『咆えよベンK!怪奇と恩讐の辻斬り遍路』-2
作者 凱聖クールギン
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鬼ヶ城山・山頂***
ヒルビラン「ビラビラビラ~!
働け奴隷ども! 休憩など無用だ!
怠けている奴は殺してしまうぞ!」
ヘンリー楽珍「ひえ~っ!
星占いの示すままに旅をしていただけだというのに、
何でこの私がこんな目に…」
正体不明の敵に基地建設を脅かされているネオショッカーは、
より本格的な邪魔が入る前に基地を完成させてしまおうと、
奴隷達を酷使して急ピッチで工事を進めていた。
苛酷な強制労働に従事させられている人々の中には、
たまたま四国へ旅をしていた闘破の仲間・ヘンリー楽珍の姿もあった。
一方ガラドーは、秘密裏に日本へ呼び寄せたある知己と密談していた。
ガラドー「久し振りだなマクンバ。
また一緒に忍びの仕事ができるとは嬉しい限りだ」
マクンバ「お前さんの頼みとあらばな。
俺が密猟した動物の毛皮を世界中に高値で売り捌けるのも、
お前がパイプ役になってくれた桐原コンツェルンの力があればこそだ」
ガラドー「今回は、その桐原コンツェルン…ネロス帝国に
逆にお前の力を貸してほしいのだ。
任務の一つは、帝国の脱走者ベンKを探し出し抹殺する事。
もう一つは、最近この山で起きている謎の連続殺人事件の真相を調べる事。
日頃アフリカのジャングルで動物を追っているお前なら、
どちらも得意分野だろうと思ってな」
マクンバ「いいだろう。お安い御用だ」
ガラドー「今度の仕事で帝王の覚えがますますめでたくなれば、
お前の商売にもより弾みがつくだろう。
軍団長は戦闘ロボットどもを俺の配下に与えてくれたが…
忍びが真に頼りとするのは忍びだけだ」
マクンバ「ガルゥゥゥ…!
この獣忍マクンバに任せろ」
そう言い残してマクンバは森の中に消えた。
密談を終えたガラドーは待たせていたゴチャックとゲバローズの元へ戻る。
ゴチャック「遅いぞ。何をしていたのだ」
ガラドー「ちょいとこの山を一駆けして下見してきただけだ。
それより、ベンKは今どこにいる?」
ゲバローズ「ネオショッカー側からの報せによれば、あの村に」
そう言って、ゲバローズは眼下の麓に見える小さな村を指し示した。
ガラドー「ようし…。
ベンKの抹殺はこの俺に任せろ。
お前達は、この山で起きている連続殺人事件について調査するんだ。
確かに軍団長の言われた通り、この山には不気味な何かの匂いがする」
ゴチャック「分かった。ではここで別行動を取ろう」
ガラドー「うむ。お互い連絡を欠かさぬようにな」
ゲバローズ「了解!」
山道を下りて行った二体の戦闘ロボットを見送って、
ガラドーは疾風の如く跳んだ。
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鬼ヶ城山・中腹***
闘破「やぁっ!!」
山地闘破は義弟の山地学を連れて、山籠もりの修行のため四国へやって来ていた。
ハニー治療センターの事件でGショッカーと異空間で一戦を交え、
宇宙刑事らのメタルヒーロー達とそこで邂逅した事、
また、毒斎が妖魔一族を引き連れ過去へ飛んだとの報せを馬風破から知らされた事が、
闘破の心を新たな戦いへと激しく駆り立てていたのである。
学「ねえ兄ちゃ~ん、そろそろお昼にしようよ~」
闘破「もうちょっとだ、学。
――たぁっ!!」
バーベキューの支度を整えて退屈そうに待っている学に微笑して、
闘破は居合斬りの訓練にもう一汗流す。
闘破「――ん?」
学「兄ちゃん、どうしたの?」
闘破「今、何か変な音が聞こえたような…。
風の音とも違うし、地鳴りとも違う…」
学「俺は何も聞こえなかったけどなあ」
闘破「学、昼飯食ったら、午後はちょっとこの辺を探検しようか。
どうしても気になる何かがこの山にはあるんだ。
それに、山登りも足腰を鍛え、自然を知って困難を乗り越える、
立派な忍びの修行の内だしな」
学「うん! 面白そう!」
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鬼ヶ城山・麓の村***
ベンK「どうかいつまでも、世界が平和でありますように…」
地蔵に祈りを捧げたベンKは、
おもむろに立ち上がると後ろの雑木林を振り返った。
ベンK「そろそろ姿を見せたらどうだ?
