本編517~522

『キリマンジャロの嵐』-3

作者・マザーメルザード
517

東京・千代田区内某所***


いよいよ公民権法案の基本案決定の日まで大詰めに迫った今日、
公民権法諮問委員会の民間メンバーである、河村武憲助教授と
著名な写真家である南原健一郎の2人を乗せたタクシーが
幹線道路を走り首相官邸へと向かっていた。

河村「いよいよ今日ですな」
南原「これで子供達に明るい未来を残してやることが出来ます。
 本当によかった」

しかし、2人はやがて自分たちの乗るタクシーが
首相官邸とはどこか別の場所に向かっているらしい事に
気づいた。

河村「…ん? おい、君! そっちは首相官邸とは
 方向が違うぞ!」
運転手「………」
南原「おい君、黙ってないで何とか言ったらどうなんだ!」

運転手は2人の問いかけに対しても不気味な沈黙を保ったまま、
やがてタクシーは郊外の人気のない廃工場跡へと辿り着いた。
そして今まで何も喋らなかった運転手が黒いサングラスをかけ、
初めて口を開いた。

運転手「我々はどこにでもいる!」

その言葉を聞いた瞬間、河村助教授はハッとなった。

河村「貴様、"普通の人々"か!?」

<普通の人々>とは、反エスパーを掲げる差別主義団体の事であり、
河村助教授もかつてはそこに在籍していた。
そしてタクシーはいつの間にか、運転手と同じ黒いサングラスをかけ
鉄パイプ等の凶器で武装した物騒な男達に囲まれていた。

南原「私たちをどうするつもりだ!?」
運転手「裏切り者・河村武憲、そしてその仲間・南原健一郎。
 世を乱す国賊のお前たちにこれより天誅を加える―――
 ―――と、言いたい所ですが、我々に協力さえしていただければ
 命だけはお助けしても構わないのですがねえ…」
河村「断る! 何を企んでいるのかは知らんが、
 私は愛する家族を守るため、お前たち差別主義者とは
 最後まで断固として戦うぞ!」
運転手「そのご家族にも危険が及ぶとしたら、
 どうでしょうか?」
南原「どういうことかね!?」
運転手「我々の要求を呑まないと、河村先生のご子息のタケシくんは勿論、
 南原先生のお嬢さん、その嫁がれた先で生まれた可愛いお孫さんにも
 危害が及ぶかもしれないという事ですよ。フフフ…」
河村「――な、なんだと!?」
南原「き…貴様あっ!!」

518

その時、バイクに乗った青年が現れ、バイクから降り
ヘルメットを脱ぐと、タクシーを取り囲む普通の人々を
瞬く間に蹴散らし始めた。驚き慌ててタクシーから降り
駆け寄る運転手。

運転手「な、なんだ貴様は!? ――う、うわあああっっ!!!!!」

その青年は運転手をノックアウトすると、河村と南原の2人に近寄る。

太牙「お2人ともご無事でしたか。よかった」
南原「登君…登太牙君か!」
河村「ふぅー、危ないところだったが、おかげで助かった。
 ありがとう」

河村と南原の窮地を救ったこの青年の名は、登太牙。
巨大投資企業『D&P』の若き経営者であり、
彼もまた公民権法諮問委員会の民間メンバーの一人である。
しかし、その様子を物陰からカメラを構えながら
こっそりと伺っている男がいた。
悪徳ジャーナリストのヒルカワである。

ヒルカワ「公民権法諮問委員会のメンバーの一人で
 D&Pのイケメン若社長として有名な登太牙……こいつの
 正体が実はファンガイアだったとすれば大スクープだぜ。
 さあ、早く変身して見せろ…」
葵「なにこそこそせこい盗撮なんかしとんねん、おっさん!」
ヒルカワ「――なっ!?」

驚いたヒルカワが背後に振り返るとそこには、
三人組の少女とその青年指揮官――ザ・チルドレンと皆本光一の姿が!

