本編1366~1370

『聖天子暗殺!?宇都宮釣天井』-3

 作者・ティアラロイド
1366

宇都宮城・御休息所***


五郎「ひゃああ…御休息所っていうから
 てっきり公園によくあるような東屋みたいな
 もんだと思ってたら、こりゃあ大御殿じゃねえか」
弦太郎「なに無駄口叩いてんだ。口を動かす前に
 手を動かせ!」
五郎「はいはい…」

御休息所造営のための工事はもうほとんど終わっており、
あとは仕上げの段階というところまで来ていた。
建設現場に日雇いの作業員として潜りこんだ
静弦太郎と霧島五郎の二人は、材木を運ぶ仕事などをしながら、
なんとか御休息所の建物の内部を確かめようとするが、
警備が厳重でなかなか近付けない。

作業員A「――!!(この二人は…!?)」
作業員B「……(間違いない。静弦太郎に霧島五郎だ…!)」

額に汗しながら作業中の弦太郎と五郎の横を、
とある二人の作業員が通り過ぎた。その作業員二人組は
弦太郎と五郎の顔を見て明らかに動揺して顔を背けていた。

弦太郎「おい五郎さんよ、今の気づいたか?」
五郎「あの二人、急に俺たちから顔を背けましたねえ~」
弦太郎「つけてみるか…」

怪しい作業員二人組の尾行ほ開始する弦太郎と五郎。
すると怪しい作業員の側も尾行に勘づき、急に走り出した。
それを追う弦太郎と五郎。


宇都宮城址公園前・公道***


朱音「キャアアッ――!!」
作業員A「それ以上動くとこの女の命はないぞ!!」

怪しい作業員二人組は、逃げ切れぬと悟り、
たまたま側にいた通行人である、黒髪のロングストレートヘアの
若い女性に刃物を突き付け人質に取った。

弦太郎「どっかで見覚えのある顔だと思ったら、
 お前ら、独立幻野党の一味だな!
 なるほど読めて来たぜ…」
作業員B「黙れ! この女がどうなってもいいのか!」
朱音「た、たすけて……」
弦太郎「どのみち逃げられやしねんだ。
 バカな真似はやめて女を放せ!」
作業員A「うるさい!!」

その時、気づかれないようこっそりと背後に回っていた五郎が
怪しい作業員たちに飛びかかる!

五郎「この野郎ッ!!」
作業員A「うわあっ!?」

この隙に人質の女性は解放された。
逃げる作業員たちを弦太郎は追おうとするが…。

朱音「怖い!助けて!!」
弦太郎「おいっ、なに抱きついてんだ!?
 離れろ!!」

人質だった女性は精神的ショックを受けたのか、
恐怖のあまり弦太郎の足に抱きつき離れようとしない。
仕方なく弦太郎を置いて、五郎一人だけで一足先に追跡したのだが、
結局見失ってしまった。

1367

独立幻野党・秘密基地***


無事にアジトへと逃げ帰った党員二人は、
事の次第を幻の月光に報告した。

月光「なにっ! 静弦太郎に霧島五郎が現れただと!?」
党員「はい、間違いありません!」
月光「おのれまたしても静弦太郎か!!」

顔をしかめる幻の月光。

石津「何者だ? その静弦太郎とは…」
月光「国家警備機構のエージェント!
 これまで幾度となく我々の革命活動の邪魔を
 してくれた憎っくき奴!!」
石津「そのような男が現れたとなると、マズイな…。
 決行の日はいよいよ明日に迫っているのだぞ」
月光「案ずるには及ばん。幻の葉月!」

幻の月光は、幻十二人衆の一人・幻の葉月を呼び寄せる。

葉月「幻の葉月、ここにいるぞ!!」
月光「幻の葉月、お前は鋼鉄の同志カプリゴンを操り、
 いざという時は静弦太郎とアイアンキングを抹殺するのだ!」
葉月「承知!!」


宇都宮中心市街・某喫茶店***


弦太郎「…ったく。てめえのせいで
 独立幻野党に逃げられちまったじゃねえか!」
朱音「申し訳ありません…」
五郎「まあまあ弦太郎、この女性も悪気があった
 わけじゃなし。いい加減許してやれよ」

せっかく見つけた手掛かりに逃げられてしまい、
怒り心頭の弦太郎を、五郎は宥める。

弦太郎「宇都宮城の御休息所には
 きっと何か仕掛けが施されているに
 違いねえんだ。それを突き止める
 チャンスだったのにな!」
五郎「こうなると、せめて御休息所の見取り図か
 図面の類でもあれば助かるんだけどなあ…」
朱音「あのー、つかぬことを伺いますが、
 お二人は国家警備機構の静弦太郎隊員と
 霧島五郎隊員ですよね?」
五郎「そーゆー貴女はどなた?」
朱音「申し遅れました。私、こういう者です」

女性は二人に名刺を差し出す。

五郎「…なになに、東都新聞社会部記者、日高朱音さん…ね」
弦太郎「ブン屋さんがよく俺たちの事をご存じだな」
朱音「実は私も宇都宮城の御休息所の急な工事には
 何か裏があると思って、それとなく探っているんです。
 もしよろしければ、その図面、私が入手して来ましょうか?」
五郎「できるのかい、そんなこと?」
弦太郎「確かに手に入れて来てもらえれば有り難いが、
 命がけだぜ…!」
朱音「任せてください。さっきのお詫びもありますし」

