『砂漠の姫の来日』-5
作者・ティアラロイド
1460
激闘士ジャムネを降したシグフェルは、ザイラユニコンめがけて飛翔するが、
今度はタワーの大展望台から空中を舞うように出て来た
スティングフィッシュオルフェノクの遊泳態に遮られる。
シグフェル「くそっ!! 邪魔をするなッ!」
自由自在に宙を舞って動くスティングフィッシュオルフェノクに邪魔され、
シグフェルは思うように前に進む事が出来ない。
そうしている間にもザイラユニコンに揺り動かされている
東京エネタワーは今にも倒壊寸前の様相を呈してしていた。
五郎「中の弦太郎が危ない! 今行くぜ!
――アイアン・ショック!!!!!」
霧島五郎はアイアンキングに変身し、ザイラユニコンに抱きついて
懸命にその巨体をタワーから引き離そうとする。
一方のシグフェルは背中の両翼を羽ばたかせ、
焦る気持ちを抑えて精神を集中して
灼熱の炎に身を包み一点突破を図る。
シグフェル「うおおおおッッッッ!!!!」
スティングフィッシュオルフェノク「――!!」
シグフェルの突撃を食らったスティングフィッシュオルフェノクは、
青白い炎をあげて肉体が灰化し消滅した。
その様子を非常階段から見ていた静弦太郎とフィリナの二人。
弦太郎「今が脱出のチャンスだ。少々怖いだろうが我慢しろよ!」
フィリナ「まさかここから飛び降りる気!?」
弦太郎「行くぜ!!」
弦太郎はアイアンベルトの先端を鉄柱に撒きつけてしっかり固定すると、
フィリナを抱きかかえたまま地上めがけて飛び降りた。
フィリナ「いやああああああっっ!!!」
二人は無事に地上に着地する。
その様子を確認するキャプテン・ゴメスと幻兵団。
ゴメス「そろそろ潮時だな」
幻の睦月「待て。まだターゲットはどちらも確保してはいないぞ!」
ゴメス「アルシャードの令嬢を拉致する機会ならまだいくらでもある。
退き際を見誤って、今あの怪獣ロボットを失うには早すぎるぞ」
幻の睦月「チッ…! 仕方がない。ザイラユニコ~ン! 戻るのだぁ~っ!!」
幻の睦月は無念の表情を浮かべながらも、ドクロ型コントローラーで
ザイラユニコンに退却の指令を出す。ザイラユニコンはアイアンキングを振り払うと
浮上してどこかへと猛スピードで飛び去って行ってしまった。
大展望台に残っていたエレファントオルフェノクもいつの間にか姿を消した。
1461
光平「フィリナ!!」
フィリナ「光平!!」
優香「よかった。みんな無事で…」
襲ってきたGショッカーの姿も消え、平静な姿を取り戻した東京エネタワー一帯。
光平たちはお互いの無事を確認して喜び合う。
弦太郎「………」
そんな中で、静弦太郎はじっと牧村光平の姿を凝視していた。
光平「あ、あの…僕の顔に何かついてますか?」
弦太郎「いや、そうじゃねえ…。ただあの高さから落ちて
よく無事だったなと思ってな」
五郎「そういえばそうだなあ…」
弦太郎の至極もっともな指摘に、その場にいた光平たちは一瞬凍りついた。
確かに地上15Omの高さの大展望台から落ちて、普通の人間なら助かるはずがない。
どうやって言い訳したらいいものか困り果てる光平だったが、
機転を利かしたフィリナが光平の袖を引っ張り、こっそりと目線で合図を送る。
その視線の先には、子供向けのイベント会場のテントが張られてあった。
光平「…そ、そうだ! あれ、あれですよ!
