『天凰輝シグフェル 序章』-7
作者・ティアラロイド
1251
海防大学付属高校・校門前***
いつも通りの朝の登校風景。
登校してきた光平、慎哉、優香を今か今かと待ち構えていたのは、
満面のどや顔を浮かべた小森警部と高井戸刑事だった。
慎哉「またコイツらかっ…」
光平「………」
小森「やあやあ、おはよう牧村光平君!
今日はとってもいい天気だねえ♪( ̄∇ ̄)v ドヤッ!」
優香「なんなんですかアナタたちは!
まだ光平くんを疑っているんですか!?」
小森「いやいやお嬢さん、我々はねえ、
もう疑いの段階を通り越して確信をもっているのだよ」
慎哉「なに言ってんだ、このヘボ刑事っ!」
高井戸「牧村光平、昨夜の反重力鉱石輸送隊襲撃事件の
重要容疑者として逮捕する!」
高井戸刑事は光平の両腕に手錠を嵌めた。
光平「――!!」
慎哉「ハァ…!?」
小森「えっへん! 我々二人はな、
昨夜遅くにこの少年がこっそり家から抜け出し、
事件現場の近くまで来た事をしっかりと
この目で確認しているんだ!」
高井戸「その通り!」
優香「そんなっ…何かの間違いです!」
小森「申し分があれば署の方で聞かせてもらう」
高井戸「さあ、乗るんだ!」
慎哉「光平!」
光平「大丈夫だよ、慎哉、優香。
きちんと話せばきっと疑いも晴れるからさ」
こうして光平はパトカーに乗せられ、桜田門署へ連行されてしまった。
優香「どうしようっ朝倉くん!
早く美姫さんとチャックさんに連絡して
なんとかしてもらわないと…!」
慎哉「…いや。美姫さんとチャックさんには悪いけど、
やっぱり警察は信用できない」
優香「じゃあどうするのっ!?」
慎哉「………」
フランス南西部・アルカション***
フランス・アキテーヌ地域圏・ジロンド県にあるアルカション。
ランド地方、ボルドー南西34マイルの大西洋岸にあり、人気の海水浴場がある。
良質の砂浜と穏やかな気候により、時のフランス皇帝ナポレオン3世の妻、
ウジェニー皇后の静養地としても知られている。
そのリゾート地に、東京ドームの数十倍はあろうかという広大な敷地と森林、
そして緑豊かな庭園に囲まれた邸宅があった。その昔さるフランスの大貴族が
暮らしていたという城であり、現在の所有者はアルジェリアの石油王一族として
セレブ界にその名を知られるアルシャード家である。
老執事「お嬢様、日本の朝倉慎哉さまからお電話が届いております。
何か急なご用件だとかで…」
フィリナ「…慎哉が? すぐに繋いでちょうだい」
まだシャワーを浴び終えたばかりでバスローブ姿のフィリナは、
王朝様式の家具やマントルピース、絵画など、すべてにエレガンスが薫る空間の
広い居間で寛ぎながら、老執事から受話器を受け取る。
フィリナ「…もしもし慎哉、久しぶりね。その後光平や優香は元気?
――えっ!? なんですって!!」
1252
舞台は、再び日本に戻る…。
東京・桜田門署 取調室***
光平「だから何度も言ってるじゃないですか。
僕は昨日の事は何も覚えてはいません」
小森「しらばっくれるな! "何も覚えていない"と言えば
それで通ると思ったら大間違いだぞっ!!」
光平に対する小森警部の厳しい取り調べが続く中、
部屋の中に入って来た高井戸刑事が不安そうな顔で、
小森の耳にそっと耳打ちする。
小森「…なにっ!?」
高井戸「弁護士の北岡が現れました。
証拠不十分で不当逮捕だと言って抗議してるんですよ。
どうします…?」
光平「どうしたんですか?」
小森「な、なんでもない!