さっきから俺を見張っているのは分かっているぞ」
ガラドー「フフフ…。戦いを捨てたと言っても、
殺気を感じ取る程度の勘はまだ失ってはいないか。
いつ気付いてくれるかとこちらもさっきから焦れていたのだがな」
隠れ身の術で姿を消していたガラドーが、
不敵に嘲笑いながらベンKの前に現れた。
ベンK「お前は、ガラドー…!」
ガラドー「久し振りだな、ベンK!
ネロス帝国の脱走者が、こんな所で長閑にお遍路とはいい気なものだ。
このガラドーが貴様に死の制裁を下す。覚悟しろ!」
言い放つと同時に手裏剣を投げつけるガラドー。
ベンKは素早く首にかけていた数珠を外し、棒状に変形させて手裏剣を叩き落とす。
だが手裏剣は爆弾になっており、地面に落下しても爆発してダメージを与え、
白い爆煙でベンKの視界を塞いだ。
ガラドー「ハァッ!!」
ベンK「くっ!」
懐から短剣を取り出して跳躍し、飛びかかるガラドー。
ベンKは咄嗟に数珠棒でガラドーの剣撃を受け止める。
だが、素早く逆袈裟に斬り上げられたガラドーの二撃目が、
ベンKの数珠を空高く弾き飛ばした。
ベンK「ぐぉぉ…っ!!」
鬼ヶ城山・三合目の山林***
学「兄ちゃん、これ何だろう?」
山を探索していた闘破と学は、
途中、点々と地面に付着した緑色の粘液のようなものを発見した。
闘破「何だこれは…?
ペンキじゃないな…。何かの生き物の体液みたいだ」
学「あっちに続いてるよ」
闘破「よし、行ってみよう!」
生き物が進んだと思われる道を追ってみようと二人が足を踏み出した瞬間、
別の方向から爆発音が聞こえた。
闘破「――!」
学「兄ちゃん、あっちだ!」
闘破「よし、こいつはひとまず後回しだ。行くぞ学!」
学「うん!」
闘破は学を連れて、爆発の音が聞こえた麓へと疾走した。
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鬼ヶ城山・麓の村***
ベンK「くっ…!」
ガラドーの予想以上の手強さにベンKは舌を巻いた。
元々、ネロス軍団員時代からベンKより階級が一つ挌上という事もあるが、
それにしても以前より腕を上げている。
ガラドー「思い知ったか!
貴様が巡礼などという下らん所業に現を抜かしている間にも、
俺は忍法と西洋のマジックとを融合させ、
新たな技の開発と訓練に励んでいたのだ!
今やネロス帝国一の大魔術師でもあるガラドー様の魔術を見よ!」
掌からステッキを取り出し、その先から突風を噴射して攻撃するガラドー。
ダメージを負ったベンKは撤退しようとするが、
豹の如く樹上から飛び下りて来たもう一人の敵がその前に立ちはだかる。
マクンバ「ガルゥゥゥ…! 貴様がベンKか。
世界忍者・獣忍マクンバとは俺の事よ。命はもらった!」
ベンK「ぬぅっ…!」
弓を構え、ベンKを狙い撃ちするマクンバ。
背負っていた鎌を抜き、飛来する矢をベンKは叩き落とす。
ガラドー「その鎌…。
この鬼ヶ城山で、ネオショッカー相手に辻斬りをしていたのはやはり貴様か?」
ベンK「辻斬りだと? 俺は知らん!
俺はただ、神仏に自分の犯した罪を懺悔していただけだ」
ガラドー「そうか…。
ならば、帝王を裏切った罪も死をもって償うがいい!」
今度はステッキから火炎を発射し、ベンKを苦しめるガラドー。
マクンバも弓を引き絞り、必殺の一矢を放とうと狙いを定める。
そこに闘破と学が駆け付けた。
学「兄ちゃん! あそこ!」
闘破「あれは、マクンバ…!」
かつて敵として戦ったマクンバの姿を見て咄嗟に状況を判断した闘破は、
ベンKを助けるべくジライヤスーツに全身を包んだ!
マクンバ「死ね、ベンK!」
磁雷矢「させるか!!」
マクンバが射た必殺の矢を間一髪、
磁雷矢の投げた手裏剣が叩き落とした。
ガラドー「むっ!?」
マクンバ「き、貴様は!」
磁雷矢「戸隠流正統・磁雷矢!!」
両手の指で印を結び、磁雷矢となった闘破は名乗りを決める。
ベンK「ジライヤ…!?」
マクンバ「現れたな、磁雷矢!」
ガラドー「ほう…。貴様が妖魔一族を滅ぼした戸隠流の磁雷矢か。
前々から一度戦ってみたいと思っていたところだ。
我こそはネロス帝国の忍者、ヨロイ軍団爆闘士ガラドー!
