本編1425~1429

『赤心少林拳、梅花の型』-4

 作者・ティアラロイド
1425

秩父山・赤心寺***


ドグマ超A級怪人ギョストマの人間体である、
拳竜会最高師範・大石秀人によって
完膚なきまでに叩きのめされた牧村光平。

光平「………」

その光平が玄海老師の言いつけに従い、祠に籠って座禅を組み、
静かに瞑想を始めてから、すでに3日が経過した。
朝昼夜三度の質素な食事がその度に差し出される以外は、
あれから特に何も他に指示はない。

大石の声「牧村光平、お前は弱い!
 所詮は負け犬だ! フハハハハ!!!」

スネイザの声「シグフェル、お前は私の実験の失敗作に過ぎない…」

キングダークの声「さあシグフェル、お前も来るのだぁ~!」
タイガーネロの声「我らと共に、深く暗い地獄の闇へ~!」

クロスランダーの声「青いな。貴様はまだまだ甘ちゃんのルーキーよ!」

これまで敵対してきたの者たちの姿の幻が、
次々と脳裏の中に浮かんできては、
光平を精神的に追い詰めて苦しめる。

優香の声「光平くん……キャアアッッ――!!!!!!!」

光平「――優香アアッッ!!!!!!」

沢渡優香が傷つき命を落とす不吉なビジョンが見え、
光平はハッとなって思わず大声をあげて我を取り戻す。

光平「夢か……」

いったいいつになったら
大石に勝つための技を伝授してもらえるのだろう。
光平は焦りといら立ちを覚え始めていた。

1426

そして翌日のこと。
光平のいる祠の中に、一人の訪問者が…。

優香「光平くん」
光平「優香…?」

光平の身を心配した優香が、沖一也と草波ハルミに頼み込んで、
ここ赤心寺まで連れて来てもらったのだった。

優香「差し入れを作って来たの。…あっ、ちゃんとお寺の人からは
 許しはもらってあるから安心して」
光平「………」

その様子を、祠の横に立つ大樹の影からそっと
見守っている沖一也と草波ハルミ。

ハルミ「一也さんもいいところあるじゃない♪」
一也「根を詰め過ぎては、かえって修行の成果もなくなる。
 余分な緊張を取り除くためには、たまには息抜きも必要さ」

しかしそんな一也とハルミの気遣いをよそに、
事態は思わぬ方向へ…。

光平「優香、悪いけど…今は帰ってくれないか…?」
優香「何も食べなければ身体に悪いわ。光平くん、さあ食べて」
光平「うるさいッ――!!」

光平は突然激昂して、せっかく優香が持って来た差し入れの
弁当箱を地面に投げ捨ててしまう。

優香「――!?」
一也「何をする!!」

様子を見ていて驚いた一也とハルミが、
慌てて飛び出してくる。

一也「光平君、君には優香ちゃんの気持ちが解らないのか!?
 今すぐ彼女に謝るんだ!」
ハルミ「そうよ! 謝りなさい!!」
光平「一也さん、俺はあの大石秀人に勝たなくちゃいけないんです!
 もう黙って座禅なんて飽き飽きです! 早く技を教えてください!」
優香「……!」

光平の態度に居た堪れなくなった優香は、
両目に涙を浮かべながら必死に泣くのを押し堪えて
その場から走り去ってしまった。

ハルミ「優香ちゃん!!」
一也「…ハルミ、優香ちゃんを頼む」
ハルミ「OK、任せて」

ハルミは優香の後を追いかけて行った。

光平「一也さん、早く俺に稽古をつけてください!
 お願いします!!」
一也「……いいだろう。お前のその曲がった根性を、
 俺が叩き直してやるッ!!」

1427

その頃、ようやく優香に追いついたハルミ。
優香は林の中で佇まって、声を押し殺して泣いていた。

優香「すみません…。みっともないところを
 見られちゃいましたね…」
ハルミ「優香ちゃん、気にしないで…。
 光平くんもきっと気が立っているのよ」
優香「わかってます。私なら大丈夫ですから…」
ハルミ「優香ちゃん……」

とりあえず優香を寺のお堂の部屋まで連れてきて、
落ち着くまでそこで休ませる事にしたハルミは、
その後、一也や玄海老師たちのいる本堂に合流した。

一也「ハルミ、優香ちゃんは?」
ハルミ「大丈夫よ。だいぶ落ち着きを取り戻したみたい」
一也「そうか、それはよかった」
ハルミ「…それで、光平くんの方は?」

光平は自業自得とは言え、先程沖一也にボコボコに打ちのめされ、
今は寺の養生部屋で眠っているところだった。

ハルミ「もうっ、一也さんったらやりすぎよ!」
一也「いやあ…俺もつい大人げなかったよ。反省してる」
玄海「ははは、一也よ。まるでお前が大石相手に
 初戦で挑んだあの時のようじゃのう」

玄海老師に痛いところを突かれて恐縮する一也。
沖一也はかつて大石秀人に敗れ、荒れていた時期があった。
自らの五感と魂で、赤心少林拳極意"梅花の型"を会得した
一也ことスーパー1は、大石ことギョストマに再戦を挑み、
見事勝利して見せたのだった。

