『天凰輝シグフェル 序章』-2
作者・ティアラロイド
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京南大学附属病院・1階待合室ロビー***
美奈子「ちびうさちゃん、退院おめでとう!」
ちびうさ「ありがとうみんな」
京南大学附属病院に入院していたちびうさが退院の運びとなり、
うさぎたちが迎えに出向いていた。
愛「おめでとうちびうさちゃん。これは伝通院先生と私から―」
ナースの魚住愛は、ちびうさに退院を祝う花束を渡す。
ちびうさ「ありがとう、愛おねえちゃん。
わぁ~素敵なお花だ!」
愛「精密検査の結果も全く異常なしでしたので、
もう安心していいと思います」
うさぎ「本当にありがとうございました。
あのー、ところでちびうさのやつ、入院している間
何かワガママ言いませんでした…?」
ちびうさ「もーっ! うさぎったらぁ~っ!」
ムッとなって頬を可愛らしく膨らませるちびうさと、
それを取り囲みながら明るい笑いにどよめく一同。
まこと「その調子ならもう大丈夫だ!」
うさぎ「…で、ちびうさ、アンタこれからどうするつもりなの?」
ちびうさ「今の時代にもGショッカーっていう悪い奴らが暴れてるんでしょ?
だったらあたしもみんなと一緒に戦う!」
亜美「今私たちが戦っている敵は、今までとは比べ物にならない
くらいの強敵よ。きっと辛い戦いになるわ」
レイ「それでもいいの?」
ちびうさ「うん。あたし、決めたから!
私だってセーラー戦士の一員だもん!」
うさぎ「ありがとう…ちびうさ!」
ちびうさ「――!?」
うさぎはそっと、そして力強くちびうさを抱きしめた。
それに困惑するちびうさ。
ちびうさ「…ちょ、ちょっとうさぎ! みんな見てるし!
それに…そんなことされたらこっちだって調子狂うし…(///)」
うさぎは、恥ずかしがるちびうさをやさしく解放した。
うさぎ「さ、帰ろっか? 家ではママがおやつを
用意してくれているって」
ちびうさ「うん♪ 育子ママの手作りのおやつ楽しみだな。
それに久しぶりにほたるちゃんにも会いたいし」
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こうして全員そろって帰ろうとしていたうさぎたちだったが、
突然、病院正面玄関の方から走ってきた紅いセミロングの髪の少女と
うさぎが出会いがしらに不注意で激しくぶつかってしまった。
うさぎ「――イタッ!!」
優香「キャッ!!」
その場に尻餅をつくうさぎ。
うさぎ「ちょっとぉーっ!! なにすんのよ!?ヾ(。`Д´。)ノ彡☆ブーブーッ!!」
優香「ごめんなさい!」
うさぎ「……(ハッ…この娘、きれいな人…(。・・。)ポッ)」
亜美たちに両脇を支えられてなんとか起き上ったうさぎは、
最初こそ激怒したものの、ぶつかった相手の顔を見て、
一瞬その美しくウェーブのかかった髪と優しい瞳に心を奪われた。
廊下の向こう奥からは、この目の前の少女の友人だろうか、
同じ年頃の高校生らしき少年が呼ぶ声がする。
慎哉「お~い、沢渡! 何してんだ!
