『聖天子暗殺!?宇都宮釣天井』-4
作者・ティアラロイド
1381
那須塩原鎮台・自衛隊駐屯地***
ここは栃木県とT県の県境近く、対幻獣・ガストレアの最前線にある防衛の本拠地である。
自衛隊及び学徒兵部隊が整列し、閲兵を受け、のち分列行進してその威容を示す。
行進する部隊より敬礼を受けた聖天子は、用意された原稿のスピーチを読み終えると、
壇上より降りて隊員たちの前に近づこうと歩み寄る。
侍従「お待ちください聖天子様、どちらへ!?」
聖天子「隊員たちと直接言葉を交わします」
侍従「それはなりません。一兵卒の軽輩などに
軽々しく御身をお近づけになられましては…」
聖天子「留め立て無用です」
侍従「ハハッ…」
聖天子は整列する青森第四中隊の前に立った。
聖天子「貴官の姓名と階級は?」
咲良「ハッ! 青森第108警護師団第4中隊々長、
石田咲良千翼長であります! この度は
聖天子様の行幸を賜り光栄です」
聖天子「青森第四中隊の活躍は私の耳にも
届いています。今後も皆さんの善戦を祈ります」
亜美「ありがとうございます!」
続いて聖天子は、第105山岳師団の前に立った。
源「聖天子様、俺はこんな口のきき方しか
できねえけどよ、それでも直に話しかけても
構わないのか?」
聖天子「構いません」
源「安心しな。北関東に巣食う幻獣とガストレアは、
全部俺たちがまとめて駆逐してやるよ!」
聖天子「期待します」
隊員たちとの対談を終えた聖天子に
県知事が恐れながらと話しかける。
知事「恐れながら聖天子様に申し上げます。
わが県選出の城之内議員より、新たな造営した
宇都宮城御休息所にて、聖天子様の日頃のご労苦を
お慰みしたいと申し出ております」
聖天子「…御休息所? そのようなものの
建設は必要ないと事前に通達していたはずです!」
知事「お言葉にはございますが、造営費用は全て
地元有志の篤志家が全額負担し、国費公費には
一切手をつけてはおりません」
聖天子「………」
知事「もしここで聖天子様のお成りのないまま
御休息所を取り壊すこととなりますと、かえって
費用がかさみます」
聖天子「わかりました。参りましょう…」
1382
二荒山神社***
宇都宮市馬場町にある二荒山神社。
その歴史は古く、起源は約1,600年前。宇都宮の始祖・豊城入彦命をまつっている。
この神社が下野「一の宮」と呼ばれていたことから、宇都宮の地名がついた、との説もある。
社宝は鉄の狛犬と兜で、どちらも国の重要美術品に認定されている。
静弦太郎と霧島五郎の二人は、ここの参道で朱音と待ち合わせていた。
五郎「おそいなあ、朱音ちゃん…」
弦太郎「五郎、てめえ俺に隠れて餃子食ったな?」
五郎「あれっ、バレた…?」
弦太郎「バカッ、お前の口がニンニク臭いんだよ!」
そこへようやく朱音が姿を現した。
朱音「弦太郎さん、五郎さん、遅れてごめんなさい!」
弦太郎「遅かったじゃねえか! 今までどこ行ってたんだ!?」
五郎「どうしたのその顔は? 体中どこもかしこも痣だらけじゃない!?」
朱音「…ああ、これは、ちょっと転んじゃって…(汗。
それよりもこれが宇都宮城の御休息所の図面です!」
朱音は、懐から取り出した折り畳まれた大きな紙を広げる。
それを目にした弦太郎は愕然とした。
弦太郎「やはりな…。思ったとおりだぜ!」
五郎「おい弦の字、どういうことなんだ。
俺にも説明してくれよ」
弦太郎「図面のここのところをよく見ろ。
休息の間に釣天井の仕掛けがしてある。
間違いねえ!」
五郎「釣天井!?」
弦太郎「奴ら、これで聖天子様を
ぺしゃんこに押しつぶそうって魂胆だ!」
五郎「どうするんだ弦太郎!?」
弦太郎「もう時間がねえ! 急ぐぜ五郎!!」
宇都宮城・城門前***
宇都宮城へと急行した静弦太郎と霧島五郎は、
城門前で藤森典子と合流した。
典子「静君、霧島君、血相変えてどうしたの!?」
弦太郎「んなこたぁどうでもいい!!
それよりも聖天子様はどうした!?」
典子「もうお城の中に入られたわよ」
弦太郎「しまった!!」
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宇都宮城・御休息所***
宇都宮城に到着し、御休息の間へと入る聖天子。
しかし廊下を進む間に、随員の護衛隊から巧妙に
切り離されていることには誰も気づいてはいなかった。
せいあ「護衛隊はどうしました?」
係官「あちらの別室にて御休息を…」
せいあ「別室で…? いえ、一緒の方がよろしいでしょう。
すぐに呼んで来てください」
聖天子に随行していた尾上せいあ一佐が、
すぐに護衛隊も側近くまで呼び寄せるよう要請するが、
突然、御休息の間の全ての襖が厳重に締め切られる。
せいあ「これは何事です!?」
係官「恐れながら聖天子様をお慰めせんがため、
城之内議員が拙き能をご覧に入れようとの趣向にございます」
せいあ「………」
城之内輝貞といえば、民自党県連の会長でもあり、
これまでに数度も重要閣僚の座を経験してきた大物代議士である。
やがて能の面をつけ、衣装に身を包んだ城之内が現れ、
薙刀を片手に振り回しながら豪快に能を舞い始めた。
まるで今にも聖天子を薙刀で切り刻まんとする勢いである。
せいあ「おやめなさい! 城之内議員、無礼でありましょう!」
能面の男「………」
聖天子「城之内議員、金剛流ですか?