たまたま落下した先があのテントの真上で、
クッションの代わりになって助かったんです!」
五郎「それにしたってお前さん、随分と運がいいねえ」
光平「そ、そうですよね。アハハ…(汗」
典子「でも一応病院で精密検査を受けた方がいいわ」
光平「いえ、本当に大丈夫ですから」
なんとかその場を取り繕う事に成功した光平たちであった。
フィリナ「弦太郎さん、今回ばかりは貴方に大きな借りが出来ちゃったみたいね」
弦太郎「こちとらこれが仕事でね。お前さんに貸しを作っただなんて
思っちゃいねえよ」
フィリナ「さっきの大展望台からの二人きりのダイブ。
正直ちょっと怖かったけど、ふふっ…実を言うと楽しかったわ。
あんなスリルを体験したのは生まれて初めてよ」
弦太郎「大したお嬢さんだよ、アンタは…」
こうしてフィリナと光平たちは静弦太郎たちと別れた。
…と言っても、フィリナが日本に滞在している間はずっと
陰ながら彼女の身辺を尾行・監視しつつ警護しているのであろうが…。
慎哉「なあ沢渡…」
優香「なに…?」
慎哉「あの静弦太郎って人とフィリナさん、なんかいい雰囲気じゃなかったか…( ̄▽ ̄メ )」
優香「…朝倉くん、顔が引きつってるわよ…(汗」
そして夕暮れ時…。
誰もいなくなった東京エネタワーの敷地内を一人歩くキャプテン・ゴメス。
彼は足元に落ちていた一枚の手裏剣を見つけて拾う。
ゴメス「これは…?」
1462
その日の夜の出来ごと…。
矢吹郷之助邸***
フィリナ「おじ様、それではお話が違います。
私が来日する件は関係者には伏せてくださると…!」
矢吹「いや、誠に申し訳ない。この年寄りの不徳の致すところだ」
矢吹邸を訪れていたフィリナに、日本財界の雄と呼ばれた老人が
平身低頭に頭を下げて詫びている。
元々フィリナは、日本の経済界各位関係者には
自分の来日の件が漏れないように、
幼い頃から実の祖父の様に慕っていた
矢吹郷之助翁に依頼していた。
今回の来日の目的があくまでもプライベートなものであるためだ。
しかし、フィリナが今日本にいる事が
どういうわけかどこかから漏れてしまったらしい。
世界最大のエネルギー産業を牛耳る石油王一族の令嬢のお忍びの来日とあって、
すでに経済産業省や資源エネルギー庁、石油関連業界各団体は大騒ぎとなっている。
さっそく都内の某高級ホテルにて、石油公団主催の歓迎パーティーが
大々的に催されることとなってしまった。
矢吹「無論、君がその招待に応じる義務は全くない。
バカな大人たちが勝手に騒いでいるだけの話だ」
フィリナ「…いいえ、せっかくご招待ですから出席しますわ。
ここで断ればアルシャードと日本の経済界との間に波風が立つでしょうし、
何より矢吹のおじ様のお顔を潰す訳にもいきませんもの」
矢吹「本当にすまん…」
朝倉家***
光平「それで、その財界のパーティーに出席するのか?」
フィリナ「仕方ないわ。日頃からお世話になってる
矢吹のおじ様にもご迷惑はかけられない」
フィリナの話では、その明日の夜のパーティーでは
誰か一人をパートナーとして随行させなければならないらしい。
優香「だとしたら光平くんが一緒?」
フィリナ「………」
優香の言葉にフィリナは少し顔を曇らせる。
フィリナ「優香、それは無理よ。光平が表舞台には立てない
微妙な立場だということは貴女もわかっているはずよ」
優香「…!?」
フィリナの言葉に優香は思わずハッとなる。
光平はアルシャード一族の隠し子だ。
日本の石油外交にも絡む複雑かつ微妙な問題であり、
今の光平はとても公の場には出られないのだ。
優香「ごめんなさい。私…」
フィリナ「私こそごめんなさい。何も貴女を責めるつもりはなかったの」
光平「そう深刻な顔をするなよ優香、俺は全然気にしてないからさ」
優香「光平くん…フィリナさん…」
さて、ここで話は再び"フィリナに随行するパートナー"を誰にするか
という問題に戻る。
慎哉「あ、あの…もしよかったら俺が――(///)」
フィリナ「そうだわ。優香、貴女が一緒に来て!」
慎哉「――!?」
光平「ええっ!?」
優香「わ、私が…?」
フィリナ「何も随伴するパートナーが異性じゃなきゃダメなんていう
ルールはないんだし、ここは私を助けると思って、お願いっ♪」
優香「…で、でも私、パーティーに着ていくドレスなんか持ってませんし…」
フィリナ「それなら私の方で用意するから心配ないわ」
優香「フィリナさんがそこまで言うなら…」
慎哉「………」
1463
慎哉「ハァ……」
慎哉は二階のベランダで空しく溜息をしながら、
一人寂しく夜空を眺めながら佇んでいた。
そこへ風呂上がりの光平がひょっこりと顔を出した。
光平「よっ、慎哉。邪魔していいか?」
慎哉「光平か。なんだよ?」
光平に語りかけられて振り向いた慎哉は、
いかにも不機嫌そうなムスッとした顔をしていた。
光平「バカだなお前は。押しが弱いんだよ」
慎哉「何の事だ?」
光平「好きなんだろ? フィリナのこと」
慎哉「…なっ!?(///)」
図星を突かれた慎哉の顔が真っ赤になった。
慎哉「バババババ…バカ言うな!
