『次元の傍観者』
作者・シャドームーン
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Gショッカー無幻城・邪神謁見の間***
マクー、マドー、フーマ。三つの宇宙犯罪組織が根城を構える異次元空間
――その三つが唯一交わるここポイントゼロの果てに聳え立つ無幻城。
その最上部、「謁見の間」から世紀王シャドームーンは歪に形を変え続ける
不定形な空間の様子を黙して眺めていた。
シャドームーン「……………」
ジェネラルシャドウ「ポイントゼロの御感想は如何ですかな、ミスター」
トランプをパラパラパラと捲りながら背後から声をかけるジェネラルシャドウ。
無愛想な影の王子は振り返る様子もなく、静かに答えた。
シャドームーン「特に感想はない。眺めて楽しむ程の景観ではないからな」
ジェネラルシャドウ「フフフごもっとも。但しこの空間程、我らGショッカーの
本拠地に適した場所はないですからな。別の次元へ航行できる手段
を持つ連中は数あれど、此処を突き止めるのは容易ではありますまい」
シャドームーン「そのようだな」
感情の乗らない短い言葉を返し、シャドームーンは再び黙ってしまう。
ジェネラルシャドウも途切れた会話に次の話題を振るでもなく、
壁にもたれて相変わらずトランプを切ったり捲ったりしていた――
シャドームーン「シャドウ」
ジェネラルシャドウ「ハ……」
シャドームーン「ライダーストロンガーに挨拶は済んだようだな」
白銀の背中を向けたまま、シャドームーンは突然語りかけた。
珍しく向こうから話題を振られたので、ジェネラルシャドウはやや驚きつつ
透明のフードの中に見える赤い口元をニヤリとさせた。
ジェネラルシャドウ「左様。流石は影の王子、お耳が早いですな…フフフ」
シャドームーン「コウモリ怪人が頼みもせんのに報告に来るんでな」
ジェネラルシャドウ「ほう…油断なりませんな」
シャドームーン「次に会った時は奴の命を狙うか」
ジェネラルシャドウ「無論。それがこのシャドウの生き甲斐なれば…」
――ガシャン
影の王子がゆっくりと後ろを振り返り、ジェネラルシャドウに顔を向けた。
静まり返った謁見の間に、レッグトリガーの連動音が反響する。
シャドームーン「フン、やはり変わった男だな…貴様は」
ジェネラルシャドウ「…とおっしゃいますと?」
シャドームーン「次期創世王という餌を巡り、誰もが鎬を削る真っ最中だと
言うのに…大首領直属の改造魔人である貴様が、えらく暇そうに見える」
ジェネラルシャドウ「これはしたり。そう言う貴方こそ、創世王様が一番の
期待を寄せている立場に在りながら、全く動かぬではありませぬかフフフ」
シャドームーン「バトルファイトか。生憎と俺には何の興味も湧かんな」
ジェネラシャドウ「フッ…それは貴公だから言えるのだよ、シャドームーン」
シャドームーン「そうかもな」
ジェネラルシャドウ「ビルゲニア殿など、貴方の沈黙をいい事に貴方の政敵に
近づき何やら画策しておられる様子…いいのかね、放っておいても」
シャドームーン「かまわん。捨てゴマは捨てゴマなりの末路を遂げよう」
ジェネラルシャドウ「捨てゴマですか…クククお気の毒な」
シャドームーン「或いは…我々全員が捨てゴマなのかもしれん」
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穏やかではない発言に、ジェネラルシャドウはトランプを弄ぶ手を止めた。
銀色の無表情な仮面が再び外部を見渡せる大スクリーンへ向き直る。
シャドームーン「貴様や俺を蘇らせたのが、大首領や創世王ではない
とするなら、“そいつ”は一体何者で、何処にいるのか…考えたことはあるか」
ジェネラルシャドウ「いえ…そういう疑問なら、創世王様と随時対話
が可能な貴方のほうがずっとお詳しいのでは?」
シャドームーン「無論すぐに問い掛けた…」
ジェネラルシャドウ「創世王様はなんとお答えに…?」
シャドームーン「フフフ…それが何も答えぬ。秋月信彦の中からこの私を
目覚めさせておきながら、さっぱり声を聞かなくなって久しいのだ。
向こうから特に用が無い時は、沈黙を保っているようだな」
謁見の間の天空を見上げ、シャドームーンはやや苛立ち気味に答えた。
ジェネラルシャドウも暫く顔を上げていたが、やがて興味を無くしたように
俯きトランプからスペードのAを取り出し眺めてこう告げた。
ジェネラルシャドウ「もし…そのような者が本当にいるのなら――」
シャドームーン「…………」
ジェネラルシャドウ「“そ奴”には感謝せねばなりませぬなあ。クックック…」
シャドームーン「フッ、感謝と来たか」
ジェネラルシャドウ「おかげで私は今一度、我が好敵手と戦う機会を得たのですから…」
シャドームーン「プライドの高いシャドウにしては、随分と寛容だな」
ジェネラルシャドウ「貴公こそ、この状況を内心楽しんでおられるとお見受けするがね」
シャドームーン「さあな。俺は俺に動く、それだけだ」
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謁見の間にいるシャドームーンに、大神官ビシュムから通信が入った。
広間に置かれたモニターに女性秘書に変身したビシュムが映し出される。
シャドームーン「ビシュム…何用か」
ビシュム「シャドームーン様、面会の申し込みが来ておりますわ」
シャドームーン「フン、またか。我が名を目当てに媚び諂いに来た下衆か?
