『天凰輝シグフェル 序章』-4
作者・ティアラロイド
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???***
光平「………ん…ううっ!!」
そこは真っ暗な闇に閉ざされつつも、所々が青白い光の点を明滅している不気味な空間。
どこかの建物の中というよりは、何らかの広い異空間といった感じがする。
光平「……ここは…?」
気がつくと光平は、一糸纏わぬ全裸の姿で、
何か魔法陣のような意味不明の図形が刻まれた床に
仰向けになって寝かされていた。両手両足は頑丈な鉄枷と鎖によって
大の字になる形で拘束されている。
よく見ると周囲には、手術に使うような見たこともない器具が幾つも置かれていた。
光平は必死にもがいて拘束から逃れようとするが、鉄枷はビクともしない。
光平「くそっ!!」
理乃「…お目覚めのようね?」
光平「――お前は!?」
光平の足元には、東条寺理乃が囚われの光平を見下ろすように立っていた。
光平「東条寺! いったい俺をどうするつもりだ!?
早くこの鉄枷を解け!!」
理乃「そういうわけにはいかないわ。
貴方はもう私の可愛いモルモットなのだから」
光平「ふざけるなあっ!! さっき俺に見せたあの死体の山は
いったい何なんだ?」
理乃「貴方もニュースくらいは見て知っているでしょ?
連続婦女失踪事件…。あの女たちは私の実験に耐え切れずに
死んでいった、云わば失敗作」
この理乃の言葉で、光平は全てを理解した。
最近都内で連続で失踪していたという若い女性たちは、
皆、この目の前の狂った女の恐ろしい人体実験の犠牲にされていたのだ。
それがいったい何の実験だったかまでは分からないが、
今夜ももし優香が東条寺邸を訪れていたら、
きっと彼女も同じ運命をたどっていたに違いない。
光平「……くそおっ!!」
理乃「ジタバタするのはおよしなさい!
見苦しいわよ!」
理乃が叫ぶように言い放つと、周りの空間が少しだけ
薄らと明るくなった。そして辺りを見回した光平は、
さらに驚きと恐怖の感情に支配された。
ゴブリンイーバ「グゥゥゥゥ…!!」
コボルトイーバ「ガルルルッ!!」
トロルイーバ「ウォ~ンッ!!」
ヴァンパイアイーバ「キキキキキッ…!!」
キマイライーバ「ウラァァァッ…!!」
獰猛で凶暴そうな怪物たちの群れが、
まるで餌を前に舌舐めずりするかのように
殺気に漲らせながら、身動きの取れない光平を
睨みつけていたのだ!
光平「な、なんなんだこの化け物たちは!?」
理乃「さあ、そろそろ始めましょう」
光平の疑問を無視して、理乃は右手の5本の指の爪を長く鋭く伸ばし、
それを徐々に光平の顔の頬へと近づけていく…!
光平「…やめろ…俺を自由にしろ…
…やめろぉっ……やめてくれええっっ!!!!!!!!!!」
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朝倉家・2階 光平の寝室***
光平「うわあああああっ!!!!!」
まだ早朝の朝倉家…。
突然大きな叫び声をあげて、光平はベットから飛び起きる。
隣の部屋で寝ていた慎哉も、大声を聞きつけて
パジャマ姿のまま慌てて光平の部屋に飛び込んできた。
慎哉「どうしたんだ光平!!」
光平「………」
慎哉の問いにも答えることができず、
大量の汗をかいた様子の光平は、ただ茫然自失としている。
光平「……(なんだったんだ今のは!? ただの夢…??)」
海防大学付属高校・校門前***
その日も光平と慎哉は、いつもと同じく普段通り登校した。
だがこの日は、光平に対する他の生徒の態度がどこか
よそよそしく感じられた。
優香「光平くん! 朝倉くん! おはよう♪」
慎哉「よっ、沢渡、おはようっ!」
光平「………」
光平は優香のかけた声に気付かない。
優香「…光平くん?」
光平「……え? あ、優香…おはよう」
優香「光平くん、大丈夫…?」
光平「うん、大丈夫だよ…。早く教室に行こうぜ。
授業が始まっちゃう」
光平はなんとなく生気が感じられない笑みを浮かべると、
生徒用玄関でズックに履き替え、教室へと向かっていった。
優香「光平くん…」
慎哉「………」
◇ ◇ ◇
昼休み、光平と慎哉の級友で同じ部活仲間でもある小林が
心配そうな表情で話しかけて来た。
小林「なあ牧村、お前大丈夫なのか?」
光平「大丈夫って…何が?」
小林「学校のみんなが噂してるぜ…。
お前と東条寺が手を組んで怪しげなオカルトに
手を出してたとか、お前が女子生徒を密かに
物色してたとか…」
慎哉「なっ…!!」
それを聞いた瞬間、慎哉は鬼気迫る顔つきになり
小林の胸ぐらを両腕でつかんで問い詰める!
小林「く…苦しいっ!」
慎哉「誰だそんなことを言ってたのは!」
光平「慎哉、やめろ!」
光平は慌てて仲裁に入り、
小林を締め上げている慎哉に両腕を解かせた。
慎哉「光平だって東条寺の被害者なんだぞ!