いざ勝負だ!」
ステッキを手品のように消して槍を取り出し、
ガラドーは磁雷矢に挑みかかる。
跳躍して攻撃をかわした磁雷矢はそのままマクンバの方に突進し、
磁光真空剣を抜いてベンKの前からマクンバを薙ぎ払った。
磁雷矢「学、この人を早く!」
学「分かった兄ちゃん!」
駆け寄った学は煙幕を張り、ベンK共々その場から姿を消した。
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マクンバ「おのれ、逃がしたか!」
ガラドー「やはりやるな。
マクンバ、お前は手を出すな。磁雷矢は俺が倒す」
磁雷矢「行くぞ、ガラドー!」
磁光真空剣を構え、ガラドーに正面から斬り込む磁雷矢だが、
斬ったと思ったそれは幻影で、背後から奇襲を受けてしまう。
磁雷矢「くっ…!」
ガラドー「どうした?
鬼忍毒斎をも破ったという戸隠流正統の実力、見せてみろ」
磁雷矢はどうしても戦いに集中し切れずにいた。
周囲に不気味な何かの気配が蠢いているのを感じ、気になっていたのである。
磁雷矢(何だ、この気配は――?
あの茂みの中で、何者かがこっちを狙っている)
ガラドー(この小僧も感じているな。
やはりこの山には何かが潜んでいる。
軍団長のご推察通り、辻斬りの犯人も恐らくベンKではなくこ奴らか――)
それでもガラドーは、目の前の獲物に対する鬼気を緩めず槍先を向ける。
ガラドー「雑念に惑わされているようでは、命はないぞ」
磁雷矢「くっ、磁光真空剣!」
磁雷矢の叫びと共に磁光真空剣にレーザー光が灯る。
分身の術で四体に分かれたガラドーは磁雷矢を取り囲み、
槍を構えて襲いかかろうとする。
磁雷矢「くっ、どれが本物なんだ…!?」
精神統一し、心眼でガラドーの幻術を見破ろうとする磁雷矢だったが…。
ガラドー「覚悟ォッ!!」
磁雷矢が集中を極めるより一瞬早く、ガラドーは先手を取って攻撃した。
疾風のような高速で突進され、咄嗟に剣を振るった磁雷矢だったが
わずかに間に合わず、槍による痛打を胸に受けてしまう。
磁雷矢「うわぁっ!!」
強烈な一撃で吹っ飛ばされた磁雷矢は、
そのまま崖から転落した。
マクンバ「おお、磁雷矢の最期か!」
ガラドー「いや…そこまでの手応えはなかった。
奴は自ら崖下へ吹っ飛び、姿を眩ましたのだ。
なかなか油断のならん小僧よ…!」
崖の下を一瞥して、ガラドーはまた疾風の如くその場を去った。
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○山地闘破→学と共に鬼ヶ城山で山籠もりの修行中。
ベンKを助けるべくガラドーに戦いを挑むが撃破される。
○山地学→闘破と共に鬼ヶ城山で山籠もりの修行中。
ガラドーとマクンバに命を狙われていたベンKを助ける。
○ベンK→辻斬りの容疑をかけられガラドーとマクンバに命を狙われるが、
駆け付けた山地闘破と学に助けられる。
○ヘンリー楽珍→ネオショッカーに捕まり、鬼ヶ城山の基地建設現場で働かされている。
●ガラドー→ベンKを襲撃。磁雷矢と戦って退ける。
●ゴチャック&ゲバローズ→ガラドーの指揮下で、鬼ヶ城山の怪事件を調査する。
●マクンバ→ガラドーの招きで来日。ベンKを襲撃する。
【今回の新規登場】
●爆闘士ゴチャック(超人機メタルダー)
ネロス帝国・戦闘ロボット軍団爆闘士。
伝説の戦士ビッグウェインから戦いを学んだ格闘戦タイプのロボットで、
怪力による絞め技のゴチャックロックを特に得意とする。
胴体には大砲が内蔵されており、頭を失っても砲撃戦に切り替えて戦い続ける。
●激闘士ゲバローズ(超人機メタルダー)
ネロス帝国・戦闘ロボット軍団激闘士。
身軽な動きと高い跳躍力を持ち味とする機動性に優れたロボットで、
両腕のアタッチメントに各種の武器を換装して戦う。
●獣忍マクンバ(世界忍者戦ジライヤ)
アフリカのケニアでゲリラを組織している世界忍者。
日本の貿易商社と結託し、密猟した動物の毛皮などと交換に武器を手に入れている。
弓矢を武器とし、様々な罠を張り巡らせて戦うのが得意。
○ヘンリー楽珍(世界忍者戦ジライヤ)
山地家と知り合いのコミカルな占い師。山地恵に一目惚れしている。
占いが時には事件解決に繋がる事もある。
実は元忍者で、修行の厳しさに耐えられず逃げ出してきた過去がある。
最終更新:2020年11月19日 07:21