それとも敵意剥き出しの阿呆か? …どちらも飽きた、追い返せ」
ジェネラルシャドウ「ほほう…ご苦労が絶えんようですなミスター」
シャドームーン「この城に来て以来、ずっとこんな調子だ」
ビシュム「いえ…新しいメンバーの有力者達です」
シャドームーン「そうか…ならば会っておかねばならんな。
メンバー専用のゲストルームに通しておけ。すぐに行く」
ビシュム「承知しました、シャドームーン様…」
モニターの通信が消え、シャドームーンは右手を腹部のベルトに重ねる。
キングストーンの蒼い輝きと共に、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。
日蝕の日に世紀王に改造された青年・秋月信彦………
――ではなく、見た目はもう少し歳をとった中年男性という容貌である。
ジェネラルシャドウ「初めて見る顔ですな…その姿は?」
シャドームーン「新たにメンバーとなる人間達には彼らに相応しい形で
接して行こうと決めたのだ。かといって秋月信彦の若僧面では侮られる。
そこで思い描いて導き出したのがこの男の顔よ…似合わぬか?」
ジェネラルシャドウ「いえそんな事は。驚きましたな、貴方がそのような行動に出るとは」
シャドームーン「…私の記憶の断片の中に、何故かこの男らしき顔が出るのだ。
何者かは思い出せぬ…しかしどういうわけか、気に入ってな」
ジェネラルシャドウ「中々お似合いですよ、ミスター」
シャドームーン「フッ、この顔の名もすでに考えてある」
ジェネラルシャドウ「ほう? 秋月信彦とは名乗らぬおつもりかね」
シャドームーン「我が名はシャドームーンだ」
ジェネラルシャドウ「おっと、失礼。そうでしたな」
シャドームーン「ゆえに仮の名が必要だ。“月影ノブヒコ”…というのはどうだ?」
「月影ノブヒコ」に変身したシャドームーンは、ゴルゴム神殿に戻ると同じように
女性秘書に変身させたビシュムを伴ってゲストルームへ向かった。
無幻城・正規軍ゴルゴム神殿***
バラオム「ええい、シャドームーン様は何を考えておられるのだっ!
わざわざ人間共のために専用の部屋まで与えるとは…!」
ダロム「シャドームーン様の中には、まだ秋月信彦の心が少なからず
影響しているのかもしれぬ…」
バラオム「何!? バカな、ありえぬ!!」
ダロム「我々が死の世界にいた間、シャドームーン様は一度記憶を
失くしておられた。仮面ライダーめがシャドーチャージャーに致命
の一撃を与えたこと、それに此度の蘇生に人間の小娘が関わった
こと…全てが何がしかの影響を与えたと考えるべきだろう」
バラオム「ならば今一度、我らの手で再改造を…!」
ダロム「ワシもそれを考えておったが、ビシュムが反対しおってな」
バラオム「ビシュムの奴め…また我らを出し抜こうという腹づもりか?」
ダロム「そうではあるまい。ビシュムはシャドームーン様の后の座を
夢想して散ったからのう…個人的な想いを抱いておるのやもしれぬ」
バラオム「な、なんだと!? …うう~ぬ、ビシュムめ…!!」
怒りに震える闘神バラオムと、落ち着いた物腰で冷静に話すダロム。
対照的な二人の大神官に今最も号令を下すべき創世王は、
不気味なほど沈黙を守っていた………。
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△シャドームーン→月影ノブヒコの姿でゴルゴム新メンバーの前に現れる。
●ジェネラルシャドウ→無幻城の謁見の間でシャドームーンと会話
●ビシュム→女性秘書に変身してシャドームーンに付き従う
●ダロム→シャドームーンの不安定な人格に危惧している
●バラオム→シャドームーンの再改造を強く推している 【今回の新規登場】
●大神官=大怪人ダロム(仮面ライダーBLACK)
ゴルゴム創世王に仕えし三神官が一人にして、その指導者たる知恵の大神官。
右手からの遺伝子操作ビームで改造手術を挙行。次期創世王として組織の命運
を握る世紀王の製作に携わる。シャドームーン復活に際して天の石を失ったことで、
本性である三葉虫の大怪人ダロムとなった。理知的な物腰だが性格は陰湿で冷酷。
クジラ怪人の洞窟で蘇ったBLACKに決死の覚悟で挑んだが遂に斃れる。
●大神官=大怪人バラオム(仮面ライダーBLACK)
五万年の太古より創世王に仕えし三神官が一人。武将として戦いを司る大神官。
気が短く荒々しい性格だが、一方で怪人達の戦績や功績には然るべき評価を下す。
シャドームーン復活に海の石を捧げ、剣歯虎の大怪人バラオムとなった。
大怪人になるとより激しい性格となり非常に凶暴。同胞ビシュムの無念を晴らすべく、
クジラ怪人を捨て石にBLACKに挑んだが、怪人の裏切りで激闘の末敗れ去った。
●大神官=大怪人ビシュム(仮面ライダーBLACK)
かつては怪人としての位に甘んじていたが、五万年以前の組織への多大な貢献に
より、大神官の一人となる。巫女的な大神官として、右目で未来を、左目で過去を
見ることができ先人の知恵や予言をゴルゴムメンバーに託す。世紀王復活の切り札
地の石をシャドームーンに捧げたのちに、翼竜の大怪人ビシュムに変貌を遂げる。
次期創世王の后の座を期して、シャドームーンの心算を知るために秋月杏子を
ユニットとした作戦を試みるが万策尽き、BLACKとの自滅を決意する。
だがシャドームーンに委ねたその最期さえ叶わず、地底の花園に散って行った。
最終更新:2020年11月08日 16:05