ちょっとここで待ってろ!」
北岡秀一 ――どんな不利な裁判でも逆転無罪にし「クロをシロにしてしまう」ほどの実力を持つ
凄腕の悪徳弁護士。警察官で捜査に携わる者あれば、その名を知らぬ人間などはいない。そんな大物がなんで
一介の名もない男子高校生の弁護など引き受けたのだろうか…。意外な展開に動揺する小森たちだが、
まずは刑事捜査課の応接の席まで通し、ともかく応対に出る。
北岡「どうもはじめまして。弁護士の北岡と申します」
小森「北岡先生、貴方のお噂は伺っています。拝金主義のペテン師だそうで?」
さっそく小森警部から北岡弁護士に対する、嫌みの先制攻撃である。だが、しかし…
北岡「こちらも存じていますよ。小森好次郎警部、恰好つけたがりのドジな三流無能警官。
これまで数々の事件を迷宮入りさせてきた華麗な実績をお持ちで、最近のご趣味は
ゴミバケツに顔を突っ込む事。それでついた渾名が"コウモリ警部"…」
小森「なんだとぉぉ――ッ!!!!!!!ヽ(`Д´)ノウワァァン!!」
「コウモリ警部」というのは小森警部にとって最大の禁句である。
普段ならこれで呼ばれたり耳にした途端に激怒して手が付けられなくなるのだが、
脇に控えていた高井戸刑事が必死に押しとどめる。
高井戸「け、警部! どうかこの場は抑えてください!」
小森「…うぬぬぬぬぬっ!!!!」
北岡「牧村光平君は学校生活においても成績優秀で、
優等生の部類に入る健全な生徒であり、これまでに
不良行為の類も一切認められません。速やかに釈放を要求します」
小森「そうはいくか! あのイケメン小僧は重要容疑者として
まだ取り調べ中だ!」
1253
小森と北岡の押し問答が続く中、
チャック・スェーガーと桂美姫が桜田門署にやって来た。
どうやら優香から連絡を受け取り、光平の身柄を引き取るべく
乗り込んできたようだ。
チャック「お前は…!?」
北岡「これはこれは、メガロシティ署の桂美姫警部補に
チャック・スェーガー巡査部長ではありませんか。
こんなところでお会いするとは奇遇ですねえ」
チャックと美姫も、これまで自分たち逮捕してきた犯人の中で、
マフィアのボスなどの大物何人かを法廷の土壇場で北岡にひっくり返されて、
泣く泣く釈放してきた経緯がある。そのような事情で、
チャックも美姫も北岡とは因縁の仲であり、快く思ってはいない。
さらに美姫には、実家の桂コンツェルンも幾つかの裁判で
北岡を雇っていたという過去の事情もあり、ばつが悪かった。
チャック「うわっ、イヤな奴の顔を見ちまったぜ…」
北岡「これはご挨拶で…」
美姫「なんでアナタがこんなところにいるの!」
北岡「牧村光平君の弁護を依頼されました」
美姫「なんですって!?」
驚く美姫とチャック。確か今の光平の身よりと言えば、
沖縄で農家と小さな琉球古武術の道場を営んでいるという
父方の年老いた祖父母しかいないはず…。
光平を預かっている朝倉家も、一流の大手商社マンの家であり
比較的裕福な家庭ではあるが、それでもとても北岡を雇えるような
大金をすぐに用意できるとは思えない。
小森「またお前らか? 今度は何しにきた!」
美姫「牧村光平の身柄を引き取りに来たのよ!」
小森「くどい! あのイケメン小僧は昨夜の事件の
重要容疑者なんだぞ!」
チャック「おや、まだ何も聞いていないんでありますか、小森警部殿…( ̄ー ̄)ニヤリ 」
小森「な、なんだその思わせぶりなニヤニヤ笑いは!?」
美姫「本庁からの通達よ! 昨夜の反重力鉱石輸送隊の襲撃事件は、
被疑者死亡のまま書類送検。この事件はもうとっくに決着がついたのよ」
小森「……えっと、つまり、どーゆーことなんだ?」
高井戸「警部、つまりこれって誤認逮捕ってことですよぉっ!」
小森「…ご、ご、誤認逮捕~っ!?」
小森警部はようやく何が起こったのか事態を理解し、
部下の高井戸刑事共々顔面蒼白となる。
北岡「やれやれ…現場のヘボ刑事のとんだ先走りで、未来ある若者の人生が
壊されるところでした。しかも別件による不当逮捕。未成年者に対する重大な人権侵害ですな!
