情報屋がカバンから写真を取り出して見せたが、全て真っ黒で判別不能な
ピンボケ写真ばかりであった。これもまた、いつものことである。

百目「なあ~んだ、やっぱりかモン」
貧太「ほ~んと。よく毎度毎度、同じ写真ばかり撮れるもんだ感心するよ」

情報屋「ちち違ーうっ!本当に昨日ぼくは、あの身の毛もよだつ怪物に
 襲われかけたんだからっ! それでも命からがら逃げながら、写真を撮った
 んだってばあ!! …おっかしいなあ…ね、悪魔くんは信じてくれるよな!?」

女教師「はあ~い皆さ~ん。席に着いてー。ホームルームを始めますよ~」
情報屋「あ! いけね……っ」
女教師「ん! 情報屋くん、学校にはカメラなんか持って来てはいけませんと
 この間も注意したでしょう。こ・れ・は、先生が預かります。いいですね?」
情報屋「ああ…ぼくのカメラ…ちぇっ」
真吾&百目「うふふ クスクス…」
女教師「ああそうそう、埋れ木くんに百目くん。あなたたちに特別な用が
 ありますから、今日は放課後に教室に残っておいてね」
百目「え~! そんなぁ…だモン」
真吾「先生、特別な用…って何ですか?」
女教師「特別な用は特別な用です! …いいですね?」
真吾「は、はあ…」
貧太「運が悪いね~たぶん、教室の整理整頓でも手伝わされる
 んじゃない? ぼくもこないだやらされて…」
真吾「ふ~ん。何だぁ、そういうことか…」
百目「きっと今日は朝にいいことがあったから、ツケが来たんだモン」
貧太「え、いいことってなに? 教えてよ悪魔くん!」
真吾「うん。エヘヘ…実はね…」

「きりーつ! れーい!」
「おはようございまあ~~す」
「ちゃくせきー」

女教師「はい、おはようございます。では皆さん、今日も一日、
 がんばってお勉強しましょうね。…ウフフフフ…」

三角形のつり上がり型眼鏡をかけている、真吾少年のクラスの担任教師。
その眼鏡の奥の目が、ほんの一瞬だけ…鋭い眼光を放っていた――――

331

○不動明→美樹を乗せ、バイクで学校へ向かう。彼女を守る決意を新たに心に誓う。
○牧村美樹→明と一緒に学校へ向かう
○牧村教授→公民権法の英断を喜び、明に子供たちをよろしくと告げる
○埋れ木真吾→メフィスト二世との再会を喜ぶ。彼に乗せてもらい学校へ
○百目→公民権法を素直に喜ぶ。悪魔くんと共に学校へ
○メフィスト二世→悪魔くんと百目を背中に乗せて学校へ飛ぶ
○天童夢子→空を飛ぶメフィスト二世を目撃し、鬼太郎の仲間妖怪と思う
●氷村巌→明と美樹をオートバイで尾行中

【今回の新規登場】
○不動明=デビルマン(TVアニメ版デビルマン)
人類根絶と地球支配権奪還を目論む、先住民族デーモン族の比類無き勇者。
魔王ゼノンの尖兵として人間・不動明に乗り移り牧村家へ潜入したが、そこで出会った
少女牧村美樹を愛してしまい、裏切り者の名を受け全てを捨てて戦う男。
『デービール!』の掛け声で不動明の姿からデビルマンへと変身する。
デビルチョップ、デビルキックの格闘技やデビルアロー、デビルカッター、デビルビームなどの
必殺技を駆使してデーモン族の妖獣と日夜激闘している。巨大化能力のほか、
真紅の羽デビルウィングを広げ飛行も可能、「悪魔の力」で戦う正義のヒーロー。

○牧村美樹(TVアニメ版デビルマン)
牧村教授の長女。明朗闊達で気が強く男勝りだが、基本的に誰にでも分け
隔てなく接せる優しい性格。悪い子には容赦なく平手を浴びせることから、
不良グループなどには「平手ミキ」と呼ばれている。
明に惹かれているが、素直になれず口喧嘩になることもしばしば。
明の心の支えにしてデビルマンが命を懸けて守る者。本人はデビルマンの存在を
知ってはいるが、明と同一人物だとは気づいていない。

○牧村健作(TVアニメ版デビルマン)
牧村教授の長男で美樹の弟。非常に臆病な性格で、恐ろしい場面に遭遇
すると失禁してしまうクセがあるせいで「タレちゃん」のアダ名をつけられてしまった。
明も本当の弟のように接しており、一度ある事件で明がデビルマンに変身する
ところを見てしまうがその場で気絶、本人は夢を見たと思い込んでいた。

○牧村教授(TVアニメ版デビルマン)
登山事故で死んだ不動教授の友人で、孤児となった明を引き取り家族同然に
接している。公民権法の提出を心から喜んでいる識者の一人。

○牧村夫人(TVアニメ版デビルマン)
牧村教授の妻で、教授同様に引き取った明に本当の息子のように接している。

332

○埋れ木真吾(TVアニメ版悪魔くん)
タロットカードや魔法陣の研究に日夜没頭していた風変わりな小学生。
本物の悪魔を呼び出す実験を繰り返しては失敗、という毎日のある日、
百目の案内で「見えない学校」へ招待される。そこでファウスト博士により
自分が一万年に一度現れるという「悪魔くん」であると告げられ、博士の
指導を受けて真の悪魔くんとして卒業し、「ソロモンの笛」を託された。
彼を助ける十二人の仲間、「十二使徒」を探し求め、人間と悪魔が幸せに
暮らせる世界を作るため、東獄大帝率いる悪魔軍団に立ち向かって行く。
「夢よ、届け君の心に!」が毎回の予告ナレーション後に印象的な決めセリフ。

