『天凰輝シグフェル 序章』-1
作者・ティアラロイド
1222
メガロシティ・海防大付属高校前の学園通り***
例の校舎爆破テロ事件から一週間近く経過した…。
いつも通りの朝の登校風景である。
牧村光平と朝倉慎哉は、普段は江東区豊洲の住宅街にある自宅から、
お台場とメガロシティを経由して結ぶ臨海新交通線(ゆりかもめの延長)と
自転車を乗り継ぐ形で通学している。
駅を降りた後、通学路の途中で大抵の場合、別方向から同じく自転車で登校してきた
沢渡優香とちょうど合流して一緒に学校に向かうスタイルだ。
チャック「よぉ、坊主ども、今日も元気してるか?」
光平「チャックさん」
優香「おはようございます。チャックさん、美姫さん」
美姫「おはよう優香ちゃん」
自転車で学校に向かっていた光平たち3人に、
巡回パトロール中の警官が、パトカーの中から声をかけて来た。
チャック・スェーガーと桂美姫。
両人ともメガロシティ警察に勤務する刑事である。
光平たちの通学路をよく巡回している関係から、以前からの顔見知り同士であるのだが、
そのチャックが、かつてメガロシティを妖魔の侵攻から守り抜いた超音戦士ボーグマンの一人、
そして美姫がICPOの対妖魔特殊部隊ファントムSWATのリーダーだった事までは、
一般人の光平たちには知る由もなかった。
慎哉「朝から何か事件ですか?」
チャック「お前たちもニュースで見て知ってるとは思うが、
最近若い女性の原因不明の失踪が相次いでいてな」
光平「その話なら、俺も今朝新聞で読みました」
美姫「優香ちゃんも女の子だから気をつけなきゃだめよ。
そうでなくても最近は特に物騒なんだから」
優香「ありがとうございます」
チャック「じゃあな、学生諸君♪ 今日も頑張って勉強に励めよ!」
こうしてチャックと美姫は光平たちと別れた。
パトロールを続ける二人は、パトカーの中で雑談する。
美姫「この間のブリアン島の合宿の話、チャックのところにも来てたんでしょ。
遠慮せずに行けばよかったのに…」
チャック「今回の連続女性失踪事件のヤマがなかったら行ってたかもな…。
忙しい時期に俺一人だけ捜査陣から抜けるわけにもいかんだろ」
美姫「今回の事件、またGショッカーの仕業かしら。
それとも、もしかして妖魔…」
チャック「例の黄泉がえり現象の報告以来、まだ妖魔の再活動は確認されていない。
それにGショッカーにしろ妖魔にしろ、今までの奴らの手口と比べて
妙な違和感を感じる…」
1223
海防大学付属高校・生物実験室前廊下***
その日の放課後、たまたま生物実験室前の廊下を歩いていた光平は、
偶然、部屋の中からの話声を聞いてしまった。
優香「―――でも、そんな…私には無理です」
理乃「沢渡さん、どうしても貴女にお願いしたいの…」
光平「この声は、優香…それに東条寺じゃないか」
光平は中の人間に気づかれないように、そっと聞き耳を立てる。
どうやら優香と話している相手は、教師の東条寺理乃であるらしい。
東条寺理乃――いつしか海防大学付属高校に生物担当として赴任してきたこの女。
単に管理教育的傾向が強いばかりでなく、生徒に対して執拗に不当な権力を振りかざす
この女に対して、全校生徒の評判はすこぶる悪い。
大半の生徒は影では彼女の事を「東条寺」と苗字を呼び捨てにしており、
心から「先生」と敬意を持って呼んでいる生徒など、まず皆無であろう。
現に光平も、この女教師の事は快く思ってはいなかった。
理乃「そう。貴女は私の事が気に入らないわけね」
優香「そんな、違います!」
理乃「いいのよ、無理しなくても。ただ貴女が断ったために、
貴女の所属しているクラス、陸上部、それに生徒会にも
迷惑がかかることになるでしょうね」
優香「…わかりました。今晩、先生のお宅にお伺いします」
理乃「助かるわ。感謝するわね、沢渡さん…」
優香「………」
ドアを開け生物実験室から出て来た優香と理乃は、
光平とバッタリ遭遇した。
優香「光平くん!?」
理乃「あら牧村君、もう下校時刻はとっくに過ぎているわ。
早くお帰りなさい」
光平「東条寺先生、今優香と何を話していたんですか!?」
理乃「貴方には関係のないことよ!」
理乃は光平を一瞥してそそくさと逃げるように立ち去った。
光平「優香、中で一体何があったんだ!?」
優香「………」
同校内・食堂***
慎哉も交え、光平は優香に生物実験室での中で
起こった事を問い質した。
優香の話によると、東条寺理乃の自宅での
私的な化学実験の手伝いを頼まれたのだという。
もし断るなら、優香の周囲に嫌がらせをすると
暗に仄めかされたのたらしい。明確な強要だった。
慎哉「それって明らかな脅迫じゃないか!」
優香「でも、簡単な助手みたいな作業だけらしいし、
今晩だけ私一人が我慢すれば済むことよ」
慎哉「でも相手はあの性悪女の東条寺だぜ。
いったい何をされるか…」