なんで俺がフィリナさんのことを!(汗」
光平「お前とここで何年一緒に暮らしてると
思ってんだよ。それぐらいわからない俺じゃないぜ♪」
慎哉「そんな訳ないだろ…。一介の商社マンの息子から見れば、
世界有数の石油王のお嬢様だなんて雲の上の存在だ」
朝倉慎哉の両親は、日本の大手商社に勤めるビジネスマンとその妻(専業主婦)であり、
現在はニューヨーク支社長夫妻として子供を日本に残し海外に赴任している。
アルシャードの血を引く光平を家に引き取ったのも、そうしたビジネス上の付き合いの
経緯からでもある。
光平「じゃあお前は、その石油王の隠し子の俺の事も
そんな風に"雲の上の存在"だなんて見てたのか?」
慎哉「そんなことはねえよ。光平はあくまで光平だよ」
光平「ならフィリナにも畏まらないで同じように接してみろよ。
あいつも日本に来る時だけが"お嬢様"の自分から離れられる
貴重な一時なんだ。可能性がないわけじゃないんだからさ」
慎哉「可能性かぁ……」
1464
翌日の夜…。
東京赤坂・皇国ホテル 大宴会場「飛天」***
石油公団主催のパーティーである。
表向きの開催の口実は、エネルギー産業関連の財界関係者の親睦を深めるためだが、
その本当の理由は、世界有数の石油王一族の有力後継者候補と目される令嬢の接待である。
淡い優しい青色をしたアルジェリアの民族衣装のドレスを身に纏ったフィリナが
日本の財界関係者と談笑する中、ミントグリーンの高級パーティードレスを着た優香が
その傍でぎこちなく緊張していた。滅多に履かないハイヒールにも慣れていないようだ。
フィリナ「優香、緊張しなくていいわ。いつも通りの貴女でいいの」
優香「は、はい…」
そこへ石油公団総裁が挨拶に現れた。
総裁「これはフィリナ・クラウディア・アルシャード嬢、ようこそお越しくださいました」
フィリナ「この度はお招きにあずかりまして光栄です」
総裁「事前に来日をお知らせくだされば、もっときちんとした形で歓待できたのですが」
フィリナ「いいえ、今回はあくまで個人的なプライベートの目的で来ておりますので、
余計なお気づかいをさせては申し訳ないかと」
総裁「いやいや、天下のアルシャード家のご令嬢を素通りさせたとあっては
我が国の面目が立ちませんよ。ワハハハ!! ところで、そちらのお嬢さんは?」
優香「…え! わ、私ですか?」
フィリナ「彼女は日本での私の大事な親友です」
総裁「ご学友か何かのご関係で?」
フィリナ「そのようにお考え頂ければ幸いです」
一方、パーティーの招待客の中に、
そのフィリナたちの様子を離れた場所から
見ていた者たちがいた。
村上「なるほど、あの彼女がフィリナ・クラウディア・アルシャード。
いかにも噂通りのシンドバットの物語から飛び出して来たような、
上の上たる美しさを持つ姫君ですね」
桐原「全く同感ですな」
村上「…ん? これは桐原さん。貴方も招待を受けておられましたか」
桐原「こんばんわ、村上さん」
スマートブレイン社の代表取締役社長兼CEO・村上峡児と、
桐原コンツェルンの総帥・桐原剛造である。
双方共にそれぞれ自分の秘書(すなわちスマートレディ、
そして美人秘書のKとS)をパートナーとして随伴させている。
1465
桐原「噂の石油王一族の美しき姫君をぜひ一度間近で見てみたいと思いましてね。