ヒルカワ「な、なんだお前たちは!?」
皆本「蛭川光彦だな? お前には名誉毀損及び殺人教唆の他
 数々の容疑が掛けられている。直ちに身柄を拘束する!」
ヒルカワ「ち、ちくしょう! この野郎!!」
葵「ほいっ!」

ヒルカワは足元に落ちていた鉄パイプを拾い、皆本に襲い掛かるが、
葵がとっさにテレポートをかけ、ヒルカワの身体をコンクリートの
壁にめり込ませて動けなくした。

ヒルカワ「ど、どうなってんだこりゃ!!」
薫「どんなもんだい! ざまあみろ!」
ヒルカワ「バベルの特務エスパーか!? くそっ!!」

ジタバタ必死にもがくヒルカワだが、やがて不気味に
クスクスと笑い出した。

ヒルカワ「くっくっくっ………」
紫穂「何がおかしいの?」
ヒルカワ「今更俺を捕まえた所でもう遅いぜ。
 事態は既に動き出してんだよ」
葵「負け惜しみや。気にする事あらへん」

しかし不敵に構えるヒルカワの態度が気になった紫穂は、
念の為ヒルカワに触り心を読み取ってみる。

紫穂「………」
ヒルカワ「なにしやがる?」
紫穂「――!! 皆本さん大変! こいつら、
 生き証人の口を塞ぐつもりだわ!」

519

その日の夜遅く……。

白河尚純邸***


来島「どういうことかね南さん、こんな夜更けに…」
南「ご心配はご無用。万が一の場合に備え、
 あなた方お2人を夜陰に紛れて安全な場所に
 匿うようにとの、白河先生のお言葉です」
羽柴「いったい我々をどこへ?」
南「着けばわかります。さ、早く車にお乗りください」

南雅彦に促されるまま、来島と羽柴の2人は
用意された車に乗り込み、白河邸を密かに出発した。
邸を出た車を見送った南雅彦の口元が一瞬ニヤリと
笑った事などに誰も気づかぬまま…。

某山奥の谷***


やがて夜明けとなり、何時間も高速道と山深い山道を走り続けた車は、
人里から遠く離れた高い山奥の谷間の上へと辿り着いた。

運転手「さあ着きました。降りてください」
来島「ここはいったい…?」

車から降りると、そこには崖の遥か下の方に流れる
谷底の川が見える以外は全く何もなかった。
車から降り、呆気に執られている2人を
白衣を着た怪しげな中年男――倉田が出迎える。

倉田「お久しぶりです羽柴長官…あ、いや、
 今は前長官でしたっけねえ。それに来島副長官も
 どうもはじめまして」
来島「…誰だね君は?」
羽柴「――き、君は!!」

520

倉田の顔を見て驚く羽柴。

倉田明宏博士――かつて羽柴長官の下で
デジタルワールド侵攻作戦を指揮した狂気の科学者。
最後は羽柴の事も平然と踏み台にして裏切り、
世界征服の野望を実行に移すも、DATとの戦いに敗れた。

羽柴「…ど、どうして君がここに!?」
倉田「単刀直入に申し上げましょう。
 あなた方お2人を地獄へお送りするためです」
羽柴「――なっ!!」
倉田「言ってみれば、すぐそこに見える谷底の川が、
 これからあなた方お2人が渡る事になる三途の川です。
 誰もあの世まで追ってはいけませんからね。
 これ以上安全な場所など他にはないでしょう」
来島「おのれ、謀ったな!!」
羽柴「くそーっ! 白河めえっ!」

羽柴は懐から拳銃を取り出し、倉田に向けて数発発砲。
しかし倉田配下のギズモン部隊が盾となり、その頑強な
ボディが当たった弾をはじく音だけが虚しく周囲に響き渡る。
そしてあっという間に羽柴の銃は弾切れになった…。

羽柴「…あ、あわわわわ!!!!」
倉田「無駄な足掻きはやめて大人しく往生なさい。フフフッ…」
来島「だ、誰かあっ! 誰か助けてくれええっっ!!!!」

悲鳴を上げながら逃げ惑う来島と羽柴に迫るギズモンの群れ。
しかしそこへサイレン音と共にZACローダーが到着。サイバーコップが駆けつける。

サターン「バベルから緊急連絡を受けてきたが、
 どうにか間に合ったか」
マーズ「来島、羽柴の両氏は大事な生き証人だ!
 こちらで貰い受ける!」
倉田「…む! あなた方が噂に聞くサイバーコップですか。
 でも私の最高傑作であるギズモンシリーズの敵ではありません!
 殺っておしまいなさい!!」