本来であればマスコミを動かして大々的な追及キャンペーンを張るところですが、
幸いにして私の依頼主は、事を公にすることを望んではいません。
お二人とも、命拾いをしましたな…」
小森「………」
高井戸「………」
北岡「それじゃあ、牧村光平君の身柄はこっちで引き取らせてもらいますよ」
1254
江東区豊洲・住宅街 朝倉家玄関先***
優香「おかえりなさい、光平くん」
慎哉「待ってたぜ」
光平「ただいま。慎哉、優香」
釈放されて無事に帰って来た光平を、
慎哉と優香は暖かく迎えた。
北岡「では、私はこれで…」
光平「どうもありがとうございました」
北岡は光平を朝倉家まで送り届けると、
秘書兼ボディーガードの由良吾郎の運転する車に乗り、
早々に帰って行った。
慎哉「なんだかキザな弁護士だったなぁ…」
光平「それよりも慎哉」
慎哉「なんだよ?」
光平「慎哉なんだろ? フィリナに連絡して、
あの弁護士を雇ってくれたのは?」
慎哉「へへっ…バレたか」
光平「アルシャードの力がなかったら、
俺は留置場から出られなかったよ」
◇ ◇ ◇
自宅兼事務所に向かう帰路の最中の北岡秀一は、
車中から国際電話をかけていた。電話の相手は
今回の依頼主である。
北岡「お困りだった事態は全て解決しました。
どうかご安心ください」
フィリナ@電話の声「ありがとう。報酬は
直ちにご指定の口座に振り込ませていただくわ」
北岡「それはどうも。ところで、あの光平という少年と
貴女とはいったいどのようなご関係で?」
フィリナ@電話の声「………」
北岡「いや、こんな噂を耳にした事がありましてね。
かつてある日本人の若い外交官と中東の石油王一族の令嬢が
恋に落ち、駆け落ちに近い形で結ばれました。
当然令嬢の実家である石油王の一族は激怒し、
日本への石油輸出があわやストップ寸前にまで陥ります。
外務省でもその外交官の罷免論が浮上しますが、
そんな彼の窮地を救い、拾い上げたのが、彼の外交官としての
手腕を惜しんだ時の首相・板垣重政氏と、まだ当時は
外務副大臣だった今の総理・剣桃太郎氏ですよ」
フィリナ@電話の声「初めて聞く話だわ……」
北岡「なかなかおとぼけもお上手だ。
…で、この話にはまだ続きがあるんです。
日本人外交官と石油王一族の令嬢との間には
男の子が一人生まれましてね。今も生きていれば
ちょうど高校生くらいの年頃でしょうかねえ…」
フィリナ@電話の声「………」
北岡「この話は日本の外務省では完全に禁句(タブー)とされています。
もしこの噂が事実だとすれば、世界有数の石油王一族の血を引く
ご落胤が、今もこの日本のどこかにいることになる…」
フィリナ@電話の声「そこまでよ北岡さん!
それ以上の余計な詮索はやめてちょうだい」
北岡「詮索だなんてとんでもない。
今のは単なる私の独り言だとご理解ください」
フィリナ@電話の声「…まったく、貴方だけは
敵に回したくはないわね」
北岡「お褒めの言葉と受け取っておきます。
それでは、これにて失礼」
そうして北岡は電話を切った。
<シナリオ完結。次シナリオへと続く>
1255
○小森好次郎→牧村光平を先走りで逮捕し、後になって誤認逮捕が発覚して顔面蒼白。
○高井戸志郎→牧村光平を先走りで逮捕し、後になって誤認逮捕が発覚して顔面蒼白。
○北岡秀一→フィリナ・クラウディア・アルシャードからの依頼で、
牧村光平の釈放に漕ぎ着ける。光平の素性にも気づいている模様。
○チャック・スェーガー→桜田門署で小森警部たちと押し問答。偶然、北岡秀一とも顔を合わせる。
○桂美姫→桜田門署で小森警部たちと押し問答。偶然、北岡秀一とも顔を合わせる。
○牧村光平→小森警部と高井戸刑事に誤認逮捕されるが、北岡秀一の手で釈放される。
○朝倉慎哉→牧村光平が逮捕された事をフィリナに伝え、光平救出を依頼。
○沢渡優香→釈放されて帰って来た牧村光平を、朝倉慎哉と共に温かく迎える。
○フィリナ・クラウディア・アルシャード→朝倉慎哉からの連絡で、
北岡秀一に牧村光平の弁護を依頼。釈放に持ち込ませる。
最終更新:2020年11月26日 10:09