少々無理をしましたが友人に頼み込んでなんとか出席に漕ぎ着けましたよ」
村上「ほぉ~それはそれは。貴方にしては随分とご酔狂な…」
桐原「聞いた話では元々フィリナ嬢は日本側に来日の件は伏せていたのだとか。
それをどこかの誰かが日本の財界関係者に情報をリークし、このパーティーを
急遽開催させたのだという噂ですよ」
村上「それは初耳ですね」
日本の財界にフィリナ来日の情報をリークしたのはスマートブレインの仕業だった。
それを察知したネロス帝国は、強引な手を使って桐原剛造自らが
パーティーの出席者の中に割り込んで来たのだ。
スマートレディ「ふふっ♪ まるで狐と狸の化かし合いね。
ねーねー、貴女達だってそー思うでしょ?」
秘書K「………」
秘書S「………」
からかってくるスマートレディを、
美人秘書のKとSの二人は徹底して無視する。
村上「そういえば桐原さん、これはお返しします」
桐原「これは…?」
村上が桐原に差し出したハンカチの中に包まれていたのは、
キャプテン・ゴメスが東京エネタワーの近くで拾ったガラドーの手裏剣だった。
桐原「見たところ手裏剣のようですが、これが何か?」
村上「またまた御冗談を。これが何なのかは、
貴方が一番よくご存知のはずだ」
桐原「何の事を仰っているのかはよく分かりませんが、
せっかくお返しくださると言うのであれば、
これは私の方でお預かりしておきましょう」
村上「では我々はいったん失礼」
桐原「また後ほど」
桐原たちといったん別れる村上たち。
スマートレディ「ねえ社長さん、あの桐原剛造は本物の方かしら?
それとも影武者?」
村上「さあ、どうでしょうかねえ…。今の私たちにはどうでもいいことです」
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○静弦太郎→東京エネタワーから空中ダイブしてフィリナと共に脱出。
○霧島五郎/アイアンキング→東京エネタワーに抱きつくザイラユニコンと交戦。
○藤森典子→牧村光平に病院への受診を勧めるが断られる。
○矢吹郷之助→来日の情報が漏れてしまった件をフィリナに詫びる。
●スティングフィッシュオルフェノク→シグフェルと交戦し、戦死。
●エレファントオルフェノク→キャプテンゴメスの指示で撤退。
●村上峡児→石油公団主催の財界パーティーに出席。
●スマートレディ→村上峡児のお伴で石油公団主催の財界パーティーに出席。
●ザイラユニコン→幻の睦月の指示で撤退。
●幻の睦月→いったん退却する。
●キャプテンゴメス→東京エネタワーの側で爆闘士ガラドーの手裏剣を拾う。
●桐原剛造(クールギン)→石油公団主催の財界パーティーに出席。
●美人秘書K→桐原剛造のお伴で石油公団主催の財界パーティーに出席。
●美人秘書S→桐原剛造のお伴で石油公団主催の財界パーティーに出席。
○牧村光平/シグフェル→スティングフィッシュオルフェノクを撃破。
○朝倉慎哉→フィリナのパートナーとしてパーティーに出席できずがっかりする。
○沢渡優香→フィリナのパートナーとして急遽石油公団主催の財界パーティーに出席。
○フィリナ・クラウディア・アルシャード→沢渡優香をパートナーに指名し、石油公団主催の財界パーティーに出席。
最終更新:2020年11月26日 10:38