1368

深夜……。

宇都宮城・工事現場事務所***


すっかり人も寝静まった夜遅く。
自称、東都新聞社会部の新米女性記者・日高朱音こと
その正体は天童流のくノ一・千坂朱音は、
忍び装束に身を包み、建設現場事務所の中へと侵入した。

朱音「これね…」

朱音はピッキングの道具を用いて、
隠し金庫の中から、それらしい書類の束を取り出した。

朱音「御休息所の図面…これに間違いないわ!」

その時突然、部屋の明かりがつき、
朱音は周囲を独立幻野党の党員たちに囲まれた。

葉月「女、そんなところで何をしている!?」
朱音「――くらえっ!!」

すかさず朱音は手裏剣を投げて敵をけん制し、
その隙にガラス窓を突き破って外へと脱出する。

葉月「…に、逃がすな! 追え~!!」

しかし、走って逃げる朱音の前に、
あの石津麟一郎がたちはだかった!

朱音「どけ!」
石津「………」

上着を脱ぎ上半身裸となった石津は、
自身の肉体の力を極限まで引き出し、
無言のまま朱音に襲いかかる。
一方の朱音も、反射的に石津の攻撃をかわし、
石津の腕を捻るとそのまま腕を釣りこんで足を払う。
石津の屈強な体が朱音の腕を支点に一回転すると、
背中から地面にたたきつけられた。

朱音「フッ!」

強い呼気をする朱音。
倒れていた石津も、何もダメージを受けて
いないかのようにすぐに起き上がる。

石津「…その技、天童式合気術一の型六番、六根玉兎山人と見た。
 やはり天童菊之丞の手の者か」
朱音「………」

1369

朱音「うっ…!」

その時、朱音の身体がガクンと崩れ落ちる。

朱音「な、何をッ…」
葉月「ワハハハハッ!!! 巨象をも一瞬で眠らせる麻酔針だ。
 いかに天童のくノ一といえども、他愛もないものだな…」
朱音「お、おのれ!……うっ…」

吹き矢を握った幻の葉月の前で、
朱音の意識は闇の中へと落ちていった。


独立幻野党・秘密基地***


朱音「ああっ!!…ううっ!!」
葉月「ええい! 吐け! 吐かんかあっ!!」

独立幻野党のアジトへと運び込まれた朱音は、
両腕を吊るされ、竹刀で叩かれる拷問を受けていた。

葉月「しぶとい奴め…」
石津「時間の無駄だ。仮にも天童のくノ一が、
 この程度の拷問で白状したりなどするものか」
葉月「しかし、この女は我ら同志の秘密を
 嗅ぎつけたのだ。生かしてはおけん」
石津「やめておけ。仮にも独立幻野党の革命同志諸君が、
 たかが女にてこずったとあっては、諸君の名誉にも関わろう」
葉月「う~む、確かに」
石津「この女は生かしておけばそのうち
 利用価値も出で来るはず」
葉月「よしっ、しっかり見張っていろ!」
党員A「ハッ!」

石津と幻の葉月たちが出て行ってから数分後、
今まで気を失っていた――いや、気を失っていたフリをしていた
朱音は、突然両目をカッと見開き、両手を縛っていた縄をスルスルと抜けて
あっさりと自力で自由の身になる。

党員A「――なっ!? 貴様ッ…うわあっ!!」

見張りや他に残っていた党員たちを
次々と当て身で制圧していった朱音は、
留守番の残り一人を締め上げる。

党員B「く、苦しい…っ!!」
朱音「石津や他の連中はどこへ行った!?」
党員B「すでに…宇都宮城に、向かった後だ…!」
朱音「チッ…!」

朱音は締め上げていた党員の後頭部を殴って気絶させると、
机の上に拡げてあったままの御休息所の図面を改めて回収する。

朱音「聖天子様の御身が危うい! 急がなければ!!」

急いでアジトを出る千坂朱音。向かう先は、
静弦太郎と霧島五郎のところである。

1370

○静弦太郎→独立幻野党の一味を尾行中、東都新聞記者・日高朱音と偽名を名乗った千坂朱音と接触。
○霧島五郎→独立幻野党の一味を尾行中、東都新聞記者・日高朱音と偽名を名乗った千坂朱音と接触。
●幻の月光→逃げ帰った部下から、静弦太郎と霧島五郎が近くにいるとの報告を受ける。
●幻の葉月→いざという場合に備え、怪獣ロボット・カプリゴンと共に待機。捕えた千坂朱音を拷問。
●石津麟一郎→千坂朱音と交戦。その身のこなしから、天童の者と見破る。

△千坂朱音→東都新聞記者・日高朱音と偽名を名乗り、静弦太郎たちに接触。
 独立幻野党に捕えられるが自力で脱出。宇都宮城御休息所の図面を手に入れる。

【今回の新規登場】
●幻の葉月(アイアンキング)
 独立幻野党の作戦部隊長である幻十二人衆の一員。
 自分たちの革命戦争の邪魔になる静弦太郎の命を執拗に狙った。
 怪獣ロボット・カプリゴンを操る。

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最終更新:2020年11月26日 10:24