一也「今思い出してもお恥ずかしい限りです。
 ハルミ、あの時は君にもひどい事をしてしまったね…」
ハルミ「いいのよそんな昔の事なんて。
 でも和尚さま、光平くんが大石に勝つためには、やっぱり…」
玄海「うむ、大石に勝つためには"梅花の型"を会得する
 以外にはあるまい」
ハルミ「でも相手の正体はドグマの怪人なんですよ。
 いくら"梅花の型"を会得できたとしても、
 普通の高校生に勝てるかしら…」
一也「ハルミ、俺は光平君には他の平凡な高校生とは違う
 拳士としての隠れた資質を感じるんだ」
玄海「一也の人を見る目に間違いはあるまい。
 わしもその光平という少年に賭けてみようと思う」
ハルミ「でも和尚さま、今は梅の咲く季節じゃありませんよ」

今のハルミの言葉を聞き、その場にいた玄海、弁慶、一也の3人は
一瞬( ゚д゚)ポカーンとしたような顔をしていたが、すぐに吹き出したように
クスクスッと笑いだした。

ハルミ「何よぉ~っ! みんな自分たちだけ
 わかってるみたいな顔をしてぇ!!」
玄海「いや、すまぬすまぬ…(汗」
一也「ハルミ、確かに今は梅の花の咲く時期じゃないが、
 この山の中には鳥の鳴き声や、風が木々を揺らす音、
 そして小川のせせらぎ。梅の花の代わりに
 生命の息吹を感じ取れるものならいくらでもある」

1428

日も沈み、すっかり暗くなった寺の境内。

光平「てりゃああ!! たああッッ!!」

祠の中からは蝋燭の微かな明かりが外に漏れると同時に、
床から起きて再び自主的に鍛錬に励む光平の声が聞こえる。
まさにそれは狂ったように強さだけを追い求める
獣の叫び声そのものだった。

優香「………」

優香には、ただその様子を心配そうに見守るしかできない。
そこへ玄海老師とハルミがやって来た。

玄海「彼の事が心配かね?」
優香「老師さま…」
玄海「今はただ信じて待ってやりなさい。
 それだけでも、充分に彼の力となるはずじゃ」
ハルミ「優香ちゃん、今日は遅いわ。
 天気も悪くなってきたし、もう帰りましょう」
優香「はい…」

優香はハルミに一緒に送られて、その日は東京へと帰って行く。
その夜、祠の中から光平の修行の掛け声が絶える事はなかった。
寺一帯を急激な嵐と豪雨が襲う中、冷気の中に自ら進んで身を置く光平。
そして夜が明けた…。

光平「………」

朝日が差し込むのに気がついた光平は、祠の外へと出た。
そこで見た者は、昨夜の激しい嵐の中でも懸命に生き延びた
野兎や昆虫などの小動物、そして木々や草花の姿だった。
光平は思わずそれらを優しく両手で包むような動作をする。

光平「…これは!?」

光平の目に、一瞬美しい一輪の梅の花の姿が思い浮かんだ。

光平「今のは…!」

ハッと我にかえり、明確に何かを掴んだ光平。
そこに玄海老師、弁慶、そして沖一也が笑顔で現れる。

一也「光平君、ついに掴んだようだな!」
光平「はい…!」
玄海「梅の花は寒さの中にあってこそ、可憐な花を咲かせるものじゃ。
 それは他のあらゆる生きとし生けるものも例外ではない。
 嵐の冷たさを生き抜いた小さい生命を、君は今、両手で優しく
 守るように包み込んだ。荒々しい戦いの中にあっても、
 か弱い生命を慈しむ心こそ、赤心少林拳の極意じゃ」
光平「玄海老師…」
玄海「光平君、今こそ赤心少林拳の極意、"梅花の型"を授けよう!」

玄海老師直々に"梅花の型"を伝授される光平。
ついに光平は強敵・大石秀人に打ち勝つための極意を
完全に自らの物としたのだった。

優香「光平く~ん!!!」
ハルミ「一也さん、大変よ~!!!」

ちょうどそこへ、昨夜帰ったはずの優香とハルミが
血相を変えて走って来た。

光平「優香!?」
一也「ハルミ、そんなに顔色を変えて、
 いったいどうしたんだ!? まずは落ち着くんだ!」
ハルミ「それどころじゃないのよ! とにかく大変なの!
 光平くんのお友達が!」
優香「ハァ…ハァ…! 朝倉くんと岡島くんが、
 拳竜会の人たちに連れて行かれたの!!」
光平「なんだって!!」

優香の話では、光平の仇打ちをしようと勇み足をした
朝倉慎哉と岡島雄大が、拳竜会のメインコンピューターに
ハッキングをしかけ、逆にそれが相手側に露見してしまい、
拳竜会の本部道場へと連れ去られたらしい。

光平「あいつらッ…なんでそんな無茶な事をッ!!」
一也「光平君、急ごう! どうやらゆっくりしている時間はなさそうだ」
光平「はいッ! …待ってろよ、慎哉、雄大!
 必ず助けてやるからな!」

果たして光平は間に合うのか。
拳竜会に拉致された慎哉と雄大の運命や如何に?
次回へと続く!

1429

○沖一也→修行に明け暮れる牧村光平を見守る。
○玄海老師→牧村光平に、赤心少林拳の極意"梅花の型"を伝授。
○弁慶→修行に明け暮れる牧村光平を見守る。
○草波ハルミ→修行に明け暮れる牧村光平を見守る。

○牧村光平→修行の末、赤心少林拳の極意"梅花の型"を会得。
○沢渡優香→修行に明け暮れる牧村光平を見守る。

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最終更新:2020年11月26日 10:33