ギズモンたちと戦うサイバーコップ。
マーズのトライショットがギズモンをハチの巣にし、
サターンのディスクラッシャーの高速回転の刃と、
マーキュリーのスラッシュキャリバーの鋭い剣が
ギズモンたちを景気よく次々と真っ二つに切り裂いていく。

倉田「チッ…今回は華を持たせてやりましょう!」

倉田は混乱に紛れて撤収した。

521

警視庁・取調室***


サイバーコップに無事身柄を保護された来島と羽柴の2人は、

ZACの織田久義隊長も立ち会う中、正木警視監から直々に取調べを受ける。

来島「…し、知らん! 私は何も恥じる事などしてはいない!
 全ては組織のために、自分の良心に従って行動したまでだ!」
羽柴「今すぐ弁護士を呼べ!」

なかなか興奮が収まらない2人を説教する正木。

正木「来島さん、それに羽柴さん、 今も多くの若者達が明るい未来を信じて
 懸命に戦っています」織田「それに引き換え、保身に汲々とし、
 私利私欲のために悪事にも加担する人間には
 必ず天の罰が下る。恐ろしい事だとは思いませんか?」
来島「くっ………」
羽柴「………」

正木と織田の一喝で、がっくりと項垂れ黙り込む来島と羽柴。

正木「いずれあなた方お2人にも、自分の取った行動の
 責任はしっかりと取っていただきますよ」

522

○河村武憲、南原健一郎→白河の放った普通の人々に襲われるが、
 登太牙に救われる。
○登太牙→普通の人々に襲われていた河村武憲と南原健一郎を助ける。
○ザ・チルドレン→ヒルカワを捕縛。生き証人の口封じを画策する
 白河の陰謀を察知し、サイバーコップに通報。
○サイバーコップ→バベルから通報を受け、来島と羽柴の両名を保護。
○正木俊介、織田久義→警視庁で来島と羽柴の両名を取り調べる。
●ヒルカワ→登太牙がファンガイアである事を世間に暴こうとするが、
 ザ・チルドレンに捕縛される。
●南雅彦、倉田明宏→白河の命令で、来島と羽柴の両名を口封じのために
 殺害しようと謀るが、駆けつけたサイバーコップの妨害を受け、失敗。
△来島副長官、羽柴長官→白河に裏切られ、口封じのために殺されそうに
 なるが、危うい所をサイバーコップによって身柄を確保される。その後
 警視庁に移送され事情聴取される。

【今回の新規登場】
○南原健一郎(巨獣特捜ジャスピオン)
 著名なフリーカメラマン。山中で偶然にも黄金の鳥を撮影した事から
 マッドギャラン軍団に狙われる事となるが、家族との平和な生活を
 取り戻すために、積極的にジャスピオンに協力する。かの子と健太
 という2人の子供がいる。

○登太牙=仮面ライダーサガ(仮面ライダーキバ)
 巨大投資企業『D&P』の若社長。その正体はファンガイア族の
 頂点に立つキング。紅渡の異父兄に当たる。当初は人間の事を
 家畜・食料としか見ていなかったが、その後、弟・渡との決闘を経て
 和解し改心。現在はライフエナジーに代わる新エネルギーの開発を
 進めるなど、人間とファンガイアが共存できる世界を模索している。
 運命の鎧と呼ばれる<サガの鎧>を身に纏い、ヘビがモチーフの
 仮面ライダーサガに変身。後にダークキバの力も手にした。

●倉田明宏博士(デジモンセイバーズ)
 元デジタルワールド探検隊の一員だったが、デジモンを凶暴な生物と
 思い込み、対デジモン兵器・ギズモンシリーズを開発、デジモンの
 絶滅を企む。デジモンと人間との間に亀裂を生み出した元凶。人間と
 デジモンの融合体であるバイオデジモンを開発し、自らも七大魔王の
 一体・ベルフェモンと融合した。

●ギズモンシリーズ(デジモンセイバーズ)
 倉田博士が捕獲したデジモンを改造して造った人工デジモン兵器。
 成熟期のAT型と、完全体のXT型の2タイプが存在する。

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最終更新:2020年11月12日 13:52