そんな風に疑うだなんて、お前それでも友達かよ!」
小林「落ちつけよ朝倉! 俺だってわかってるよ。
ただ…聞き込みに来た刑事さんがそんな風に
言ってたんだよ」
慎哉「…刑事??」
小林「まだあそこにいるぜ…」
小林が恐る恐る指差した窓の向こう側には、
階下に停めてあるパトカーの中から
じっと光平たちの教室方向を監視している
小森警部と高井戸刑事の姿が…。
ここ最近、都内で発生していた連続婦女失踪事件について
捜査当局は東条寺理乃の犯行であると断定。容疑を殺人に切り替えて、
全国に指名手配した。事件の被害者の中には海防大付属高の女子生徒も
多数含まれていたため、自然とそのような噂が流れてしまったのだろう。
慎哉「あいつら~! まだ性懲りもなくっ!」
光平「…ごめん慎哉、しばらく一人にしてくれ…」
慎哉「光平っ!」
光平は慎哉が引き留める間もなく
人を避けるように教室から出て行った。
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その日の夜…。
朝倉家前***
今日一日中、ずっと光平の事をしつこく尾行・監視していた
小森&高井戸の両刑事。光平と慎哉が帰宅した後も、
覆面パトカーの中からずっと朝倉家の様子を監視している。
高井戸「警部、夕食のアンパンと牛乳を買ってきました」
小森「ご苦労だったな」
高井戸刑事から紙袋を受け取る小森警部。
小森「それで、牧村光平について何か解ったか?」
高井戸「はい。ちょっと待ってくださいね」
高井戸刑事は懐のポケットからメモ帳を取り出して開く。
高井戸「えーっと…牧村光平、現在17歳、海防大学付属高校の2年生です。
父親は牧村陽一郎、外務省の元参事官で、母親はアルジェリア人。
両親共に光平本人が小学四年生・10歳の時に、サラジアでのテロ事件で死亡しています。
それ以来、父親の仕事の関係で縁のあった朝倉家に引き取られて育ったようです」
小森「あのイケメン小僧、ハーフだったのか。道理で顔が
どこか外人っぽいと思った。それで母親の詳しい素性は?」
高井戸「それがわかりません」
小森「なにっ?」
高井戸「どうも外務省全体に緘口令が敷かれているらしくて、
牧村光平の母親について調べることができませんでした…」
小森「どういうことだ…??」
小森警部が高井戸刑事の報告内容に不思議に思っていると、
突然車のドアをノックする音がした。
チャック「コラ、桜田門署の凸凹コンビ!
こんなところで何してる!」
小森「なんだお前たちはっ!?」
美姫「アナタ達と同業者よ!」
美姫とチャックは小森たちにバッジを提示した。
小森「チッ、メガロシティ署か…」
チャック「ここら辺の地区はうちの署の管轄でしてね。
勝手に人んちのシマを荒らすのはよしていただけますか、警部殿!」
高井戸「警部、今よその所轄と揉め事を起こすのはマズイですよ!」
小森「う~む、仕方がない! 今日のところは引き下がるが、
あの高校生は事件の重要参考人だ。これで諦めたわけじゃないからな!」
チャックと美姫に促される形で、
小森と高井戸はようやく引き揚げて行った。
◇ ◇ ◇
朝倉家の玄関で、ピンポンッ♪とチャイムが鳴る。
中からドアを開けたのは優香だった。
優香「美姫さん」
美姫「優香ちゃん!? 貴女も来てたのね」
光平の身を案じていた優香も
朝倉家を訪れていたのだった。
美姫「あの刑事たちなら帰って行ったわ。
もう安心しても大丈夫よ」
優香「わざわざすみません…」
美姫「気にしないで。あの小森って警部はね、
警視庁管内でも"コウモリ警部"の渾名で有名なのよ。
それで、光平君は?」
優香「こっちです」
優香は美姫を2階の光平の部屋へと案内する。
慎哉「美姫さん」
美姫「慎哉君、光平君はずっとこの中に?」
慎哉「あいつ…帰って来てから夕食も食べずに
ずっと籠ったままなんだ。…おいっ光平!
美姫さんが心配して来てくれたぞ!
出て来いよ!」
美姫「よしなさい慎哉君、今はそっとしておいて
あげるしかないわ…」
慎哉「でも…」
部屋の中では、明かりもつけずに
光平はだだじっとベットの上で蹲っていた。
光平「………」
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○小森好次郎→牧村光平を尾行・監視する。
○高井戸志郎→牧村光平を尾行・監視する。
○チャック・スェーガー→牧村光平を監視していた小森警部と高井戸刑事を追い払う。
○桂美姫→牧村光平を監視していた小森警部と高井戸刑事を追い払う。
○牧村光平→悪夢を見る。その後精神的ショックで、一時的に自室に引き籠る。
○朝倉慎哉→牧村光平を心配する。
○沢渡優香→牧村光平を心配する。
●東条寺理乃→あの落雷事故の夜の事が、牧村光平の悪夢に出る形で明らかに。
どうやら光平に何らかの人体実験を施していた模様。連続殺人犯として全国に指名手配される。
最終更新:2020年11月26日 10:08