『ダカールの日』-8
作者 鳴滝
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ダカール宇宙港・アークエンジェル艦橋***
ダカール宇宙港に停泊している戦艦アークエンジェルでは、
オーブの軍服に身を固めているアスラン・ザラが、
緊張した面持ちでじっと窓の外を見つめていた。
マリュー「落ち着かない?」
アスラン「ラミアス艦長…」
マリューがアスランのカップに飲み物を注ぐ。
マリュー「ここで私たち軍人がいろいろ考えていても仕方がないわ。
議場の方にはミリアリアさんもいるし、今はカガリさんたちを
信じて知らせを待ちましょう」
アスラン「ええ、それは解ってはいますが――」
そしてアスランがカップに口をつけた瞬間少し驚く。
てっきりカップの中に注がれたのはコーヒーだと思っていたら、なんとミルクだったのだ。
アスラン「…ぎ、牛乳??」
マリュー「あら、口に合わなかったかしら? それムサシノ牛乳って言ってね。
昔から愛飲してるものなのよ」
そこへチャンドラが知らせに入る。
チャンドラ「艦長、α基地より入電です。本日17:00ジャスト、
作戦開始との事です」
マリュー「了解しました」
地球連邦議会議事堂・臨時総会***
議長代行「投票の結果を発表します。ハイマン大将、212。無効278。
よって、連邦評議会首席は、ジャミトフ・ハイマン大将に――」
桃太郎「――議長、緊急動議です!」
突然桃太郎が挙手して席から立ち上がる。
議長代行「――!?」
桃太郎「ジャミトフ・ハイマン氏を連邦評議会より除名することを
提案いたします」
ジャマイカン「何だとっ!!」
桃太郎「――ですから!」
ジャミトフ「馬鹿なことを言うんじゃない、剣桃太郎君。
たった今私は連邦政府の次期大統領として正式に選出された
ばかりだ。引っ込んでいて頂こう」
桃太郎「いや、緊急動議は先決事項です。採決をお願いする」
カガリ「賛成!」
クラリス「わが国も賛成です!」
カガリやクラリスたち、
反ティターンズ派諸国の首脳が続々と起立する。
桃太郎「1名以上の賛成を持ちまして、緊急動議は成立したと見なし、
これより議長の交代を要求します!」
議長代行「――なっ!?」
ジャマイカン「茶番はやめんか! 構わん! こやつらを全員逮捕しろ!
国家に対する反逆の現行犯だ! 抵抗するなら連邦の加盟国首脳と
言えども射殺してよし!」
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議場前・大廊下***
すでにベルトーチカとミリアリア・ハウら中継スタッフや
エゥーゴの潜入特殊部隊員らが辺りを制圧してスタンバイしている。
ベルトーチカ「お待ちしていました、さあ、准将、こちらへ」
ブレックス「うむ。ところでベルトーチカ君。君は、いつの間にエゥーゴに?」
ベルトーチカ「お忘れですか? 私の所属していたカラバは、エゥーゴの母体ですよ。
それに、少しでも、アムロの助けになりかったし。ミリアリアさん、
そちらの準備はよくて?」
ミリアリア「準備OKです。私もジャーナリストの端くれとして
世紀の瞬間をしっかり写真に撮らせてもらいます!」
エゥーゴ兵A「こちらも準備完了です」
エゥーゴ兵B「よし、突入!」
合図と同時にエゥーゴ兵が、一斉に議場に殴り込みをかける。
エゥーゴ兵C「動くな!」
ジャマイカン「何っ!? いつの間に…ジャミトフ閣下、ここは危険です。こちらへ」
ジャミトフ「む…おのれ、今一歩の所で……。謀りおったな剣桃太郎…」
ティターンズ兵「閣下、お早く!」
ジャミトフ「…うむ」
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議長代行「な、何だ、君達は!? ここをどこだと…うわっ!?」
――ドキューン!(銃声)
エゥーゴ兵「我々はエゥーゴの者だ。静かにしていただければ、危害は加えない」
ランプ「い、一体何が目的だ!?」
カオルちゃん「評議会の正常化さ。さあどいたどいた」
ベルトーチカ「カメラ、準備OKです。ブレックス准将、どうぞ」
演壇に登り、カメラに向かって演説を始めるブレックス・フォーラ。
ブレックス「私は、エゥーゴ代表、ブレックス・フォーラ准将ともうします。
エゥーゴとは反地球連邦組織の事です。まず、突然、
このような形でこの場をお借りした非礼をお詫びします。
しかし、もはや事態は、一刻の猶予もないところまで来ていたのです。
今の選挙は、明らかに違法です。正規の手続きの形をとっていますが、
それが、ティターンズの買収と脅迫によるのは明らかです」
ランプ「バカな、何を根拠に、そのようなでたらめを!」
ブレックス「ここに、ティターンズより裏金を送られた議員のリストがあります。
これを連邦検察局に提示すれば、すべては明らかになります」
ランプ「………」
ブレックス「ティターンズは独裁によって権力を握り、
地球を我が物としようとしています。これは、許される事ではありません!
