『砂漠の姫の来日』-8
作者・ティアラロイド
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シグフェル「っ…!」
戦闘を終え、一息つきかけたシグフェルを一筋のビームが襲った。
間一髪でかわしたシグフェルだったが、
翼の先端にビームが掠って白煙を上げる。
シグフェル「誰だ…!?」
銀色のメタリックボディを陽光に輝かせながら、
ゆっくりとこちらへ歩いて来る一人の戦士の方へ
シグフェルは振り返った。
シャドームーン「エレファントオルフェノクを容易く退けるとは
噂に違わぬ実力。なかなかやるな」
シグフェル「仮面ライダー…? いや、違う!」
飛蝗を模した煌びやかなそのマスクは、
一見すると仮面ライダーの仲間にも見えなくはない。
だが、以前のスーパー1との邂逅の時とは明らかに違う、
底冷えのするような闇のオーラがそれをはっきりと否定していた。
彼が一歩を踏み出すごとに、両足から牙の如く生え出た
強化装具レッグトリガーが不気味な金属音を上げる。
シャドームーン「我が名はシャドームーン…。
邪将キングダークを葬り、クロスランダーやギョストマも倒した
シグフェルというのはお前だな」
シグフェル「シャドームーン…?」
シャドームーンが帯びている風格とエネルギーは、
これまでシグフェルが遭遇してきたどの敵よりも桁違いに大きい。
身構えて戦闘態勢を取るシグフェルだが、
敵の威圧感に戦う前から怯んでしまいそうになる。
こんな感覚は、光平がシグフェルに覚醒して以来初めての事だった。
シャドームーン「このマイティアイのサーチ機能をもってしても
分析不能か…。その上、計り知れぬほどの潜在能力。
なるほど、これは邪将どもも大騒ぎするわけだ」
シグフェルの生体構造の解析を諦めたシャドームーンは立ち止まり、
目の前に立つ紅蓮の鳳凰の姿を今一度じっくりと眺め渡す。
シグフェル「お前もGショッカーの怪人なんだな?」
シャドームーン「我がゴルゴム帝国は、
Gショッカーの先鋒として間もなくこの地球を支配する。
だがその前に、巷を騒がす新たな超戦士とやらの姿を拝んでみたいと思ってな。
我らの邪魔立てをする存在ならば、いずれ消し去らねばなるまい」
シグフェル「くっ…!」
シャドームーンのベルトに埋め込まれたキングストーンが眩しく発光し、
放射された凄まじいエネルギーが烈風となって周囲の物を吹き飛ばした。
シグフェルも危うく吹き飛ばされそうになり、
両腕で風を防ぎながら地面に足を踏ん張って堪える。
シグフェル「何て強烈なパワーだ…!」
シャドームーン「そう臆する事もあるまい。
お前とて、途轍もないエナジーをその内に秘めているではないか。
それとも、自分ではまだそれに気付いていないかな」
シグフェル「何っ…!?」
シャドームーン「見せてみろ。お前の実力を…!」
瞬間移動の如き神速で、シグフェルとの距離を詰めたシャドームーン。
シグフェルがはっと気付いた時には、
肘の強化装具エルボートリガーで威力を増幅されたパンチが
シグフェルの胸を目がけて打ち込まれていた。
シグフェル「うわぁぁぁっ!」
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桐原「あのシャドームーンが出て来るとは…。
これは思いもかけぬイレギュラーよ」
皇国ホテルの庭園へ避難した桐原剛造の影武者クールギンは、
思わぬ珍客の出現に戦慄していた。
桐原「凄絶な死闘となった仮面ライダーBLACK RXとの交戦以来、
シャドームーンは無幻城の奥の間に引き籠もり、
ずっと傷が癒えるのを待ち続けていた。
だが、シグフェルがGショッカーを騒がせているこのタイミングで、
いよいよ満を持して動き出したと見える」
秘書K「ゴルゴムも独自の思惑をもって
シグフェル捕獲に乗り出したという事でしょうか?」
桐原「いや、そうではあるまい。
ゴルゴムが対シグフェルに関して
組織立って動いている様子は今のところ全くない。
恐らく様子見といったところだろうが、
あれほどの御仁が何の打算も下心もなく、
純粋に〝戦いのための戦い"を楽しもうとして来たのであれば、
それはそれで厄介ではある…」
秘書S「場合によっては、
シグフェルがシャドームーンに倒されてしまう事も…」
桐原「どうであろうな。
ここで呆気なく殺されてしまうようなら、
無敵と言われたシグフェルも所詮その程度だったという話だ。
もっとも私は、帝王のお眼鏡に決して狂いはないと見ているがね」
桐原(影武者)は遠くを見ながら、その表情に複雑な陰影を浮かべた。
桐原「とにかく、我々の計画に変更はない。
各員持ち場につくよう、すぐに差配しろ」
秘書K・S「ははっ!」
◇ ◇ ◇
シグフェル「うわぁぁっ!」
強烈なシャドーパンチの一撃を、シグフェルは咄嗟に梅花の構えでガードした。
赤心少林拳の秘技によってダメージは大幅に緩和したが、
それでも抑え切れなかった衝撃によって数m後ろへ弾き飛ばされる。
シグフェル「(凄いパンチだ…。
まともに喰らっていたらただじゃ済まなかった)」
シャドームーン「なかなかいい防御の構えだ。
そのパワーで武術も使いこなすとは、ますます面白くなってきた」
早くフィリナと優香を助けに行かねばという焦りに加え、
かつてない敵の圧倒的な力に気圧され気味のシグフェルに対して、
一方のシャドームーンはこの勝負に何ら気負うところもなく、
純粋に強い相手との対戦を楽しんでいる様子である。