光平の病室はこっちだぞ!」
優香「待って! 今行くから!」
ぶつかった相手の少女――沢渡優香は深々と頭を下げ、誠意をもって謝る。
優香「本当にごめんなさい!」
レイ「ああ、気にしないで。このうさぎがドジだっただけだから!」
うさぎ「ちょっとレイちゃん!」
まこと「知り合いが入院してるんだろ? ほら、早く行ってあげなよ」
優香「ありがとうございます!」
再度深々とお辞儀した優香は、慎哉の声のした方向へと
必死の形相で慌てて走り去って行った。
まこと「いったいどこの娘だろう」
レイ「何か焦って、とても必死そうだったけど…」
亜美「…あの制服、確か海防大付属のものよ」
美奈子「海防大付属!? それって超エリート高じゃない!」
うさぎ「お友達でも入院してるのかな…」
同病院10階・1025病室***
慎哉「バカヤロウ! 心配させやがって!」
光平「ごめんな、二人とも…」
慎哉は烈火の如く鬼のような形相で声を荒げ、
一方優香は大声をあげてずっと泣き続けている。
その様子を、光平はただ申し訳なさそうに
ポリポリと頭を掻きながら見つめていた。
病室のベットの上で横になっている光平の額には包帯が巻かれ、
頬にも大きなガーゼが装着されている。そして足にもギプスが
取り付けられていた。
――あの落雷事故の後、光平は奇跡的に現場から救助された。
全身に大火傷を負っていた光平は、すぐさま救急車によって
この京南大学附属病院へと担ぎ込まれ緊急手術を受けた。
その後も意識不明の危険な状態が続いていたが、
集中治療室での懸命な治療の結果、ようやく意識を取り戻し、
そして2週間後の今日、ようやく面会謝絶も解かれる形となったのだ。
光平は痛々しい姿ながらも、穏やかな笑顔で
見舞いに駆けつけて来てくれた慎哉と優香を出迎えた。
しかし優香だけは、それに自分の笑顔で返すことができなかったのである…。
優香「あたしのせいだわ!」
優香は何かを否定するように懸命に首を横に振り、
大粒の涙をこぼす。
優香「あたしが光平くんに代わりに行ってくれだなんて
頼んだから!」
光平「違うっ! 優香のせいなんかじゃない!
仮にもしそうだとしてもさ、優香を守るための
名誉の負傷。男の勲章みたいなものだろ?」
優香「バカッ!!」
なかなか泣きじゃくるのをやめない優香。
慎哉も見かねて優しく声をかける。
慎哉「なあ沢渡、気持ちはわかるけど、
こうして光平も助かったんだ。誰も
お前のせいだなんて思ってないよ…」
優香「でも…!」
光平と慎哉の慰めに、興奮状態だった優香も
だいぶ落ち着いてきた。自分を責める優香に気をかけつつも、
話を切り替えようと慎哉にある事について尋ねた。
光平「なあ慎哉、あれからいったいどうなったんだ…?
俺…全然何も覚えてなくてさ……」
慎哉「それが……」
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その時だった…。
コートを羽織った背広姿の二人組の男がナースの制止を振り切り、
ズカズカと光平の病室に乗り込んで来たのだ。
ナース「ちょっと待ってください!
いきなり事情聴取だなんて困ります!」
小森「ほんの少しだけだから! いいね!」
ナース「先生を呼んできます!」
ナースは医師を呼びに走って行った。
慎哉「何なんですか、アンタたちは!?」
小森「あー失礼。我々は桜田門署の者だ」
男二人は徐に警察手帳を提示する。
"桜田門のバットマン"を自称する小森好次郎警部と、
その部下の高井戸志郎刑事である。
落雷事故が起こった東条寺理乃の屋敷が
ちょうど桜田門署の管轄内にあったため、
光平に事情聴取に来たようだ。
ただこの二人組の刑事、(事件解決にかけるデカとしての熱意は
ともかくとしても)あまり優秀な警察官とは言い難い…。
小森「君が牧村光平君だね?
早速だけど、二週間前の落雷事故のあった
あの日の夜の事、何か覚えていないかな?」
光平「あの日の…夜…??」
優香「やめてください! 光平くんはまだ
意識が戻ったばかりなんです!」
小森「なんだ君たちは? 邪魔をするなら
公務執行妨害で逮捕するぞ!」
慎哉「なっ…!」
小森警部の側には特に悪気はなかったのであろうが、
これを警察権力の高圧的な態度だと受け取った慎哉は
顔の表情に露骨に不快感を表す。
高井戸「ごめんね、本当にほんの少しの間だけだから…」
部下の高井戸刑事はまだ良心的なのだろうか、
誠に申し訳なさそうにフォローを加える。
小森「あの日の落雷事故の後、東条寺理乃の屋敷跡からは、
大量の女性の焼死体が発見されたんだよ。昨今の
連続女性失踪事件の犯人は東条寺理乃に間違いない!