なかなか上達されましたね。さあ、もうよいのです。
あの戸を開けてくれませんか?」
能面の男「いや、開けるわけにはいかん。
そのまま永劫の闇の中においで願う!」
聖天子「なんと…!」
能面の男は面を取り衣装を脱ぎ棄てる。
現れたのは頭にターバンを巻き、僧兵風ともアラビア風ともつかない
衣装を身にまとった男だった。同時に周囲の係官の男たちも
服を脱ぎ捨て同様の姿へと早変わりする。
聖天子「何者です?」
幻の月光「我が名は幻の月光! 騒いだとてもはや袋の鼠!
聖天子殿、我ら独立幻野党革命の同志一同、お命頂戴仕る!」
聖天子「なにゆえに?」
幻の月光「その胸に聞けい!」
せいあ「貴様、本物の城之内議員はどうした!?」
幻の月光「今頃、議員事務所の奥で冷たい骸になっておるわ!」
その瞬間、聖天子たちのいる区画の四方に敷居の壁が降りて来て、
聖天子たちは完全に閉じ込められた。そして天井がじわじわと落下してくる。
侍従「これはいったい!?…)ガクガクブルブル」
せいあ「聖天子様、御身に危険が迫っております!」
聖天子「うろたえてはなりません!」
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仕掛けの外では、幻の月光たちが釣天井が床までしっかり落下する瞬間を
待ち侘びていた。釣天井落下のからくりが作動する音が静まるのを
確認し、落下した釣天井を上げて四方の戸を全て解放する。
幻の月光「これで聖天子もぺしゃんこか。哀れなものよ。
フハハハハ!!!」
企ての成功を確信して高笑いを上げる幻の月光。
しかし、部屋の中には聖天子の死体どころか、
人っ子一人の姿すらなかったのである。
幻の月光「…こ、これはどうしたことだ!?」
幻の葉月「月光、これを見ろ!」
幻の葉月が、片隅の床にいつの間にか
人一人が通れそうな大きさの穴が開けられていた。
予想外の事態に驚く幻の月光。
幻の月光「いつの間にこんな穴が!?」
???「ハハハハハ!!!」
誰かの高笑いが周囲一面に響いた。
たじろぐ独立幻野党の群れをあざ笑うかのように颯爽と現れた、
カウボーイハットにウエスタンスタイルのあの男――
――国家警備機構の密使、我らが静弦太郎だ!
幻の月光「おのれ静弦太郎!!」
弦太郎「久しぶりだなあ、幻の月光!
聖天子様もお供の随員たちも全員無事だ!」
幻の月光「うぬぬ~!!」
弦太郎「今一度てめえら独立幻野党こと幻兵団を
まとめて地獄に送り返してやるぜ!!」
幻の月光「え~い、かかれーっ!!」
幻の月光の号令で、独立幻野党の団員たちが一斉に襲い掛かるが、
弦太郎はアイアンベルトで片っ端から薙ぎ払っていく。
幻の葉月「鋼鉄の同志、カプリゴンよ!
現れ出でるのだあ~!!」
幻の葉月はドクロ型コントローラーを空高く掲げ、
怪獣ロボットを呼び出す。
カプリゴン「ギャオオ~ッ!!」
弦太郎の指示で待機していた五郎は、
怪獣ロボットの出現を確認する。
五郎「現れやがったな!
――アイアンショック!!」
変身ポーズと掛け声を取った霧島五郎は、
水をエネルギー源とする身長45メートルの戦闘用サイボーグ、
アイアンキングへと変身するのだ!
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○聖天子→駐屯地で自衛隊員や学徒兵部隊を観閲後、宇都宮城で釣天井の罠に嵌る。
○尾上せいあ→聖天子に随行し、共に宇都宮城で釣天井の罠に嵌る。
○石田咲良→観閲式で、聖天子と直に言葉を交わす。
○横山亜美→観閲式で、聖天子と直に言葉を交わす。
○源健司→観閲式で、聖天子と直に言葉を交わす。
○静弦太郎→間一髪で聖天子を釣天井の罠から救い、独立幻野党一味と交戦。
○霧島五郎/アイアンキング→アイアンキングに変身し、現れた怪獣ロボット・カプリゴンと交戦。
○藤森典子→宇都宮城の城門前で、静弦太郎たちと再度合流。
●幻の月光→聖天子暗殺に失敗し、静弦太郎と交戦。
●幻の葉月→怪獣ロボット・カプリゴンを起動させる。
●カプリゴン→幻の葉月に呼び出され、宇都宮市街で暴れまわる。
△千坂朱音→宇都宮城御休息所の図面を、静弦太郎たちに届ける。
【今回の新規登場】
●マラソン怪獣カプリゴン(アイアンキング)
幻の葉月に操られる、つぶらな目をした造形をしたロボット怪獣。
ひたすら走り続け、目の前にある障害物を踏みつける。
鼻から槍のような針を出し、角にはミサイルを積んでいる。
最終更新:2020年11月26日 10:26