優香「………」
優香は困ったように黙りこくってしまう。
それを見かねた光平が思い切って発言する。
光平「そうだ、俺が代わってやるよ!」
優香「光平くんが!?」
光平のいきなりの宣言に、慎哉も優香も驚く。
慎哉「おいおい大丈夫かよ…」
優香「そんな、悪いわ!」
光平「大丈夫だよ。女の子一人ならともかく、
まさか東条寺だって男子生徒相手に淫らな真似はしないさ」
優香「…だと、いいけど」
光平「安心しろって♪」
満面の笑顔で優香を安心させようとする光平。
それでも優香と慎哉は心配そうに光平の顔を見つめている。
光平にしてみれば、困っているガールフレンドを見捨ててはおけないという
正義感とほんの軽い気持ちだったのかもしれない。
だがこの夜、牧村光平は例え自ら望んだとしても
現実にはまずありえないであろう、恐怖と絶望の体験をすることになる。
それは光平の人生を根底から覆してしまうような、
決して後戻りはできない驚天動地の出来事であった。
1224
東条寺理乃邸***
都心地から離れた寂れた工業地帯のさらに奥に、
林に囲まれた東条寺理乃の屋敷はあった。昔は理乃の父である
さる高名な科学者の自宅兼研究施設であったらしい。
理乃「沢渡さんは急な発熱で来られなくなった?」
光平「ええ、ですんで、優香の代わりに俺が――」
理乃「…そう、まあいいわ。入ってちょうだい」
すでに夕方もとっくに過ぎた時間帯。
今朝の快晴とは打って変わって、周囲は大荒れの雷雨である。
外の天気も手伝ってか、薄暗い屋敷の中はまるで妖怪屋敷の雰囲気であった。
居間へと通された光平は、理乃に紅茶を差し出された。
理乃「さ、仕事に取り掛かる前に、まずは飲んでちょうだい」
光平「いただきます」
光平は紅茶を一口だけ飲む。その瞬間、急激な眠気に襲われた。
光平「――どう…したんだ? 急に…眠気が……」
理乃「ふふふ…その紅茶には睡眠薬が入れてあったのよ」
光平「――!!」
信じられないといったような表情の光平に、
理乃は冷たい視線で話を続ける。
理乃「驚いたようね。普段生徒たちから嫌われている私でも
まさかここまでするとは思っていなかったでしょう?」
光平「どう…して、こんな……ことを!?」
理乃「若い女ばかりはもう飽きたわ。たまには貴方のような
美しい男の身体を、私のメスで切り刻んでみるのも悪くはない」
理乃はそう言い放つと、部屋奥のカーテンを開けて見せた。
なんと中には、血まみれの若い女性の惨殺死体が
無残に幾つも転がってゴミのように放置されていたのだ!
光平「や…め……ろ………」
自分はホラー映画の夢でも見ているのであろうか…。
未だ自分の身に何が起ころうとしているのか理解できぬまま、
光平は必死に立ち上がり、その場から逃れようとする。
だがすでに眠り薬は光平の全身に回っており、
抵抗する術はもはや完全に失われていた。
光平「………」
がっくりと床に崩れ落ち、意識を失う光平。
その日の深夜遅く、東条寺理乃邸は突如の落雷により炎上。
屋敷跡は灰となって完全に消滅した。
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○チャック・スェーガー→都内の連続女性失踪事件を警戒してパトロール。
○桂美姫→都内の連続女性失踪事件を警戒してパトロール。
○牧村光平→沢渡優香の代わりに東条寺理乃邸を訪問。そこで睡眠薬を盛られる。
○朝倉慎哉→放課後の校内食堂で、牧村光平と一緒に沢渡優香の相談に乗る。
○沢渡優香→東条寺理乃に私的な実験への協力を強要されていたが、牧村光平に代わってもらう。
●東条寺理乃→沢渡優香に自身の研究の助手を強要。代わりにやってきた牧村光平に睡眠薬を盛る。
【今回の新規登場】
○チャック・スェーガー(超音戦士ボーグマン/超音戦士ボーグマン2 -新世紀2058-)
元サイソニック学園の体育教師。周囲からはキザで女垂らしと思われがちだが、
響リョウとは宇宙飛行士訓練生時代からの親友で、コンビとしての能力は高い。
細身に似合わぬ怪力の持ち主で、広域攻撃用の緑のバルテクターを装着する。
武器はバトルランチャー。初期は改造を施したバギーを乗用していたが、
後に戦闘車ビーグルヘッドに乗り換える。
『ラストバトル』では美姫とともにメガロシティ警察に勤務しており、
頻発する怪事件の捜査に当たっていた。また、続編OVA『超音戦士ボーグマン2 -新世紀2058-』では
桂研究所の所長となっており、復活した妖魔と戦う第2世代ボーグマンの指揮を執っていた。
○桂美姫(超音戦士ボーグマン)
桂コンツェルンの令嬢であり、世界警察・対妖魔特殊部隊ファントムSWATのリーダー。
性格は負けず嫌いで勝気。戦闘時には専用のプロテクターを着用するが、
戦闘能力はボーグマンに劣る。後にチャックと恋仲になる。
最終更新:2020年11月26日 10:06