『鳳凰の覚醒』-3
作者・ティアラロイド
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コボルトイーバA「シィグゥフェェルゥゥッ…!!」
コボルトイーバAは右腕の分子分解銃を構え、
獰猛な咆哮と共にビームを連射した。
しかしシグフェルは両手を前面に突き出して
炎の障壁を生み出し、相手のビーム攻撃を全て無効化する。
次の瞬間、敵の眼前まで急突進したシグフェルは、
右手の拳でコボルトイーバAの分子分解銃を粉々に砕く。
コボルトイーバA「グゥゥアァァッッ…!!」
シグフェル「――!!」
苦しむ唸り声をあげるコボルトイーバAの左腕を掴むと、
シグフェルは一回転して振り回した後、上空高々へと
勢いよく放り投げた。パビリオンの屋根を突き破って
遥か高空へと舞い上がったコボルトイーバAめがけて、
シグフェルも背の大きな翼を強風と共に羽ばたかせてジャンプ。
猛スピードで突進し、そのまま空に浮かぶ敵の身体に体当たりする形で
コボルトイーバAの肉体を突き破った。
コボルトイーバA「ブギャアアッッ――!!」
四方に粉々に散らばったコボルトイーバAの肉片と体液は、
断末魔の雄たけびと共に全て蒸発して跡形もなく消えてしまった。
シグフェル「………」
戦いに勝利し、ゆっくりと元の場所の地面に着地するシグフェル。
その様子を3人のセーラー戦士は注意深く観察している。
ヴィーナス「凄い…。これがシグフェルの力…」
ジュピター「これって、やっぱり助けてもらったってことかな?」
ムーン「………」
セーラームーンは緊張した面持ちでシグフェルに近づく。
ヴィーナス「セーラームーン、近づいたら危ないわよ!」
ムーン「大丈夫よ…たぶん」
セーラームーンはこちらに敵意のないことを示すため、
そっと右手を差し出し、シグフェルに握手を求めた。
ムーン「あたしはセーラームーン。助けてくれてありがとう」
シグフェル「……ううっ」
ムーン「どうしたの…?」
シグフェル「……ウウッ…グオオオッッッッッッ!!!!!!!」
ムーン「――!?」
ジュピター「危ない!!」
突然狂ったような雄叫びをあげて、セーラームーンに襲いかかるシグフェル。
セーラージュピターが咄嗟の機転で飛び出し、セーラームーンを庇って事なきを得る。
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ジュピター「大丈夫かセーラームーン!?」
ムーン「ありがとう。あたしは大丈夫!」
ヴィーナス「やっぱりシグフェルは敵だったのよ!!」
セーラーヴィーナスは、腰に付けているチェーンを
赤い宝玉の鎖の形の長いムチに変換する。
ヴィーナス「――ヴィーナス・ラブ・ミー・チェーンッッ!!!!!」
ジュピター「――シュープリーム・サンダー・ドラゴンッッ!!!!!」
ヴィーナスがハート型の光の鎖でシグフェルの身体を巻きつけ拘束。
そこにジュピターのティアラの避雷針で受けた落雷のエネルギー電撃を放ち、
それらを収束しドラゴンの姿に変化させてシグフェルめがけて攻撃する。
シグフェル「グゥウオオオォォッッ!!!!!」
身体の自由を封じていた光の鎖を強引に引きちぎったシグフェルは、
右の掌だけで電撃攻撃を全て受け止めて見せた。
ジュピター「なんてやつだ!?」
シグフェルは背中の翼を大きくはためかせ、
凄まじいまでの強風を引き起こした。
その衝撃でセーラームーンたち3人は吹き飛ばされ、
それぞれ壁へと打ちつけられてしまう。
ムーン「きゃあぁぁっ!!」
ジュピター「うわああっっ!!」
ヴィーナス「ああああっっ!!」
天地を鳴動が揺るがした。シグフェルは自らの気を解放すると、
呻くように天を仰ぐ。だがそこへ先ほどの幼い男の子が、
何を考えているのかシグフェルに近づいていく…。
ヴィーナス「ダメよ! 危ないわ!」
男の子「ねえ……」
シグフェル「……?」
セーラーヴィーナスが叫んで止めるが、
男の子は恐れる様子もなくシグフェルに語りかける。
男の子「ボクとママを…助けてくれてありがとう」
シグフェル「……!?」
男の子が礼を言った瞬間、シグフェルは急に頭を両手で抱えて
激しく苦しみだした。
シグフェル「…ううっ…うっ!!…うわあああっっ!!」
ジュピター「急にどうしたんだ!?」
ヴィーナス「早くその子を連れて逃げてください!」
母親「は、はい…!!」
母親は男の子を抱えると、出口の方向へと
一目散に走り出した。シグフェルは尚もまだ
苦しみもがき続けている。
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ムーン「もしかしたら―!!」
特に何かが解ったわけではないが、
これからすべきことを直感で感じ取り理解した
セーラームーンがエターナル・ムーン・アーティクルに
手をかざしながら高らかに叫ぶ。
ムーン「ムーン・エターナル!メイクアップ!!」
セーラームーンは、スーパーセーラームーンの段階を超えて
一気に最終形態エターナルセーラームーンへとチェンジした。
ヴィーナス「どうするつもりなの!?」
ムーン「任せて! ――シルバームーン!!」
エターナル・ティアルとホーリー・ムーン・カリスの融合すると、
ムーン・パワー・ティアル先端の水晶から金色の光線が放たれ、
同時に羽根の嵐が四方に飛び散る。
ムーン「――クリスタル・パワー・キッス!!」
強力な浄化の光がシグフェルの身体に纏わりつく!