これは、今までの連邦政府の在り方にも、問題があります。
票を集め、権力を握る事しか頭にない議員、地盤だけで当選する議員…。
こういった悪習を断ち、今こそ、政治を民衆の手にとりもどすのです!」
三輪「だまされるな!! あいつらは反逆者だ!」
桃太郎「三輪長官!?」
カガリ「あの男、ダカールに来ていたのか!?」
三輪「ジャミトフ閣下が、そのような事をされるはずがない!!
すべて奴らのでっち上げだ! エゥーゴこそ異星人と手を組んでおるのだ!!
ナチュラルに混じって汚らわしい異星人やミュータントがうようよ
いるような国々など、地球のために叩き潰してしまえ!!」
パタリロ「言うに事欠いて、何てことを言う奴だ!」 国内に多くの異星人出稼ぎ労働者を抱えるマリネラのパタリロも、今の三輪の発言には憤りを隠さない。
三輪「議事堂を占拠し、反逆者どもを捕まえろ!!」
ブレックス「いかん! 敵を議事堂に近づけるな!!
今議事堂を占拠されては、すべては水の泡だ!」
シャイン「ジョイス、私もフェアリオンで出ます! すぐに支度を!」
ルダール「ハッ! すでにこちらにてご用意しております。お急ぎを」
ダカール市内・連邦軍技術開発本部・地下格納庫***
ジャマイカン「ベン・ウッダー大尉、何をしている!?
早くデストロイガンダムを出撃させろ!」
ベン「ちっ、MD(モビルドール)の同調システムの最終調整が、
まだ終わっておらんというのに…!」
ジャマイカン「かまわん! 今は少しでも戦力が必要なのだ!」
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○マリュー・ラミアス→アークエンジェル艦内にて待機。ムサシノ牛乳を愛飲している。
○アスラン・ザラ→アークエンジェル艦内にて待機。
○ダリダ・ローラハ・チャンドラⅡ世→α基地よりの入電をマリューに報告。
○ミリアリア・ハウ→ブレックス・フォーラの演説の様子をカメラで写真に収める。
○剣桃太郎→可決直前に緊急動議を提出して、ジャミトフの大統領就任を阻止。○クラリス・ド・カリオストロ→剣桃太郎の緊急動議に賛同。
○ブレックス・フォーラ→無事に議場に到着。ティターンズを糾弾する。
○シャイン・ハウゼン→フェアリオンで出撃する。
●ジャミトフ・ハイマン→議場より退避。
●ジャマイカン・ダニンガン→議場より退避。デストロイの出撃を指示。
●三輪防人→ダカールに来ていた。剣桃太郎たちを妨害する。
●ベン・ウッダー→デストロイガンダムの調整中に出撃命令が下る。
【今回の新規登場】
○アスラン・ザラ一佐(機動戦士ガンダムSEED/同SEED DESTINY)
元プラント最高評議会議長パトリック・ザラの息子で、元ザフトの軍人。
地球連合軍が農業プラント・ユニウスセブンを核攻撃した「血のバレン
タイン」で母親を亡くした為、ザフト軍に志願した。2年後、オーブ連合
首長国でアレックス・ディノと名乗り、カガリのボディーガードを勤めて
いたが、プラント新議長デュランダルの説得によりザフトに復帰。
その後デュランダルの行動に疑問を感じるようになり、再びザフトから離反。
ZGMF-X19A インフィニットジャスティスガンダムのパイロットとなる。
○ダリダ・ローラハ・チャンドラⅡ世三尉(機動戦士ガンダムSEED/同SEED DESTINY)
アークエンジェルクルーの一人。CIC電子戦担当。クセ毛の髪とメガネが印象的な人物。
○ミリアリア・ハウ三尉(機動戦士ガンダムSEED/同SEED DESTINY)
オーブの資源コロニー・ヘリオポリスに住み工業ガレッジに通う学生
だったが、ザフトのガンダム奪取作戦に巻き込まれアークエンジェルに
避難。その後同艦のCICモビルスーツ管制官及び通信士を担当。
第2次ヤキンドゥーエ攻防戦後、戦場カメラマンとして活動していたが、
その後再びアークエンジェルに合流し、通信士を務めた。
恋人のトールを戦場で失った後、ディアッカに興味を抱く。
○ベルトーチカ・イルマ(機動戦士Ζガンダム)
エウーゴの女性工作員。ジャーナリスト出身で強い正義感を持っている。
アムロ・レイの元恋人でもある。
○ジョイス・ルダール(バンプレストオリジナル)
リクセント公国王室に仕える執事で、シャイン王女の側近。
●ベン・ウッダー大尉(機動戦士Zガンダム)
ティターンズ所属の軍人。ブラン・ブルタークの副官にして後任。
人質を取ってエゥーゴに投降を迫るなど、ティターンズにありがちな
卑劣な作戦を指示するが、最後は部下たちを下船させ、自らスードリで
特攻をかけるなど、妙な男気を見せた。
最終更新:2020年11月16日 03:15