シャドームーン「そろそろ本格的に行くぞ。シャドーセイバー!」
シャドームーンが叫ぶと、彼の両手に光が宿り、
血のように赤い二振りの剣となって実体化した。
シグフェル「よし…。ダブルフレイムアーム!」
シグフェルも右手を力強く振り上げ、
続いて左手を天に向けて両手に炎の手刀を生成した。
メタルダーのレーザーアームと同じく、フレイムアームも二刀流が可能なのである。
シグフェル「うぉぉぉっ!」
シャドームーン「フン…!」
じりじりと間合いを測り合った末、遂に接近して激突する両者。
シグフェルが激しく両手の手刀で攻め立てるのを、
シャドームーンは左右の剣を巧みに用いて受け流し、薙ぎ払い、隙を見て反撃する。
一見すると互角のせめぎ合いだが、必死に猛攻を加えているシグフェルに対し、
シャドームーンにはまるで剣舞を楽しんでいるような余裕がある。
シグフェル「つぁっ!」
シャドームーンの剣戟をかわしたシグフェルは、
隙ありと見て渾身の右手チョップを打ち込んだ。だが…。
シグフェル「う…!」
シャドームーン「フフフ…。
パワーは大したものだが、まだ経験は浅いか。
焦って突っ込むのは得策とは言えんぞ」
シグフェルのフレイムアームを左肘のエルボートリガーで受け止め、
シャドームーンはせせら笑う。
シャドームーン「フン!」
シグフェル「うわぁぁっ!」
右手のシャドーセイバーが逆袈裟に斬り上げられ、
シグフェルを再び数m向こうへ吹き飛ばした。
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シグフェル「く…っ!」
シャドームーン「しかし筋は悪くない。
フフフ…。ブラックサンとの再戦前のウォーミングアップのつもりだったが、
これは思った以上に面白い勝負ができそうだ」
シグフェル「ブラック、サン…?」
シャドームーン「スーパー1とは共闘したと聞いたが、
その分では奴との邂逅はまだらしいな。
仮面ライダーBLACK RXと名乗る男が、
いずれ貴様の前にも現れるだろう。
その男こそ、俺が何としても決着をつけねばならない宿命の相手だ…!」
シグフェル「実は、俺にもやらなきゃいけない事があってな。
怪獣に襲われてる仲間を助けに行くんだ。
悪いけど、お前のウォーミングアップにゆっくり付き合ってる暇はない」
シャドームーン「ならば、次でケリをつけるつもりで
全力でかかって来たらどうだ」
シグフェル「ああ、そうさせてもらう!」
シグフェルは羽ばたいて上空へ飛翔し、
指先から火炎を発射してシャドームーンを攻撃する。
シグフェル「燃えろっ!」
これでもかと火炎を連射するシグフェル。
続けざまに幾筋もの炎がシャドームーンを襲うが、
シャドームーンはそれを二本のシャドーセイバーで次々と叩き落とす。
シグフェル「うぉぉぉっ!!」
シャドームーン「焦るなと言っておろうが…。
ここまで未熟だとは、少々見損なったぞ」
シグフェルの火炎は乱射気味で、狙いを外れて地面に命中するのも少なくない。
火炎の炸裂によって爆発が何度も起き、シャドームーンを猛火に包むが、
炎の中でもシャドームーンは至って涼しげな様子である。
シャドームーン「愚かな…」
シグフェル「…今だ!」
半ば呆れムードのシャドームーンが反撃に転じようと
シャドーセイバーをおもむろに振りかざした刹那、
シグフェルが疾風の如き速さで動いた。
シャドームーン「何っ!?」
シグフェル「もらったぜ!」
ムキになって火炎を乱れ撃ちしている…というのはシグフェルの演技だった。
シャドームーンの油断を誘ったシグフェルは爆炎を一瞬でくぐり抜け、
敵の懐へ飛び込んでフレイムアームを横薙ぎに一閃した。
シャドームーン「くっ…!」
シグフェル「…ダメか!」
虚を突かれたシャドームーンもさるもの、
咄嗟にシャドーセイバーでガードしフレイムアームの直撃を免れた。
しかし防御に使ったシャドーセイバーは弾き飛ばされて持ち主の手を離れ、
宙を舞って地面に突き刺さる。
シャドームーン「未熟者を装っての奇襲とは…。
見事だ。お前がここまでやれるとは思わなかった」
シグフェル「お褒めはありがたいけどさ…。
結局防がれちまっちゃ仕方ないな」
ブラフに使った火炎の連発で、シグフェルも少なからず体力を消費した。
ここでシャドームーンが全力で攻撃してきたら勝ち目はない…。
だが、既にシャドームーンは戦いへの興味を失った様子で
落としたシャドーセイバーを拾い上げると立ち去って行った。
シグフェル「待て! 逃げるのか!」
シャドームーン「ウォーミングアップだと言ったはずだ。
またいつか続きをしよう。それとも、仲間を助けに行く必要はないのか」
シグフェル「うっ…!」
悠然と去って行くシャドームーン。
シグフェルはしばし逡巡したが、とにかくフィリナと優香を助けるため、
戦いを切り上げて再び空へと飛び立ったのだった。
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○シグフェル→突如現れたシャドームーンと交戦。その力に圧倒される。
●シャドームーン→シグフェルと交戦。圧倒的な力を見せつけて去る。
●クールギン→シャドームーンの出現に戦慄しつつ、シグフェル捕獲作戦を指揮。
●秘書K→クールギンの指示でシグフェル捕獲作戦を手配する。
●秘書S→クールギンの指示でシグフェル捕獲作戦を手配する。
最終更新:2020年11月26日 10:41