○メフィスト二世(TVアニメ版悪魔くん)
魔界にその人在りと言われた悪魔メフィストの息子。第一使徒。
悪魔くんは当初メフィスト一世を呼び出す予定だったが失敗により
二世を呼び出すことに。皮肉屋でやや自意識過剰な性格だが腕は
確かで、まだ子供ながら数々の魔力を使いこなす。
プライドが高いせいで最初は悪魔くんに使われることを嫌がっていたが
じきにうちとけ、百目と共にほとんど埋れ木家の一員であるかの如くよく
遊びに来ている。父親のメフィスト一世と親子揃って無類のラーメン好きであり、
行きつけは魔界のラーメン店「死神屋」。悪魔くんの妹エツ子と仲が良くなり、
彼女に作ってもらうラーメンが一番の大好物。

○百目(TVアニメ版悪魔くん)
百目一族の子供で、全身目だらけの悪魔。最初にブカブカのコートを
着て街中を歩いている時に悪魔くんと出会い、彼を「見えない学校」
へと案内した。悪魔くんが使命に目覚めてからは第六使徒となる。
私生活でも悪魔くんと最もうちとけ、そのまま埋れ木家に居ついている。
語尾に「~モン」と付けるのが口癖で、臆病で泣き虫だがここぞという
時には友達のために奮起する。「ポーン!」の掛け声で全身の目玉を
飛ばして攻撃したり、相手の印象や感情を操ったりもできる。
その魔力で真吾少年のクラスメートや先生にも驚かれず学校へ通う。

○埋れ木エツ子(TVアニメ版悪魔くん)
真吾の妹。元気一杯でわりとおとなしい兄よりしっかりしている。
かなりの近眼で大きなまん丸眼鏡がチャームポイント。
家系なのか、悪魔である百目やメフィスト二世が家にいても全く
動じない。同居している百目を可愛がり、メフィスト二世には
ほのかな恋心を寄せていたりする。

○埋れ木コハル(TVアニメ版悪魔くん)
真吾の母。おっとりした性格で、真吾の「友達」に百目やメフィスト二世が
できてもさほど驚かない。居候している百目を家族同然に可愛がっている。

○埋れ木茂(TVアニメ版悪魔くん)
真吾の父。職業は漫画家だがさっぱり売れず家計は厳しい。
オカルト研究に没頭する息子を咎めるでもなく、不可思議な存在や世界に
対しても寛容で積極的に興味を示す。何かネタにならないか日々苦闘中。

○貧太(TVアニメ版悪魔くん)
悪魔くんのクラスメートで大の仲良し。悪魔くんが「真の悪魔くん」となる以前から、
一緒に魔法陣や悪魔に関する研究を手伝っていた。
唐傘を開いて頭に乗せたような特徴的なヘアスタイルをしている。

○キリヒト(TVアニメ版悪魔くん)
悪魔くんのクラスメート。家族全員が信心深い性格で、何かと神に祈るのが日課である。
細長い顔にほとんど線に見えるタレ目が特徴で、絵に描いたような人畜無害な少年。

○情報屋(TVアニメ版悪魔くん)
悪魔くんのクラスメート。常にカメラを持ち歩き、特ダネを追いかけることや聞いた話を
すぐに周りに言いふらす性格から「情報屋」とアダ名で呼ばれている。本名不明。

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○天童夢子(TVアニメ版ゲゲゲの鬼太郎第三期、ゲゲゲの鬼太郎地獄編)
ゲゲゲの森によく出入りしている小学生の女の子。妖怪「鏡じじい」に襲われた
事件で鬼太郎と知り合い友達となる。本人も鬼太郎に想いを寄せており、
猫娘と火花を散らすこともあったが、優しい性格ゆえ多くの妖怪たちと交流
している。ねずみ男にとってはマドンナ的存在。地獄を鬼太郎一行と一緒に
旅したおり、地上界へ後一歩というところで落石に当たり一度命を落すが、
鬼太郎の母が閻魔大王から贈られた自らの命を与え、生き返ることがきた。

○天童星郎(TVアニメ版ゲゲゲの鬼太郎第三期、ゲゲゲの鬼太郎地獄編)
夢子の弟で鬼太郎に憧れる小学生。人間の生活が嫌になり、河童の子供と
人格を入れ替えて河童の世界へ行ってしまったこともある。

●妖獣ヒムラー=氷村巌(TVアニメ版デビルマン)
デーモン族の最高幹部の一人、魔将軍ザンニン直属のムササビに似た妖獣。
ザンニンの密命で氷村巌に化けて明たちの通う高校へ転入して来たが、
本当の使命はデビルマンの人間界での暮らしを監視することにあった。
人間体は明のライバルのように振る舞い、何かと対抗して張り合うように振舞う。
正体を見せると黒煙を周囲に撒き散らし、闇の中から鋭い牙や爪で攻撃する。

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最終更新:2020年11月08日 15:51