シグフェル「――!!」
ムーン「今よっ! 幻の銀水晶よ、あたしに力を貸して!
――ムーン・ヒーリング・エスカレーションッッ!!!!!」
エターナルセーラームーンの頭上にスターシードが現れ、
シルバームーン・クリスタルが蕾が開くように
蓮の花を思わせる形状に花開く。
銀河最強の無限の浄化力が周囲一面の空間全てを
追いうちのように広範囲に満遍なく満たす。
シグフェル「うわあああっっ!!!!!」
浄化の光に耐え切れなくなったのように、
シグフェルは大声を上げて飛び去って行った。
パワーを使い果たしたため基本形態の姿に戻り、
ホッと一息つくと共にぐったりと腰を下ろすセーラームーン。
ジュピター「セーラームーン!!」
ヴィーナス「大丈夫!?」
ムーン「ε=( ̄。 ̄;)フゥ…。疲れたよ……。
シグフェルは、逃げたのかな…?」
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先ほどの母子の他、事件に巻き込まれた入場客たちはほとんど、
駆け付けた救急車によって無事に病院へと運ばれていった。
その後の調査で、イーバに狙われていた母子は、以前に爆破テロ事件に
巻き込まれた犠牲者であり、黄泉がえり現象によって生き返っていた人物
だったことが判明した。
◇ ◇ ◇
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すっかり日も暮れ、真っ暗になった夜。
お台場には花火が打ち上げられている。
うさぎ「たまや~!!」
事件も解決したことで、花火見物に興じている
月野うさぎ、木野まこと、愛野美奈子、そしてルナとアルテミス。
ルナ「あいかわらず呑気ねえ、うさぎちゃんは…。
新たな敵が現れたっていうのに!」
うさぎ「それってイーバだけじゃなくてシグフェルのことも?
でもなぜかなぁ…。あたしにはシグフェルが
敵だとはどうしても思えない」
まこと「どうしてだい?」
うさぎは、シグフェルに男の子が近づいた時の事を語る。
うさぎ「あの男の子が助けてくれたお礼を言おうとした時、
シグフェルの動きが一瞬止まったじゃない」
アルテミス「うさぎ、シグフェルがその男の子の声に反応して
攻撃をやめたと考えるのは少し早計だ」
うさぎ「そうかなあ…」
美奈子「…あれっ、そういえば光平くんと優香ちゃんは
どこ行ったんだろ?」
まこと「救急車で他の客と一緒に運ばれたか、
もう帰ったんじゃないのかな?」
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海浜公園***
花火会場からは少し距離の離れた位置にある海辺。
人通りは花火会場の方に集中しており、こちらに人の姿はほとんどない。
誰にも気づかれることもなく、ゆっくり海岸へと降り立ったシグフェルは、
浜辺の海面に映った自分の姿を見た。
シグフェル「――」
その姿は人間ではない。赤く光るメタリックな装甲に、
背には二枚の巨大な翼。まるで鳳凰、不死鳥を模したような
明らかに異形の姿がそこにはあった。
シグフェル「…う、ううっ、そんな…うわああああっっ!!!」
絶叫するシグフェル。
シグフェル「――リフレェーシュッッ!!!!!」
それは邪悪なる者が、セーラームーンの浄化の光によって
清められ、元の姿に戻る時に叫ぶ言葉である。
次の瞬間、一瞬の眩い光と共に、シグフェルは牧村光平の姿へと戻った。
光平「………」
今、全ての出来事の記憶が一本の糸で繋がった。
光平は己の身に起こった異変、そして、
もはや自分が"人間でなくなってしまった"事に至るまで
全てを理解した。
光平「うわあああああっっっ!!!!」
ガクリと両膝を折り、崩れ落ちるように
その場に座り込んた光平は絶叫した。
大声を上げて泣いた。両眼からは枯れることなく
涙がこぼれ続ける。
優香「…光平…くん?」
光平「……!?」
ふと背後から、聞き慣れた温かい優しい声がした。
光平は思わず振り向く。優香だ。
優香は目を覚ました後、姿が見えなくなった光平を探して
あちこちを走り回ったのであろうか、少し疲労の表情が見える。
優香の方はと言えば、やっと見つけた光平が顔を満面に涙で濡らしており、
いったいどうしたのか?と戸惑っていた。
優香「光平くん、いったいどうしたの!?」
光平「――!!」
光平は優香の姿を見るなり、いきなり飛びつくように抱きついた。
優香「ちょ、ちょっと光平くん!!」
光平「……ごめん。少しだけ…少しだけこのままでいさせて…!」
優香「光平くん!?」
光平「助けて……」
優香「………」
何が起こったのかも全然理解できず
戸惑うばかりの優香だったが、
今はただ、自分に救いを求めるように抱きつく光平を
優しく抱擁するしかなかった…。
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○セーラームーン/月野うさぎ→シグフェルをシルバームーン・クリスタルの力で浄化。
○セーラージュピター/木野まこと→シグフェルと交戦。
○セーラーヴィーナス/愛野美奈子→シグフェルと交戦。
○ルナ→月野うさぎのシグフェルに対する楽観論を戒める。
○アルテミス→月野うさぎのシグフェルに対する楽観論を戒める。
○シグフェル/牧村光平→コボルトイーバAを撃破。セーラームーンによって変身後の凶暴性を浄化され、
自分が異形の存在シグフェルと化してしまったことを知る。
○沢渡優香→海浜公園の浜辺で見つけた牧村光平を優しく抱擁する。
●コボルトイーバA→シグフェルに倒される。
最終更新:2020年11月26日 10:11