東条寺の行方について何か知らないか?
君はあの日の夜、東条寺と一緒に屋敷の中にいたんだろ!?」
光平「大量の…女性の…死体…??
東条寺……屋敷……あああああっ!!!!」
あの日の夜、東条寺理乃の屋敷の中で見た幾多の女性の惨殺体の光景――
――思い出したくもなかった微かな記憶が、フラッシュバックとなって
光平の脳裏に次々と蘇る。
光平「…やだ…やめろ……やめてくれえええ!!!!!
うわああああっっ!!!!!!」
優香「光平くん、しっかりして!」
頭を両手で抱えて極度の興奮状態になった光平を、
優香が抱いて懸命に庇う。
小森「ど、どーしたんだ!?」
高井戸「け、警部…どうしましょう!!)ガクガクブルブル」
慎哉「アンタたちもういい加減にしろよ!
出て行ってくれ!!」
慌て始める小森たちの対応に激怒する慎哉。
そこへようやく、ナースに呼ばれて駆けつけた
担当外科医の伝通院洸が制止に入った。
伝通院「いったいこの騒ぎは何事だ!?」
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光平の病室前の扉には、再び「面会謝絶」の札が、
ナースによってかけられた。
伝通院「今起こった件については、後日改めて
病院の方から警視庁に対して厳重に抗議します!
本日のところはどうかお引き取りください!」
こうして小森警部と高井戸刑事は病院から叩き出されてしまった。
病院の外から悔しそうに光平の病室のある階の方向を眺める小森警部。
小森「くそ~! あと一歩のところだったのにな!」
高井戸「警部、いくらなんでもアレはやりすぎですよ…」
小森「うるさい! あの高校生は事件の貴重な生き証人なんだぞ!
必ず何か事件解決の鍵を握っているに違いないんだ!」
高井戸「それはそうですけど…」
小森「こうなったらあの男子高校生の周辺を、
たとえ病院の外からでも徹底的にマークだ!
わかったな!」
高井戸「わ、わかりました…(汗」
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○ちびうさ→無事退院。セーラー戦士の一員として戦線復帰を宣言。
○月野うさぎ→退院したちびうさを出迎えに行く。偶然、沢渡優香と出会う。
○水野亜美→退院したちびうさを出迎えに行く。偶然、沢渡優香と出会う。
○火野レイ→退院したちびうさを出迎えに行く。偶然、沢渡優香と出会う。
○木野まこと→退院したちびうさを出迎えに行く。偶然、沢渡優香と出会う。
○愛野美奈子→退院したちびうさを出迎えに行く。偶然、沢渡優香と出会う。
○小森好次郎→病室内で牧村光平の事情聴取を行おうとするが、伝通院洸に追い返される。
○高井戸志郎→病室内で牧村光平の事情聴取を行おうとするが、小森警部共々伝通院洸に追い返される。
○魚住愛→ちびうさに退院を祝って花束を渡す。
○伝通院洸→入院中の牧村光平に無理な事情聴取を強行しようとした小森警部と高井戸刑事を病院から追い出す。
○牧村光平→落雷炎上事故の後、奇跡的に助かる。京南大学付属病院に入院。
小森警部に事情聴取で問い詰められ、フラッシュバックにより極度の興奮状態に陥る。
○朝倉慎哉→意識を取り戻した牧村光平の見舞いに駆けつける。
○沢渡優香→意識を取り戻した牧村光平の見舞いに駆けつける最中、病院内で偶然月野うさぎたちと出会う。
最終更新:2020年11月26日 10:07